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普通を失った俺が、世に希望を与えるまで。  作者: 速府左 めろ
<第二章>地を踏む一歩が、希望な意図となる。〜日本列島出張編〜
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俺の命のワケ

この度は閲覧頂きましてありがとうございます!

『また百点じゃなかったのっ! 日出家の恥よっ!』

『痛いっ! やめてよ……学年一位だったんだよ?』

『黙れっ! この世は百点じゃないと通用しないんだよ。お仕置き、分かってるな?』

『うん……』

『この屑っ! 醜くなればいいのにっ!』


「はっ──!」


─息を詰めたまま、俺は飛び起きた。

─新幹線の窓に、夜の街が点のように流れていく。夢──いや、記憶だ。

─焼けた鉄の匂い、罵声、泣き叫ぶ弟の声、焦げる痛み。いくら忘れたくても、身体が覚えている。


「……夢、か」


─隣を見ると、如月さんがすうすうと寝息を立てていた。

─反対側では希望さんが神戸プリンを頬張りながら、窓の外を眺めている。


「ふふっ。さすがケーキ三大都市の洋菓子店……焼き菓子美味い。あ、神戸プリンも食おう」

「……ねぇ希望さん、一口ちょうだい」

「あ? やだよ。如月から貰えよ」

「だって寝てるじゃん」

「馬鹿野郎、襲え!……俺、舞姫に電話してくるから夜這いでもしとけ!」

「ぶふっ!何言ってんの!?新幹線の中でやめてよっ!」


─くだらないやり取りに救われる。

─けれど笑いながらも、心の奥の痛みは消えなかった。

─"百点じゃないと生きる価値がない"──そう叩き込まれてきた声が、まだ耳の奥に残っている。

─そのとき、肩に柔らかな重みが落ちた。


 「すう……すう……」


─如月さんが、俺の肩に頭を預けて眠っていた。

 かすかに甘い香り。指先が偶然、彼女の手に触れた瞬間──


─心臓が跳ねた。

─ああ、俺はこんなにも、人の温もりに飢えていたのか。


─やがて新幹線が減速し、アナウンスが流れた。


「次は広島、広島──」



─新幹線を降り、広島駅の雑踏を抜けると、街の空気は神戸や京都とは違った、どこかしっとりとした重みを帯びていた。

─荷物を整理し、タクシーでホテルに向かう間、俺の胸の奥には、夢の中の記憶と現実が交錯していた。


「広島か……思った以上に都会だな」

「本当に、こうしていられること自体が奇跡みたいだね」

「明後日が講演会だから、今日はゆっくり飯にしよう」


─ホテルで一息つくと、如月も目を覚ました。

─彼女はぼんやりと窓の外を見ながら言う。


「広島…行ったことなかってん。広島風お好み焼き…気になる」

─俺も同意し、街へ繰り出すことにした。


─平和記念公園を目指す途中、俺たちは道に迷った。

─通りすがりの老人男性に道を尋ねると、驚いたように顔を覗き込み、そしてにっこり笑った。


「ほう、あんちゃんら、どこ行きたいんじゃ?」

「この店です。広島風お好み焼きを…」

「んああ? こりゃ酷い傷じゃな……ああ、そうか。君も被爆者なのかね」

「いや…俺は……」


─事情を簡単に説明すると、老人は頷き、手を差し伸べた。

「わしのカミさんも出るから、ついてきんしゃい」


─辿り着いた店は、昔ながらの趣を残す定食屋。広島風お好み焼き、牡蠣、瀬戸内レモン、尾道ラーメン──地元の味が並んでいた。

─老夫婦は笑顔で迎え入れてくれる。


「長旅で疲れたじゃろう。いっぱい食べんしゃい」

─テーブルに並ぶ料理を目にした如月さんは目を輝かせる。


「あ、あの…広島風お好み焼き、初めてかも」

「ふふ、故郷の味もいいが、他の土地の味も覚えておくといい」


─食事がひと段落した後、老人は静かに語り始めた。


「わしも被爆者じゃ。七十九年前のことじゃ……十歳の頃、家にお袋と妹がおって、親父は戦地に行っとった。学校に通いながら、毎日が普通だと思っとった」


─老人の声は穏やかだが、言葉の一つ一つに重みがあった。

「しかし爆弾が落ち、広島は炎と熱風に包まれた。周りの友達も家族も、多くが失われた」

─小さな爆弾一つが、これほど多くの命を奪うとは、誰も予想できなかった。


「生き残ったわしも、大火傷を負った。川に飛び込む人も多かったが、水は被爆者で満ち、助かることはなかった……お袋も妹も……」


─その話を聞きながら、俺は自然と涙が溢れた。

─悲しみや感動だけではない。犠牲者の命が、今ここに生きる自分や仲間の命に繋がっていることを、痛いほど実感したからだ。


─老夫婦は微笑み、俺の肩をそっと叩く。

「若いのに泣くんじゃのう。嬢ちゃんを守る男にならんと、大変じゃぞ」

─如月も小さく笑い、俺の手を握った。

「よしよし、きいばろうな」


─その夜、ホテルに戻った俺たちは、広島の街の灯を窓越しに眺めながら思った。

─命の重み、過去の痛み、そしてそれを共に生きる仲間の存在──

─この旅は、ただの観光ではなく、自分たちの人生と向き合うための、そして生きる希望を与える旅でもあるのだ、と。



─翌日、俺たちは原爆ドーム前に立っていた。観光ではなく、今回は講演会という使命がある。

─内容はドナーとしての体験と、原爆による命の大切さを伝えるものだ。希望さんが主に話す役割で、俺はパソコンでスライド操作を担当するはずだった。


「…でも、今回は少しお前にも話してほしい」

─希望さんが俺にマイクを渡してきた瞬間、胸が高鳴る。心臓が爆ぜそうだった。


─深呼吸をして立ち上がる。大勢の聴衆が俺を見つめる中、自然と声が出た。


「俺は……過去に辛い経験をしました。学歴至上主義の家庭で、満点を取れないと暴力を受ける毎日。青春らしい青春はほとんどありませんでした」


─胸の奥の痛みを感じながら、しかし次の言葉を続ける。


「でも、僕には命を読み取る才能がありました。そして、希望さんに出会えたことで、生きる理由を見つけたんです」


─希望さんは微笑みながら頷く。俺は勇気を振り絞って続けた。


「そして、如月夢玖と出会いました。彼女がいたから、今の僕があります。誰よりも、彼女のことを大切に思っています」


─会場には静かな空気が流れた。希望さんの言葉も重なり、俺の気持ちは確信に変わる。


「もし俺がいなかったら、希望さんも今の自分に出会えなかったかもしれません。過去の傷は癒えません。でも、彼女がいたから、俺は生きられたんです」


─如月さんが静かに立ち上がり、マイクを握った。

「私たち三人が出会えたから、今こうして全国を巡ることができた。偶然やなく、意図があったんやと思います」

─頬を赤く染めながら、俺たちに向けて力強く語る彼女の声に、会場の空気が一瞬にして柔らかくなる。


─講演が終わり、拍手が響く。俺は深く息をつき、希望さんと如月に微笑む。

「打ち合わせしてたのに、ほとんどアドリブになったな」

「だな…でも、あんたがちゃんと伝えてくれた」

─小さく頷き合い、心の中で誓う──この二人を、絶対に守ると。


─広島での旅を終え、俺たちは博多行きの新幹線に乗った。

─車内で窓の外を眺めながら、俺は思った。


─命の尊さ、過去の痛み、そして出会いの奇跡──

─すべてが、今の自分たちを形作っている。

─そして、まだ見ぬ未来が、俺たちを待っている。


「次は九州だな。しっかり楽しもう」

「ええ、広島の思い出も忘れずに」


─肩を寄せ合いながら、俺たちは窓の向こうの景色に微笑む。

──心の奥で芽生えた小さな恋心も、一緒に連れて──日本列島の旅は、まだ終わらない。






……To be continued


閲覧頂きありがとうございました!

コメント、いいね、感想お待ちしております!

次回作もお楽しみに!では。

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