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普通を失った俺が、世に希望を与えるまで。  作者: 速府左 めろ
<第一章>希望とは。〜集われた意図編〜
31/85

迷路

この度は閲覧頂きましてありがとうございます!

「これのどこが大丈夫なんだよ…」

「……すまない。廉命、最期くらい……楽にさせてくれ」

「っ!」


─ある夜の見舞いに、俺達は来ていた。本来なら今ここには仁愛も凪優も、如月さんもいたというのに、仁愛は今の空気を察したのか、凪優と如月さんをどこかに連れた。

─今無菌室の外にいるのは俺と夜海だけ─。その無菌室には、日に日に弱っては痩せた希望さんがいた。

─枕にも抜けた髪の毛が付いてるのに、頬も更に痩けてるのに─それでも希望さんは、大丈夫という。いや、これのどこが大丈夫というのやら─。

─そんな彼にどんな言葉を掛ければ良いか分からず、ひたすら息が詰まっていたが、思いをぶつけた。


「ぐすっ……生野さん」

「……俺、あと余命六ヶ月だって」

「え…嘘………」

「は………嘘…だろ……」

「院長や福吉さんも舞姫も…支えてくれてるけど、病は俺を死なせたいみたい。まあ昔からの付き合いだから当然か」

「………廉命君。私、どうすれば…」

「夜海………なぁ希望さん。あんた、死にたいの?」


─夜海は、希望さんの笑顔を見て、目に涙を溜めていた。それを隣で見て、彼に《《つい》》聞いてしまった。死にたいのかと─。


「いや、そのつもりはないよ……でも、俺はもう………大丈夫だ。いつ逝っても大丈夫」

「だから………それのどこが大丈夫なんだよっ!」

「廉命…君っ?」

「いつ死んでもいい?ふざけんなっ! 舞姫さんも如月さんも残されるんだぞっ!」

「……廉命」

「あんたは一人で抱え込んで、舞姫さんや如月さん、俺達の前では平気な顔して…周りを思って無理をして…今じゃ余命六ヶ月…?呆れるよ」

「………」

「今まで、何考えてあのシューズコーナーに立ってたんだよ!何考えて俺と如月さんを拾ったんだよっ!なぁっ!」


─今まで俺の中で温めていたものが沸騰し、下の階にも他の患者がいるにも関わらず、俺はマスク越しに─希望さんがいる無菌室の前で叫んでしまった。今日まで、何考えてたのかを─。

─だって──彼が死んだら、舞姫さんはもちろん─如月さんに残るものは何もかもなくなるから。そういう気がして、俺は感情に任せ、彼に本音をぶつけた。

─俺が自殺しようとしたあの日の彼は──雲のように肌が白く、アメジストのように紫の瞳が澄んでいて、その奥には光を感じた。でも今は違う─。その肌は青白く、そのアメジストの奥には闇を感じる─。そして何より、いつもの彼ではなかった。小さく呼吸をしながら、俺の声を聞いていた。

─いつもなら、わざと馬鹿なことを言っては周りを笑わせるのが彼だから。俺は構わず続けて本音をぶつけた。せめて如月さんが、俺と結婚して子どもを産んで─幸せな未来を見届けてから死んでくれ、と。


「廉命……その「一人で抱え込むのはっ!」

「お願いだから、一人で抱え込むのはやめてくれっ!せめて…如月さんが俺と結婚して!子どもを産んで…彼女の幸せを見届けてから死んでくれっ!」

「っ……」


─嗚呼。これで嫌われただろうか。思い切り叫んだからか喉が焼けるように痛い。俺はわざと彼を睨みつけ、一人屋上へ向かおうとした─が、その時に──レジ袋を提げた、如月さんと凪優、仁愛が戻っていた。


「………廉命、さん?」

「……ちっ」

─そして俺は構わず、屋上へと向かった。途中で夜海が、如月さんに耳を借りていたが、無視して屋上へと向かった。

「………はあ……」

「廉命さんっ!」

「………如月さん」

「……………その…生野さ「もしかして聞いてた?」

「………少しだけ。子どもとか…」

「……半分聞かれてたか……」

「はい…あ、これ……寒いやろ?」

「ん」


─夜風が肌を刺す─一人屋上で夜空を眺めていると、如月さんが勢いよく屋上に現れた。どうやらこの小さい身体で、俺のことを必死に追っていたらしい。しかしそれよりも─先ほどのことが聞かれていないか心配になった。

─が、如月さんは敢えて内容は詳しく言わず、俺に温かい飲み物を手渡してきたので、それを受け取り、開封し口に含んだ。が、見覚えのある苦味が俺を襲った。そう─コーヒーだった。

─そういえば、如月さんはコーヒーが好きで、よくバイトの休憩中に缶コーヒーを飲んでいる。彼女曰く、コーヒー豆は焙煎される前は酸っぱいらしい─。それとカシスは─どっちが酸っぱいのだろう。


「苦っ!ってこれ…コーヒーじゃねえかっ!」

「もう…コーヒー不味くないで?」

「如月さん……交換しようよ、そのミルクティーと」


─いや、それどころではない。危うく現実逃避をするところだった。

─ちなみに如月さんが手に持って、口に含んでたのはミルクティーで、それは希望さんがよく飲んでいたものだった。

─ミルクティーの甘さで口直しし、如月さんは缶コーヒーを飲んで暖かかったのか、少し顔が赤かった。彼女の横顔を見て、俺は気付けば如月さんの唇に触れようとしていた。


「にゃ……なんですか?」

「いや………やっぱり甘過ぎる。希望さん…ミルクティーの無糖嫌いだったよね」

「はい………生野さんには…幸せになって欲しいです」

「それはそうだよね……せめて、子どもの顔は見せたい」

「っ……」


─如月さんはそれを避け、俺は我に返り、また関節キスをしてしまったことを思い出した。先程は希望さんにあんなことを言ってしまったが───


『……廉命…俺はもう長くはないから……その…俺が死ぬまでには如月には想いを伝えろよ』

「(…………まだまだ心の準備が出来てないんだよ…はぁ)」

「如月さん、戻るよ」


─希望さんの言葉が頭をよぎったのか、俺は如月さんの手を引き、無菌室付近へと戻った。途中で彼女が寒そうにしていたので、コートを着せた。


「なんで生野さんは…私達を思って」

「あぁ。あの人から意図を感じないもんな…さっきのこと、謝ろう」


─屋上の階段を降り、俺達は暗い廊下を歩いた。それだけ希望さんが心配なのか、如月さんは俯いたままだったし、何より片方の目から一筋の涙が流れていたから─俺はそれを指で拭った。


「っ」

「大丈夫。大丈夫だから」

「(また如月さんに触れちまった…でもそれも、希望さんとの約束でもあるんだから)」


─そう言葉を掛け、彼女を安心させる。そういえば今は師走ぐらいだろうか─。俺は彼女にジャケットを着せた。すると如月さんはジャケットを羽織り、ブカブカな腕や丈を見せる。その姿に高鳴る心臓を隠蔽しながら、無菌室付近に着いた。


「……廉命、ごめん」

「…いや、俺の方こそごめんなさい……その、あんたには死んで欲しくない」

「……廉命君」

「如月、廉命の願い……叶えて上げて」

「へっ?」

「あれだよ。結婚と子どものこと」

「ちょっ…夜海!」

「にゃ……あ、そういえば…廉命さん…珍しくコーヒー飲んだんやで?」


─俺は希望さんに先ほどのことを謝った。すると彼も謝ったことで、俺達は和解した。

─雰囲気が静まると、夜海が例の話をした。


「あれだけコーヒー苦手だった廉命君が…?」

「うん…なんか、少し……苦かったような気もするで」

「まさか………関節キスし「してへんでっ!」

「……廉命さんと結婚して子ども、かぁ。愛されてるね」

「なっ……べ、別に……その…あれは勢いで言っただけで…その、別に如月さんと結婚したいとか、この子との子どもが欲しいとか、じゃねぇからなっ!」

「甘酸っぱ過ぎ……早くくっつけよ」

「夢玖ちゃんとの子ども、絶対可愛いだろうね〜!ねえ、廉命さん?」

「〜!」


─先程の発言、希望さんに言った─如月さんと結婚して子どもを産んで─という話についてだった。そのセリフを言い終えたタイミングには如月さん達は無菌室付近に戻っていたが、子どもというワードは聞いたという─。

─あれは勢いで言ったつもりだが、俺の本望でもあった。これまで如月さんには想いを伝えたはずだが、それは失敗に終わっていたつもりだった─。でもそれを聞いた今、彼女はどう思うのだろう。夜海がボソッと話してきたので俺はボンッ!と顔が赤くなった。

─どうすればこの気まずい空気をどうにかしたいものの、俺の頭の中は迷路のようにごちゃごちゃになった。如月さんはずっと黙っていたが、ようやく口を開いた。


「子どもって…どうやって作るん?」

「えっ…?」


─と思ったら、予想外の反応だった。子どもはどうやって作るのかと─如月さんは言った。その台詞が希望さん含め無菌室付近にいる全員が唖然とした。


「三年生になると…保健体育やらないからね…」

「もしかして…コウノトリが運ぶって思ってる?」

「うん。福吉さんにも聞いたけど、煙草でむせとったし、気まずそうにしてたで」

「本当に……知らないの?」

「うん…ほんまに分からへん。凪優教えてくれへん?」

「いや……その………説明しにくい内容だから、一人で調べた方がいいよ」


─如月さんはキョトンとした顔で仁愛や夜海、凪優や俺に聞いてくるが、満場一致で一人で調べた方がいいと返していた。

─顔を真っ赤にしていた俺は、如月さんに向かって言った。


「大丈夫だよ………子どもの作り方はそのうち…俺が教えるから」


─無意識に誓ったこのセリフにより─後々後悔してしまうわけだが、勢いでもあのことを言ってしまったからには、責任を取る義務がある。

─もし如月さんが俺を拒絶しようと、俺の大事な人であるには変わりはないから。


「ふぅ…寝るか」


─後々解散し、帰宅すると夜の十一時を回ろうとしていて、俺は帰宅してすぐに風呂に直行した。腰にバスタオルを巻いた状態でリビングに行き、スマホを取る。

─パスコードを打ち、通知を確認すると、如月さんからLINEが送られていた。あのことを話してしまったからには─今後の彼女に対する接し方も考慮せねばならない─でも気になり、見てみることにした。


<お疲れ様です。伝えそびれてたんですが、夢を見たんです>

「夢……か」

<お疲れ。家に帰れて良かった。どんな夢なの?>

<生野さんが………迷子になる夢…>

<迷子……?>

<生きるか……死ぬかで……迷子になっとるみたい>

<そっか…ありがとう。君はもう早く寝なさい>

<おやすみなさい>


─どうやら希望さんに関する夢を見たらしい。彼女はほぼ毎晩悪夢に魘されていて、それは予知夢だった。

─彼女や俺を拾ってくれた、希望さんに関する夢や記憶は─俺と彼女だけが見れる。

─如月さんのいう迷路というのを、俺も夢で見ることにした。壁は白いタイル、蛍光灯がジジっと鳴っていた。どこも病院の廊下に見えたのだ。


『ジジ…』

『行き…止まり…?』

『いや、ここ曲がって……迷子だ……』

『っ!』


─その迷路は、中間地点からスタートし、希望さんの闘病の末路がゴールとも現される。長年の白血病との闘いの末に───希望さんは生きるのか、死ぬのか────夢の中で、その迷路で迷子になる彼を─俺と如月さんは見たのだ。

─スマホを伏せ、重たいまぶたを閉じると、あの白い迷路がまた現れた─。






……To be continued

閲覧頂きありがとうございました!

コメント、いいね、感想お待ちしております!

次回作もお楽しみに!では。

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