また会う日まで。
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「…舞姫、舞姫」
「………ん、ゆ、ゆ…め……君?」
「こっそり…二人で海行かね?」
「…うん」
─佐世保のあるホテルで消灯した夜。俺は中々寝付けず、早起きをしてしまった。携帯を見てみると時刻は朝の五時前だった─。
『私、海を近くで見るのが好きなの…希望君と一緒に見たいなぁ…』
─夢の中でその台詞が思い浮かび、中々寝付けず、愛さんと寝てる舞姫を起こし、俺達はホテルの部屋を後にした。
─ホテルを出て、佐世保港に向かった。
「ほら。冷えるべ」
「………ありがとう」
─近くの自販機で暖かい飲み物を買い、舞姫に手渡す。飲み物を受け取る彼女の白くて華奢な手が月明かりに照らされていた。
─俺は彼女の隣に座り、佐世保港を眺めながら話した。
「………俺達、今夜でお別れなんだな」
「そうね……でもまた福島で会えるじゃん」
「だとしても寂しいよ……ぐすっ」
─西日本での旅が始まり、約一ヶ月。如月と廉命は大学の夏休みである。彼らには、何度も助けられ、こうして今─舞姫と二人きりになれている。
「………ずっと、これからも一緒だからね」
「もちろん。必ず帰ってくるよ」
「…ねぇ、ちょっと海に近付こうよ」
「うん」
─二人で海の水に足を突っ込んだ。俺達の足首を浅い波が伝う。愛する人と二人だけの世界が見えてる─。生きるってこういうことなんだと分からされた。
「……希望君、楽しかった」
「俺も…その……ありがとう」
「うん…私もありがとう。夜海ちゃんや鳳斗さん達には色々話しておくね」
「ありがとう。んっ」
─夜明け前の海で二人、唇を重ね合った。
─二人で将来について語り、気付けば朝の六時半になっていた。手を繋ぎながらホテルの部屋に戻ると、寝癖を生やした愛さんが起きていた。
「あら…おはよう。二人で何処行ってたの?」
「…希望君が中々寝付けなかったみたいで…こっそり二人で佐世保港に行ってたの」
「そう…舞姫は、港見るの好きよね……少しだけ英語の勉強して、お父さん達起こすわよ。それと……お父さん、今夜が最後だから、馬刺しのお店調べてたわよ」
「馬刺し……ジュるっ」
「そうそう。お土産も必要だったわね。いきなり団子にからし蓮根…」
─彼女は歯磨きや洗顔も済ませており、少しだけ英語の勉強をしていた。次第に院長や如月、廉命も起きてきた。
「……今日で希望君達との旅が最後だな……一緒に飯と宿を共にしてくれてありがとう」
「いえ…院長のお陰で怪我なく九州を堪能出来ました……ありがとうはこっちの方っす」
「そうか…」
「はいっ!院長のお陰で九州の美味いもんも食えた…それに希望さんが怪我なく講演出来た…院長のお陰で俺も色々勉強になりました」
「らしくないぞ〜?院長…ありがとうございました」
「礼は要らん。今日は馬刺しのいい店を予約してある。熊本駅に集まって、別れよう」
─院長は寝ぼけてるにも関わらず、俺にお礼を言った。短い時間、共に旅してくれてありがとう、と。いや、ありがとうと言いたいのはこちらの方だった。
─俺達はホテルで朝食を摂り、荷物を整理して、佐世保で解散した。
─佐世保駅から熊本駅まで、特急みどり、そして九州新幹線を乗り継ぎ、熊本駅に辿り着いた。
「く、熊モン……」
「熊本のご当地キャラだぞー」
「とりあえず、早めに飯食うか。熊本はタコ飯やがね揚げ、あと熊本ラーメンが有名だ」
─熊本駅に辿り着き、俺達は熊本駅内の飲食店で早めの昼飯を摂り、会場へと向かった。豊肥本線に乗り、熊本県立劇場へ辿り着いた。
「……熊本も、地震あったもんな」
「うん……津波はなかったけど、熊本城凄かったもんね」
「あぁ。東日本大震災や阪神・淡路大震災と比べりゃ規模は小さいけど、水俣病も考えるとな…」
「水俣病……?」
「あぁ。大気汚染とかで起こる公害病のことだよ。他にも富山や三重、新潟でも起きてるんだ」
「………新潟でもその水俣病が昔起きたんだよ。院長曰く、未だに治療法は見つかってないんだとか」
「嘘やろ……」
「…なら、今日のテーマは熊本地震や水俣病をベースに、再生をテーマにしよう」
─そう。ここは水俣病や熊本地震があり、多くの人間が苦しめられた地ともいえる。
─それに水俣病で、今も苦しんでる人も多いのだとか。
「─命は一人じゃ絶対に背負えません…ですが、一人より二人、二人より三人といれば命を繋ぐことは可能です。よって…命を繋ぐことが、誰かに希望を繋ぐことでもあると、俺は思います」
「……ぐすっ」
「熊本地震、そして…水俣病で亡くなられた沢山の命は決して無駄ではありません…後世に命を…希望を繋いでいるのです」
「…………」
「国籍や性別、年齢なんて関係ない……地球の一人一人が、必ず誰かの命を繋いでいるのですっ!」
「(生野さん…今日は偉い主張しとるなぁ…)」
─何とか講演を終え、俺達は熊本県立劇場を後にしようとしたところに、子ども達が手紙を渡してきた。
「あ、あの……あ、ありがとう…」
「……ふふっ」
「兄ちゃん、てがみっ!」
「お、ありがとうな」
「おぉっ!傷だらけ…しかもむしゃんよか〜!」
「……俺の事、怖くないのかな…」
「廉命さん子供に懐かれとるね…大型犬みたい」
「わんっ!って……そういう如月さんも子供に好かれてるじゃん」
─どうやら幼稚園児のあるクラスで、俺達に手紙を書いてきたらしい。すると他の園児もよってきて、俺達を囲んだ。
─遊び盛りで廉命の腕や脚にまとわりつく園児達、如月に抱き着いて頭を撫でられる園児達─。
「ふふっ。保育士になったみたい…ふふっ」
「お姉ちゃん。どげんしたらお姉ちゃんになれっとね!」
「えっ?」
「お姉ちゃんほんなこつ可愛いけん、どげんしたらそんな綺麗になれるとね!」
「可愛か〜!このお兄さん達は何ね!」
「二人ともむしゃんよかね!」
「(熊本弁…全然分からんっ!)」
─この頃から熊本弁がバリバリに話してるのか、方言の意味が分からなかった。照れながらも対応に悩んでた時、丁度幼稚園の先生がやってきた。
「皆ここにいたとね!どげんしとっと!近くにおったけんよかばってん危なか!」
「ごめんなさい……でも先生、俺らこの人達と写真撮りたいばいっ!」
「私も撮りたいばいっ!せっかく有名人見つけばってん!」
─何と幼稚園児達は、俺達と写真が撮りたいらしく、俺達は一緒に写真を撮った。
「うわぁ…おかんに話すったい!」
「いやぁ…ほんなこつばありがとさん……この子達、皆あなたのファンたい。本当ならお遊戯会の練習に決めばってん…でも中々言うこと聞かなかったけん…お陰で皆笑顔ばい」
「いえ…良かったです。来てくれてありがとうございます」
─沢山の手紙をもらい、俺達は多くの幼稚園児に見送られながらタクシーで熊本駅に向かった。
「院長」
「希望君……日出君に如月君もご苦労だった」
「いやぁ…幼稚園児に囲まれて大変でした」
「何ね…まあせっかくけんね…予約の時間もあるけん熊本城を観よたい」
「いいっすね」
「熊本城行くわよ〜!」
─院長達と合流し、俺達は熊本城を見に歩いた。熊本駅から熊本城・市役所前駅まで移動する。改札を通ろうと俺達はスイカで出ようとした時、院長のそれは見たことないものだった。
「院長…それ……」
「スゴカたい。これはJR九州で主に使われる交通系ICカードたい。これは早か券…福岡市営地下鉄が発行するやつたいっ!お、如月君…それは何ね」
「これはイコカです…ほな行こかって由来で…あ、阪神電鉄や地下鉄で主に使うやつですね」
「初めて見た……」
「イコカって…広島とかでも使われるのよね…西日本も広いわねぇ…」
─院長の持つ交通系ICカードは、JR九州が発行するスゴカ、福岡市営地下鉄が発行する早か券─。それに如月が持つそれはイコカ─。関西中心でJR西日本で主に使われるのだとか─。
─ それぞれ楽しみつつ、舞姫と手を繋ぎながら、俺達は熊本城へ向かった。
「さすが熊本城…」
「…熊本城は銀杏城とも呼ばれてるたい。それほど大イチョウが天守閣の前にあり、忍者も登れなかと言われる「武者返し」という特殊な石垣が見どころたい」
「特殊な石垣……確かに、大阪城や名古屋駅とはまた違う雰囲気もありますね」
「熊本は火の国って言われてるけど、お父さん…なんでなの?」
「それは世界有数のカルデラを持つ阿蘇山といった活火山があるけん。だがこうして誰かと見ると違うたいね…どれ、お前達そこで並べ。私が写真撮るたい」
「いや…院長も映りましょかー!あの、写真撮って欲しいねんですけど…ええですか?」
「おー、良か!ほら、アンタも可愛い姉ちゃん達と並びっせ!」
「ほう…ほんなこつありがとさん」
─こうしてまた思い出が増えた。そういえば、写真を撮ってもらったのはこれで何回目だろうか─。大阪、京都、神戸、広島、山口───少なくとも十回は撮ってもらってる─。でもそれは、思い出が増えてるという意味に置き換えられるだろう。
─それに見ろ─。再入院する前みたいに、俺の顔だけ隠れることもない。やはり生きるって素晴らしいと思った。そして今夜は院長が予約してくれた馬肉の店に来た。
「ここは馬刺しも有名だが…すき焼きやしゃぶしゃぶもあるから安心ばい」
「……うわぁ…馬刺し」
「馬刺しは福島も有名よね…熊本の次に」
「うん!私、わさび醤油で馬刺し食べるの大好き!」
「生の馬肉…ジュるっ」
─席に案内されると、院長は馬刺しに馬刺しのすき焼き、そしてからし蓮根にビールを頼んだ。
─院長は一口ビールを飲み、話をした。
「希望君、如月君、日出君……改めて短い期間だったが、ありがとう」
「いえ…そんな……」
「短い間だったけど、一緒にいれて楽しかったわ。鹿児島でも気をつけるのよ?」
「うん…愛お義姉ちゃん…ぐすっ」
「希望君、本当にありがとう。改めてこれからもずっと一緒にいようねっ!」
「おうっ!」
「日出君…もしもの時は、二人をよろしく頼む」
「うす」
─まもなく馬肉の料理が運ばれた。テーブルに置かれた馬刺しは─福島のとは全然違かった。
─福島は馬刺しの生産数全国二位だが、福島の馬刺しは、脂身の少ない赤身の馬肉が主流なのだ。
─しかし熊本の馬刺しはサシが多く、俗に言う霜降りだった。
「福島と熊本の馬刺しは見た目だけでなく、食べ方にも違いがあるたい。熊本は甘めの醤油におろし生姜やニンニクを混ぜて食べるたい。福島は辛味噌を溶いて食うらしいな」
「へぇ…馬刺し……うぅっ」
「生肉食べるって勇気いるよな…よし如月さん、口開けて」
─生肉を食べるという習慣に驚いていた如月は、馬刺しを食うのを躊躇っていたが、廉命が彼女に口を開けるよう話してきた。
─如月が口を開けると、廉命が彼女に馬刺しを食べさせたのだ。彼の持つ箸は、先程口付けたもので、つまり───また関節キスをしてしまったのだ。
「関節キス……廉命、素直になれ」
「はぁっ!べ、別に…如月さんと直接キスしたいとか、思ってねぇし…その…美味そうに食べる顔を、他の男に見られたくないとかでもねぇからなっ!」
「廉命君顔真っ赤…ふふっ。夢玖ちゃん…馬刺しどう?」
「んにゃ〜!蕩ける……」
─俺達は馬肉を堪能し、熊本駅に向かった。
─俺達は熊本駅近くのホテルで一泊し、明日は大分、明後日は鹿児島での公演があるが、院長達は明日、福島に帰るのだ。
「…熊本空港行きのバスまで一時間か。また一時的に離れるけん…皆で暖かい飲み物飲んで話すばい」
「…そうね。夢玖ちゃん、本当にありがとう」
「……愛義姉ちゃんも、舞姫義姉ちゃんもおおきに…めっちゃ楽しかったで」
「院長…ありがとうございました…その……俺からの土産っす」
「ありがとう。いやぁ…関西のお土産頼み過ぎて悪かね…鹿児島は桜島が噴火して火山灰が降り積もることもあるばい…必ず天気予報で風向きの確認は必須ばい」
─バスの待合室で話していた。これまでの思い出話や講演の話、そして廉命と如月の恋模様についても─。
─そして間もなくバスが到着した。別れの挨拶をしようと思った時、舞姫が俺に抱き着いてきた。
「…希望君。本当にありがとう」
「…こちらこそありがとう。福島の皆によろしくな」
「うん……希望君、これからもずっと一緒だからね」
「当たり前だろ…ぐすっ」
「……希望君、日出君、如月君……気を付けて帰ってきてくれ。ありがとう」
「夢玖ちゃん…ぐすっ!鹿児島着いたら連絡してね…ぐすっ!ありがとう…」
「院長…俺、沢山のこと教わりました…本当にありがとうございました!」
「日出君…ありがとう」
─俺達は泣きながら別れを告げた。また福島に帰ってくるとはいえ、ここまで一緒に旅をしてくれたから─。
─舞姫が抱き締め、そして口付けをし、俺達は唇を重ね合った。熊本で撮った写真が、この夜を輝かせていた。
――――――――――
「次は〜鹿児島中央、鹿児島中央、終点です」
「(……大分での講演も終わり、これが西日本最後の講演か……)」
「鹿児島……ほんまに私達、ここまで来たんやなぁ…」
「あぁ。最後に笑顔で、この西日本での旅を締めよう」
─そして明後日。俺達は熊本駅から鹿児島中央駅まで来ていた。九州新幹線で移動し、最南端の新幹線駅まで来てしまった。
─とはいえ、やはり桜島の噴火、風向きにより、鹿児島市には火山灰が少しだけ積もっていた。
─そして鹿児島アリーナにて、俺は西日本最後の講演をした。
「出会いが、人を救うことがある。誰かを想うことが、生きる理由になる。──それが、"希望"という名の意味だと、俺は信じてます」
─気付けば講演も終わり、鹿児島で有名な黒豚やさつまいも、他には黒牛や黒さつま鶏─。鹿児島空港にて、最後の九州─西日本を楽しんでいた。
─そして搭乗し、離陸した。飛行機の窓から小さく見える─桜島や阿蘇山、院長の生まれ育った別府温泉─、そして如月の故郷である大阪───。
─広島で出会った老夫婦、途中で寄った香川や愛媛─。これらが、俺達の西日本の旅の終わりを表していた。
「……なんか、あっという間だったな」
「だね…ありがとう。如月さん」
「えっ?私…ですか?」
「あぁ。元はと言えば、お前との出会いがなければ俺達はここまで来ることも、そもそも俺の病気が治ることもなかったんだ…そして、凪優助、夜更海ちゃん、仁愛ちゃん、それぞれが出会うこともなかったんだ」
「………」
「だから、ありがとう。如月さんも希望さんも」
─皆で感謝を伝え合ううちに、俺達は羽田空港に着いた。三人で肩を支え合いながら、冰山行きの東北新幹線に乗った。
─久しぶりに味わった、東日本の光景に感動した。これが、俺達の故郷なんだと分からせてくれた。
「間もなく冰山〜、冰山に到着します。東北本線、磐悦東線、磐悦西線、水軍線ご利用の方、東北新幹線仙台盛岡方面へお越しの方、東京方面へお越しの方はここでお降りください」
─新幹線のアナウンスが鳴り、俺達は冰山駅で降りた。嗚呼、西日本の旅は終わったんだという実感があまりなかった。
「舞姫、冰山着いた……ただいま」
─舞姫にそう連絡し、俺達はただいまと言う準備をした。西日本での旅は終わった─次は東日本──寒くなり始めた時期に始まる───。
─俺達の、日本列島出張の旅は、まだまだ続くのであった。
……To be continued
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