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普通を失った俺が、世に希望を与えるまで。  作者: 速府左 めろ
<第二章>地を踏む一歩が、希望な意図となる。〜日本列島出張編〜
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重なり

この度は閲覧頂きましてありがとうございます!

「ここが京都…」

「おいでやす〜。にゃんてな」

「金閣寺…嵐山っ!五重の塔………平安京」

「施設にいるんが辛くて、よく施設飛び出して京都や神戸に逃げとった事があったなぁ…」

「お前な……とりあえず、何か食うか?」


─二週間後。俺達はまた関西に来ていた。今日と明日で京都、明後日と明明後日で神戸を回る予定で、俺としてはワクワクしていた。


「あ、修学旅行かな」

「………っ」


─京都駅に着き、駅前を歩いていると、沢山の高校生が街を歩いていたのを見て、如月は一度、表情を失った。

─多分、あそこの一員としていたら、どれだけ楽しかっただろうか─と思ってるだろう。高校生達は皆、修学旅行に全力を注いでる。それは高校時代の思い出の醍醐味と言ってもいいくらいに。


「あれが…修学旅行………っ……私がオッドアイやなかったら……」

「如月さん……」


─その小さな背中を見て俺達は思った。この旅を最高の旅にしようと。俺と廉命は如月の手を引き、嵐山へ連れ回った。もちろん、電車やバスは如月の案内でだが─。


「嵐山……歴史を感じるなぁ…」

「ね……ねぇこれ如月さん好きそうなカフェ…行こうよ」

「二人とも……どないしたん?」


─嵐山の橋を巡り、三人並列で歩く。如月を真ん中に両隣で俺達が歩くみたいに。長い嵐山の橋を文化と涼しい風に囲まれながら歩くのだ。


「後で撮った写真、院長達にも送ろうぜ〜」

「だな。八つ橋何人分あれば……」

「あと京バームもだろ」

「…………?」


─如月が俺達の顔を見ては、前を歩くが─。俺と目が合ったのかテレパシーを送ってきた。今朝からどうしたのだと。その答えは一つだけだった。


「そりゃあ……お前暗い顔してたべ?」

「そうだよ。京都も神戸も、如月さんの故郷の一部でしょ?滅多に来ないんだし、俺達を楽しませてよ」

「……しゃーないな。ほな、行くで」


─そして、嵐山を堪能した俺達は、河原町に訪れた。如月曰くそこは京都の中心部にある繁華街として知られているらしい。河原町はもちろん、四百年の歴史を持つ錦市場や飲食店街の先斗街、祇園祭の舞台として有名な八坂神社、京都最古の寺で襟絵の風神雷神図が有名な建仁寺─。

─俺に夢を見せてくれた如月と、俺の命を繋いでくれた廉命と巡る、日本の様々な文化は新鮮だった。


「ここが京都で最も古い神社か……」

「せや。せっかくやし、お参りでもせえへん?」

「いいな。しようよ」


─そして俺達は八坂神社に来ていて、そこでお参りをした。名古屋で巡った、熱田神宮とはまた違う境内で、境内を通り抜けると小学生ぐらいの女の子が泣いていた。


「うわあああっ!」

「っ!」

「ど…どないしたんやろ……?」

「…………如月」

「にゃっ!わ、私やないですよ……」

「確かに、如月さんにそっくりだ……」

「にゃんでやねん…どこが似と……るわ」

「だろ?」


─俺達は泣いてる女の子に夢中になったのか、俺達は彼女に近付いて観察していた。歳はパッと見小学生という幼い背丈で、色白な肌が艶のある黒髪を、零れる涙が年齢に反するほど澄んだ瞳を引き立たせていた。

─如月は、児童養護施設にいた頃、施設どころか大阪を飛び出してはよく京都や神戸に逃げ込んでたらしい。その泣いてる女の子と、幼い如月の姿が、重なって見えた。

─いや、見えたのは泣いてる女の子の意図だった。この子は、迷子で親とはぐれたのだと読み取れた。


「自分一人で来たん…?親はどないしたん?」

「ヒック……ママとはぐれてん……ぐすっ」

「安心せい。お姉ちゃん達が一緒におるから、ママ来るまで………んにゃ?」


─まずは俺が声を掛けようとしたが、意外に先に声を掛けたのは如月だった。多分、過去の自分と重なったからだろう。しかし、そこで女の子の母親が八坂神社に来たのだ。


「あっ!ごめんやすうちの娘がご迷惑を…」

「ママ〜!」

「もうはよ帰ろか〜?娘を探してくれて……あらっ!あなた、もしかして…生野希望…?」

「はい…。そうですが…」


─その母親が女の子を抱き締めると、俺達にお礼を言った。娘の傍にいてくれてありがとうと。するとすぐにその母親の目線は女の子から俺に移り、目を丸くし、接近してきた。


「やっぱり。凛々しいけど可愛ええなぁ。実は私達、明日の講演会参加するんです」

「そうだったんですか!嬉しいっす!」

「あれ…俺達、空気?」

「はっ!あなた二枚目!ケロイドだらけやけど、二枚目や二枚目っ!」


─が、すぐに廉命や如月にも視線を移し、彼らの容姿を褒めた。二枚目やべっぴんさんと褒めるが、その意味は容姿が優れてるということで、凛々しいっていうのも京都弁でいうイケメンらしい。


「……如月さん、二枚目って?」

「京都弁で言うイケメンや。褒められたら喜ぶんやで」

「まあっ!べっぴんさん……」

「このお姉ちゃんが、私に優しく声掛けてくれてん」

「ほんまおおきに」

「あのね、ママ。私大きなったら、お姉ちゃんみたいになりたい」

「っ」


─暫く親子はじゃれ合うと、女の子は如月の目をまっすぐ見たので、如月もしゃがみ視線を同じ位置にしたと同時に女の子は言った。大きくなったら如月みたいになりたいと。

─その言葉に動揺する如月だったが、その口角は上がり、女の子の頭に手を伸ばし、撫でた。


「……うちな、このオッドアイが原因で、大阪のあいりん地区で両親に捨てられてん…養護施設も転々としとって、施設から飛び出してはよく京都や神戸まで逃げてん。そんで今は縁があって、東北で暮らしとる……そんなうちでもええの?」

「うん…!やってお姉ちゃん、凄く幸せそうやもん…私が大きなったら、また京都に来てくれへん…?」

「うん…。もちろんや。私はこれ以上大きならへんけど、あなたが大きなった時にゃご飯食べよか。お母さん、ええやろ?」

「当たり前や。今日はほんまおおきに。明日の講演会、楽しみにしとります」

「(…私、ほんまは私は幸せなんやろうか…)」


─そして如月は一つ約束をした。この子が大きくなったら、また京都で会う約束を。

─親子と分かれ、腹の虫が鳴った。


「腹減った………」

「せや。すき焼き食べ行こ?」

「あ、関西風のすき焼き食いたいっ!」

「決まりやな。京都はすき焼きの発祥の地とも言うねん。それと宇治抹茶のデザートも食べよか」

「やっぱり東日本と西日本の違いはエグいなぁ…あ、そういえば舞姫から聞いたけど、如月…お前角餅のこと猫みたいに威嚇してたみたいだな」

「威嚇やないで?丸餅やなかったことに驚いただけや。関西のお雑煮は丸餅と決められてん」

「おお〜。とりあえず腹減ったから飯行こうよ」


─そしてその夜は、本場のすき焼きと宇治抹茶を堪能しながら夜を明かした。朝日が顔を出していた先斗町が日本の歴史を引き立たせていた。


「ふわぁ…。あ、見ろよ。舞子さんじゃん」

「ほんまや……生で見るん初めて」

「希望さんが舞子さんの格好しても似合いそうだよね」

「なんでだよ。それなら俺は歌舞伎になるわ」

「もう…今日は講演会やろ?行くで」


─相変わらず人が多く、観光として来た外国人も多かった。少し歩いて目に着いたのは、舞子さんの姿だった。舞子さんは京都の花街と言われる祇園甲部、宮川町、先斗町、上七軒、祇園東にいるらしい。

─白粉を塗り、髪を纏め上げ、着物を羽織っている姿は本物だった。ちなみに後で舞子さんの写真を舞姫に送ったのだが、関心と嫉妬の返信が来ていた。


「舞子さん……ふふっ。本物」

「お、京都を満喫してるみたいだな…八つ橋と京バームを頼んであるんだが…」

「もう……てか、私も舞子さん以上に希望君に夢中なのに…もう」

「私の方が可愛い…か。そりゃそうだべ」

「如月さんは何しても綺麗だよ」

「何言うとるねん…はよ行くで」


─最後に気を付けてねという舞姫からのメッセージを見て、俺達は移動を再開した。

─そして講演会が始まった。この日はシューフィッターの道を歩んだ理由、そしてドナーの体験、人の繋がりの大切さを講演した。


「えー、僕がシューフィッターの道を選んだきっかけ…それは中学二年で入院してた時、隣の患者と仲良くなり、その兄にランニングシューズを勧められたことから始まりました…軽くてクッション性も優れ、白血病で走るのが辛かった僕でも、ランニングシューズがあれば走れた…その時が嬉しかったんです…」

「(………昨日の女の子、どんな気持ちで見とるんやろうか…)」

「この時の余命は二ヶ月…その頃の僕は髪も抜け落ち、体重も10キロ以上減り、呼吸するのも辛いほど抗がん剤治療で体を蝕まれていた…しかし、この…ドナーとなってくれる人がいたから、こうして今…僕はここにいます…」


─やがて講演会が終わり、拍手の雨を浴びたのだが、観客席を見渡すと、昨日の女の子が泣いてるのを見つけた。

─打ち合わせが終わり、会場を出ると、昨日会った親子が俺達を待ってくれた。二人は俺達に駆け寄り、昨日のお礼と今日の感想を話してきた。とても好評で講師として嬉しかったが─意外なことに、この女の子は小学生ながら不登校で学校に馴染めずにいたが、俺達の講演により、変わる決心をしてくれたのだという。それを見た母親が言ったのだ。


「わああああっ!お姉ちゃんっ!可愛いっ!」

「あ、昨日のお母さん」

「今日の講演会めっちゃ良かったです。娘がどうしても行きたいって聞かへんくて連れてきたんですが……私も凄く感動しました。おおきにっ!」

「それは良かったです」

「実はこの子…不登校で学校に馴染めなくて悩んでてん…でも…あなた達のお陰で変わる決心をしてくれて…その……」


─この子に生きる希望をくれて。と。俺の瞳はうるっとしたが、女の子は変わらず如月に夢中だった。


「私な、大きなったら……シューフィッター…?になりたい。この足で…歩き続けたい」

「ふふっ。なれるで」

「ほんまおおきに。それとこれ…娘と一生懸命選びました。私達はこれで…本当にありがとうございました」


─数年後が楽しみだと談笑し、親子から八つ橋を受け取った。色々のお礼としてだ。この後京都駅でお土産も買い、俺達は次の街──神戸と移った。

─光の都とも言われる神戸で待ち受けるのは、俺自身の過去との対面でもあったことを、俺達はまだ知らなかった──。





……To be continued

閲覧頂きありがとうございました!

コメント、いいね、感想お待ちしております!

次回作もお楽しみに!では。

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