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普通を失った俺が、世に希望を与えるまで。  作者: 速府左 めろ
<第一章>希望とは。〜集われた意図編〜
33/85

ずっと傍に

この度は閲覧頂きましてありがとうございます!

「希望君、来たよ」

「(……舞姫、俺を見ないでくれ…)」

「希望君、あけましておめでとう。あとね…プレゼント持ってきたよ。カゴに入れとくね」

「(俺なんかに優しくするなよ…)」

「希望君、大好きだよ」

「(俺を……好きでいないでくれっ!)」


─如月達が冬休みに入り、年は明けただろうか。その頃には抗がん剤治療により髪の毛は抜け落ち、自分でも信じられない姿になっていた。毎日吐いたり吐血してるせいで体重は十キロぐらい落ち、更に痩せてしまった。

─呼吸をするだけで精一杯で、会話も難しくなった。当然食べれないので、一人で動くのも難しかった。

─それでも舞姫は、看護師の国試を控えてるにも関わらず、時々こうして一人で俺の見舞いに来てくれる。あと二ヶ月弱で俺は死ぬのに、痩せて髪も抜け落ちて醜くなってるのに、会いに来てくれる。


「……希望君。あのね、昨日ね…皆を呼んでご飯食べたの。なんか、お父さんが間違ってお肉や蟹を大量に取り寄せちゃって……あはは」

「でも夢玖ちゃん、凄い笑顔だった…初めての蟹や年越しそば、おせちに目をキラキラさせてたの。可愛かったなぁ…」

「(………舞姫、やめてくれ)」

「病気じゃなかったら、今頃あなたも一緒にいたのにね…ぐすっ」


─でも、どうせ俺は死ぬので、舞姫には悲しんで欲しくないから俺のことを嫌いになって忘れて欲しい。舞姫の悲しむ顔を、これ以上見たくないから。三十分くらい舞姫は話をして病室を後にした。


「(舞姫……顔が疲れてたなぁ…舞姫のことだから勉強頑張ってたんだべ)」

「(……でも、舞姫が俺と別れたとして…別の男と幸せになる未来も見えない…)」

「……舞姫、俺も大好き」


─舞姫にはずっと笑っていて欲しい。だからこそ、俺と別れて欲しいとも考えてしまう。何故なら、抗がん剤治療が効かなくなった今、俺が受けれる治療法はもう一つしかなく、適合するものが見つからない限り──俺は、あと二ヶ月弱で死ぬのだ。でも舞姫はこのことを知らない─。

─ただただ、自分の寿命をカウントダウンしていく日が続いた。しかし一週間後、転機が訪れた。


――――――――――


「ふむ……君のドナーになってくれる人が見つかった」

「まじすか!」

「あぁ…流石に誰とは言えんがな……しかし、舞姫や如月君に黙って良かったのか?」

「はい…二人には、俺より受験や国試に集中して欲しいんです。それに…伝えるタイミングも悪いですし」

「それもそうだな…移植は来月の半ばを予定している。その時に、舞姫に話すよ」


─なんと、俺のドナーになってくれる人が見つかったのだ。俺の白血病の場合、正常な造血機能が失われた患者の造血幹細胞を、健康なドナーから移植して機能回復を目指す治療法が適合している。白血病細胞を根絶するため、移植前に強力な化学療法や前処置を行い、その後ドナーの造血幹細胞を移植するのだ。

─それにドナーになった人間には、骨髄移植のコーディネートや骨髄採取のため数日の入院が必要なので今すぐ出来るわけではない。

─つまり、上手くいけば俺の命は延び、そして白血病で苦しんだ人生に終止符を打てるわけだ。


「……はい」

「(来月ってことは…舞姫の国試終わった後か)」

「(舞姫には色々迷惑掛けちまったなぁ…でも、国試終わりの舞姫に、話してもいいことなのか?)」


─そして月日は流れ、二月の半ばになった。舞姫の国試が終わり、明後日が骨髄移植をするわけだが、舞姫にはまだこのことを伝えてなかった。

─この頃も吐き気も高熱、爪の割れで苦しんでいた。

─当然国試が終わると舞姫が見舞いに来た。痩せ細り、更に弱った俺を見て舞姫は泣き崩れ、病室を後にした。廊下を駆ける音もしたので、俺の病状に耐えられなかったのだろう。少なくとも舞姫は、俺を意識していた。


「希望君…国試終わったよ……私、頑張った」

「(舞姫…俺は話すのがしんどいんだ)」

「ぐすっ……私が国試に集中してる間に、こんなに痩せて…ぐすっ……ヒック」

「舞姫…国試ご苦「お父さん。私行ってくる」

「………どこに行く?」

「お父さんに、教える必要ないよっ!」

「待ちなさいっ!舞姫っ!」


――――――――――


「ぐすっ………ヒック…希望君、私…もう…!」

「(……私が傍にいるって…あの時から約束したのに……見ない間に凄く弱ってて……私、希望君の恋人でいる資格……ないよっ!)」

「舞姫っ!どうしたのよ…はぁっ!はぁっ!」


─年明けを最後に、希望君のお見舞いに行って一ヶ月半くらい過ぎた。

─国試がようやく終わり、その足で彼の様子を見に南北北病院に行った。しかし私が見ない間に、希望君は更に弱っていて、悲惨な現実に耐えられず、気付けば私は病院の屋上まで走り、泣き崩れていた。

─付き合ったあの時から、どんな時でも傍にいると約束したのに─国試で私が彼の傍にいなかったから、希望君は凄く弱ってしまった。小さく呼吸し、冷や汗でシーツは湿っていて、更には抗がん剤治療のせいか色白い皮膚の一部が変色していた。

─姉が私を追いかけ、私を落ち着かせようとするが、私はぶれなかった。希望君が亡くなるなら、私も屋上から飛び降りて天国で一緒になろうと思ってるからだろうか─既にこの時点で屋上の壁に座っていた。足元を見ると、冬の街の景色が小さく見えた。そして私は耐えれなく─


「お姉、ちゃん……ぐすっ!私の…せい、で……希望君が…っ!」

「落ち着いて……ちゃんと話すから」

「お姉ちゃん、には…分から、ないよっ!私のせいで…希望君は……希望君は……ぐすっ!」

「舞姫……」

「私は…もう希望君の恋人失格なの…っ!だから…っ!」

「っ!」

「「舞姫さんっ!」」


─屋上から飛び降りたのだ。冬の風が足元をすくい、視界がふらっと白んだ瞬間─腕を掴まれた。これで希望君と天国で一緒になれる─。そう思っていたのに─。なんと、私の腕を─手を掴んだのは─姉と夢玖ちゃん、廉命君だったのだ。


「舞姫…さん……っ!」

「皆……?」

「せーので引き上げるわよっ!せーのっ!」

「「ふんっ!」」

「はぁ…はぁ……なんで助けたの?ねえ…なんで私なんかを助け……っ!」


─私は彼らに引き上げられ、私は死ねなかった。そして彼らの息が整い、何故私なんかを助けたのだと聞いたつもりだったのに、姉から平手打ちを食らった。夜の冬風で冷えてる頬に、パチンと夜空に鳴り響く肌肌しい音。そして顔を見上げると泣いてる皆の顔─。それらが、私に現実を思い出させた。姉は私を抱き締めながら話した。


「馬鹿ね…ぐすっ!あなたはなんでいつも…思い込みで……そうなるのよ…っ!」

「お姉ちゃん……ぐすっ!私、希望君の恋人失格だよ…」

「違うわよ…希望君の恋人は……あなたにしか勤まらないの……ぐすっ!」

「お姉ちゃん……っ!」

「……あなたはたった一人の…大切で血の繋がった妹なのよ……?舞姫が死んだら…私も死ぬわよ…ぐすっ」

「うん……ぐすっ!」


─縛く姉と抱き合って泣いてると、父も走って屋上に現れた。


「お父さん……舞姫、屋上から飛び降りそうになったの…」

「………舞姫、まずは国試、頑張ったな。お前は一人で耐えてたんだ。希望君か看護師の夢か葛藤しながら去年から一昨日まで、ずっと一人で頑張ってきたんだ……ご苦労だったな」

「うん……ぐすっ」

「私も希望君の治療に必死で…舞姫が屋上から飛び降りそうになったのも、父親である私の責任だ…本当に済まなかった…」

「……ぐすっ!」

「希望君を救いたい気持ちで山々だが……本当に救いたいのはお前なんだ、舞姫……お前が中学時代、私が仕事で多忙だったせいで虐めから助けれなかった……今でも後悔してる」

「……うん」

「希望君も話してた……例え死んだとしても、天国から舞姫を見守りたいって…死んでもずっと一緒にいたいって……だから、希望君が舞姫を嫌う理由なんでないんだぞ」


─父は私を抱き締めてくれた。それから希望君の今後について話された。なんと、希望君のドナーとなる人間が見つかったらしい。しかもその彼こそが廉命君であることが判明した。非血縁者の場合、数百から数百万分の一の確率で見つかると言われてるのに、身近にドナーとなる人間がいるなんて思いもしなかった。


「いやぁ…もう少し遅く俺達が来たら…舞姫さんも愛さんも亡くなってましたね…多分」

「ほんとよ…びっくりしたぁ……舞姫、私もごめんなさい。あなたの姉としてもう少し寄り添うべきだったわ」

「お姉ちゃん……私もごめん」

「ドナー……ってことは、廉命さん眼球や心臓無くなったりするんです?」

「まさか。希望さんの白血病は、骨髄移植が必要なんだ…だから俺の心臓や眼球が無くなることは無いんだよ」

「……はぁっ…はぁっ!」

「院長…大丈夫すか?」

「……全く。アラフィフになる者を走らせるんじゃない…ぜぇっ…ぜぇ」


─私達は希望君のいる病室に行き、彼に話し掛けた。


「希望君……」

「舞姫……さっき走ってたけど、どこ行ってたんだよ?」

「……実はね、希望君はもう助からないと思って…私屋上から飛び降りて、希望君と天国で一緒になろうとしてた……でもそれは間違いだった」

「…院長から全部聞いたよ……俺の見舞いと看護師の国試で、毎日葛藤して一人で抱え込んでたって…」

「……それは……」

「俺も…俺が病気のせいで…恋人らしい普通を与えることが出来なくてごめん…沢山迷惑掛けてごめん……俺一人の為に去年からずっと一人にさせてごめん…」

「……ううん。私も…国試で希望君の傍にいてあげられなくてごめん……ぐすっ」


─お互い出てくる言葉が、無菌室の透明な壁越しに響き渡った。直接、近くで─話は不可能なものの、話せるだけ嬉しかった。気付けばお互いのことを話して、そして──


「舞姫……大好き…ぐすっ」

「……うん。私も…大好き……骨髄移植、頑張ってね……ぐすっ」

「舞姫さん……」

「ふふっ……私、希望君の恋人で良かった…ぐすっ」


─大好きと伝え合った。私も彼も涙を流していた。その時に見た涙は、透明で、彼の紫の澄んだ瞳を輝かせていた。

─この雰囲気に姉は、父は、夢玖ちゃんは、廉命君は─感動してもらい泣きしていた。

─そして、ずっと一緒にいようって約束も出来た。父は何かを決意したように、潔くこの雰囲気に溶け込み、希望君にある真実を話した─。彼のドナーが、廉命君になったことを。当然彼は驚いたが、徐々に受け入れてくれた。


「希望君……あのな、君のドナーなんだが…」

「へ……?」

「……実は、日出君が君と適合した。つまり、日出君の骨髄を、君に移植することが決まったんだ」

「…………嘘、廉命が……?」

「あぁ。本当はもう少し内緒にしたかったが、安心して欲しくて、話してしまった」

「……ふん。俺の骨髄でも心臓でもくれてやる!だから…またあの時みたいに一緒にいようよ…」

「廉命さん……院長、移植って手術するん?」

「あぁ。腰当たりから骨髄液を採取する感じになる。だから、日出君の心臓や眼球も…何処にも行かんぞ」

「……大事な親友の体を更に傷付けてまで生きてて……いいのか…俺は…ぐすっ!」


─この夜は、温かい飲み物と共に、それぞれの思い出、私の看護師の国試や夢玖ちゃんの大学受験、姉の教員試験などで話が盛り上がった。

─廉命君には、希望君の命を繋いで欲しい─それに、希望君は一番に笑って欲しいから。



……To be continued

閲覧頂きありがとうございました!

コメント、いいね、感想お待ちしております!

次回作もお楽しみに!では。

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