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普通を失った俺が、世に希望を与えるまで。  作者: 速府左 めろ
<第二章>地を踏む一歩が、希望な意図となる。〜日本列島出張編〜
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幕は閉じた

この度は閲覧頂きましてありがとうございます!

「それで……今回、廉命はパソコンでパワーポイントを操作してもらいたいんだ。片手ならエンターキー押せるべ」

「うす……」

「如月は、俺と一緒に講演してもらう。ドナーのことだけじゃ皆の心に響かないから、俺との出会いを通じて感じたこと、知ったことを話して欲しい」

「………分かりました。にしても生野さん」 「ん?」

「毎回、ドナーのことに加えて違ったことを話してますけど、何か理由でも…?」

「それはな…白血病によって普通の人生を送れなかった俺達の絆を…意図を……発信したいからだ」


─ホテルの部屋にて、俺達は明日の講演会に向けて軽く打ち合わせをしていた。本来、如月と廉命にはパワーポイントの操作と講演の補佐をしてもらってるのだが、今回廉命が骨折をしてるため、彼にはパワーポイントの操作としてもらうことに決めた。

─ということは、如月が今回、俺と共に講演で話すことに決めた。すると、如月はあることを質問してきたので、聞いた。何故ドナーの体験に加え、毎度別の内容も踏まえて話すのかを。

─理由は単純。それは、白血病というだけで、普通の人生を送れずにいた俺に、沢山の仲間が出来て、でも皆それぞれの過酷な過去もあり、バラバラだったのが、いつの間に一つになっていた。

─長い糸のように繋がった意図を、全国に発信したい─が、各県に行くということは、地域によっては昔戦争や震災があったり、知名度が高い無差別殺人事件など─命の大切さもより伝えられるからだ。

─如月と廉命にそう答えると、なるほどと言わんばかりではあったが、彼らがいなかったら今俺はこの世に存在していなかったのかもしれない─病に負けて死んでるかもしれない───。よって、この二人は─俺の命の恩人だ。


「希望さん凄い……毎回日本史赤点だったのに…」

「なんで知ってんだよ……でも如月の方が酷かったよ……こいつは世間のことを何一つ知らず、大阪から歩いて来たんだからよ」

「確かに、出会った当初の如月さんは本当に何も知らなかったよね」

「うんうん。俺からは絆とシューズの大切さを学んで、舞姫からは家事と化粧を学んで、愛さんからは英語と勉強、友達の大切さも学んで、鳳兄からは働く大切さも学んだ……そして廉命からは恋愛を学んだ……」

「ぶふっ!」

「………確かに、最初はたこ焼きとお好み焼きくらいしか世間のことは分からへんかったなぁ。色々あったけど、今は毎日が楽しい……こんなんなんて言うんやっけ?」

「青春ってやつ?お前も、恋もして友達も出来て…勉強も学校行事も……沢山経験したな。とにかく」


─と言っても、出会った当初の如月は本当に─世間のことを何一つ知らずに大阪から歩いてきた。たこ焼きとお好み焼き以外知らずに─。関西からすれば東北は寒い─猫が自分から寒いところに来たのだ。だから─その体験談を話してもらおうと思ったから、札幌の講演で決めていた。


「ある程度、内容は書いてたと思う。だから、胸を張れ」

「はい…」


─そして、翌日の札幌講演が訪れた。ホテルで朝食を摂っている時──如月は廉命を気遣って、カルシウムが多いものを皿に取り分けてるが、如月は朝からマグロやネギトロ、サーモンやイクラ、ツナなど沢山食べているのだ。肉より海鮮が好きで、海鮮丼を見た時には瞳を輝かせて、喉を猫のようにゴロゴロと鳴らしていた。



「いやぁ…札幌のホテルの朝食、過去一美味いよなぁ…」

「ほな、廉命さんはカルシウム摂らなあかんで…チーズもヨーグルトも牛乳も!あとは…お肉とフルーツも!」

「如月さん、ありがとう」

「にしても如月…朝からサーモンにマグロ食い過ぎ…あとイクラも…お前は猫か!」

「にゃ…大勢の人前で話すん初めてやから、沢山食べなあかん」

「ネギトロもツナまで……あ、でも…貝類は食ってない…」

「如月、帰ったら舞姫がお好み焼きとたこ焼きやるってよ」

「にゃあっ!今日きいばれるっ!にゃはぁ…」


─俺は院長の指示でバランスよく食べてはいるが、ホテルであるビュッフェでは少しだけ羽目を外してしまうのだ。キウイを多めに分け、カフェオレにトースト─ミネストローネという組み合わせだ。それぞれ朝食を摂り、部屋に戻って準備をする。部屋に戻ると如月は椅子に座り、化粧を始めた。


「如月さん……ちょっとその色…派手過ぎじゃない?白い肌に赤みのあるアイシャドウ…可愛過ぎて他の男が…!」

「落ち着け…メイク達人の舞姫曰く…如月はブルベ冬だ」

「ブルベ冬……」

「気持ちは分かるけど、今日くらい如月を自由にさせてあげて。如月、ヘアセットもしてくか?」

「是非っ!」

「えぇ……」


─白い肌に映えて似合う、真っ赤なアイシャドウ─。これは舞姫に選んでもらったものだ。舞姫が如月に化粧をしてる姿を見てきたのか、俺まで化粧に少しだけ詳しくなった。次第に化粧が終わり、次は俺の番になった。いつもならハーフアップにしていたが、この日は違った。舞姫との思い出を重ねてか、舞姫がいつもしてる、玉ねぎヘアをやってみたくなった。


「ほら、出来たぞ」

「うわぁ…おおきに。舞姫さんになっとるみたい…胸以外は」

「高校生の時は、舞姫の髪型安定しなくてさ、毎日俺がヘアアレンジしてたんだよね」

「嘘やろ……まあ、舞姫さん美人やから何でも似合いますけどね」

「だな。今日の化粧もいい感じだぞ。よし…荷物整理したら行くぞ」


─歯磨きも済ませ、俺達はホテルをチェックアウトし、札幌駅から南北線へ会場まで移動した。

─雪が舞う札幌駅前を歩きながら、白い息を吐く─。


「流石札幌……寒ない?」

「俺は何とも……ほら、如月さん……俺のコート着なよ」

「大きない…?五十センチくらい身長差もあるから、凄いデカい……ぶかぶかや」

「如月、引きづってるぞ」

「ほら、俺のマフラーも……手は…俺が暖める」

「え?」


─その日は昨日より寒く、俺達は平気だが、如月は寒かったようで、廉命は自分のコートを彼女に着せ、更にマフラーも彼女の首元に巻いた。手は俺が暖めると言ったが─それはつまり────


「っ!」

「……如月さん、今日はダントツでお洒落だから、周りの男共の目が…うざい…クソ…」

「えっ!れ、廉命さん……?」

「それなら……俺のコート貸して?」

「にゃ、何するん……?」


─手を繋ぐことだ。如月は廉命のすることに恥ずかしくなり、手まで赤くなっていた。そういえば如月の爪には珍しくネイルがされていたような─。というか、廉命の独占欲が強過ぎるのか、俺は呆れていた。

─廉命曰く、周りの男が─とらしいので、如月に着せてるコートを預けると、廉命が骨折してない側の袖を通し、反対側の袖は如月の左腕に通された─。そう─廉命は後ろから如月に覆い被さるように、抱き着くようにコートを着たのだ。流石の如月も顔が真っ赤だった。俺も見て面白くなったのか、如月の首に巻かれたマフラーを解き、如月と廉命の首元に緩く巻いた。カップルでよく見るシーンではあるが、これはこれで甘酸っぱかった。


「〜!」

「希望さんっ!」

「これで如月…しゃっこくねぇべ?」

「はい…暖かすぎて……くしゅん!」

「大丈夫か?中さ入ったら暖かい飲み物買おうな」


─そして打ち合わせやリハーサルを終え、講演開始となった。これまで大阪や広島、福岡や大分などの西日本、東京や金沢、福井や新潟などの東日本での出張旅をしてきた。そして、北海道。そう─俺達の旅の終点は北海道なのだ。本来なら最後の締めくくりとして、この講演で廉命にも話して欲しかったが、骨折のため、如月も一緒に講演してもらおうと思ったのだ。

─会場には沢山の人が集まり、そして──会場の収容人数も越えていた。それでも俺達は動揺せず、マイクを取り、声を出した。

─この時の如月が、具合悪かったことに気付けなかった俺達は後悔したのに─。


「皆さんこんにちは。シューズとドナーの講演で全国を旅してます、生野希望です!今日は僕達の旅の終点として、札幌で講演させて頂きます!」

「最後まで聞いてくれると嬉しいですっ!」

「えー、始めに話しておきたいことが…今回、僕のドナーについて話しますが、彼女には…僕との出会いを通じて学んだことについても話してもらおうと思ってます!」

「僕は重度の先天性白血病を患っており、産まれた時から余儀なく普通の人生のレールから外されました……何度も死にそうになって、辛かった……でもそんな時………」


─ドナーの講演はいつも通りだった。廉命のパワーポイントの操作も丁度良く、講演を聞いてる人で涙を流してる人も多かった。話すこと一時間─如月の番がやってきた。簡単な自己紹介な出来たものの──そこから行き詰まった。如月を励まそうと思った時───小さな声が会場内に響いた。


「私は如月夢玖いいます……。大阪の西成区にあるあいりん地区で産まれ育ち、そこから……ええと……」

「頑張れー!お姉ちゃーん!」

「頑張れー!ゆっくりでええからー!」

「けっぱれ〜!」

「頑張れー!」

「………皆」


─如月を応援する声だった。この言葉に感動した如月は一筋涙を流し、如月はマイクを握り締めて、また話した。


「皆…おおきに。ほな、続けます……私は幼い頃、このオッドアイが原因で周りの人、大人から嫌悪されとりました。そんで両親に捨てられ、天王寺の養護施設に入れられ、オッドアイが原因で阿倍野区、吹田、京都や神戸の養護施設を転々とし、ある日……私は養護施設から追い出されました。その頃の私は高校三年で、道頓堀で月を眺めてたら、直感を感じて、大阪から福島まで歩き続け、そこで生野さんと出会いました」

「それから生野さんのところで、福島で新しい生活も始まりました。新しい高校でもオッドアイが原因で、私を嫌う人も沢山おりました…でも、初めて信頼出来る友達と先生が出来ました…生野さんが働いとるスポーツ用具店でアルバイトも始め、働く事の楽しさと大変さも、何より人との繋がりを学びました」


─如月の声が震えているのを聞き、俺も思わず背筋が伸びた。皆に届くように─頑張れ─。

─彼女が話す内容は、俺の思い出でもある。今思うと、如月との出会いが、俺の生きる理由にもなっていた。彼女を通じて、更に絆が深まり、沢山の刺激になり、思い出になり、そして─────病を通じることで、俺と廉命、如月にしか分からない意図も深まって──。

─もしあの時、如月と出会っていなかったら、他に誰が如月を拾って、如月は今頃どうしてたのだろうか。


「如月……ふふっ」

「生野さんと出会う、一年前の私は何も知らずにおりました…でももう一つ…学んだことがあります。それは………恋、です。生野さんが働くスポーツ用具店で出会いました。丁度今パワーポイントで操作しとる、日出廉命なんですが……彼は私が思ってる以上に、私を大切にしてくれます…お付き合いはしてませんが、その…結婚したいと言うてくれてます」

「キャー!」

「一時期ネットで話題になってたよねぇ…廉命君イケメンだもん!」

「初めはツンデレなお犬様と思っとったけど…その……私もその……彼自身のことが……好きになってまって…その……皆さんに聞きたいことあってんですけど……その、好意ってどうないすれば伝わります?」

「えっ……」


─しかしこれは予想外だった。やっぱり如月も、恋をしていたのだ。恥ずかしそうに顔を俯かせ、ボソボソと話した。彼女の顔を覗くと、耳ごと赤く染まっていて、片目の瞳も─ピンクになっていた。如月は講演を聞いてる人達に質問をした。好意はどうすれば伝わるのかを─。シーンとしてたが、次第に答えてくれた。

─一瞬、会場が静まり返った─その沈黙に背筋が伸びた。


「直接言わないと伝わんないよー!」

「チューだ!チューしちゃえ!」

「……直接伝えないと分からんもんね…おおきに」

「キャー!夢玖ちゃん可愛いー!美人ー!」

「可愛いー!」

「とまあ、生野さんに出会う前は…人生のどん底を歩いてました…でも生野さんと出会って、自分の産まれてきた理由が分かりました。ちなみに両親は売春に巻き込まれて亡くなってますが……産んでくれたことには感謝してはります……全ては、日出廉命に会わせてくれた……生野希望さんを……皆さんも、人との繋がり大事にして下さい……では、ご清聴おおきに」


─あまりの回答に如月は顔を染めるが、切り替えて真面目な話に戻し、一度区切りを付けた。そして再度俺が話し、そして─その幕を下ろした。


「はい。いやー日本列島最後の講演が札幌とは─。付き添いでいてくれた如月、そして廉命には感謝しかありません。彼らは大学生なので…将来が楽しみです。結婚報告とか…出産報告しちゃう?」

「せ…せえへん!まだ私十九歳やで…?けほっ」

「一年前の彼女は…世間のことを何一つ知らずにいたのです…しかし、一人の人間を通じて同じステージに上がれてることが、俺は何よりも嬉しいです!皆さんも、小さなことでもいいので人との繋がり、そして…命を一日一日大切に過ごして下さい……では、ご清聴ありがとうございました!」


─盛大な拍手が響き、俺達の日本列島出張は幕を閉じた。がしかし──如月の様子がおかしかった。


「如月……?」

「けほっ!あかん……」

「如月さんっ!」


─ステージから下壇しようとした際、如月は息苦しそうにしていて、顔も真っ赤だった。まさかと思い、近くのスタッフを呼び、俺達はステージから姿を消し、会議室へと向かった。


「如月…?」

「んにゃ……けほっ」

「如月さん、大丈夫…?」

「けほっ…こほっ!」


「凄い熱だ。夕方の飛行機まで時間あるからなぁ……」

「分かりました。では新千歳空港まで乗せてくれる車を探します」

「お、お願いします!」


─彼女の額に触れてみると、かなり熱く、体温計で測ってみると、四十度近くの熱を出していたことがわかった。しかも帰りの空港まで四時間もあるため、俺達に出来ることが限られていた。スタッフは館内放送で新千歳空港まで乗せてくれる車を探してくれた。結果すぐに見つかり、俺達はその人の車に乗り、札幌を後にすることになった。


「如月……よく頑張ったな」

「……けほっ!」

「如月さん……ゆっくり休んで」


─その後俺達は何とか北海道から福島に帰り、何とか自宅まで帰ることが出来た。念の為舞姫に見てもらい、薬だけもらって様子を見ることになった。

─初めから体調悪いと言ってくれればいいのに─と思ったが、彼女が講演で話してくれた話により、沢山の人々にも想いをより届けることが出来た。だから今は思う─。よく頑張ったことと、ゆっくり休めってことを─。

─色々あったけど、俺達の日本列島出張の旅は、幕を閉じたのだ──。




……To be continued

閲覧頂きありがとうございました!

コメント、いいね、感想お待ちしております!

次回作もお楽しみに!では。

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