あなただから。
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─休日の午後、私は姉のマンションでコーヒーを飲んでいた。前日の夜から泊まり込み、久しぶりに姉とゆっくり過ごしている。
─スマホが震えた。希望君からのLINEだ。
「原爆ドーム、すごいなぁ……」
─送られてきた写真を姉と一緒に覗き込む。
─そこには、広島風お好み焼きとカキフライを囲む希望君たちの笑顔が写っていた。
「夢玖ちゃん、ちゃんと食べられたのかしら」
「へぇ、広島かぁ……」
─私たちは写真をスクロールしながら、まるでそこに自分もいるみたいな気持ちになる。
─LINEは続く。廉命君が講演会で演説したこと、夢玖ちゃんへの想いを語ったこと──。
─甘酸っぱい報告に、姉は笑いながら言う。
「もう両想い確定ね」
─続けざまに届く写真は、もみじ饅頭や瀬戸内レモンケーキ、神戸プリンに京バーム───父が希望君に頼んだお土産の数々まで写っている。
「お父さん、頼みすぎだよ……希望君達、仕事で行ってるんだから」
「まぁまぁ、あの子たちなら大丈夫だろう」
─髭も剃らずに現れた父が、寝ぼけた声で言う。家ではだらしないのに、病院では誰よりも責任感の強い医師──そんな父のギャップを、私は少し微笑ましく思う。
─父はコーヒーを飲みながら、お小遣いの話をさらっと口にした。
「足りてるか不安だから、後で送金しておこう」
─聞けば、希望君たちが西日本に向かう時に三人に封筒を渡していたらしい。
「……お父さん、それお小遣いだったの?」
「可愛い娘の婚約者たちだ。少しぐらい援助したいじゃないか」
─父のこういうところが、私はやっぱり好きだ。
─そんな話をしていると、スマホがもう一度震えた。希望君からだ。
「台風が近付いてるから、新下関に一泊することになったよ」
─来週には晴れるらしい。父が笑いながら告げた。
「実はな、来週から大分に出張なんだ。四日ほど」
「えっ、お父さん大分に? 私も同行するよう師長から言われてるの」
「せっかくだし、家族で行こうか」
─父と姉と私。久しぶりの家族旅行みたいで、胸が高鳴る。
「懐かしいわねぇ……福岡にも行きたい」
「いいぞ、福岡でうまい飯でも食べよう。あまおうのかき氷、馬肉、地獄蒸し、鹿児島の黒豚……」
「わぁ、私、博多なすと肥後なすが食べたい!」
「相変わらず茄子好きね、舞姫は」
姉の呆れた顔に、私も笑ってしまった。
─父は相変わらず偏食気味だし、姉は博多駅でのショッピング計画を楽しそうに語る。私は心の奥で、希望君に早く会いたい気持ちを隠しきれなくなっていた。
「……ねぇお姉ちゃん」
「なに?」
「希望君に会えるの、すごく楽しみ」
─気づけば目に涙が溜まっていた。慌ててハンカチで拭うが、止まらない。
「よしよし、泣かないの」
姉が肩を抱いてくれる。
─左手の薬指の指輪が、私を落ち着かせた。
─希望君がくれたこの指輪。
─希望君だから、私は今も生きる希望を持てる。
─希望君だから、私は幸せだ。
─冰山駅から東京駅まで新幹線で移動し、東京駅から羽田空港まで電車で移動してきた。飛行機の窓から見える空が青くて、胸がいっぱいになる。
「明日は博多散策かぁ…久しぶりに福岡うどんも食べたいなぁ……希望君も好きだったっけ」
─小さく呟くと、自然に笑みがこぼれた。
──いよいよ、九州で彼に会える。
そのことだけで、胸の奥が温かくなる。
――――――――――
─翌朝、私は窓から差し込む光で目を覚ました。
─山口県のホテルの部屋だ。外を見ると、空は少し曇っているけれど、雨は上がっていた。台風も去ったらしい。
─本来なら福岡行きの便を取ろうとしたが、台風の影響で山口行きの便を代わりに予約したのだ。
「ふわぁ……久しぶりにぐっすり寝れたわぁ…」
─隣で姉も伸びをしている。私の心は、希望君に会える緊張と楽しみでいっぱいだった。
─荷物をまとめ、朝食をとるためにロビーへ向かう。すると、ロビーの向こうに希望君の姿が見えた。
─帽子を斜めに被り、少し眠そうな顔。けれど、私を見るなり、ぱっと笑顔になった。
「舞姫っ!」
「希望君っ!」
─言葉より先に、体が自然に前に出ていた。お互いに抱き合う。
─久しぶりの再会。体温と鼓動が伝わって、胸が高鳴る。
─希望君は照れくさそうに笑いながら、私の手を握った。
「元気だった?」
「うん……会えなくて寂しかったけど、こうして会えて嬉しい」
─小さな声で返すと、希望君はうん、と頷き、肩をぽんと叩く。
─ロビーを出ると、街の匂いが新鮮だった。九州特有の湿った空気に、遠くで鳥の声。
「まずは別府温泉に向かうよ」
「うん、楽しみ!」
─新幹線に乗り込み、窓の外を眺める。間もなく小倉に着くと、特急に乗り換えた。緑が多く、山の稜線が空に溶ける景色。思わずため息が出た。
─車内で希望君が、私にだけ小さな声で囁く。
「舞姫……ずっと会いたかった」
─胸がぎゅっと熱くなる。
「私も……ずっと会いたかった」
─手を握り返すと、自然と笑顔になる。
─やがて別府温泉に着くと、湯けむりが立ち込め、硫黄の香りがふわりと鼻をくすぐる。
「ここだ……舞姫、見て」
─希望君が指差す先には、昔と変わらない温泉街の風景。
─赤い欄干の橋、川沿いの小道、温泉宿の立ち並ぶ街並み。どこか懐かしく、温かい。
─歩きながら、希望君と手をつなぐ。
─お互いの存在を確かめるように、時折小さく笑い合う。
「夜は温泉にゆっくり浸かろう。福岡うどんも楽しみにしてるんだろ?」
「うん……ふふっ、希望君と一緒なら何でも美味しく感じる」
─久しぶりの再会。心も体も、街の空気も、全てが新鮮だった。
─この旅は、ただの出張じゃない──希望君と過ごす、私たちの特別な時間になる。
──今日から始まる、希望君との時間。
─笑顔、温泉、街の匂い、そして恋人との再会が、私たちを待っている。
……To be continued
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次回作もお楽しみに!では。




