名の由来
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「……あの子が助かるには…もうこれしかない」
「…移殖。つまりそれは…」
「あぁ。ドナーとなる人物を探すことだな」
─これは霜月に入る前の話。
─夜の院長室にて、俺と加堂さん、釜淵さんに福吉さん、盾澤兄弟、師茶鍋さん─そして院長がいた。希望さんの余命はあと五ヶ月もなく、俺達は行き詰まってはいたが、院長が渋々口に出した言葉が──俺達の意図を蘇らせた。
「ドナーって…そんな簡単に見つけられないです…よね?」
「あぁ。師茶鍋君の言う通りだ……しかし、もう迷ってる時間はないんだ。最後まで足掻いてでも彼を救う。それだけだ」
「…………臓器、眼球を提供する…のか」
「……そうだ。組織適合性が重要で、適合しないと移植を受ける患者に拒絶反応が起きてしまうんだ」
「それはどうやって分かるんですか?」
「健康状態を評価して、希望君と適合してるかを調べるんだ。血液検査や尿検査、心電図やレントゲンなど検査してだな」
「………っ」
─俺達に残された、希望さんを救える唯一の方法─。それはドナー─つまり移植を意味する。彼の白血病は、末梢血幹細胞の方で、白血球を増やす薬を投与し、血液から造血細胞を採取する方法が適しているらしい。しかもここにいるメンバーは皆───二十歳以上で、年齢にも条件がある。だが───
「まずはドナー登録から始まる。十五分は掛かるが、適合具合が分かるには二ヶ月から四ヶ月も掛かるんだ」
「……骨髄採取の際も……痛みなどの後遺症が残るのか…もしもの場合、師茶鍋ちゃんは控えた方がいいかもしれないすね」
「そうだな…女性特有の後遺症もあるからな……とりあえず、ドナー登録をして、色々検査してみよう。私も登録する」
「………院長、珍しくリーダーシップ取ってますね……やっぱり愛さんのそういうとこも似てますね。親子ってすごい」
「だろう?舞姫も愛も…立派に育ったものだ」
─そしてそれからドナー登録から検査に移り、数ヶ月に渡り、俺達はその結果を待った。しかし、この中で希望さんと適合する人はおらず─唯一適合したのは───俺だった。適合通知を院長に見せに病院に来た時だった。
「院長っ!俺…適合してました!これで希望さんを助けられるっ!」
「ホントか…良かった。日出君…私達の分も…よろしく頼む」
「……はい」
─この頃の希望さんの余命は残り三ヶ月弱で、俺達は骨髄移植のために準備を進めていった。
「………院長から聞いたんだけどさ、俺の為にドナーになってくれる人がいたって」
「あ、あぁ……適合したみたいで良かった」
「なんか腰に針刺して骨髄採取するんだってよ。痛そうだよなぁ」
「うん……しかも採取する前に入院もするらしいからね」
「…やけに詳しいね?廉命らしくないぞ」
─俺の余命は残り三ヶ月程度。その頃には色白な肌に青みを帯びていて、頬もかなり痩けていて、何よりも髪の毛が抜け落ち、隠すことが必死になっていた。今の廉命が見るその紅い瞳には…今の俺が映っていた。
「………いや。院長から聞いた話だから」
「……そっか」
「…生野さん……その…」
「如月。最後にお前を救えて良かった…ふふっ。だから泣くな。胸を張れ」
「ぐすッ……ヒックっ」
「(……やっぱり、如月にとって…この余命は辛過ぎるよな…ごめんな)」
「(クソ…っ!本当はお前らの未来を守りたいのに…)」
─無菌室の透明な壁越しに、如月と廉命の悲しそうな顔が見える。直接触れたくても触れられない。如月に関してはそのオッドアイの碧と橙から大粒の涙をボロボロ零していた。
─廉命が言うには、俺の為にドナーとなる人物を探しているそうで、ドナーに関する知識はあった。俺を救ってくれる者は───誰か。俺はひたすら涙を零す彼らを、見ることしか出来ずにいた。
「…………やっぱ生野さんおらへんと違和感ある」
「うん…いつもなら気さくでよく加堂さんや福吉さんに弄られて、うちらはそれで面白くて笑ってたよね……でももう…」
「あー、それなんだけど……実は…俺がドナーになったんだ」
「「えっ」」
─ある日のスポーツ用具店にて。後方で希望さんについて話す如月さんと凪優を見て、つい隠してたことを打ち明けてしまった。当然二人は驚き、問い詰めてきた。
「嘘…やろ」
「……なんで私達に内緒で……?」
「……まず、ドナーになる条件としてはだな…二十歳以上にならないとダメなんだよ。その時点で如月と凪優ちゃんは対象外だ…ふぅ」
「福吉さん……希望さんの見舞い行く時、無菌室の前で喫煙してないですよね?」
「当たり前だろ…副流煙で生野に何かあったら危ないだろ……それより、院長が明日お前と話がしたいって言ってたぞ」
─まずは二人にドナーの登録条件を話した。まずは二十歳以上で健康であることだ。後者の条件は揃ってはいるが、まだ二十歳になってない二人は─ドナーの登録条件の対象外となる。
─それに──非血縁者との適合率は─数百から数万分の一とも言われている。院長曰く、HLAは、兄弟間なら三十パーセントほどと言われてるが、親子だとまれにしか一致はしないらしい。
─そう説明しても、二人の頭にはひたすらはてなマークを浮かべている。そこで喫煙室から出て、煙草を手に持った福吉さんが現れた。
「院長…から?」
「多分、入院の説明とか、コーディネーターとかの話だと思うぞ」
「コーディ……ネーター?」
「ふぅ……あぁ。臓器提供による説明や意志確認役割を担う人の事だ。臓器提供の際には健康診断も必須で、そのカルテがそいつに送られるんだ」
「…………廉命さん。本当にドナーになるんだ」
「そうだよ。ドナーに選ばれなかった俺達の分まで…頼むよ。てか福吉さん、臓器提供の後遺症ってあるんすか?」
「もちろんあるけど、それは稀にしか起きないぞ……ふぅ。骨髄移植の場合だと傷跡が残ったり発熱が起きたり、腰痛が残る。特に死亡例はないから安心しろ。ふぅ」
「………福吉さん、その調子だと…無菌室の前でも喫煙してるんじゃ?」
「いや。してないよ。それより廉命…明日ね」
「うっす」
─そして後日─。院長から呼び出され、南北北病院の俺は院長室に向かった。中に入ると院長と、もう一人の男性がソファに座っていて、俺はその向かい側に座るように言われ、席に着いた。
「日出君……夜遅くにすまない」
「いえ…」
「ドナーになる気持ち、どうだ?」
「いや…あの………骨髄移植のドナーって…死亡例ないんすよね?」
「あぁ。数日間腰痛があるだけだ。麻酔があるからな」
「ま、麻酔……ぐるるるる……わんっ!」
「(もし俺が無事に戻れなかったら…如月さん泣くだろうな)」
─後遺症はほぼ残らないとは聞いたが、麻酔のせいで余計に怖さが増してしまった。しかし院長は話を戻し、隣の人をこちらに紹介した。彼は、骨髄移植のコーディネーターである、原市と名乗った。
「こらっ!犬じゃないんだから、注射嫌いはやめなさいと言ってるだろ……とりあえず本題に移るぞ。この方がコーディネーターだ」
「はじめまして。コーディネーターの原市です。日出君、よろしく」
「よろしくお願いします……日出廉命っす」
「ほ〜?君すっごいイケメンだね…彼女いないの?」
「いないっすけど……その……好きな人はいます」
「若いね。骨髄移植に死亡例はないけど、告白するチャンスなんじゃないかい?」
「ぶふっ!こ、告白…それは……」
─俺も自分の名を名乗るが、原市はこの骨髄移植で好きな人に告白のタイミングではないかと話してきた。確かに俺もそれは思ったのだが──過去に謎のプロポーズをしてしまったため、告白なんて今更できないとも思っている。
─でも──昨日の彼女を見て、もう一度想いを伝えれば良かったとも思った。
「それにしても、廉に命で廉命か…いい名前だね。君は…あの子の命を繋ぐ為に生まれたみたい」
「………俺が…命を繋ぐ……?」
「私もそう思ってた。君は命の長さが分かる。医師の私よりも…すぐに人の命が読める。まさに命の子だ。彼なら…その名の通り希望君の命を繋いでくれる」
─それに、俺はずっとこの名前が好きではなかったが───コーディネーターや院長の発言を機に変わった。
─俺の名前は日出廉命。ようやく自分の名の由来を、意味を理解した。
─世界で一番尊敬してる人と──世界で一番愛してる人の──命を繋ぐために生まれてきた。これが─俺の名前の由来だと思った。そして俺達は──着々と骨髄移植の準備を進めるのであった─希望さんの命を繋ぐ為に─。
……To be continued
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