愛娘
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─俺達の西日本での旅が終わり、数日が経過していた。
「これって父親ならではの現象なのでしょうか…?」
「それはのぉ……親バカってもんじゃないか?でも院長の娘はもう…いい大人なんだろ?」
「はい…上の子が教師してて、下の子は新人看護師なんです……他の誰よりも優しくて、美人なんです」
「なるほど…確かに、希望のおなごは凄くべっぴんさんじゃったけど、姉の方はまだ顔は知らないのぉ」
「実は今夜、娘達を呼んでるんです…私は娘達と週五は会わないと心臓発作起こしますし、常に娘達のアルバムが手放せないんです」
「それは大変じゃな」
「はい…もう娘達には大切な異性もいるのに、私はお邪魔かと…」
─ある日の南北北病院にて。俺と雷磨は院長に呼ばれていたため、仕事終わりにここに来た。最近病室を個室へ移動になった祖父が入院してる部屋の元に行き、扉を開こうとするが、院長がいつものことをしていた。
─そう。院長は優秀な医師であるものの、甘いものが常に手放せず、何より自身の娘である愛さんも舞姫を異常に溺愛してるのだ。陰から覗いていて、タイミングを伺おうとした時─祖父と目が合い、院長もそれに気付いたので、こちらに近付いて、俺達を入れてくれた。
「わざわざ来てくれてありがとう。入りなさい」
「はい…」
「いやぁ、院長は幸せ者じゃなぁ…可愛い娘達もおって、皆から尊敬されてて…」
「いえ。あなたの存在一人が…私を医師にしてくれた…だからせめて、最期まで最善を尽くすのは、当然です」
「そうかい。お、君、見ない顔じゃ」
「ぼ、僕は盾澤雷磨です。二十三歳の医大生です。ちなみに院長の娘である愛さんとお付き合いしてます」
「医大生ということは…今年は就活か…」
「そうなんです。彼には、私の部下でもある目白福吉と共に、週に何日かここで働いてもらおうと…話をつけてます」
「目白…君。あぁ、あの銀髪ヘビースモーカーと噂の」
─まずは祖父と院長が雑談し、こちらに質問されては答えるというだけだったが、院長の瞳を見て感じた─。俺達に伝えたい意図を。すると突然院長は咳払いをし、話に区切りを付けた。
「なぁ院長…そろそろ…話してもいいんじゃないか?」
「そうですね。でも娘達が「お父さーん」
「うぉっ!愛…舞姫……一日半振りだな」
「……もう。それで、話って何かしら」
「希望君も雷磨さんも……ねぇ、お父さん…何で?何でこのメンバーなの?」
「落ち着きなさい。実は…お前達に話さなくてはならない話がある。それは…如月君や日出君…鳳斗君達には関係なくて、お前達にだけ関係のある重要な話なんだ」
「院長…冷や汗すごい」
─医師をしてる彼と、父親としてる彼の人格が合わさり、まるで大事な手術をする時の院長と同じ真剣な表情をしていた。その顔を見て舞姫は察した。
─そう。今俺も気付いた。この煌星癒がずっと抱えてきた真実が、俺達の意図に、亀裂を入れようとしたのだから。
「もしかしたらこの話で、煌星家は崩壊するかもしれないし、私との関係も絶つことになる」
「どういうことなの?」
「……………心して聞きなさい。実は私は…愛と舞姫の、本当の父親ではないんだ」
「………えっ?」
「ちょっと!どういうことなのよ!何でここで言う必要が…!」
「愛さんっ!落ち着いて下さい」
「……ヒック…分かっ…て、た……わよっ!そんなの…ぐすっ!ぅぅぅ…!」
「嘘…お父さん…と血が…繋がってなかった…の?私達」
「…………本当にすまない。君達の婚約を機に話すには丁度いいと思っていた…本当は、もう少し早く話せば……本当にすまないっ!」
─この話は、院長と祖父以外理解出来なかった。なんと院長と─愛さんと舞姫は、血の繋がった本当の親子ではないのだから。
─本当はもう少し早く話せば、申し訳ないとひたすら俺達に謝り、すぐに土下座もした。当然愛さんは目から大粒の涙を流しながら父を攻め、雷磨は彼女を羽交い締めにする。
─そして舞姫は─無表情で翠の瞳の光を殺し、ひたすら謝る院長を見ていた。
「………突然の話で悪いが……舞姫も聞きなさい。君達は…私と縁を切って幸せになるか、この事実を受け入れて私といるか…選びなさい」
「「「「………」」」」
「本当にすまない………私は、父親失格だ。人の親にはなれな……」
─院長は頭を上げず、俺達に選択肢をくれた。自身と縁を切って幸せになるか、それともこの事実を受け入れた上でこれからも一緒にいるかを─。どう言葉を返せばいいか分からずにいると、さっきからずっと黙っていた舞姫が院長の元に座り、平手打ちをした。
─パシン、という音で俺達はこの事実を受け入れた。院長に平手打ちをした舞姫は─その華奢な背中から見ても分かるほど、物凄い泣いていた。
「馬鹿じゃ…ない…のっ!私…お父さんとお姉ちゃんと……希望君と……夢玖ちゃん達と過ごした時間が大好きなの……茄子よりも……!」
「舞姫……私はお前とは血が繋がってないんだ」
「だから何なのっ!なんでそんなこと…今になって言うの……ぐすっ!」
「…………舞姫。実は私ね、お父さんが本当のお父さんじゃない事、分かってたの」
「………」
「気持ちは分かるけど、聞いて……私が大学進学と共に渡米する前に荷物整理してたら、養子縁組の書類を見たのよ。もし舞姫がこの事を知ったら傷付くだろうって…でもこの事はいつかお父さんから話すって分かってた……私もその…ごめんなさい」
「……ぐすっ。そういや…愛がアメリカに行く時……子どもの時に買った狐のぬいぐるみも一緒だった…なぁ……」
─それにもう一つの事実が明かされた。愛さんも実は─院長と血が繋がってないことを知っていたことだ。
─それは彼女が大学進学と同時にアメリカやイギリス、オーストラリアに留学が決まり、スーツケースで荷物整理していた時に、たまたま養子縁組の書類を目にしたのだとか。
「………お前達…どうするんだ」
「…そんなの、この事実を受け入れて一緒にいるわよ。希望君も雷磨さんも…舞姫も同じで満場一致ね。それにね…愛情注いで育ててくれたお父さんと縁を切る理由もないもの」
「愛………」
「…お父さんがいなかったら、私は希望君とも出会ってないし、夢玖ちゃんや廉命君、福吉さんや鳳斗さん達も幸せにはなってなかった…それに、私はお父さんと食べるスイーツも好きだよ…茄子の次に」
「舞姫………」
「だから、死ぬまで家族でいましょう。血縁なんて関係ないわ。最期まで一緒にいるわ」
「うん…末永くよろしくね…お父さん」
─院長は頭を上げ、舞姫と愛さんを抱き締めた。意外な事実だったけど、和解出来て良かったとホッとする俺と雷磨だったが─病室のドアからコソコソ何かが聞こえ、嫌々開いてみると───お局らしき人が震えていた。
「い、院長………セクハラですか…」
「誤解だ!む、娘だ」
「はぁー。多忙で院長、ついに美人な子に手を出すように…」
「父がお世話になってます」
「娘さん…しかも姉妹なのね!まあべっぴんさん!」
「お疲れ様です」
「あら舞姫ちゃん!」
─なんと、院長が舞姫と愛さんにセクハラしてるように見えたらしいが、即座に誤解を解いた。
「和解出来て良かったのぉ…いやぁにしても、姉さんの方も美人じゃなぁ」
「……そういえば、この人は…?」
「俺のじいちゃんっす」
「良かったな院長…さらに意図が深まって…やはり、家族は血縁じゃない…心で繋がってる」
――――――――――
「…ふわぁ…おはよう。舞姫」
「……希望君おはよう。朝ご飯出来てるよ」
「ありがとう。いつも家事もしてくれてありがとう」
「ううん…私がしたくてしてるだけだから…それにね」
「ん?」
「私…お父さんの娘で良かったなって…こうして希望君と一緒にいれるんだもん」
「そうだな…あ、舞姫…今日の化粧も可愛いじゃん。確かこのアイシャドウ…俺が誕生日にプレゼントしたやつ」
「ありがとう…ふふっ」
─翌朝。いつもと変わらない朝だった。院長が舞姫と愛さんの、本当の父親ではないことを知ってから見た景色は違うと思ってはいたが、いつもと変わらない朝だった。
─確かに院長がいなければ今頃俺は─病に苦しみ最悪死んでいたのかもしれない─。訳あって中学の時から一緒に暮らしているものの、家族というものはとても大切な存在だ。そう─大切な──
「でね……私も見つけたの!お姉ちゃんとお揃いの狐のぬいぐるみ」
舞姫が嬉しそうにテーブルにぬいぐるみを置くと、希望は一瞬目をそらして苦笑した。
「……あ、あぁ……懐かしいな」
「ふふ、どうしたの?顔、真っ赤だよ?」
「な、なんでもない……朝から可愛いもの見たなって」
「も、もう……変なこと言わないでよ」
そんな他愛のないやり取りが、いつもの朝をいつも以上に温かくしていた。
……To be continued
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