包帯の中
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「ふぅ…ジンギスカン美味かった〜!」
「札幌ラーメンもめちゃくちゃ最高だった……でもやっぱり、季太方ラーメンが一番なんだけどなぁ」
「ほんまに美味しかった……アイスも美味しかったから…結構太ってまう…ダイエットしなあかん」
「ダメだよ如月さん…ダイエットはダメ。俺が心配だから」
「〜!」
「ふふっ。早くくっつけ」
「廉命さんの…あ、阿呆!コーヒー買うてくる!」
「ちょ…っ!如月さ…痛っ!」
─廉命が視線を上げた瞬間、右腕にピリッと痛みが走った。腕を抑えながら、彼は顔をしかめた─けど如月の声を聞くと、痛みも少し和らぐように見えた。
─ジンギスカンを堪能した俺達は、この後ラーメン横丁にてラーメンやアイスも堪能してきて、ホテルに戻った。如月達がラーメンを堪能してる間、俺はソフトクリーム片手に舞姫と電話をしていた。しかもそれが北海道産の牛乳のみで作られたソフトクリームだったのだが、これが予想外に最高だったのだ。
――――――――――
<うわぁ…さすが北海道……さっきご飯食べたのにお腹空いてきちゃった>
「初めて来たけど、感動したよ。まあ福島よりは明らかに寒いけどね」
<ジンギスカンでしょ〜?ラーメンでしょ〜?チーズにソフトクリームでしょ〜?海鮮でしょ〜?もう希望君狡いっ!私を置いて美味しいもの食べて>
「まあまあ。福島空港から北海道行けるんだから、今度日帰りで一緒に北海道行くべ」
<凄く嬉しいけど、お泊まりはダメなの……?>
「嫌とかじゃないんだ…その………」
─無事に青森から札幌に着いたこと、札幌でジンギスカンやラーメン、ソフトクリームを食べたことを話すが、舞姫は羨ましいと電話越しに沢山話してきた。そういえば俺が日本中旅するようになってから舞姫には沢山の寂しさと迷惑を与えて申し訳なくなってきた。
─が、福島空港から新千歳空港まで飛行機で行けることを思い出し、今度日帰りで行かないか彼女に話してみると、お泊まりはダメかと返された。
─ダメな訳ではない─。ただ、ホテルで風呂上がりの舞姫はあまりにも色気ムンムンで耐え難いからだ。最低限の服装─つまり肌の露出が多過ぎるのだ。谷間や二の腕、綺麗な脚、そして─元の整った顔と普段の髪型からは想像出来ない、腰の上まである栗色のサラサラなストレートヘア。
「(旅行の時の舞姫が色っぽ過ぎてホテルの部屋で二人きりはしんどいと言えねぇ……)」
<希望君?>
「あ、ごめん。とりあえずお土産何か欲しいのある?白い恋人は買ってくけど」
<大丈夫。札幌から帰ってくる希望君がお土産そのものだもん。あ、でも…強いて言うならJOzOのチーズケーキかなぁ>
「院長リクエストのやつ?」
<ううん。希望君と一緒に食べたいの。生クリーム入ってないし>
「………そっか」
<うん。これから私夜食食べるから電話切るね。お休み。大好きだよ>
「結局食べるんかいっ!俺も愛してる。おやすみ」
─雪がちらつく街灯の下、ライトに反射する札幌の街並みは、何となく特別に見えた。
─色んな意味で、舞姫とホテルで二人きりは俺にはまだ早い─。あの色気が─なんと言っても凄すぎるから。電話を終え、舞姫の声が聞けて良かったと思うと、廉命達がラーメン店から姿を見せたので、俺達はホテルに戻った。
─それでいて今に至るわけだが、あまりの恥ずかしさに耐え切れず如月は部屋から出てしまった。
――――――――――
「いやぁ…甘酸っぱいねぇ」
「……………ねぇ希望さん」
「ん?」
「実は俺………最近、如月さんに世話してもらってるの…骨折してるから」
「やっぱりかぁ…てかなんで骨折したの?」
「それは……」
─暫くすると、廉命があることを話し出した。骨折のため、身の回りの世話は如月がしてることを─。そういえば彼は右腕を骨折していた。改めて理由を聞いてみた。
─廉命は顔を赤く染めながら語っていた。
――――――――――
「ふんっ!」
「一本!日出の勝ち!」
「日出君かっこいい〜!強ーい!」
「本当にイケメンだよねぇ」
「そりゃあれだけイケメンで頭良いもん!」
「………廉命さん、余計モテとる。あ、襟元開かんで…色気凄いやろ……」
「あっつ……あ、如月さん。お疲れ」
「お疲れ様です。相変わらず激しい払腰ですね」
「ありがとう。タオル欲し…」
「はい。てか、その仕草やめや!道着の襟元から除く汗ばんだ胸板、髪をかきあげとる…」
「毎日見てるから慣れたと思ってたけど、やっぱり苦手?いや…その……」
─札幌へ旅立つ二週間前、大学の授業で柔道の授業をしていたのだが、暑さのあまり俺は道着の襟元を引っ張って汗を拭っていた。しかしその仕草は如月さんにとっていけない行為らしく、謝罪した。授業が終わり、教室に移動して座学─と思ったのだが、ここで事件が起こってしまった。
「ま、まあ……今日のバイト帰りにイブイレで新発売のコーヒーゼリー買うてくれたらええねん」
「はいはい」
「あとピスタチオのお菓子も買うて…にゃ?自販機……倒れそうやない?」
「本当だ!てか、前に傾いてない?危ないっ!」
「廉命さんっ!」
「如月さんは……とりあえず先に行ってくれ…代理出席とノート、お願い」
「分かっ……」
「廉命さんっ!」
─そう。自販機が前に傾き、今にでも倒れそうな状態だったのだ。俺は咄嗟に自販機を抑え、如月さんに代理出席とノートをお願いし、先に行ってもらおうと思った時、自販機は倒れ、俺はその下敷きになってしまった。頭を守るように右腕を前に構えてたのがいけなかったのか、それとも頭を強く打ってしまったのか─俺はこの後救急車で運ばれた。
「脳に異常はありませんでしたが……その右腕、全治一ヶ月といったところだと思われます。色々制限されると思いますが、ギプスを装着して様子見、そして激しい運動は控えましょう」
「マジか……」
「軽症で済んで良かったです。と言っても骨折はしてますが……お薬も出しますので、来週また来て下さい」
─なんと、全治一ヶ月の骨折をしてしまった。しかも利き腕──幸い指や掌は骨折していないのだが、腕を動かすと死ぬほど痛かったため、如月さんに治るまで身の回りの世話をしてもらうようになった。
「如月さん、本当にごめん」
「ううん。あれは事故やで…むしろ自分犠牲にして私を守ってくれておおきに。ほな、今後どないするか考えなあかん。利き腕骨折しとるし、動かすと痛いんやろ?」
「うん…治るまでこのままだし、ご飯もお風呂も、講義のノート取りも家事も……ほぼ全部君にしてもらうことになるんだ…」
「まぁ…さすがに私一人じゃ出来ひんこともあるし、もしもの時は福吉さんか院長にお願いしよか」
「そう、だね……」
─治るまで今後のことを話し合うことになったのだが、この時の自分はまだ、如月さんとより密着することに気付いていなかった。
「………はぁ…はぁ…」
「…熱すぎて……水飲むのもしんどいよ」
「骨折熱……数日で戻るらしいけど…これは…」
「……けほっ!ごめん……二十歳になったら、君を守る男になるって決めてるのに……ごほっ!」
「今は大丈夫。大丈夫やで……お粥作ってくるから、ちょっと待っとってや」
─そう。まずは骨折熱による如月さんの看病─。これがいけなかった。この時は中々熱が下がらず四十度近くまで上がっていて、ひたすら苦しむ一方だった。ずっと俺の傍に寄り添ってくれてる彼女は、まるで親猫が子猫を世話するかのように、暖かい。
─エプロンをし、髪も纏め、マスクもしている彼女は、まるで将来の俺の妻に見えた。彼女がお粥を作りに俺の部屋を後にする。三十分後、如月さんが小さい土鍋を持って俺の元に来た。
「とりあえず卵粥にネギ入れて…玉ねぎと鶏胸肉…あとコンソメも入れたで…あと林檎も剥いたで。食べれそうですか?」
「うわぁ…美味そ……って!いってぇ…」
「……もう。ほな、あーん」
─そう。蓋を開けると、卵粥にネギと玉ねぎ、鶏胸肉を入れ、コンソメで味付けをしたものと、剥いた林檎にプリン、あと薬と水も持ってきてくれたのだ。その豪華さに見惚れて油断していると、右腕をつい動かしてしまい、全身に痛みが走った。そんな俺にニコッと微笑み、如月さんはスプーンでお粥を掬い、そして─恋愛感情のある男女間で発生しないはずのないシチュエーションを仕掛けてきたのだ。
─そう。アニメでよく見る、主人公が風邪を引いてヒロインがお見舞いに来てお粥を作り、食べさせるやつ─それだ。この時の俺は骨折の痛さによりその自覚はなかったが───。しかも俺と自分のおでこに手を当ててきたのだ。一生懸命手を伸ばしてる如月さんは、可愛かった。
「ぺろりと平らげたなぁ…?熱、どうや?」
「っ!」
「ううん…まだ熱いかなぁ……あ、アイス!アイスあるねんけど、食べる?」
「うん。出来ればバニラ味が良いかな…」
「いつもベリー味のアイスなのに珍しいですね…吸うやつでええ?持ってくるで」
─まだ熱は下がっていなかったらしく、如月さんはアイスを持ってこようと俺の部屋を後にしようとしたのだが───何故か、彼女の服を掴んでしまった。如月さんは振り向いては驚き、俺自身もこの行動に驚いていた。
「どうせなら…如月さんと一緒に食べたい」
「アイス一個しかないで?ううん…せや!半分こしよか」
─如月さんの看病により骨折熱も引いて、今は定期的な診察があるだけだが、今度手術をすることにもなったのだ。
─この札幌出張が終わったらの話だが─。
――――――――――
「まさか自販機が倒れるなんて予想はしてなかったけど……でも、この怪我を機に如月さんとの距離が近くなったよ」
「付き合ってない男女で熱の看病……甘酸っぱ過ぎだろ」
「付き合ってないって……二十歳になったら付き合うしっ!こ、婚約もするし!」
「さっき自分の"彼女"とか言ってたべ…如月、愛されてるな」
「えっ!」
─何と廉命は、大学の授業終わりに教室へ移動している時に自販機が倒れ、如月を庇ったことで右腕を骨折してしまったのだとか。が、しかしその大怪我を機に、如月との距離は縮まったようで─付き合ってない男女の同居、看病───何よりも甘酸っぱかった。
─廉命が話に夢中になってる間に、如月は既に部屋から戻っていたため、話の一部始終を聞いてしまい、買ってきたであろう缶コーヒーを落としてしまった。それを気にせず両手で顔を覆い──指の隙間から見える、緑と桃色の瞳が主張していた。しかも耳まで紅く染まっていた。
「婚約……聞いて…へんで……?」
「………ごめん。重すぎだよね」
「いや、やからその……………私達まだ学生やで?婚約は……早ない?」
「…それだけ、君のことが…如月さんが好きなんだ。どうしようもないくらいにね。だから、今世でも来世でも、大事にしたいし……ずっと愛したい。夢玖さんのこと」
「〜!ちょ…何真剣なこと話すねん!どう反応すりゃええか分からんやんか…もう……」
「いきなり過ぎたよね…でも、俺は夢玖さん無しじゃ生きられない」
「し、下の名前呼び…あ、アカンでそれっ!」
─廉命はずっと如月の瞳を真剣に見つめながら、自分の気持ちを話してしまった。どうしようもないくらいに好きだとか、来世でも想いたいとか─。一年前と比べると、廉命の如月に対する想いは強くなってきていて、心に秘めてた恋心が、溢れていた。慌てて如月はツッコミを入れるが、廉命は冷静だった。暫く静かになり、廉命が俺の方に視線を向けると───彼は驚いて、更に右腕を痛めてしまった。何故なら─如月が部屋に戻ってきて廉命が彼女に気付かず彼女への想いを話していて、何かが魔が差し、俺が携帯のカメラでその一部始終を録画していたからだ。
「だって結婚したら苗字一緒になるんだし……って!希望さんっ!撮ってたのかよ……」
「面白そうだったからさ、そんで夜海ちゃん達に送ったぞ」
「もう二人して何してんねん…ほんま。もう…々恥ずかしいやんか…」
「(苗字一緒…?日出…夢玖になるん?うわっ!恥ずかし過ぎて死んでまうっ!)」
「如月も、一年前に比べるとだいぶ垢抜けたし、恋もするようになったじゃん!廉命、ナンパされないように見守ってあげなよ」
「……当たり前っすよ……」
「まあまあ。それで、明日の講演会だけど……」
─その動画を夜海や加堂さん、鳳兄や舞姫、仁愛に送り、LINEがうるさくなったので携帯を通知OFFにし、俺は二人と、明日の講演会の打ち合わせをした。改めて─俺一人の存在が、この二人を繋いでると思うと、誇らしくなった。
─その夜の札幌は、天気予報の気温よりも肌寒かった────。
……To be continued
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次回作もお楽しみに!では。




