祖父の教え
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「ってことがあってさぁ…」
「ほう。それで婚約したと…凄く可愛いおなごじゃなぁ」
「ふふっ。父と希望君がいつもお世話になってます」
「いやぁしかしっ!孫に婚約者とは…死ぬ前にめでたいことがあるとは…」
「じいちゃん…大袈裟だよ。まだまだ生きるんだろ?」
「そうじゃな……ずっと見覚えのあると思ったら、お前が孫なんてな…希望」
─ある日の仕事前。俺は南北北病院のある病室に来ていた。そこには入院中に隣同士だった高齢者がいたのだが、実は数日前に、彼が俺の祖父だと判明したばかりなのだ。これには俺も祖父も驚いた。
「じいちゃんよせよ…」
「お前はまだまだ若いから、沢山歩むと良い。お前の名前は…儂が付けたんだから」
「え」
「いや…ごほん。何でもない……それにしても可愛い娘じゃなぁ…病院でもべっぴんさんだと話題になってる」
「あはは…恥ずかしいですよ」
「本当に、可愛い娘でしょう。お話中すみません…透助さん、検診に来ました」
─祖父は舞姫を見ては美人と褒め、舞姫は照れまくりだったが、院長が彼の診察に来た。ちなみに院長も俺と祖父に血縁関係があると最近知って驚いていた。聴診器を当てながら話し出した。
「いつもどうもない。本当に儂の孫は幸せ者じゃよ……可愛いおなごもいて、沢山の友達もいて…」
「いえ、私の娘も幸せ者です。大事な人もいて、姉や父親の私もいる……それにこの春、看護師の国家試験に合格して、現在は看護師としてここで働いてるんです」
─そう。この春、舞姫は国家試験に合格し、晴れて看護師という夢を叶えたのだ。仕事から帰る彼女を見る度に、痩せてないか、同僚や上長に何かされてないか心配だが、彼女はいつもと変わらない、舞姫だ。そんな彼女が、俺の婚約者で、この先何年も一緒にいてくれるというのだ。
─この名前に由来を感じた瞬間だった。
「本当によく頑張ったと思います。上の子も教員の国家試験に合格した日は、彼も含め、家族で高い焼肉に行ったのを思い出します」
「あそこは美味しかったなぁ」
「そうだ。お前の合格祝いと卒業祝いがまだだったから、今度予約して、また皆で行こう」
「いやぁ…その子の姉も…えらいべっぴんさんじゃし……希望、やりたい放題だな」
「ぶふっ!余計なこと言うなよ」
「……さては反抗期か…?儂の可愛い孫が…」
─八十歳を過ぎてるにも関わらず、こんなに元気とは─。俺はあることが気になり、彼に聞いた。それは、自分の名の由来だった。何故なら、名付けたのが実の親ではなく、祖父だと分かったからだ。少し間があったが、ひと息ついて話した。
「そういえばじいちゃん」
「なした?」
「俺の名前……何で希望なの?」
「……ほう。孫から初めての質問……実は二十年前…お前には兄がいたんだ…でも……お前と同じ病気で亡くなった…だから、そいつの希望であり、皆の希望になって欲しい。じゃから希望なんだ」
「それでゆめって……めちゃくちゃ女の子みたいな名前」
「まあまあ。お前は皆の、儂の生きる希望じゃ。儂はもう長くねぇから、儂とそいつの分まで生きるんじゃぞ」
「…………うん」
「……へぇ。希望君が次男か…意外ですね」
「お前に兄貴がいるなんて、想像がつかないよ…ふぅ」
「また煙草……なんか、じいちゃんが言ってたんだよ。院長も少し分かるみたいだし」
「へぇ……」
─ある日のスポーツ用具店。その日は廉命と如月は休みだが、師茶鍋には商品整理を頼んでいた。俺は売り場を抜け出し、眼鏡コーナーで福吉さんと雷磨と、祖父について話していた。
─こうしてまた働く仲間と雑談が出来るなんて、俺はどれだけ廉命に恩返しをすればいいのやら─。福吉さんの煙草臭さに呆れていると、着けてたインカムで俺を事務所に呼ぶ声がし、俺は事務所に向かった。
「生野、大変だ」
「店長…?なしたんすか?」
「……聞いて驚くかもしれないけどね………ドナーの講演会の講師を、お前にして欲しいって」
「え………」
「日時はこんな感じ…出張として、行って欲しいんだ」
─なんと、ドナーの講演会の講師をして欲しいとのことだった。彼の持つ携帯電話と手が震えていて、桜色の瞳の奥も震えていた。
─最初は当然驚いたが───────
「釜淵さんはどう思う?生野がドナーの講演会の講師やること」
「ちょっ!俺はまだ…」
「講師〜?めちゃくちゃ良いじゃん!思いっきりかましてきなよ!」
「はぁ…?」
「お前は俺達の生きる希望だ。無理にとは言わないから、少し考えて欲しい」
「…ってことがあったんだ」
「それは偉いことなったのう」
「笑い事じゃねぇよ……本当に、俺でいいのかな」
「………何を言ってる…希望、よく聞きなさい」
「え」
─その夜、俺は南北北病院に寄り、祖父の見舞いついでに相談した。すると一度祖父は笑い、ある話をした。
「人間一人では生きられない……誰かの助けが…繋がりが必要じゃ」
「………」
「お前がいたから、舞姫さんは凄く明るくなったし、あの乱暴な男も少しは大人しくなった……そして…儂にも生きる希望をくれた……お前は、皆の希望だ」
「……じいちゃん」
「お前は自分さえ良けりゃ周りには鈍感…気付かないうちに周りを救っている。だから、人前で講演すりゃ…さらに生きる希望が拡大される。これは意図だ…」
「意図…?」
─人間は一人で生きることが不可能なこと、人は誰かとの繋がりがあるから生きていけること、俺が誰かの希望になっていること─だった。
「あぁ。生きたいっていう意図が周りに通じたから、周りは必死になってお前を救った…それは、お前が周りに、生きて欲しいって意図を送ったからだと思うぞ」
「……じいちゃん」
「まあまあ。とりあえず、その繋がった深い意図を、物語を……記憶を、この地から発信するんじゃ」
「……ありがとう。俺、話すよ」
─そして来週、俺は福島大学に向かっていた。そこには俺を待つ七千人弱の学生と、沢山の教授も出席していた。俺は勇気を出して、マイクに向かって主張した。これまでの闘病生活、ドナーとして命を繋いでくれた廉命のこと、予知夢で幾度も危険から救ってくれた如月のこと、骨髄移植を通じての体験───出来る限り全てを話した。マイクの先の先には、廉命も如月もいた。
「初めまして。俺は生野希望と申します。五月一日生まれ、青春の日に生まれました。ちなみに血液型はA型で、今年で二十二歳になります」
「若っ…」
「遠目で分かるくらい肌真っ白……」
「身長低いけど、可愛い〜」
「(俺……可愛いんだ)」
「俺は幼い頃から重度の白血病で入退院を繰り返していました。なので、皆さんのような青春時代を送ることは出来なかった……でもこれだけは覚えて欲しい…」
「もし大切な人…家族や友人、恋人にドナーが必要になれば、皆さんも臓器提供を考えるでしょう。ですが、軽い気持ちでドナー登録はお勧めしません……命を繋いでくれる人がいたから、僕は今、シューフィッターとして働くことが出来ています」
─話すこと二時間ほど。この日の為に、骨髄移植やドナーについてひたすら勉強し、未来ある学生達に、可能な限り全てを話した。話し終え、お辞儀をすると、盛大な拍手が俺を包み込んだ。が、司会をしていた教授があることをマイクに向かって話した。
「えー、生野希望さん。本日はお忙しい中ありがとうございました。えー、この度、当大学の公式YouTubeチャンネルに、彼の講演がライブ配信されております」
─その後のことは覚えていなかったが、無事に講演会を終えられた。スポーツ用具店に戻り、仕事に戻ろうとしたところに、休憩を終えた釜淵が俺に話し掛けてきた。
「お、お疲れ生野。お前の講演凄かったぞ」
「ありがと」
「いやぁ…まさかお前が、全国から講演依頼されるなんてね…店長と福吉さん、電話対応で今大変だよ」
「は……?」
─なんと。今日俺が講師として務めたドナー講演会が全国に広まったことにより、全国の小中学校、高校、大学、幼稚園から講演依頼の連絡が、このスポーツ用具店に殺到してることで、盾澤店長と福吉さんがその問い合わせに対応してたとのことだった。
─気付かなかったが、あのライブ配信にはバッチリ俺の顔と名前が映っていて、瞬く間にネットで話題になってしまった。
「俺…可愛いのか」
「へ〜?生野さん、有名人ですね」
「良いのか悪ぃのか…」
「ふぅ…あ、生野……配信見たぞ。めちゃくちゃ感動した。馬鹿なお前にドナーのこと叩き込むように教えて良かったよ…」
「よせよ福吉さん……ねぇ俺本当に全国回るの?」
「あぁ。それで今、後日本社での話し合いの場も設けたよ」
「え」
─なんと、俺は全国を巡って─この声を届けることになったのだ。皆は喜んでいたが、あまりにも実感が沸かず、俺はまた祖父の見舞いに来ていた。
「はあ…俺本当に全国行っちまうんだ」
「…希望。人生は何が起きるか分からんぞ…若いうちに沢山旅して学びなさい」
「じいちゃんまで……」
「…ほっほっほ。可愛い子には旅させよ、じゃな……どれ、儂の若い時の旅路でも話そうかね。人生の大先輩から聞く話は貴重じゃぞ?」
「マジかよ……」
─後日、本社で話し合いをし、講演─出張の前には院長の診察が必要になり、如月と廉命が付き添うことになった。俺達が抜けたら─と心配していたが、新たに新入社員やアルバイト、パートで埋め合わせをするらしく、我々のことは気にするなと言わんばかりであった。
─そして俺は─俺達は、旅に出る準備を少しづつ始めていったのだ。
……To be continued
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