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普通を失った俺が、世に希望を与えるまで。  作者: 速府左 めろ
<第一章>希望とは。〜集われた意図編〜
37/85

新たな希望を。

この度は閲覧頂きましてありがとうございます!

「ん……朝の八時か…」

「あ、希望君おはよう。夢玖ちゃん、荷造りで疲れてまだまだ寝てるみたい」

「舞姫おはよ…ふわぁ……全くあいつは……言うて隣の部屋に引っ越すだけなのによ」

「まあまあ……まさか本当に廉命君と暮らすことになるとはねぇ…同棲ではない、よね?」

「だな……でも、廉命も大好きな如月と一緒にいれて嬉しいんじゃないか?」


─骨髄移植を受け、二週間が経過した。あれから退院し、少しずつではあるが、元の日常生活には戻れるようになっていた。久しぶりに見る天井、舞姫の姿。彼女は看護師の国家試験を終え、試験前より心に余裕がだいぶ出来ていたようにも見えた。


「そうだね……あ、そうだ。たまには廉命君達呼んでご飯一緒に食べようよ。いいよね?」

「もちろんだ。いやぁ…あれはチャンスだったよなぁ…」

「ねぇ…あ、お化粧しないと!」

「舞姫……もうすぐ卒業式だもんな…」

「うん…早朝から美容室の予約もあるからね」

「それなら俺が送り迎えするよ。写真もいっぱい撮るからな!」

「ふふっ…ありがとう」


─それから数日後、舞姫の大学の卒業式が行われた。朝の六時から冰山市内の美容室で着付やヘアセット、メイクが行われた。成人式の時も、こうして舞姫の着付が終わるまで院長と談笑して待ったことを、思い出す。


「しかし良いのか…希望君…私まで送ってもらって」

「私まで…退院したばかりなのに悪いわ…体は大丈夫なの?」

「大丈夫です。院長と皆さんに命を助けてもらたんです…これくらい平気っす」

「舞姫〜。起きなさい…朝よ」

「ん……ふわぁ」

「昨日遅くまで看護の勉強してたからだな…とりあえず、もう少しで着くから起きなよ」


─助手席に舞姫、後ろの座席に院長と愛さんが座り、そして─俺が運転している。二人は退院したばかりにも関わらず、運転しても大丈夫なのか心配そうに聞くが、院長や皆に命を助けてもらった事に対する礼としてまだまだなので、俺が運転し、舞姫の送り迎えをした。着付けの会場に着き、舞姫が戻ってくるのを、俺達は待っていた。そして二時間後────舞姫は現れた。


「煌星舞姫さんのお父さんとお姉さん、お待たせ致しました!舞姫さんめちゃくちゃ可愛く仕上がってます!」

「ありがとう…お、舞姫……凄く綺麗だぞ!流石私の娘っ!」

「うわぁ!舞姫、すっごく可愛いー!流石私の妹ーっ!」

「………」

「お父さん、お姉ちゃん…近過ぎ…って希望君」


─この時の舞姫は、誰よりも綺麗だった。でも─あまりの可愛さに耐えられず、俺は鼻血を出してしまった。

─上は紫の生地に映える向日葵の柄が彼女らしさを引き立たせ、下の袴は彼女の瞳と同じ翠だった。普段玉ねぎヘアに纏められてる栗色の髪は下ろされ、三つ編みのハーフアップにされていた。

─彼女の澄んだ翠と、長い睫毛とくっきりとした二重幅を引き立たせる化粧と、うるっとした口紅が塗られ、彼女自身の儚さと美しさを引き立たせていた。

─誰よりも綺麗だったし、周りの人々も舞姫を見て驚いていたのだが─一つだけ気になったところがあった。


「あれ…?そういえば胸潰しは…?」

「分かった。胸が大き過ぎて、胸の潰しようが無かったんだわ…しかも胸が帯に乗っかってて…なんか…その……」

「だな…でも、綺麗なことに変わりはない………舞姫、大学卒業おめでとう」

「まだ早いよ……ありがとう」


─そして前撮りも済ませ、舞姫の大学の卒業式が終わると、そのままマンションへと帰った。部屋に入ると如月と廉命がいた。


「あ、もしかして…合鍵か…」

「舞姫さん、大学卒業おめでとうございます」

「ありがとう。いやあ…廉命君も春から大学生か…」

「にゃーっ!愛先生…また会えるなんて」

「ふふっ。先週も会ったでしょ…出会った当初を思い出すわね…最初は野良猫のように警戒心が強くて大変だったのよ?」

『夢玖ちゃーん。このプリント、教室に持っていってくれるー?』

『ふーっ!』

『……ほらほら、猫じゃらしよ』

『ふしゃっ!』

『痛…引っ掻かれた……もう』

「本当に如月がすみません………如月、お前はもう警戒心を出し過ぎない方がいいぞ」

「まあまあ…とりあえず、夢玖ちゃんも高校卒業おめでとう」


─二人も、舞姫の大学卒業を祝いに来たようだった。ちなみにだが、この春から廉命と如月は同じ部屋で暮らすようになった。言うて隣同士ではあるが、もしもの時に、俺達の部屋の鍵を如月に持たせてあるのだ。


「ありがとうっ!手作りのアルバムねぇ…ふふっ嬉しい」

「舞姫さんめちゃくちゃ可愛ええやんかっ!元から美人やけど…あれ?なんか…更にたわわになっとる…」

「もう…どう?廉命君と暮らすようになってから…怖くない?」

「日出君は嬉しくないはずなかろう…だって…尻尾を、ブンブン振ってるからな」

「わんっ!そ、それは…如月さんが……その…」

「早く告れよなぁ…写真も撮ったことだし…飯、飯行こうぜ。なんか、院長がいい感じの店を予約したみたい。皆で行こうぜ」


─皆で写真を撮り、舞姫が振袖を脱いで皆で寛いだ後、俺達は院長が予約してくれた店へと足を運んだ。


「予約してた煌星です」

「煌星様ですね〜!お待ちしておりました!娘さん、大学卒業おめでとうございます!しかも姉妹揃ってとても美人さんで」

「うわぁモデルさんか何か…?目もぱっちりしてて髪もサラサラ…肌も白くてスタイル抜群で…何よりも凄くいい匂いがする…」

「そういえば、鎖骨に刺青入れてたあの子も凄く綺麗だったなぁ…後で連絡先交換しようかな」

「とりあえず、席にご案内致しますねぇ!」


─そこは冰山駅前にある、イタリアンなバーで、加堂さんも盾澤兄弟も、釜淵も師茶鍋も、夜海も仁愛も凪優も座っていた。雷磨と加堂さんがからかい合っていた。


「よ、舞姫ちゃん。大学卒業おめでとう」

「ありがとうございます」

「わあ…愛さん凄く綺麗……いえ、舞姫さん、大学卒業おめでとうございます」

「おいおい…下心丸出しだぞ…舞姫ちゃん、大学卒業おめでとう。これからもこのバカをよろしくな」

「あっ!誰が馬鹿だと!」

「ふー……お前以外に誰がいるんだ……舞姫ちゃん、大学卒業おめでとう」


─俺達が席に着くと、皆が舞姫に向かっておめでとうと祝い、その言葉だけで盛り上がった。


「とりあえず何か飲むか?」

「俺ミルクティーで、舞姫はどうする?」

「私はサングリアかな」

「私はビール…愛はどうする?」

「私はトニックウォーターにするわ。夢玖ちゃんと廉命君は…?」

「私もトニックウォーターでお願いします」

「俺はカシスソーダで」


─俺達も飲み物を注文し、それらが卓に着くと、院長が改めてこの場を仕切った。


「改めて、舞姫…大学卒業おめでとう」

「ありがとう……皆…私の為に…集まってくれて」

「まあまあ。今日は舞姫の大学卒業祝いの他に、もう一つあるんだ」

「え?」


─どうやら、この飲み会の主役は舞姫だけではなかったらしい。院長が近くの店員に声を掛け、店長や雷磨、釜淵や加堂さんは皆、同じことを思っていた。


「あー、あれか…」

「え?」

「あれですね」

「え?えっ?」

「まあまあ……とりあえず、福吉君。頼んだ」


─勢いよく喫煙所から福吉さんが登場し、俺に向かってクラッカーを鳴らした。それと同時に、煙も舞い、一時的に落ち着くと、俺の目の前には、チョコレートのケーキが置かれていた。花火が散る蝋燭も刺されており、飾られてたチョコレートのプレートにはこう書いてあった。お帰りと。俺はそれで涙を流してしまった。


「皆…んなっ!ぐすっ……ありがとう…っ!」

「改めて、生野…お帰り。よく頑張ったな」

「店長……」

「流石、僕らの生きる希望ですね…これでまた、一緒にゲーム出来ますね」

「雷ちゃん…」

「聞いて驚け。実はこれ、舞姫が作ったんだ」


─なんと、このチョコレートケーキは舞姫が作ったというものだった。あれだけお菓子作りが壊滅的に苦手だった彼女が、俺一人の為に作ったらしい。

─しかも看護師の国試対策で忙しかったにも関わらず、勉強の合間に何度もその試作をしていたそうであった。


「大変だったよねぇ…でも楽しかった!」

「初めて皆で作った時、全部黒焦げにしちゃったり、舞姫さんの好きな茄子を入れようとしてたよねぇ……夢玖ちゃんはカシス入れようか悩んでたし」

「にゃ……あれはその……カシス入れた方がええと思ったからやで…もう…恥ずかしいこと言わんといて」

「夢玖照れてる…可愛い」

「結婚しよ(如月さん…)」

「廉命、逆」


─その思い出話に花を咲かせた頃に、俺は一口分、フォークをケーキに刺した。しっとりとした生地に安心感を覚えた後、口に入れた。俺の知ってる、舞姫の作るお菓子はどれも美味しいとは言えず、お菓子とも認知するにも難しいくらいだった。でもその分─想いが籠ってるのは伝わっていた。

─ケーキを一口食べる俺を、舞姫は隣から見ていた。胸の前で手を抑え、緊張していた。恐る恐る彼女は聞いてきた。しかし答えは一つ。美味しかった。


「美味……舞姫、美味いよ」

「良かった……ぐすっ!」

「ほらほら泣かない。希望君の好きなキウイのジャムも、舞姫が手作りしたのよ。この子ったら、それほどあなたのことを愛してるのね」

「舞姫…お前も大人になったな…ヒック!お父さんは嬉しいぞっ!」

「やめてよお父さん…私はもうとっくに大人だよ」


─しっとりとした生地の中には、何か甘酸っぱい何かが入っていた。舞姫に聞くと、キウイのジャムだった。キウイは俺の好物の一つで、チョコレートとも相性が良い。今まで持病で避けていたケーキが食べられたこと、お菓子作りが壊滅的な舞姫が、国試対策の合間に何度も試作して、こうして今俺がそれを食べられていること、舞姫の俺に対する想いが予想以上に強かったこと──ケーキを食べ進め、皿が空いた頃には涙が零れていた。


「泣くなよ…全くお前は……いつまで経ってもクソガキだな」

「俺達も試食に付き合ってたよねぇ…舞姫ちゃん、これからも生野をよろしくね」

「ふふっ…はいっ!」

「きっと…こうして予想もしないサプライズで、涙が凄いことになってるんでしょうね」

「おら泣くな…らしくない。きめぇ」

「ぐす…だって……」

「ちょっ…俺の服で拭くな汚ぇっ!」

「ほら、写真撮りますよ〜!」


─この夜、俺はついうっかりと舞姫に言ってしまった。


「希望君…落ち着いた?」

「ぐすっ……舞姫ぃ…結婚しようよ〜」


─この一言に、周りは一瞬凍り付いた。勢いで発言してしまい、沈黙が続いた。が、舞姫はそれでも───受け入れてくれた。


「…………」

「うん。私、希望君がまた病気になっても、もし死んぢゃっても…ずっと希望君の傍にいるよ。もちろん…よろしくお願いします」

「……うんっ!」

「うぉぉっ!良かったじゃんっ!」

「舞姫…幸せになんなさいよ…ぐすっ!」

「希望君…これからも…舞姫を……娘を頼むぞ」

「はい…義父さん……よろしくお願いします」

「ははは…まさか君にお義父さんと呼ばれる日が来るなんてな…」

「……これからも一緒に、どんな未来でも歩んでいこうね」


─この夜、俺と舞姫の関係は恋人から婚約者へと前進し、皆が盛大に拍手や涙で祝ってくれた。

─それと同時に──愛さんは義妹に、そして如月は義妹、そして院長は────義父になった。


「あ、また福吉さん喫煙所行って…ちょっと福吉さん」

「鳳斗…ニコチン切れなんだ」

「もう…福吉さんダメじゃないですか…ふふ」

「……舞姫さんが…お嫁さん…綺麗やろうなぁ…」

「………如月さんも、絶対綺麗になるよ」

「廉命君、いつになったら告白するの?」

「愛さん…今日はいつもと雰囲気違って綺麗ですね」

「雷磨さんったら…もう…」


─俺との婚約を結んでくれた。結婚を示す水引きは結び切りで、それは俺達の関係もそれだった。あの病院で出会ったから、あの時舞姫と出会ったから、今がある。どうやら俺という意図を通じて、他の恋も始まっていたらしい。


「いらっしゃいませー!」

「生野。ちょっと電話が入ってるんだけど…」

「まじすか?出ますっ!(俺は生き延びた意味を、これから証明していくんだ…てか最近、鳳兄が妙に俺に電話しようとしてたけど…)」


─退院してから数日後、俺はまたスポーツ用具店で働けるようになった。しかしある一本の電話を機に、俺が日本列島縦しに行くことは───まだ誰も知らない。この意図を─どこへ届けようか。





……To be continued






――――――――――


【お知らせ】

今話にて、第一期(以下、集われた意図編)が終了致しました。

ご愛読頂いた皆様、ありがとうございました。


次回からは第二期(以下、日本列島出張編)がスタート致しますので、是非読んで頂けますと幸いです!


今後も当作、『普通を失った俺が、世に希望を与えるまで。』をよろしくお願い致します。




原作者 : 速府左めろ

閲覧頂きありがとうございました!

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次回作もお楽しみに!では。

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