国境の記憶
この度は閲覧頂きましてありがとうございます!
Xにて改善点をコメントしてくださったので、見やすいようにセリフの前後を改行してみました!
他にも改善点ありましたらコメント頂けますと幸いです。
「お待たせしましたー!番号札十二番のお客様ー!」
「ありがとうございます」
「わぁ…凄く美人……ねぇ今度「Sorry.no thanks!」
「………」
─ある休日。私は妹の舞姫と冰山駅前に来ていた。特に用事があるわけではないが、久しぶりに姉妹揃って遊びに行きたいと思い、彼女を誘った。
─冰山駅まで一緒に来ていたので、そのまま昼食となり、久しぶりに某ファーストフード店に入り、舞姫に席を確保してもらいつつ私は注文した─のだが、私が頼んだ分と比べて、舞姫のは明らかに少なかった。
「あ、お姉ちゃん!」
「舞姫。席確保してくれてありがとう」
「ううん!私お腹空いたよ…」
「仕方ない子ね。食べましょう」
「にしても…お姉ちゃんっていつもアックとかホスバーガーに行くと必ず二倍の量頼むよね…普段はダイエットしてるから?」
「それもだけど…アメリカのハンバーガーはね、顔よりも大きいから…日本のハンバーガーは凄く小さく見えるの。だから二、三個は食べないと食べた気がしないわ」
「肌荒れ大丈夫なの?それ」
「No Problem! 翌日に調整するから大丈夫よ」
「お姉ちゃん…クマが酷いだけで、特に肌荒れないもんね」
─舞姫は侍ハンバーガーセットに対し、私はビックアック二、三個とLサイズのポテトとコーラを頼んでいた。そう─大学進学前なら舞姫のその量で満足だったが、大学で三年間の留学を機に、ハンバーガー一つじゃ物足りなくなってしまったのだ。何故なら─アメリカのハンバーガーは顔よりも大きいのだから─。
─舞姫は私を見て、肌荒れを心配してくるが、特に問題はない。翌日に調整してるし、普段は我慢してるのだから。
─ハンバーガーを食べた後はプリクラを撮ったり、百貨店に行ったりして、冰山駅に戻り、フタバに入った。もうすぐで八月が終わるというのに世間から秋という季節が顔を出しているのか、栗や芋のスイーツが出回るようになった。
─舞姫がそこの新作が気になると話していたのか、私達の元アルバイト先というのもあり、寄ってみた。
「この新作、絶対飲んでみたかったのよー!」
「私、このマロンカシス、気になる!」
「当然、私は新作の、メラメラフラペチーノを選ぶわ!すみませーん!このマロンカシスフラペチーノとメラメラフラペチーノ一つ!」
「かしこまりました!」
「あ、それと……メラメラフラペチーノに生クリームとチョコレートソースとキャラメルソース増量、あとチョコチップ追加でお願いします!」
「お姉ちゃん………ストレス溜まってる?」
「別に?何も無いわよ?」
─またやってしまった。先ほどのアックでハンバーガーとポテト、コーラまで食べたのに、フタバでフラペチーノを注文─の上にキャラメルとチョコレートソースを大量に掛け、チョコチップまで追加してしまった。
─舞姫はそれを見て、私がストレスを感じてるか不安そうだったが、大丈夫と答えた。
─ちなみに、舞姫が頼んだ新作は─とても美味しく、お互いシェアし合った。
─だが、今度はドーナツが食べたくなり、冰山駅前のアーケード通りにある、シスタードーナツへ入った。
「私このボンデリング好き〜!もちもちしてて最高だし!」
「舞姫は子どもの時からそればっかよね…ボンデリングより、舞姫のほっぺがもちもちしてるわ」
「もう…お姉ちゃんは何にするの?」
「オールドファッションとハニーディップ、あとチュロスね」
「いやいやお姉ちゃん!食べ過ぎっ!」
─そう。アメリカのドーナツも、カラフルで甘過ぎるものが多い。他にもフライドチキンやポテトといった脂っこいものも多いため、アメリカは肥満大国とも言われている。
─お世話になったホストファミリーでのご飯も美味しいあまり何度もおかわりしていたため、渡米して三年後に帰国した時には──今より二十キロは太ってたのだ。
─元々美容に興味はあったものの、大学の忙しさによりそれどころではなかったのだが、就活を機に帰国すると、妹の舞姫も一緒にダイエットに励んでくれたのだ。
─お陰で綺麗に痩せられ、バストアップにも成功し、スキンケアも頑張ったことで更に私は綺麗になった。が、未だにアメリカンギャップが抜けず、アックやフタバに行くと必ず通常の三倍は注文し、ペロリと平らげてしまうのだ。舞姫はそんな私を心配はするが───
「お姉ちゃん……大丈夫?話聞くよ?」
「本当に何ともないから…未だにアメリカンギャップが身に染みてるだけよ」
「アメリカンギャップって……まあ確かにアックもフタバもアメリカ生まれだしね…そりゃあサイズの差にも驚くでしょ」
「そうね…留学から帰国した時、かなり太ってたからかしら…確か今より二十キロはあったわね」
「えー、その時のお姉ちゃん、ぷくぷくして可愛かったけどなぁ…それで何故か私もお姉ちゃんのダイエットに付き合わされて、凄く可愛くなったんだよね…」
「そうね。舞姫が料理上手だから、何とかジャンキーなものを我慢出来たのよ」
「希望君がいたからお料理頑張れたのー!でもお菓子作りは…あれだね……」
「本当に舞姫って希望君のこと好きよね……確か一緒に暮らし始めたのはいつ頃だったかしら…」
─今は食べ過ぎた翌日は調整するようにしてるうえに、今は大好きな人と婚約もしてるため、自分磨きのモチベーションは残ってるのだ。
─それに当時はどうしてもジャンクフードによる禁断症状も出ていたが、舞姫が料理上手なお陰で何とか乗り越えられた。彼女曰く、希望君がいたから料理を頑張れたらしいのだが───そういえば、彼を家族として向かい入れたのはいつ頃だっただろうか─。
─舞姫と一緒に、過去の記憶の中へと旅に出た。
『嘘……だろ……母ちゃん…父ちゃん……?』
『…………気持ちは分かるが、落ち着きなさい』
『っ!院長に何が分かるんだっ!このクソジジイっ!』
『辛かったな……とりあえず家に来なさい』
『ただいまぁ…あれ、誰かいる?お父さーん』
『お、舞姫…お帰り』
『希望君じゃん……どうしたの?』
『聞くな。急で驚くと思うが、今日から希望君もここで暮らすことになったんだ』
『え、えぇっ!急展開…』
『だろ?とりあえず今から彼を入浴させる。舞姫はご飯の支度をしてくれ、と言いたいところだが……』
『ご飯出来た『いらねっつってんだろっ!』
『きゃっ!』
『舞姫……希望君…何故だ……私達は君の『味方なんて一人もいないっ!』
『…………』
『ただい………あれ、希望君?』
『愛…帰ったか…説明は後だ。とりあえず皆で希望君のところを片付けよう。いやあ舞姫も、一人で家族のご飯を作るようになったとは…また一つ大人になったな』
『………うん』
『舞姫……』
─それは私が中学三年の時の話。その頃には夏が過ぎていて、女子バスケ部を引退し、生徒会長と両立しながら受験勉強に専念していた─と言っても、志望校や将来の夢も定まっていなかったので、ただ勉強と生徒会に明け暮れる日々が過ぎていくだけだった。
─その中で、私と舞姫は─希望君と家族になった。後で父から聞いた話だが、希望君の両親が蒸発したため、父が彼も煌星家の一員として迎え入れたとのことである。
─が、当時の彼は─私達に対して心を閉ざすようにもなっていた。食事を出しては床にぶちまけられ、自暴自棄になっていた彼を見て、私は何も出来ずにいた。この時の私と父は─舞姫が希望君の心を救うことを、まだ知らずにもいたのだ。
『愛。もう十一月なのに、まだ志望校が決まらないのか…』
『うるさいわね…別にいいでしょ?』
『普通は目標もなければ勉強や生徒会に依存する必要もないだろう。舞姫は看護師を目指してるんだが、私によく理科で人体のこととか聞いてくるぞ』
『看護師……ね』
『年が明けたら出願しないとならん…だから、一瞬でいいから、なりたいものを見つけなさい』
─月日は流れ十月のある日、私は父と二人で進路のことについて話していた。ひたすら勉強と生徒会に打ち込んでるのに、自分のやりたい事が分からずそのまま冬を迎えようとしていたのだ。
─さすがに心配した父は言った─。一瞬でいいから、なりたいものを見つけろと。その言葉の意味が分かったのは────その翌日だった。
─昼休み、生徒会の仕事をしようと下の階に降りたら、舞姫が複数の女子に囲まれていた。彼女達は女子バスケ部の部員だったため、私はすぐ止めに入った。舞姫を守るためなら、殴られてもいいと、暴言を吐かれてもいいとも思った。
『あんたさ…ちょっと可愛いからって調子乗らないでくれない?』
『え…私……何も…『声小さいんだよっ!』
『痛……っ!』
『一人じゃ何も出来ないくせに…あのお姉様のコネで部長だなんて…有り得ないっ!』
『やめてっ!』
『あら…私の可愛い妹を、虐めないでくれる?』
『だ…だって……こんなブスが主将だなんて…』
『関係ないわ。私は舞姫が皆に隠れて部に貢献してくれたこと、知ってるの。誰よりも早く来ては体育館掃除やボール磨き、ドリンク作りもしてたもの』
『…………』
『この…こんな姉妹がいるから、バスケがやりにくいんだよっ!』
『っ!』
─なんと、舞姫が次期女子バスケ部主将になるため、周りの部員は皆それが面白くなく、舞姫を追い詰めてるのだ。それに私は知ってる─。舞姫が誰よりも早く来ては体育館掃除やバスケットボール磨き、ドリンク作りやタイマーの準備もして、試合では皆がボールを回しやすいように動いてることを。
─とにかく舞姫を、次期女子バスケ部主将に選ばない理由がないと主張するが、血が上ったのか周りの部員はヒステリックになり、私達姉妹を問い詰めたのだ。
『ふざけんなっ!』
『どうせ色目使ってるんでしょ…』
『こんな芋女が女子バスケ部主将って…チームとして終わってる』
『終わってるのはあなた達の方よ…どう考えても。そんなに嫌なら退部してもいいわよ?』
『このブスっ!行こ』
─次第に暴言を吐き捨てながら部員達は去り、舞姫は泣いていた。自分のせいで、私も傷付くことになったことに対して─。
『ぐすっ…私が強く返せたら…お姉ちゃんまで…酷く言われること……なかった…のに…ひっく』
『よく頑張ったわね。もう大丈夫だから…あなたは私の跡継ぎであって、私の妹なのよ?家族なのよ?だから…大丈夫』
『お姉ちゃん……うんっ!』
─何とか舞姫を元気付け、彼女の教室に帰そうと思っていた時─希望君が歩いてきた。この頃の希望君は、私達にすっかり心を開いていて、あの時の絶望感は感じなかった。彼は舞姫の手を引く。
『舞姫〜?大丈夫かー?』
『希望君…ぐす』
『なんか、女バスの部員に嫉妬されてたのよ…次期主将なのがムカつくって』
『ありゃあ舞姫が次期主将に選ばれて当たり前なのに…って感じっすよね』
『えぇ。舞姫は元から可愛いのに、許せない』
『まあまあ。あの、愛さん』
『何?』
『英語…教えてくれないっすか?』
─彼が舞姫を慰めるとすぐに泣きやみ、笑顔になった。舞姫はやっぱり笑顔が一番可愛いと思っていた時、希望君が突然英語を教えて欲しいと言ってきた。承諾の言葉を出そうとした時、舞姫にも英語を教えて欲しいとお願いされてしまった為、息が詰まった。
─そして帰宅し、私は渋々二人の英語のテストを見てみたのだが───これは予想外に酷かった。
『皆で勉強か?日付変わるまでに寝るんだぞ』
『おやすみ、お父さん』
『院長おやすみっす』
『お父さん、おやすみなさい』
『あぁ。ふわあ…おやすみ』
『ちょっと何よこの点数……しかも誤字脱字も多いし、単語の意味が理解出来てないようね』
『『ごめんなさい…』』
『まあいいわ。とりあえず、この関係代名詞から進めるわね。前の名詞…先行詞というんだけど、それに情報を加えて説明する繋ぎの役目があるのよ。例えば、彼は私が昨日会った男の人ですとかなら、who I met yesterday.を付け足すのよ。who、which、thatが代表的なの』
『ってことは…ここの問題は……the women が先行詞だから…She is the women who I spoke today. なのかな』
『そうそうっ!何よ出来るじゃない…他に分からないことある?英語全般は得意だから、どんどん教えるわよ〜!』
『愛さんすげぇ……愛さん、英語教師いいんじゃないっすか?』
─点数は百点中一桁で、単語のスペルの誤字脱字も多く、文法もぐちゃぐちゃ─それに希望君に関しては字が汚かったのだ。
─これは苦労するだろうと教えてみると、すぐに二人とも理解してくれたと同時に、英語を教えるのが楽しくなっていたのだ。
─それを見た希望君は。こう話してきた。私は英語教師に向いてるのではと。
『教師……考えたことないわ』
『最近、愛さん院長と進路のことで揉めてたのを見たし、何よりも……英語を教える時の愛さん、心が光ってた…』
『………お姉ちゃんが教師かぁ!お姉ちゃん可愛いから、美人教師として人気になるんだろうなぁ…』
『それ思った!愛さん、教師…いいんじゃないっすか?』
─この数年後、本当に教師になってるなんて、当時の自分からは想像がつかなかった。確かに英語を教えるのは楽しいし、間近で人を笑顔に出来る─。だから、今私の教えで舞姫と希望君は笑顔に───この夜を機に、私は教師を目指すようになり、渡米を経て、今に至るのだ。
─希望君と初めて出会ったのは中学二年の春。今の年齢から逆算すると─彼とは役目八年の付き合いにもなるのだ。
「懐かしいなぁ…もう八年は経つよね?」
「えぇ。こうして未だに繋がりが消えず寧ろ深まってるのは奇跡よね……皆前世で一緒だったとかかしら…ふふっ」
「そうかもね。お姉ちゃんは、ずっと尊敬出来るよ。渡米もして、本当に英語教師になるなんて」
「そうね…まさかね。希望君、明後日から東日本の旅が始まるのよね?」
「うん…。栃木や金沢、東京に岩手や青森、最後は北海道……か」
「西日本の次は東日本……今度はどんなものを持ち帰ってくるのかしら?」
─そう。西日本での旅を終えた希望君達は今、休養をとりつつ仕事に励みながら、明後日から始まる東日本での旅に向けて準備してるのだ。
─これは多分、絆ではなく、心と意図が広がっては繋がってるのだと、私は思う。
─少なくとも希望君は、私に夢を与え、舞姫に生きる理由を与え、そして西日本での旅で沢山の人々に生きる希望を与えた。
─私から、私から彼に、与えられるものは何か─そう密かに考えながら、追加注文したニューヨークチーズケーキを一口頬張った。たっぷり使われたであろうサワークリームとクリームチーズのコクが、渡米の思い出や楽しかった日々の記憶を思い出させてくれていた。
……To be continued
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