日が昇る
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「ふう……ふう……」
「(今なら……手に……)」
「日出君。おはよう」
「うえ、院長……はよ…ございます」
「何だ?何があった?」
「いや……その……」
「患者に口付けするんじゃない……悪いが、如月君の病室を移すことにした」
「えっ?何かあったんすか?」
「実は………うちの職員で如月君を狙ってるやつがいるからな。仕方ないが、私の部屋で様子を見るとしよう」
─夢玖さんの手を握り締め、彼女の白い掌に口付けをしようとした時、院長がやってきた。何と、最近南北北病院の男性職員が、夢玖さんを狙ってることに気付き、急遽ベッドを移すことに決めたらしい。第三者から見れば今の夢玖さんは眠り姫に見えるし───いや、俺の姫だ。俺が目を覚まさせる───いや、そんな事はどうでもいい。俺は院長と一緒に夢玖さんのベッドや荷物を移動した。
「煌星院長、おはようございます」
「おはよう」
「院長、彼は…?」
「ええと……私の娘と同じ高校の子だ」
「へ〜!すっごいイケメン…かっこいい」
「どうも」
「今日もよろしくな」
─ベッドの移動を終え、俺達はソファに腰を掛けた。ソファに背中を預けると、院長が俺の骨折の容態について話してきた。回復が早いのか今日ギプスを取るらしい。ギプスが外れることに喜んだが───
「ギプスの中、痒かっただろう?」
「めちゃくちゃ痒かったっす」
「痒み止め塗るか?」
「いや……掻きむしります」
「ダメだ。ギプス外したら、洗うからな」
─ギプスを外した後の皮膚は、場合によってはアザや色素沈着が見えるらしい。そして、ギプスを外した後の過ごし方を説明された。眠そうにしてると、院長がソファから立ち上がったと同時に、舞姫さんが、大きめのトートバッグを肩に提げながら院長室に入ってきた。
「……朝の八時か……情報収集やカルテの確認もせねばならん……」
「お父さん、廉命君、おはよう!」
「おはようございます…舞姫さん」
「はい。朝ご飯…お父さん、夢玖ちゃんどう?」
「熱は下がりつつあるが…まだ油断は出来ないな……今朝は三十八度だった」
「熱下がってる〜!夢玖ちゃん良かった〜!あ、今日のご飯もたーくさん作ってきたからね!」
「馬鹿でかいタッパー六つも……しかもぎっしり詰められてる……何作ったんすか?」
「男の子なんだからしっかり食べないと!ちなみにこのタッパーは、廉命君用だから!何かあったら呼んでね!情報収集と申し送り行ってくる!」
─トートバッグから姿を見せる特大なタッパーにには、舞姫さんが作ったものであろう唐揚げやおにぎり…サンドイッチや卵焼きが入っていた。いや運動会かよ─とツッコミたくなったが───。舞姫さんが院長室を後にすると、夢玖さんが目を覚ました。彼女が目を開けると、瞳は緑と赤に変わっていたが、彼女はそれに気付いていなかった。
「如月君、おはよう」
「おはようございます……ここ院長室やんか…」
「実は、ここの男性職員が如月君を狙っててな…安全を考えてここに移動したんだ。全く…困ったもんだ」
「俺もそれ聞いて……ストレス溜まりました」
「えっ?日出君って……ストレス溜まるのか?」
「俺だって溜まりますよ……夢玖さんが他の男と話してたり、夢玖さんの無防備な一面見て理性を抑えたりで」
「それならだいぶ溜まってるな……とりあえず舞姫の作ったサンドイッチ食べよう。コーヒーはブラックでいいか?」
「うす」
「はいっ!舞姫さんが作るご飯…皆美味しいから大好きやねんっ!ゴロゴロ…」
─今の雰囲気を壊したくなかったのか、夢玖さんの瞳の事は言わず、簡単に朝飯を済ませた。サンドイッチには、ハムやレタス、卵にチーズ、トマトが挟まれていた。これもまた絶品だった。
「舞姫さん、料理上手っすね」
「当たり前だ……唐揚げも大量に……。中津唐揚げを教えた甲斐があった。だんご汁やとり天、日田焼きそばも教えたなぁ……懐かしい」
『お父さ〜ん!九州料理教えて〜!』
「あの頃が一番可愛かった。愛達が中学生だった時は、二人とも部活や勉強忙しかったり、反抗期もあったから私がよく飯を作ってたもんだ」
「あの地獄蒸しもめちゃくちゃ美味かった…院長、すげぇいい所で生まれ育ってますね」
「まあな。なんか舞姫は昨日、愛と一緒に君のご飯作ってたんだ」
─舞姫さんは料理上手なため、彼女の作るものは皆安心して食える。スイーツ以外は─。暫くして院長や舞姫さんも仕事が始まり、俺達は二人、院長室にいたのだ。
「大学、今んとこ代理出席してもらっとるから…治ったらお礼しなあかんなぁ…」
「そうだね……でもうちのゼミ、甘いもの好きな人多いから、ちょいと高めのお菓子の詰め合わせでも買っとく?」
「せやなぁ…十五個入りとかなら、値段的にもええと思う………」
「うん。俺もそう思う」
─俺も夢玖さんも、大学は同じゼミの友人に代理出席してもらってるわけだが、ひたすら迷惑を掛けてるだけなので、復帰したらお礼にお菓子を買おうという話になった。ふと俺は気になり、夢玖さんに聞いてみた。先ほどのオッドアイの色についてだった─。どうやら高熱で魘されてたらしい。夢玖さんの顔を見るからにして、顔は赤く、何より体が汗ばんでいた。
「ねぇ夢玖さん」
「何や?」
「今朝起きた時……片目真っ赤だったけど、悪い夢でも見た?」
「ほんま…?熱のせいか目の奥がぐるぐるしとる感じやったからかなぁ?」
「寝てる時もたまに魘されてたけど、それも高熱のせいかもね……とりあえず、身体拭く?俺トイレと自販機行ってくるから、身体拭きな」
「え、あ………ええと……ご飯食べれるけど、倦怠感強いから……拭けへん…ぐすっ」
「えっ?」
「身体、拭いて下さい……」
「……わ、分かった」
─流石に身体拭きたいだろうと思い、俺は席を外そうとしたが、夢玖さんは倦怠感が強く一人で身体を拭くのには困難らしい。正直舞姫さんを呼んで彼女に頼みたかったが、これは仕方ない─。腹を括るしかない───。夢玖さんがゆっくりと服を脱ごうとするため、俺が代わりに少しずつ脱がした。
「見てもええけど……じっと見るのはあかんで」
「それってどういう……っ!」
─腰のリボンを解き、一気に肌が露出した。その肌はいつも白いのに、高熱のせいか赤みを帯びている─。これはこれで色っぽいと思ったのだが─
理性に負けるのも時間の問題だった。襟元を引き出すと、彼女の華奢な肩や鎖骨も露出されて、更には一つ、視線を動かす事は出来なかった。
「……廉命さん?」
「(腰も細いし、脚も綺麗だし……すげぇ可愛いし、他の男共が見惚れるのも当たり前か)」
「(首の付け根に付けたキスマーク、まだ遺ってる………あー、クソ…ヤりてぇ…)」
─胸元だ。体育の授業で、俺の気も知らずに胸をぶるぶる揺らしてたし、他にも無防備な一面が沢山あるのだ。火照る肌に谷間に溜まってる汗─それを見て俺は抑えられなくなってしまった。すると夢玖さんは下着のホックも外したことで俺は驚いた。
「な、何してんの……?」
「背中も拭きやすくするためにホック外したんや…もう…そんなに見つめんといて……その……私まだ、十九歳やで?」
「いや……その……〜!」
「廉……命…さん?」
「…元はと言えば、君が自分から言ったんだ……俺の気も知らないで他の男も誘惑してるなんて」
「…………食べられ、ちゃうん?私」
「まさか。君が二十歳になったら婚約って俺言ったじゃん……とりあえず身体拭くけど、流石に前は自分でやって欲しい…」
「えぇ…せっかく下着のホック外したんに……触ってもええからはよせいやっ!(な、にゃに言うとるねんか!私は)」
「………うん(よく聞け日出廉命…これで妄想したらお前は最低だからなっ!)」
─何とか理性を抑え、まずは背中や腕を拭いた。彼女の背中は引き締まっていて、まるで天使の 羽が生えてるようだった。次に脇を拭いた。男のそれとは全く違い、色気を感じた。次に腹部。肌が滑らかで、くびれが綺麗だった。そして─一番問題のところを拭くのだが───
「ブラはこのままにしときます……」
「う、うん……」
「……色々旅したから、また胸キツくなったんよ」
「何だと……」
「ん……廉命さんの拭き方、いやらしい…ん」
「変な声出さないで……」
─女性の胸元を拭くのに、拭く勇気と慎重さがどれくらい必要かは夢玖さんは知らない───。デコルテや谷間は拭けた。下着の下も慎重に拭くが───誤って彼女の敏感なところも拭いてしまった。
「あんっ……」
「ご、ごめん……」
「やめ…あ、そこ……あかん…」
「(なんか硬い部分がある……?あ)」
─彼女には悪いが、敏感なところが明確で、弄ると反応する彼女が可愛くて、暫く続けていたが───流石に高熱の状態でやることではないので別の所に───と思った時、夜海と仁愛が院長室に入ってきた。
「夢玖ちゃーん、お見舞に来……」
「「「あ」」」
「えぇっ!れ、廉命さん…?」
「ち、違うっ!その…身体拭いてて……」
「ははーん。もうそこまで進展してるんだ〜?院長室の前、夢玖ちゃんの可愛い声が聞こえてたよ」
「嘘だろ…消えたい」
「院長呼んでましたよ。仁愛、変わります!」
「お、おう……」
─予想通り、あとで凄く弄られた。院長が俺を呼んでるとのことで、あとは仁愛に代わって夢玖さんの身体を拭いてもらった。
「夢玖ちゃん、どうだった?」
「………結婚して、責任取ってもらわへんと…とは思ったで…二十歳になってから…って話やったのに…」
「夜海…俺は最低だ。夢玖さんのアレに触れてしまった…」
「ラブラブで何より。夢玖ちゃんの熱も下がって良かったね」
「お前な…」
─まだ熱が下がり切ってなかったため、この日の夜海と仁愛はお土産を渡し、少し話をしてから帰った。
─また病室で二人きり。凄く気まずかったが─
「夢玖さん…さっきはごめん…」
「あれはたまたまやんか……まあ、結婚して責任…取るんやな」
「……そう、だね(夢玖さん、意味分かってるのかな……だとしたら嬉しいんだけど)」
─結婚して責任取れ、と話された。
─夢玖さんがこの言葉を理解して言ってるのかは分からなかった。
「無理はしなくていい。水分だけでもしっかり摂ろう」
「はい…ごめんね、心配かけて…」
「心配なんてしてないわけないだろ。俺は、お前が元気になるまで傍にいる」
─俺は夢玖さんの手を握り、軽く力を込めた。温もりを感じながら、彼女が少しずつ落ち着くのを確認する。
─その時、院長がドアの外から声をかける。
「二人とも、いいか?如月君の状態は安定している。無理せず休むんだぞ」
「はい…ありがとうございます」
「廉命君、ご飯置いとくね」
─外から舞姫さんの声も聞こえ、差し入れのタッパーを置きに来たようだった。廉命は目線を夢玖に戻す。
「…飯食うか。舞姫さんの作ったやつ、美味しいぞ。特に唐揚げがな」
「うん…ありがとう…」
─夢玖は小さく微笑み、少しずつ口を開けて食事を始める。小さい一口がとても愛おしい。その様子を見守る俺。焦燥や不安はまだ残るが、今は彼女の回復を優先するしかない。
「…廉命さん?」
「ん?」
「私、怖かった…高熱で何も考えらへんくなって」
「分かる…でも、もう大丈夫だ。俺が傍にいる」
─俺はそっと夢玖の肩に手を回し、安心させるように軽く抱き寄せる。彼女の微かな体温を感じながら、二人の間に言葉にならない信頼が流れる。
「ありがとう…廉命さん」
「気にするな。俺は君のためなら、何でもする」
─その瞬間、病室の外から夜海と仁愛が声をかけに来た。廉命はすぐに手を離し、笑顔で対応する。夢玖さんが心配でまた顔を見に来たようだった。
「お見舞いに来てくれたんだな」
「はい、夢玖ちゃん!でも、邪魔しないでねっ」
─周囲の気配にも自然に対応できるようになった夢玖を見て、廉命は安堵した。高熱で弱っていた彼女が、少しずつ元気を取り戻していることが、何よりの救いだった。
「よし、今日はここでしっかり休むぞ。俺も無理せず横にいる」
─そう言って、俺は夢玖さんの傍に座り、手を握ったまま静かに時間を過ごした。
─二人きりの穏やかな時間。高熱と不安に揺れた日々が、少しずつ落ち着いていく。
……To be continued
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