雷が落ちたら
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『えいっ!』
『あ、兄貴……もう!』
『ごめんて……』
『僕、ボール取ってくるよ』
─幼少期の夢を見た。それは子どもの時、施設近くの公園で兄とボール遊びしていた時だった。
─兄がボールを交差点付近まで蹴飛ばしてしまい、僕はボールを取りに走る。兄も後を付けるように走るが────
『雷磨っ!危ないっ!』
『え』
─ピーピッ!
「っはぁっ…はぁ……はぁっ!」
「すやぁ……すぴい……」
「……夢、か………目が覚めちゃった…」
─夢の中であの日、車に轢かれる直前に僕は勢い良く飛び起きた。冷や汗が止まらず、心臓もバクバクしていた。どうしても心が落ち着かず、洗顔と歯磨きをした。
「はぁ………兄貴はぐっすり。健康で何より。さて、今は朝の四時半か……勉強でもするか」
─今の時刻は朝の四時半。それ以上寝付くことは不可だと思い、熱いコーヒーを淹れ、分厚い医療の参考書を開いた。
「今日は……脳神経について勉強しよ」
「あとはついでにお買い物も……あ、兄貴のプロテインもうすぐ切れそうだな…ウマゾンで頼んで…」
─元々朝型ではあるが、今日はいつもより早起きだ。ペンを持ち、カリカリとルーズリーフに書き込んでは参考書を読む。集中していると、朝の六時半になっていたので兄貴を叩き起こした。
「兄貴、兄貴……もう朝だよ」
「……すやぁ…あと五分」
「………はぁ」
─何度揺すっても起きない─。いや、この筋肉が硬すぎて反射的な反応が起きないだけなのだろうか。しかしここで怒る僕ではない─兄貴の布団を容赦なく捲り上げた。するとやっと起きた。
「ん……ふわぁ……もう朝?」
「朝。簡単に朝ごはん作ったから、兄貴も顔洗ったきて」
「おはよう雷磨……顔洗ってくる…」
─僕が先に起きて、兄貴はゆっくり起きる。僕ら兄弟の朝は、いつもここから始まる。
「そういえばプロテイン無くなりそう…」
「あ、僕ウマゾンで注文しといたよ。あとトイレットペーパーとかも」
「ありがとう。わざわざウマゾンで買わなくても大丈夫なのに」
「いや、わざわざ買いに行く時間があるなら、ウマゾンで注文してゲームしてたい…」
「もう…あ、てか愛ちゃんとはどうなの?」
「ぶふっ……別に、なんともないよ」
「連絡先交換したんでしょー?なんか進展の一つくらいあるべ」
「本当に、なんも無いから……あ、でも…今度二人でご飯食べに行くことになったんだ」
「へ〜。後で詳しく」
─朝ごはんを食べ終わり、歯磨きと皿洗いを済ませ、大学や仕事までゆっくりする。僕は医大生で兄貴はスポーツ用具店の店長──。最近は初売りの準備で忙しいので、こうして僕が家事をしてる時が多い。
─よく彼から勉強は大丈夫なのかと聞かれるが、問題ない。成績は常にトップで、分からないことは気軽に福吉さんや院長に聞けるから。今日は座学のみだけ─。僕は先に家を出て、医学部に向かった。
「それで…ここの神経は…」
「(愛さんも……こうやって授業するのかな)」
─授業はちょうど今朝勉強していたところだったのでちょうど良かった。ここなら記憶力の異常さとか気にせずに学べる。
─僕は生まれつき、ギフテッドだった。兄貴とは違って、頭脳という優れた才能を持って生まれた。逆に兄貴は、スポーツの才能があり過ぎた。
─高い記憶力と創造力、俗に言う英才タイプというやつで、小中高の成績は常にトップで、今の医大も─首席かつ学費免除で入学できた。
「なぁ盾澤ー。お前彼女いたことあんの?」
「ないです。僕には心に決めた人がいるので」
「ぇぇ?お前、看護学部の間でモテモテなのに?」
「興味無いです。じゃ、僕はこれで」
─ギフテッドというと、発達障害やHSPと同じように生きづらい─生き物らしく生きれないと思うこともある─。僕もそれを自覚しているものの、唯一生き物らしく出来たことがあった。
「(はぁ………愛さん…)」
「ふぅ……愛ちゃん、今日寄るかもだって」
「福吉さん…煙草臭……ほんとですか…!」
「あぁ。てか最近、愛ちゃんよく来るよね…」
「…………と、とにかく………福吉さんは消臭して下さいっ!煙草臭っ!」
─このスポーツ用具店で、僕はアルバイトをしている。少なくとも五年は続けていて、僕が担当するところはメガネコーナー。
─そこではスポーツメガネの販売はもちろん、度数を測ったりもする─。そして上司の福吉さん。彼は今年で二十九歳の、元研修医をしていた。院長の元部下で、今の僕の上司だ。
─医療や眼鏡に関する知識は豊富なものの、頭脳明晰だがヘビースモーカーで煙草が辞められない。責任感が強く抱え込みやすい性格で、その銀髪は生まれつきだが、よくストレスが原因で白くなったとか、煙草の吸い過ぎで髪が白くなったとか誤解される時もある。
─彼とは長い付き合いでもあるので、お互いのことは大体分かる。もちろん、僕の好きな人も──
「あ、愛ちゃん」
「っ!」
「さ〜て、そろそろレジ行くから、ここは任せたぞ」
「ちょっ……ふ、福吉さんっ!」
「………」
─仕事終わりの愛さんが入店し、メガネコーナーへと向かった。たまにここに来る彼女だが、いつもはシューズコーナーに向かうのに、今はメガネコーナーに向かうことが多い。
「雷磨さん……なんか、目の下にクマがあるわよ?ちゃんと寝てる…?」
「いや、あは……寝てますよ……」
「嘘ね。よく見ると薄いクマがあるわ」
「っ」
─愛さんが手を伸ばし、僕の頬に添える。彼女から触れられるなんて初めてで、脳がオーバーヒートしてしまいそうになった。その手は白くて柔らかくて、爪先には彼女の赤茶髪と翠の瞳が映える、夜空のように蒼いネイルが塗られていた。
─瞬きする度に長い睫毛が色っぽく、ドキドキしてしまった。その瞳は、初めて出会った中学二年の頃から変わっていなかった。そう、初めてその瞳を目を合わせた時、僕の心臓に落雷が落ちたかのように、僕は恋に落ちたのだ。
「いやぁ……実は今朝、嫌な夢を見て朝の四時に起きちゃって…」
「嘘でしょ…確か朝型だったものよね…?」
「えぇ。愛さんは……相変わらず綺麗ですね」
「何度も聞いたわよ………もう」
─福吉さんがわざと席を外し、二人きりにさせるのがここの暗黙のルールになっている。暫くそんな日が続き、ついに愛さんと二人で食事に行く日になった──と言っても、居酒屋で飲むぐらいの規模ではあるが、この食事会を機に、何か進展があればいいのだが────。
「愛さん、お待たせしました」
「あ、雷磨さん…隣…失礼する……わね」
「はい。その…目の周り赤いですね…大丈夫ですか?」
─午後九時。アルバイトが終わり、一度帰宅して準備してから愛さんを迎えに行った。今思うと、この人に恋をして正解だったと思う─。
─愛さんが助手席に座り、僕は運転を続ける。彼女が気まずそうにしていたので、僕はある話題を出した。
「如月さんから聞きました……男子生徒からのセクハラ発言に迷惑してるの…」
「……はぁ。あの子ったら……そうなのよ。教師以前の問題よね……夢玖ちゃん達がいなかったら休職してたわ…」
「ふふっ。頑張る愛さんも……可愛いですね」
「もう……」
─暫く談笑し、目的地に到着し、車を停める。目的地というのは予約していたお店で、愛さんの好みは院長から聞いてリサーチしたものだ。ここは男らしく、愛さんをエスコートしながら店に入った。
「ご予約の二名様ですね!席ご案内します」
「ありがとうございます」
「…私の好みかも……っ!」
「(今日の服装も…凄く可愛いなぁ…)」
「こちらでございますっ!カプレーゼでございます」
─店員に案内され、カウンター席に隣同士で座る。仕事で疲れてる愛さんを先に座らせ、僕はその隣に座る。
─そこはイタリアンな居酒屋で、お通しとして、まずはカプレーゼを出された。凄く美味しかったものの、隣でそれを子どもみたいに頬張る愛さんにキュンとしてしまった。
「ん…凄い美味しいわね…肌にも良いし…雷磨さん…センス凄いわね」
「ふふっ…徹夜で調べた甲斐がありました」
「徹夜でって……無理し過ぎよ」
「まあまあ。愛さんもお仕事でお疲れでしょうし、何か頼みましょうか……お酒、飲みます?」
「……私、お酒すっごい弱いのよ」
「へぇ…普段テキパキしてるのに、お酒は凄い弱いんですね……萌えます」
「もう……とりあえず、ノンアルで飲みましょ……私ノンアルのサングリアで」
「僕はジンジャーエールで」
─好きな人と食べるご飯は、予想以上に緊張する。あの時の廉命君と同じように───。
「あ、このポテト美味しいっ!これも…これもっ!」
「誰も取らないし、料理も逃げませんよ。遠慮なく食べて下さいね」
「やだ……太っちゃうでしょ」
「大丈夫ですよ。今夜くらい、遠慮なく食べて下さい」
─暫くして僕と愛さんは、二人きりの時間を満喫した。普段仕事で疲れてる彼女が─美味しいご飯で癒されている姿を見て─ドキドキして、安心した。
「ん……あ、雷磨さん一口どう?」
「……へっ…」
「ほら、食べなさいよ…」
「嘘……愛さん、もしかして…」
「……酔っちゃったみたい…ヒック」
「えっ…ほら、お水飲んで!」
─愛さんが僕にポテトを押し付けてきた。だが、愛さんの色白な肌が少し赤く染まってきて、メ 目も少しとろんとしてるのを見て察した。確かノンアルコールには、微量のアルコールが含まれてることも多く、それにより愛さんは酔ってしまったのだろう。
─彼女に水を飲ませ、落ち着かせる。すると愛さんは─こちらを見て、あることを聞いてきた。
「そういえば……雷磨さんって……ずっと前から私のことを綺麗とか好きとか、言ってくれてるわよね」
「……そりゃあ、一目惚れした女性ですから」
「ふーん?でもいいの?私でいいの?」
「当たり前じゃないですかっ!本気じゃなかったら二人きりになろうとしないですよ」
「へ〜……私、処女じゃないけど…それでもいいの?」
「ぶふっ!」
─私なんかでいいのかと─。そりゃそうだ。僕が一目惚れした女性なんだから。
─確かに、これまで他の女性から告白されることも多かったが全部断った。愛さんを愛してるから。ここ七年くらい、愛さんだけに想いを寄せていたのだから。
─もちろん、愛さんじゃないとダメということを伝えた。しかし予想外の返答が返ってきたのだ。破瓜でもいいかと─。
─確か破瓜は──処女膜が敗れてることを意味する。院長から、愛さんには過去に何人もの彼氏がいたことは聞いていたが─まさか始めても奪われていたなんて───。
「……私ね、過去に何人もの彼氏がいたの。でも皆、私の身体目当て。行為のために付き合わされて、シたら音信不通。それを何度も繰り返してきたの」
「え………」
「ねぇ…本当に私でいいの?」
「………当たり前じゃないですか。歴代の彼氏さんは…愛さんを傷付けた。だから僕が…その分愛さんを幸せにします」
「………っ」
「あえて歴代の彼氏さんのことは聞きません。でも…僕なら愛さんを死ぬほど幸せにしますよ」
「雷磨さん………」
「ふふっ……」
─そして僕達は楽しい時間を過ごし、会計をして店を出た。僕がクレジットカードで支払おうとしたが、愛さんは払わせてといわんばかりだったが、酔いが心配だったので僕が支払った。
「愛さん…言い忘れてましたが、今日すっごい可愛いですね」
「ありがとう…暑いから脱ぐね」
「(か、肩出し……か、可愛い…)」
─車に乗り、愛さんはコートを脱いだ。すると、肩出しの淡いピンクのニットが姿を見せた。
─ニットの素材によってくっきりしたボディラインに露出した首元や鎖骨、肩───甘い香水の香りも合わさってクラクラした。
─が、気を取り直して近くのコンビニへと足を走らせた。
「ふふっ…ノンカフェインのコーヒーでも…」
「愛さん…喜んでもらえて良かったです」
「私こそありがとう。お礼にここは私が持つわ」
「ふふっ。お言葉に甘えて」
─カゴを手に取り、愛さんはノンカフェインのコーヒーやフェイスパック、浮腫取りのビタミンC豊富のドリンクやホットアイマスク、日焼け止め─様々な美容品を手に取る。
─美容品を手に取る彼女を見て、僕の心臓は煩く鳴っていた。
─ここは愛さんが払うらしく、僕も少しずつカゴに物を入れた。僕が入れたものはエナジードリンクやプロテイン、グミだった。
─コンビニを出て、愛さんを家まで送ろうとしていると、コンビニ前で酔っ払いが屯っていた。彼らは愛さんに迫ってきたのだ。
「あ、これ美味しいわよね…肌にも良くて私それよく買うわ。私も買お」
「へ〜。愛さん肌綺麗なのに」
「ふふっ。普段ダイエット中なのに、たまにコンビニスイーツとか買っちゃうわね。まあお父さんの影響かしら」
─コンビニは愛さんが払ってくれ、それぞれ手渡された。コンビニから出たところに─
「あれ?愛じゃね?久しぶり」
「げっ………」
「うわぁ…めちゃくちゃ美人じゃん…なぁ、久しぶりに…」
「俺ら昔付き合ってたもんなー?」
「ひっ………!」
「いやぁ…たまたま俺ら愛のこと探してたら意気投合してよ…だから、久しぶりにヤろうぜ」
「っ!」
─そう─愛さんの、歴代の彼氏が僕らの前に現れたのだ。彼らは僕の存在を無視して愛さんにベタベタ触っていた。が、愛さんは凄く嫌がっていて、今にでも泣き出しそうな雰囲気だった。
─その彼らは、かなりガタイが良く、目つきも悪く─愛さんが怖がっていた。その澄んだ翠の瞳から零れる涙を見て我慢が出来ず、僕は彼らの手を掴んだ。
「やめて下さい。彼女、凄く怯えてますよ」
「んだとこのガキっ!俺の女を庇うなっ!邪魔だっ!」
「うっ!」
「雷磨さんっ!もう…やめて………許してっ!」
「分かればいいんだ分かれば。じゃ今からホテル行くぞ。何発もヤるからな。なんなら、皆で楽しむか?」
「嫌っ!やだっ!」
─が、すぐに僕は吹っ飛ばされ、近くのゴミ箱にぶつかった。愛さんの髪ゴムを取り、彼女の美しい髪が下ろされ、肩を抱く男達。彼女が嫌がってるにも関わらず、彼らはホテルで彼女を───。いや、ここは僕が─彼女を守らないと。その気持ちが、僕に力をくれた。
─何とかみぞおちや弁慶の泣き所を狙ったが、僕の体力じゃ彼らが跪くことはなかった。
─しかし、僕の目付きが変わるのを知ると─なんと彼らは、愛さんを人質にして僕に金銭を要求してきた。彼女を取り押さえ、首にナイフの刃を当てようとしている─。
「久しぶりに楽しもうぜ〜手取り足取り可愛がってや「おい」
「あっ?」
「彼女に………触るな!ここは僕が相手する」
「ガリッガリの癖に……おらっ…はっ!」
「ふんっ!」
「俺らホテルに行く金はねぇからよぉ…金出したら愛を解放してやる!愛に近付くな!」
「や、やめて……」
─それでも僕はひたすら彼らに立ち向かった。殴りに殴られ、気付けば身体の限界を超えていた。愛さんを─好きな人を守れるなら、この身体が壊れたって構わない。何故なら─────僕は煌星愛に出逢う為に産まれてきたっと言っても過言ではないくらいだから。
「おらっ!」
「うっ……クソ……っ!」
「嘘…でしょ………雷磨さん……雷磨さんっ!」
「はぁ……はぁっ!」
「愛…お前こんなガリ勉と付き合ってたのかよ…こりゃ俺らが分からせてやるしかないな…」
「……Fuck you, go to hell!!雷磨さん……助け……」
─途中でメガネのレンズが割れ、少し瞼に刺さり、血が出てしまった。その頃には愛さんの声は震えていて、何度も僕の名を呼んでいた。
─呼吸を整えようとした時に腹部に強くパンチされ、僕はそこで意識を失ってしまった。愛さんは倒れた僕に駆け寄った。
「雷磨さんっ!しっかりして!」
「ほら、さっさとホテル行くぞ」
「やめてっ……あら、パトカー……?」
「警察だ…逮捕するっ!」
「雷磨さん……死んぢゃ……嫌っ!」
─それと同時に雨が降り始め、その雨に打たれながら、愛さんに泣き抱えられながら、僕は意識を失ったのだ。
─しかし、そこである希望が僕らにやってきたのだ。
「全く……無茶しやがって…でも雷磨……お前はよく頑張った。あとは俺達に任せて……おい。よくも俺の弟を瀕死状態にしたな…」
「ふん…仲間が増えた、警察が来たところで変わらねぇっ!」
「ここは…兄である俺が相手する…院長、福吉さんは雷磨をお願い……愛ちゃん…もう大丈夫だから」
「(兄……貴……皆……)」
─最後に見たのは、愛さんの元彼氏達に立ち向かう兄の背中だった。雨に打たれながら、僕は院長と福吉さんに運ばれた。
「ん………」
「起きた…?けほっ!」
「愛……さん?」
「……お父さん……けほっ!雷磨さん起きたわ……けほっ!」
「………やっと起きたか。どうだ?大丈夫か?」
「大丈夫で……す」
「それなら良かったんだが……二人とも、昨晩は夜から雨が降るって知らなかったのか?」
「知ってましたけど……あれはその…」
「まあいい。眼球に異常もないし、骨折もない…だが、何故あんな無茶をしたんだ?」
─目を覚ますと、南北北病院の病室にいた。傍には愛さんも院長もいたので、院長には事情を説明したのだ。
「それは……愛さんを守れるなら、この身体がどうなってもいいと思って」
「そうか……っ」
「あいたっ!」
「まずは娘を守ってくれてありがとう。だが無茶は医師として禁物だ。実は雷磨君が倒れて、愛が男に囲まれてる時、パトカーが来てたと思うんだが、それは私が呼んだ。どうやらあの男達は昔犯罪をしてたらしいな」
「嘘……」
「それに今回の件で暴行罪……全く、男には人一倍気を付けろって言ってただろ…それに風邪も引いて……」
─後で知った話だが、昨晩僕が倒れてる時、院長が呼んでくれたことにより、愛さんを囲んでた元彼達は逮捕されたらしい。
─院長は言葉を続けた。愛娘を助けた感謝と、僕が無茶をした叱りを。
「ごめんなさい」
「まあいい。私は雷磨君に、愛を任せたいんだ。愛もな……もう大人だ。素直になりなさい」
「………分かってるわよ」
「とりあえず、娘を守ってくれてありがとう。どれ、私は診察に行く」
─その二つを話し、診察があると院長室を後にしたことで、愛さんと二人きりになった。何を話していいか分からず、暫く空気が静まった。が、話を切り出したのは─僕だった。何故なら、今から言える気がしたからだ。ずっと好きだったことを。
「愛さん……大丈夫、ですか?」
「それはこっちのセリフ……けほっ!」
「愛さん…あの……その…出会ったあの日から…ずっとずっと、あなたの事が好きでした」
「…ふふっ。知ってるわ」
「僕…兄貴みたいに体力ないし、院長みたいに腕の良い医師なわけでもない……それでも「分かってるわ」
「え?」
「実は私もね…… I want to spend my whole life with you」
「(いや……その…何て?lifeってことは…人生を……いや、聞かなかったことにしよう)」
─昨晩は土砂降りで、雷もゴロゴロ鳴っていた。しかし今の天気は快晴で、まるで雷がなかったかのような青空である。
─雷も雲も一つないその空の下で、僕らは想いを伝え合った。
─ねぇ希望君。あなたと出会えたから、大切な人とも出会えたんですよ。
「……雷磨君、良かったな」
「先生、緊急外来来てます!」
「分かった。すぐ行く」
……To be continued
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次回作もお楽しみに!では。




