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普通を失った俺が、世に希望を与えるまで。  作者: 速府左 めろ
<第一章>希望とは。〜集われた意図編〜
36/85

それぞれを繋いで

この度は閲覧頂きましてありがとうございます!

「という感じなんだけど、質問ある?」

「………えっと…その…」


─骨髄移植の為、コーディネーターの原市さんから説明を受け終えた後に、彼の方から質問があるかを聞いていた。廉命が俺の為のドナーとして適合したと分かって二週間が過ぎた。俺は、一つ質問をした。


「……骨髄移植すると、俺の性格が変わるって…本当っすか?」

「まあ血液型は変わるけどね、性格変化は必ずあるわけでもないからね…人によるのかな」


─ 骨髄移植は、HLAを一致させれば、血液型が異なるドナーから移植することが可能であり、そのため、ドナーの血液型が移植された患者に移行し、血液型が変わることがあるらしい。

─が、性格変化は人によるのだとか。だとしても─俺にはその可能性が辛くなった。


「………まじか」

「…希望さん?なした?」

「…だって、廉命の性格の一部が俺自身の一部になるんだぞ…?もしかしたら、舞姫が俺のこと嫌いになっちまうって…ぐすっ!」

「ま、まぁ…血液型が変わるのをよく聞くだけで、実際は分からないんだ」

「………希望さん。別に希望さんは希望さんでしょ…てか「生野さんは生野さんですよ。性格が変わってもあなたはあなたです」


─廉命の言葉が誰かによって打ち消されながら、ある女性が登場した。

─師茶鍋だった。実習着を着た彼女が無菌室前に現れ、こちらに駆け寄った。しかし原市さんは彼女に顔を赤く染めていた。


「あ、ああ……お友達?」

「いえ…バイト仲間です。師茶鍋っていいます」

「僕は骨髄移植のコーディネーターしてる原市。もしかしたら君も、この大柄な彼がこの子のドナーになることを分かってるんだね」

「えぇ。私達は彼と適合しなかった…だから、この廉命さんが…生野さんの命を繋いでくれると願ってます」

「そうかい。生野君、君は皆に愛されてるね。僕も彼女を「希望君っ!」


─原市の師茶鍋に対し好意ある言葉が俺を呼ぶ誰かの声が打ち消された。声の方向を見てみると、息を切らした美しい女性がこちらに近付いてきた。腰まで伸ばした、凄く見覚えのある綺麗な栗色の玉ねぎヘア、遠目からでも分かる豊満な胸元、ひたすら俺だけを見つめる、翠の瞳。それらの存在が─俺の心に再び火を付けた。


「舞姫…なんで」

「………本当は来ないつもりだったの…でも、どうしても伝えたいことがあって…伝えなきゃって思ったから……」

「……伝えたい、こと?」

「あのね……ずっと前から言おうとしてたことなの……出会った時から…」

「そんなにか?」

「うん…希望君」


─ありがとう。涙を流しながら舞姫はそう言った。無菌室の壁越しに伝わり、俺は涙が溢れてしまった。その涙の理由は、俺の病のせいで舞姫に沢山の迷惑と─恋人と過ごす"普通"を実感させてあげなかった後悔とここまで弱った俺を、どんな俺でも好きでいてくれた感謝だろうか。


「ぐすっ……希望君。生まれてきてくれてありがとう」


─その言葉に、心が弾けた。育ての親にも言われたことがない言葉だったから─。今まで生きてきた中で、その言葉が一番嬉しかったから。涙が止まると、舞姫は後ろの陰に目を向けた。それによりぞろぞろと人が出てきた。それらは─大切な仲間達だった。


「おい!ここまで弱くなりやがって…まあ元々弱いか……生きてまた喧嘩しようぜ」

「またまた……生野。俺達が生きる理由はお前にある…廉命なら大丈夫だから。お前がまた戻ってきたら禁煙も考えるよ」

「福吉さん…もう。生野、退院したら釣りしよう!そして皆でバーベキューだっ!とにかく、元気になってこいよ」

「希望君…僕はずっと、あなたを尊敬してました…だから、生きて戻ってきて下さいね」


─加堂さんに福吉さん、雷磨に釜淵─その他にも──俺に言葉を掛けてくれた。


「生野…お前がいるから俺達は希望を取り戻せたんだ。お前がどんなになっても、俺達は自分の人生掛けて、お前に寄り添うよ。廉命、俺達の分も任せたよ」

「生野さん…あの時、私に生きる希望をくれた…だから今がある。廉命君、私達の恩返しのタイミングが来て、良かったね」

「店長に夜海ちゃん…」

「……虐められて辛かった時、ひたすら話を聞いて、いつも私を笑わせてくれた…そんな生野さんに…ずっとついていきます」

「生野さん、仁愛の刺青を受け入れてくれて…ありがとうございます……生野さんに出会ってから毎日が楽しくなりました…もし戻ってきたら、恋愛相談でも乗って下さい」

「…あなたがいたから妹は…舞姫はここまで元気になった。お父さんも明るくなった……私達の恩も…返させて頂くわ…廉命君なら、大丈夫よ」

「凪優ちゃんに仁愛ちゃん、愛さん…」


─それぞれの言葉が千切り掛けた心を繋いでくれているような気がした。まるで、何かしらの糸が心臓を縫うように─皆の意図が、何処か空いた俺の心を縫って塞ぐように───。

─如月もオッドアイの色を変え、言葉を掛ける。


「……あの日のこと、ずっと忘れてへん。見つけてくれて…私を拾ってくれて…生きる希望をくれて…ありがとうございます。生野さんは私の…恩人や」

「……はぁ。あんたは皆に愛されてるじゃん…まぁ、希望さんがいてくれたから好きな人も出来たし、沢山思い出も出来た。言葉では感謝し切れないくらい……お陰でこの名前の由来も分かった…俺は…あんたの命を繋ぐ為に、生まれてきたんだな…ふふっ」


─それからの記憶はないが、俺は夢の中にずっといた。麻酔で眠っている思考と、体内に何か注入されてる感覚にだけ体に集中させ、それぞれの言葉をもう一度思い出した。


『生野っ!』

『よ、生野』

『希望君』

『生野』

『生野さんっ!』

『希望君』

『希望さんっ!』

『………希望君』

「……ん」


─あれからどれくらい眠ったのだろうか。目を覚ますと既に朝になっていて、俺はベッドで上半身を起こし、欠伸をした。

─少なくとも三日は寝てたと思う─。今までは、体の痛みと幼少期から積み重ねられた、死の恐怖で眠れなかったからだろう。病室のドアの方向に目線をやると、愛さんが現れた。


「………っ。希望君?」

「……愛さん」

「ちょっと待って!舞姫っ!お父さんっ!」

「あ、ちょっと」


─彼女は俺の顔を見た瞬間、病室を後にし、舞姫

や院長を呼んできた。当然二人も目を丸くし、舞姫に関してはすぐに駆け寄り、俺を抱き締めてくれた。その鳴き声から分かる優しさと、豊満な胸に顔が埋もれてる感覚が俺の脳内を白くさせた。

─ほんのりミントのような清涼感のある甘い匂い、彼女の手から伝わる優しさ─それらが心地良かった───のだが──ある言葉を伝えそびれていた。


「こら舞姫…希望君が苦しそうだ」

「わっ!ごめん」

「……ぷはぁ………舞姫、愛さん…院長……」


─舞姫が腕を解放させると、俺は言わなきゃいけない言葉を放った。

─ただいま、と。何回も自然に言った言葉ではあるが、そのただいまには深い意味を感じた。

─舞姫や愛さん、院長は涙を流し、お帰りと返した。


「心配だったんだから……一週間目を覚まさなかったんだよ…ひっく」

「え……一週間…そんなに?」

「…希望君が移植されたのは先週の金曜日…そして、翌週の今日も、金曜日だ。ちなみにだが、日出君は後遺症もなくピンピンしてるぞ」

「………廉命君が、移植を気に夢玖ちゃんに告白するとかって……あの後鳳斗さんや加堂さんや釜淵さんから弄られてたわねぇ…」

「空亜ちゃんも夜海ちゃんも凪優ちゃんも…ふふっ。皆笑ってたね」

「とりあえず、希望君は様子見で二ヶ月ぐらい入院だな」


─その後は近況報告となった。俺の骨髄移植に手を貸してくれた廉命は、後遺症もなく日常生活を送れているそうで、俺はその事で思い出した。が、院長はそのことを察したようで、ある話をした。


「如月君達が大学生になった頃には退院する感じにはなると思う。希望君…本当に辛い思いをさせてしまったな…でも、彼の骨髄が君を救ったことに変わりはない」

「院長…俺のために「おら生野っ!」

「は………加堂さんに店長…雷ちゃんに福吉さん…師茶鍋に釜淵まで…」

「生野が骨髄移植を受けて一週間経っても目覚めないとか…ついに今日目を覚ましたとかって院長から聞いて……仕事を終えて皆で来たんだ。生野…お帰り」

「………私達もいますよ!生野さん、お帰りなさい」


─ずっと辛い思いをさせてしまったと─。それは俺の方で、院長は赤の他人である俺に─何千時間も掛け、時には俺の治療で体を壊しながらひたすら完治というゴール地点に、俺を連れていこうとしてくれた。改めて感謝の言葉を伝えようとすると、病室のドアが勢いよく開いた。その向こうには、移植前に見たメンバーだった。


「改めて希望君……お帰りなさい」

「希望さん…その、お帰りっす………体、どうすか?」

「ただいま。そりゃあ…長い夢見てたら一週間くらい目を覚まさなかったらしいな、俺。でも体は大丈夫だよ……その…廉命……ありがとう」

「……それはそっちの台詞っす…俺の方こそ…如月さんを見つけてくれて、ありがとう…ございます」


─一人ズケズケと加堂さんが入ってきたが、その前に廉命が俺のベッド付近近くに現れた。お互いありがとうと言葉を掛け合い、俺達は涙を流した。


「日出君もよく頑張ったな……移植の時はどうなるかと思ったが、どうだ?注射は克服出来たか?」

「ぐるるるるる……わんっ!注射……大っ嫌いっ!」

「まるで…散歩のはずが病院だと察した犬みたいだ……」

「拒否柴……」

「生野さん…この恩、忘れませへん…ほんまにありがとう」


─気付けば夜になっていて、この夜はお互いありがとうとオウム返しをしていた。余談だが、その時に漂った、舞姫の香りの正体は─ハーデンベルギアという花だったらしい。その花言葉は、幸せが舞い込む、出会えて良かった、らしい。

─退院しても、また病が再発しても、俺はその言葉を─この大切な仲間に、舞姫にそっくりそのまま返し続けるだろう。





……To be continued

閲覧頂きありがとうございました!

コメント、いいね、感想お待ちしております!

次回作もお楽しみに!では。

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