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普通を失った俺が、世に希望を与えるまで。  作者: 速府左 めろ
<第二章>地を踏む一歩が、希望な意図となる。〜日本列島出張編〜
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二人きり

この度は閲覧頂きましてありがとうございます!

─朝日が射し、カーテンを捲ると、爽快に晴れていた。実は昨日、広島から博多に移動する予定ではあったが、台風の影響により、急遽山口県で一泊することになったのだ。

─少し曇ってるようだが、雨は止んだようで、台風は去ったらしい。


「すう……すう……」

「廉命…起きろ」

「……ふ、ふわぁ…希望さんおはよう」

「おはよ……如月もおはよう。今日は博多まで移動して別府温泉に何泊かするからな」

「はい」

「うす……腹減った……昨日の河豚鍋美味かったなぁ…」


─顔を洗うと、廉命はまだ寝ていて、如月は化粧をしていた。無理やり廉命を起こすが、空腹でやっと目覚めたらしい。昨日の河豚鍋を一人で十杯平らげて店主に怒られていたのに、こいつは全然足りないらしい。

─何とか朝の支度を終え、荷物を纏めて、朝食を食べるためにロビーに向かうと、すぐ舞姫に目が入ってしまった。少し眠そうな表情だったが、目が合った瞬間に笑顔になった。


「舞姫っ!」

「希望君っ!」


─無意識に駆け寄り、俺達は抱き締め合った。

─久しぶりの再会、重なる体温、触れる手の感触が心臓を早鐘のように鳴らす。


「元気してたか?」

「うん……寂しかったよ……でも会えて嬉しい」

「舞姫……俺も寂しかったよ」


─小さく囁く声が耳に響き、胸をぎゅっと締め付けられた。


「希望君、元気にしてたか」

「院長…久しぶりっす。お土産!めちゃくちゃ用意しました」

「ありがとう。どれ、とりあえず朝飯にしよう」

「夢玖ちゃん元気だった〜?」

「もう元気やで〜?愛先生相変わらず可愛ええにゃあ〜」

「久しぶりっす」

「廉命君…何か……ガタイ良くなってない?」

「気のせいっすよ」

「あ〜…廉命…こいつ昨日河豚鍋十杯食って、店主にブチ切れされてたんすよ…」


─この余韻に浸りたかったものの、院長や愛さんも姿を見せてきた。確かに舞姫一人で来るには違和感があったが、二人もいたお陰でここに来た理由も納得出来た。

─俺達は朝食バイキングで食べたいものを取り、席に着いた。


「どうだ?西日本の旅は」

「いやぁ…どれも印象強いです」

「そうか……まあ元気で何よりだ。あれから体調悪くなったりはしてないか?薬は飲んでるか?」

「はい。なるべく柑橘系や塩分多めのやつは控えてます」

「なら良い。九州での講演会もあると聞いてたから、別府温泉を貸し切って予約したんだ」


─理由を聞くと、院長は九州での出張として来ており、舞姫と愛さんはその付き添いだった。

─どうやら院長は東北だけでなく、他の地方まで引っ張りだこで、医療チームの応援として出張することもあるのだとか。


「お父さん、朝からフルーツばかりじゃ駄目!」

「なんだ…最近シワが気になるからだ……私ももうアラフィフだからな」

「もう…!ヨーグルトにグラノーラ、あとパンケーキ!」

「舞姫…何かお母さんみたい……ふふっ」

「もう…希望君恥ずかしいよ…」


─久しぶりに見たこの光景。それには俺が見てきた日常だった。

─大の甘党で偏食が凄まじい院長。院長を心配してお世話する舞姫。食べ物を見ては留学先の思い出を話す愛さん。しかし彼らは─笑顔が共通点だった。


「懐かしい〜!留学先でパンケーキにベーコン、ポテトが朝ご飯だったの…!」

「へぇ…大阪のアメリカ村も負けてへんで!」


─嗚呼。これが俺の愛する日常─そして舞姫、なんだと思った。

─ホテルの朝食を食べ終え、荷物整理してホテルを後にし、新幹線に乗った。

─新幹線で一息つくと、院長がこれからの予定について話してきた。


「実はな…私の出張と君達の旅が被ってるんだ。だから……数日ではあるが、宿と飯を共にしてくれないか?」


─どうやら院長の出張と、俺達の旅が被ってるらしい。そして彼に頼まれた──別府温泉で皆で泊まって欲しいことを──。

─勿論俺は承諾した。


「……も、勿論っす。如月も廉命も、良いだろ?」

「当たり前でしょ……」

「勿論やでっ!」

「ありがとう……基本別行動にはなるが、別府温泉で集合して、飯や夜を共にしよう」

「はい」


─隣には舞姫が座っていて、俺達は手を握っていた。小倉に着き、特急に乗り換え別府温泉に向かった。


「舞姫…見て」


─別府温泉に到着した。この時点での時刻は大体十一時半になっていた。昼食もまだだったこともあり、俺達は院長の案内で地獄蒸しを食べることになった。


「地獄蒸しは夕方には店が閉まってしまうからな」

「地獄蒸しって…?」

「別府温泉の蒸気を利用して、食材を蒸す料理のことよ。とても美味しいんだから!」

「豊後牛……ジュるっ」


─店前に着いた。如月や廉命は地獄蒸しについてあまり知らないでいたが、愛さんの説明により、理解したようだった。

─メニュー表に書いてる、豊後牛という文字を見ては涎を垂らす廉命。メニュー表を見てはどれにしようか迷う如月。二人のその顔は、まるで俺が初めて別府に来た時の顔そのものだった。


「希望君。これなら希望君でも食べれそうだから、少し分けるね」

「ありがとう。どうせなら舞姫、食べさせてよ」

「えー…恥ずかしい……」


─昔と変わらない温泉街の風景。

─赤い欄干の橋、川沿いの小道、温泉宿の立ち並ぶ街並み。どこか懐かしく、温かい。

─そして、舞姫といるこの瞬間も、暖かい。


「うわぁ…熱っ!」

「ははは…そうだろう。別府駅前には温泉が出てただろう?」

「確かにおっさんの銅像ありましたよね」

「これが地獄蒸し……院長、凄いところで生まれ育ったんですね」


─久しぶりに見たこの光景。俺がずっと求めてたのはそれだった。舞姫の中学のバスケ部引退記念に院長、愛さん、舞姫、俺という四人で九州に来たこと─そして今は、如月も廉命も一緒なこと─。

─今この瞬間に思った。生きてて良かった─。廉命に命を繋いでもらって良かった、と。


「希望君、あーん」

「あー…ん。めちゃくちゃ美味い!舞姫、あーん」

「ん……美味しい〜!肥後茄子に博多茄子…やっぱり美味しい!希望君といるからより美味し〜!」


─俺と舞姫の左手の薬指にはめられた指輪が、出会ってからの記憶を思い出させてくれた。隣同士に座って食べさせ合う時間は─とても掛け替えのないものだった。


「如月さん……その……豊後牛……あー」

「ええと……んっ!んみゃ〜!」

「(希望さんに便乗したけど……恥ずいっ!)」

「(待てや…うちまた関節キスしたん!うぅ…廉命さん、狡い……っ!)」

「あ、あーん……べ、別に食べさせたいとかや……ないからなっ!多かっただけやねん!」


─どうやら俺が見ないうちに、如月と廉命の関係も進展していた。俺達は地獄蒸しを堪能し、店を出た。


「地獄蒸し美味しかった〜!」

「だな…舞姫とこうして一緒にいられるのが嬉しいよ…俺は」

「私も…お父さん、この後別府温泉戻るの?」

「いや、戻らない。旅館にチェックインしたら自由行動にしないか?」


─旅館に荷物を置き、チェックインを済ませると、院長は行った。自由行動にしないかと─。


「私はお父さんと天神に行くわ…廉命君は夢玖ちゃんと遊んできなさい。舞姫は…」

「私達も博多に行く予定」

「そう。それじゃ、後でLINEで門限教えるから、皆…また後でね」


─門限は後ほど知らされるような形で、俺達は一度解散した。別府駅に行き、まずは大宰府天満宮に向かうのだ。電車でも手を繋ぎあった。


「希望君、着いたよ!大宰府天満宮!」

「そうだな」


─笑顔が見えるだけで、心が落ち着く。

─今日からの九州旅、ただの出張ではなく、舞姫と過ごす特別な時間になることを、改めて感じた。


――――――――――


─電車を降りると、空気が変わった。

─大宰府天満宮の参道は、古い石畳と土産物屋の並ぶ道。梅ヶ枝餅の香ばしい匂いが、ふわりと漂ってくる。


「希望君、ほら、梅ヶ枝餅!」

「懐かしいな……舞姫、あの時もここで食べたよな」

「うん、あの時は受験前で、希望君が緊張してて……私が笑わせようとしたの覚えてる?」

「覚えてるよ。あの時、舞姫がいてくれたから頑張れたんだ」


─参道を歩きながら、舞姫がふと立ち止まる。

─手水舎の水で手を清める仕草が、ゆっくりしていて綺麗だった。


「……お願い事、何にしようかな」

「俺は舞姫の健康と、俺たちの未来がずっと続くこと」

「……希望君、ずるいな。私も同じこと考えてたのに」


─小さな笑顔と一緒に、手を合わせる。

─鈴の音が鳴り、二人の願いが混ざって空に吸い込まれていく。


─お参りの後、参道でお土産を買った。

─夢玖ちゃんには博多明太子、夜海ちゃんには大宰府限定のお菓子、仁愛ちゃんには地酒、凪優ちゃんや空亜ちゃんにはめんべい。

─舞姫が隣で小さくメモを取りながら、あれこれ悩んでいる姿を見ると、それすら愛おしい。


「希望君、こっちの方が夜海ちゃん喜ぶかな?」

「うん、絶対喜ぶよ。舞姫が選んだんだから」


─夕方、博多駅に戻ってきた頃には空が茜色に染まっていた。

─屋台が並び始める川沿いの道を歩く。提灯に灯りがつき始め、街全体が一気に夜の顔に変わっていく。


「希望君、あそこ見て。屋台に"地鶏の炭火焼"って書いてある」

「うわ、絶対うまいじゃん。行こう」

「ねぇ、こっちは“豚骨ラーメン”……どうしよう、食べきれないかも」

「じゃあ半分こしようか。舞姫と一緒なら、何でも美味しく食べられるし」


 カウンターで並んで座り、湯気の立つラーメンをすすった。

─舞姫が髪を耳にかけ、顔を近づけて笑う。

─その笑顔が、福岡の夜景よりも眩しかった。


「希望君、ここのラーメン、すごく濃厚だね」

「舞姫の方が濃厚だよ」

「もう……そういうこと急に言うの反則」

─彼女は笑いながら小さく肘で突いてきたが、その目はどこか嬉しそうだった。


─食べ歩きを終え、川沿いの道を二人で歩く。

─夜風が頬を撫で、遠くにライトアップされた橋が光っている。


「希望君、こうして歩くの、久しぶりだね」

「うん……舞姫と歩く夜道は、どこでも特別になる」

─そう言って、そっと舞姫の手を握った。

─彼女の指が少し震えていた。

─それでも、離そうとはしなかった。


「……私ね、希望君に会えない間、何度も不安になってた」

「俺もだよ。でも、こうしてまた会えた。俺たちの未来は、ちゃんとここにある」


─指輪が街灯に反射し、小さく光った。

─その光が、彼女の瞳の中にも宿っていた。


「希望君……ありがとう。私、頑張れるよ」

「俺の方こそ、舞姫がいるから頑張れる」


─二人で足を止め、見上げた空は、福岡の夜空だった。

─けれどその瞬間、僕には世界で一番の景色に見えた。




……To be continued

閲覧頂きありがとうございました!

コメント、いいね、感想お待ちしております!

次回作もお楽しみに!では。

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