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普通を失った俺が、世に希望を与えるまで。  作者: 速府左 めろ
<第二章>地を踏む一歩が、希望な意図となる。〜日本列島出張編〜
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白衣の女神

この度は閲覧頂きましてありがとうございます!

「ふわぁ……今日は日勤…明日は夜勤…明後日も二日連続夜勤かぁ…頑張ろ」

「患者さんの情報は…こんな感じかな。あと行動計画も…こんな感じでいいかな」


─ある日。私は南北北病院に朝八時ぐらいに行き、患者の情報収集をしていた。気が付くと申し送りの時間になり、私は病棟に集まった。

─ 申し送りとは、交代制勤務の医療機関や介護施設で、勤務交代時に患者の状態や状況、必要な情報を次の勤務者に伝えることを指し、医療やケアの質を維持することが目的ともいえる。

─新人の看護師として、率先して動くため、どの患者の受け持ちか、どの処置対応が必要か等をメモする。申し送りが終わり、今日の私は受け持ち八人かつ診療の補助をする。ちなみに今のところは小児科と内科を担当しているが、時には救急科も担うこともある。


「よし、手空いたし、記録記録…」

「ちょっと」

「きゃ…!あ……」

「ねぇ…さっさと消えてくれない?コネ娘が」

「……………」

「あんたみたいな小娘がいるせいで、患者の話題は皆あんたのことばかり。調子に乗るな」


─患者の食事や入浴、排泄の介助や受け持ちの半分を終わらせ、休憩時間にご飯を食べた後、記録をする。

─すると、頭から水を掛けられ、私の化粧は少し落ちた。

─そう。ここで看護師として働くようになってから、私はこの四人組から嫌がらせを受けているのだ。記録を消されたり、食事の配膳の時に足を掛けられたり、受け持ちやインシデントを押し付けられたり、報告を無視されたりなど─。


「お、舞姫ちゃん」

「どうかなさいましたか?」

「申し訳ないんだけど、ちょっとオムツ替えてもらえないかい?」

「はいっ!」

「いやぁ、いつもありがとうねぇ」

「いえいえ…」

「ありがとう。さすが、白衣の天使だねぇ」


─が、こんな事では患者を救えない。午後はナースコールの頻度もピークになり、率先して動かねばならない。小児科も担当してるのもあり、オムツ交換や食事の世話はすぐに慣れた。


「うわ!何あの美人な看護師…」

「可愛い…彼氏いるのかな?」

「あんなべっぴんさんな看護師とは…こりゃあ病院全体が潤うのぉ」

「なんて綺麗な看護師だ…息子の嫁にでも…」

「すっごい美人……」

「(患者の人達がいい人過ぎるから働きにくくはないけどね)」

「あ、あの!」

「はい。どうかなさいましたか?」

「す、好きで「も、申し訳ありません。私婚約中ですので…」


─そしてもちろん、病院内でも男性から黄色い声を浴びるのも慣れた。たまにこう、告白してくる患者もいるが、私は婚約中なので、断っている。


「可愛い看護師だこと…ありゃ白衣の天使じゃんね」

「本当に綺麗だよねあの人……まるで昔のおばあちゃんみたい」


─気付けば夜勤の人も来ていたので、急いで申し送りで必要な情報を夜勤の人に伝える。父から教わったように、分かりやすく情報共有をした。伝え終わると、制服のボタンがパンッと勢いよく弾け飛んだ。そう─胸がキツいあまりボタンが限界を超えたのだろう。


「ご、ごめんなさい…」

「舞姫さん……何カップ?」

「え」

「はっ」


─慌てて気まずい雰囲気を抑えようとするが、男性の先輩が私に何カップかを聞いてきた。突然の質問に驚くが、丁度父も通りかかって一部見てたのか───


「貴様……誰の許可得て娘にセクハラしようとしてる……?」

「ひっ…!い、院長…」

「後で話をしよう。明日からの仕事はないと思え」

「そ、そんな……」

「何なら、今すぐ荷物を纏めて出てきなさい」

「(お父さん…こういう時凄い厳しい……てか、最近また下着が入らなくなったんだよなぁ…Iカップってこんなにしんどいんだ…)」


─その後、男性先輩は、クビになった。そう─ここにいる男性は皆、私に近付こうとするとすぐに父が駆け寄り、悲惨な末路を味わうことになる。職員なら即解雇、患者なら厳しい指導や制限もするくらいに─。


「お姉ちゃんおはよー!絵本読んでー!」

「ふふっ。おはようございます……そうね…ご飯食べたら絵本読むよー。何がいい?浦島太郎かな…それとも…白雪姫がいい?」

「白雪姫ー!」

「僕も白雪姫読んでー!」

「えー、私シンデレラも読んで欲しいー」

「はいはい。よし舞姫お姉さんが絵本読むからちゃんと食べるのよー?ふふっ」


─後日の夜勤。申し送りを終えた後に私は小児科へと向かった。この時間になると夕食前に暇を持て余した子ども達が、病室から飛び出しては私に抱き着いた。


「舞姫ちゃーん、見て見て…お花の絵!」

「わ、凄く綺麗……」

「舞姫ちゃん可愛いー!病院でもよくおじさん達が舞姫ちゃんのこと美人って言ってたー!」

「指輪ー!舞姫ちゃんケッコンしてるのー?」

「してないよ?この指輪はね、王子様と結婚を約束してるって証なの」

「舞姫ちゃん花嫁さんになるの?」

「そうだよ。白いドレスを着るの」


─自分で言うのもだが、私は子どもに好かれている。看護実習を通して、子どもと遊ぶことが楽しかったからだろうか。母性本能くすぐられながら癒されるという─俗に言う仕事での癒しだ。

─子どもといっても、幼児から小学六年生までなので、意外と手がかからない。


「見ろ…舞姫さん、母性本能出てる」

「可愛いよなぁ…!マジ天使って感じ」

「おい」

「んだよ……ふわぁ……って」

「「院長」」

「舞姫の話をして私がすぐに来たということは…分かってるな?」

「よし、皆お薬飲んだね。偉い偉い」

「ねぇ舞姫ちゃん、今度彼氏さんの話聞きたい!」

「えー、どうしようかなぁ」


「ふわぁ…疲れた……やっと寝れる」

「舞姫。お前専用のベッドを用意したから、安心して休みなさい。あと舞姫の好きな麻婆茄子や揚げ浸しも冷蔵庫にあるからな」

「ありがとう。わざわざいいのに…」

「愛娘の可愛過ぎる寝顔を他の職員に見せたくないんだ。盗撮でもされたらどうするんだっ!」

「大丈夫だからもう……」

「点滴抜かれてないか、ベッドから落ちてないか、様態が変わってないかは確認したか?」

「うん。あの子の呼吸状態は悪いけど、先輩方が対応するって。それにあの子も点滴はまだ抜かれてないよ」

「そうか。しっかり把握してるな。とりあえず私は緊急入院の準備をするから、お前はとりあえず一眠りしなさい」


─次の日の夜勤。子ども達が寝静まった後急遽救急科のヘルプに入り、対応に追われていると、気付けば深夜二時になっており、休憩に入った。


「お父さん……わざわざいいのに………ベッドも用意するな……んて?」

「嘘…何この寝心地抜群な寝具……絶対これ十万円はするでしょ……冷蔵庫も…!」

「…本当に私の好きな茄子料理が…あとアイスとカフェラテ……炭酸飲料も……」

「お父さん……体壊さないかな…心配」


─この病院は二交替制の為、夜勤の場合三時間弱程の休憩時間があるのだ。夜勤の休憩時間では仮眠を取る人も多かったり、もしくはその日の業務量によっては休憩時間が取れなかったりすることもあるのだ。

─少しご飯を食べた後、一時間半程仮眠し、記録や調べ物をしていると、救急科の先輩が来た。それは緊急搬送の連絡で、今すぐに人手が欲しいとのことだった。


「五分後、交通事故で四名こちらに搬送。そのうち二人は重症。舞姫さん休憩中ごめんね。入って欲しい」

「はいっ」


─なんと冰山駅前の寅丸町にて飲酒運転による交通事故が起きたらしい。後で聞いた話だが、その犯人は逃走中らしいとのことだ。小児科から救急科の病棟までかなりの距離なので、子ども達が起きないように走る。が、足に何かが引っ掛かり、転んでしまった。


「……痛…っ」

「コネ娘に何が出来るってんだい……患者やガキ共にメスな顔してる癖に…」

「っ…今はそれどころじゃな「困るねぇ?最近の若い子は…話も聞けないなんて……院長も困るだろ?顔と身体しか取り柄のない若いだけの女なんて…」

「通して下さいっ!」

「……なんで、こうも人を助けたいだけなのに、邪魔をされるんだろう」

「だけど──それでも、私は看護師でありたい」

「行かせないよ。緊急搬送される人達も可哀想に…最期にこの世間知らずなコネ娘の顔を見るなん「舞姫。行くぞ」

「お父さん…?」

「そこのあなた達…話は後だ。とりあえず舞姫…今日、お前は四人の命を救うだろう。行くぞ」


─そう。私を嫌っているお局が私の足を引っ掛けて転ばせたのだ。

─四人の命が掛かっているのに─行きたくても行けない状況でも、父がこの最悪な空気を割り切り、私を連れてくれた。

─看護師になってからは、医師として動く父の背中を見る度、看護師としての責任と覚悟を重ねられた。


「状況は?」

「家族四人…冰山駅前寅丸町の飲酒運転事故にて緊急搬送。そのうち一人の子どもとその父親は重症です」

「他には?」

「一名の子ども、頭部の一部及び左目損傷。その父親は右半身に激しい損傷。残りの二名は全身打撲で骨折が確認されてます。全員意識はありますが、重症の二名が致命的です」

「ありがとう。私と舞姫が来たからには救う。絶対に」


─淡々と状況が伝えられ、それに適応する応急処置が入った。私はそこのヘルプに入ったのだが、父は重症の二人の緊急手術に向かったのだ。

─気付けば日が登っていて、緊急搬送された四名は─命を取り留めることが出来たのだ。もちろん、もちろん全員入院が決まったが、命があるだけで良かったお思えた。人の命を救った─これこそが、看護師や医師のやりがいだろう。


「本当にありがとうございました。もし手術があなたじゃなかったら…私は家族を泣かせて亡くなってた……息子も脳に異常がなくて本当になんと感謝したら…」

「頭を上げて下さい。手術後ですから無理に体を動かしてはいけません」

「とにかく、ご家族全員無事で良かったです。大変だと思いますが、復帰に向けて少しずつ頑張りましょう」

「はい」


─重症だった父親は、ゆっくりではあるが何とか歩けてる。そして頭部を一部損傷してた子どもも脳に異常はなかったらしい。改めてその父親は、父と私に深々とお礼をした。

─そして共に復帰出来るよう頑張ろうと、父とその父親は握手を交わした。看護師や医師と患者の繋がりも、やりがいのうちに入るのだろう。


「ところで、その子は…」

「私の娘です。新人看護師として共に働いてるんです」

「すっごく綺麗……」

「白衣の天使…」

「こんなに可愛い看護師さんがいるなんて…」

「いや…娘は、白衣の女神です」


「ふわぁ…やっと帰れる」

「やぁ舞姫さん…昨晩は大変だったそうじゃな」

「透助さん……はい。休憩中に救急のヘルプに入るなんて驚きました」

「そりゃそうじゃろな…院長が褒めてたぞ」

「良かった……」

「夜勤明けか…儂も若い時は苦労した……舞姫さん、今夜も夜勤らしいから、まずは休みなさい」

「ありがとうございます」


─夜勤明けの朝。記録と申し送りも終わり、私は帰路に着こうとした。帰宅したらご飯と希望君のご飯作り、シャワーを浴びて少し仮眠しようとしていたところだ。ちょうど透助さんに挨拶して帰ろうとし、彼の病室へと足を踏み入れた。

─どうやら彼も、昨日私が救急のヘルプに入っていたことを話した。夜勤明けがしんどいことを共感してくれてはいたが、彼も若い頃─医師をしていて、昔の父の師匠だったという───。


「いやぁ…若いってええのう……まるであの子は、白衣の天使じゃ」


─軽く透助さんと話をし、私は病院を後にした。私が彼の病室を去った時、何かを言っていたが、それは─白衣の天使という言葉しか耳に入らなかった。


「ふわぁ…ただいまぁ…」

「お、舞姫…お疲れ」

「舞姫さん…お疲れっす」

「希望君に廉命君も来てたんだぁ?夢玖ちゃんは?」

「ふわぁ…ま、舞姫さん…おはよう……大丈夫?目にクマあるで?」

「ふふっ。夜勤明けで帰ってきたの」

「いつもありがとうね。昨日舞姫が夜勤行って、俺が帰ってきた後、廉命達を呼んで皆で掃除や家事をしたんだ。舞姫を労おうって思って」

「本当に…ありがとう……ぐすっ!」

「本当にお疲れ様。まずはさっぱりしてこい。もしあれなら湯船張るけど…」


─夜勤から帰ると、玄関で寝癖を生やした希望君と廉命君、夢玖ちゃんが私を出迎えてくれた。玄関から先の景色を見渡す限り、どこを見てもピカピカで、ご飯も作ってくれたようだった。

─私は彼らの行動に涙が出てしまった。私を思って家事してくれたのだから。希望君がとりあえずシャワー浴びるように促してきたので、私は着替えとタオルを持って後にした。


「いやぁ…看護師って凄いよなぁ……」

「ね。ナース姿の如月さん……ふふっ」

「流石に二日連続夜勤はなぁ…」

「夜勤明けでも舞姫は…今日も可愛いっ!うんっ!」



「そういえば少し太ったかな…休憩中お菓子食べまくってたし、お父さんよく私にロールケーキやシュークリーム買ってくるし…よし、ダイエットするか」

「(医療業界の人達って…やっぱり食生活偏るんだぁ…お父さんも三食甘いものだし、福吉さんも三食メロンパンに五箱ぐらいの煙草…雷磨さんも…二本エナドリにお姉ちゃんの手料理……)」


─もし本当に私が白衣の天使なら、沢山の患者を救ってることと同じだ。辛いこともあるが、やはり看護師はやり甲斐がある。

─医師をしてる父と、血が繋がっていなかったとしても─死ぬまで家族でいると姉とも三人で約束した。だって希望君も───種類が違う、たった一人の、大切な人なのだから。






……To be continued

閲覧頂きありがとうございました!

コメント、いいね、感想お待ちしております!

次回作もお楽しみに!では。

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