煌星癒
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「お父さん…起きて」
「ん……おお、愛か」
「舞姫も起きて………」
─朝目が覚めると、私の娘二人が既に起きていた。前日、二人が泊まりに来ていたのを思い出し、私は洗顔と歯磨き、髭剃りを済ませ、新聞を開いた。
「はい。お父さん…今日は休み?」
「あぁ。医師は毎日、人の命を救うためにある職なんだよ。まあ今日はたまたま休みになっただけだが…」
「看護師でも週休二日あるのに…」
「まあまあ。舞姫、お前は私の病院に就職して、看護師としてたくさんの人々を支えるんだ…希望君が大事なのは分かるが、まずは国試だぞ」 「分かってるよ………そうだ。私、お父さんの若い時の話、もっと聞きたい!」
「分かるっ!昔のお父さんはハンサムだったわよねー……お父さんってどこ出身なの?」
「私は福島出身ではないんだよ」
「仙台…?いや、秋田?青森…?」
「私は………大分出身なんだ」
「えぇっ!そんな遠いの…っ!」
─新聞を読んでいると、愛が今日の予定を確認してきた。今現在の時刻は朝の五時半。温かいコーヒーを片手に、愛と舞姫は私の昔話を聞きたがったので、私は軽く話した。
─まずは私の出身地についてだった。実は私は、福島出身ではなく、大分出身だ。子どもの頃、よく別府温泉に入り浸っていた時期もあった。
─あれは確か、もう二十年前にもなる話─遠距離で出会った異性と付き合うようになり、東京大学の医大に進学と同時に上京し、幸せな人生を送っていた。しかし研修医の頃に当時付き合っていた異性と結婚したのだが────
『嘘だろ…なんで…』
『研修医が低収入なんて……別れるっ!顔もそれなりにブスだし』
『煌星〜残念。実はこいつ、浮気してたんだよ。俺とね』
『嘘だ……二人とも…信じてたのに…っ!』
『お前は勉強と金しか取り柄のない男なんだよっ!』
─なんと、当時の妻と─私の親友が浮気していたのだ。話を聞くと、私と付き合った時から浮気をしていたらしい。
─信頼していた二人から裏切られるとは思いもしなく─当時のことは─四十代になった今でもフラッシュバックしてしまうのだ。
─結局、離婚をして、二人とは関係を切った─つもりだった。それから一年が経過したある日、私の住むマンションの前に─赤ん坊がいた。
『おぎゃあ…っ!おぎゃあっ…!』
『赤ん坊……?親は何してるんだか……んっ?手紙…?』
─見た目は生後一年を超える赤ん坊で、赤い髪と、エメラルドのように澄んだ、緑の瞳が特徴的だった。
─親は何をしてるのやらと当たりを見ると、一枚の手紙が置いてあった。そこには私を裏切ったあの二人からで、この赤ん坊を私にやるという内容だった。
『………お前も、二人から酷いことされたんだな……可哀想に……』
『あう…?』
『ぐすっ!……ぐすっ!お前さえ、お前さえいなければっ……!』
─この赤ん坊は、二人にされたことを知らない。でもこの子が大きく育って、この事実を知ったらどれだけ傷付いてしまうのだろう。
─それよりも、この子さえいなければ─私はまだ壊れなかっただろうか─。
『おぎゃあっ!おぎゃあっ!』
『………はっ!』
─息の根を止めようと、片手で首を掴もうと手を添えた。
─しかし、その先の行動が出来なかった。赤子を殺したら─医師として失格だからだ。
─医療に生き甲斐を感じたことで私は研修医になれた。それに、私とこの赤ん坊は同じだった。
─自然と首を掴んでた手を緩め、その赤ん坊を抱き締めた。
『うちの子にでも……なる…か?』
『…ふふ……』
『赤ん坊にしては顔立ちが愛らしいな…決めた。今日からお前は……まな。愛だ』
『そして………今日から、私はパパだな…』
─二人に裏切られて以来、部屋は散らかり、金は溜まるだけの生活になっていた。しかし、正式にこの赤ん坊は私の娘になり─愛と名付けた。
─部屋を片付け、保育園にも通わせた。しかし─また翌年、もう一人の子が─紙袋に入れられた状態で、私のアパートの前に捨てられていたのだ。
─だが愛の時みたいに─殺意は湧かなかった。
『嘘だろ……』
『あぎゃ…?』
『おぎゃあっ!おぎゃあっ!』
『………髪の色は若干違うが、瞳はそっくりだな……そうだ。試しにDNA検査しよう。貯金もあるから、短期間で結果を受け取るようにも…』
『ほぼ百パーセント一致……愛、お前に妹がいたとはな…』
『ふえ…?』
『まあいい。お前も……家族になろう』
『ひ…も…と?』
『そう。お前はお姉ちゃんなんだよ。そうだな……お前は、舞姫だ。お父さんだぞ』
─念の為、DNA鑑定をしたが、愛とその赤ん坊は遺伝子がほぼ百パーセント一致していて、二人は姉妹ということが分かった。
─そして─髪色が栗色でエメラルドのように澄んだ緑の瞳──。この赤ん坊を─舞姫と名付けた。二人を育てつつも仕事をして、気付けば二人は小学生になっていた。
『お父さん、お弁当忘れてる』
『おう。悪いな。ありがとう』
『お父さんなんか老けた?今何歳?』
『今年で二十九歳だぞ……最近、医師の国家試験迫ってるからな…勉強してるんだ』
『国家試験……?』
─この頃になると、ランドセルを背負う娘達の姿が当たり前に愛しく見えた。二人の小学校の入学式で、カメラを構えながらどの父親よりも泣いていた自信はあった。
─まだ十歳にもなってないにも関わらず、家族の食事を作ってくれたり、私が帰る前に風呂を沸かしたり飯を作ってくれた。
『あぁ。今の私は見習いの医師なんだが、本物の医師だと見れるための資格だ。これは難しいんだ』
『だから余計甘いもの欲しがるんだね…でもお父さん、目頭ら辺に小じわが…』
『こら舞姫……お父さん…疲れてる?』
『まあな…でもお前達がいるから疲れが飛ぶよ』
─もしこの二人が、どうしても忘れられない二人の子だと知ったら、私と血が繋がっていないと知ってしまったら───愛と舞姫は、どれほど傷付いてしまうのだろう。
─更に月日は流れ、私は三十七歳、愛と舞姫は十四歳と十三歳になった。
『愛…お前はまた帰りが遅くなって……遅くなる時は連絡しなさいと…何度言えば分かるんだっ!』
『うるさいっ!何も分からない癖に……もう寝るから!顔見せないでっ!』
『あぁ、ま…愛っ!』
─反抗期になり、特に愛が酷かった。部活があるにも関わらず、夜の十時前に帰ってきては、私に反抗する。
─勢いよくドアを閉める音で、舞姫はビクッと体を震わせた。
『……お姉ちゃん、今日学校で…生徒会のことで喧嘩していたの』
『そう、なのか…』
『それで……図書館で勉強して遅くなってるみたい』
『……何故だ?』
『えぇっ?』
『舞姫、お前は将来…何になりたいんだ?』
『私は…………』
『はぁ……長風呂してたら寝ちゃってた……ん、お父さん……?』
『すう……すう……』
『お風呂も入ってないのに、お仕事で疲れて寝ちゃってるのね………ん?』
『すう……すう…』
『………これは……っ!』
─ある日の夜。ちょうど愛が中学三年生になり、部活を引退し、受験勉強に励んでいる秋の時、私はいつものようにテーブルに突っ伏して寝ていた。
─ちょうどその時、風呂から上がった愛がリビングに現れ、私の近くにあった一枚の紙を見た。
『さん…お父さんっ!』
『ん…?なんだ?』
『ちょっ!朝風呂はやめてって言ったでしょ!』
『お父さん…もうすぐ四十歳にもなるのに腹筋割れてるんだね』
『まあな…』
『それよりも何よっ!新築の紙っ!』
─気付いたら朝になっていて、私は朝風呂に入っていた。
─朝風呂から上がると、愛と舞姫が駆け付けては私に問い詰めてきた。愛が新築の紙を目の前に突き出して言う。そりゃあ戸惑うだろうと思い、私は二人に話した。
『お前達も大きくなってきたから、このマンションも狭く感じると思ってな…貯金もたんまりあるし』
『そういう意味じゃないわよっ!』
『落ち着きなさい。二人にも必ず、帰る場所というものがある。だから、それを建てようとしてるだけなんだよ』
『マイホーム、か……お父さん…すごいね』
『間取りは大体こんな感じだ。実はもうすぐ完成する』
『早くないっ!なんでもっと早く言わなかったのよ…』
『まあまあ。私はただ、家族の居場所を作ろうとしてるだけだ。貯金もあるし、一括で支払ったから住宅ローンを支払う必要は無いんだ』
『だから安心しなさい』
─次第に二人は納得し、この煌星家は新しい住宅を手に入れた。引越しを済ませ、落ち着いた頃に、私が担当してる患者の少年─生野希望に、そのことを話してみた。
『それで、私達の新築が出来たんだ。娘二人も大きくなってきたし、二人には帰る場所というのもを知って欲しいからな』
『へぇ……それで最近また老けたんだ……舞姫から聞いた』
『老け……確かに私は四十歳になったばかりだが…』
『いいなぁ…俺なんて父ちゃん母ちゃんの顔、ここ二年くらい見てないのに』
『っ!』
『(何故生野君は……舞姫のことが嫌いなんだろうか……舞姫があの子に悪いことしたわけではないだろうに……ん?)』
『ぐはっ……!』
『大丈夫…ですかっ!僕のタオル使って!』
『ん……ありがと……てかアンタ、目のところ包帯ぐるぐる巻きだけど、見えてんの?』
『……僕はもう…目が見えないみたいです』
『へぇ……アンタ、名前は?』
『盾澤…雷磨………中学三年生です』
『(あれは……事故で目が見えない盾澤君と、生野君じゃないか。しかも年はほぼ同じか…)』
─ある日、私は生野君に検温や健康観察をしに彼の病室へと足を運ぼうとした時、彼が隣のベッドの子と話してるのが見え、私は陰から覗いていた。
─生野君と話してる、少年は盾澤雷磨─。彼は生野君より一つ年上だが、先日交通事故により両目が見えていない状態で、両目が包帯でぐるぐる巻きにされている。
─次第に二人は仲良くなり、彼らの周りには─私の知らない関係が繋がっていたのだ。
『おらっ!これ食えチビっ!』
『やめなさいっ!ほら生野…大丈夫か?』
『加堂さんもう……希望君、大丈夫ですか?』
『流石に明太子おにぎりはダメだべ……』
─雷磨君と同じ、桜色の瞳をした少年、両脚にサポーターをし、悪人面をした青年、白衣を羽織り眼鏡を掛けた青年─。それらがとても楽しそうな雰囲気で、私はつい興味本位で彼らに話し掛けてみた。
─彼らなら安心して話し掛けられた。何故なら、その三人の中で知ってる者がいたからだ。
『福吉君じゃないか…』
『あ、煌星先生…』
『お、加堂君じゃないか…脚の調子はどうだ?痛いところはないか?』
『っ…喋んなクソジジイっ!』
『こら加堂…先生の前でその態度は……っ!』
『いや、いいんだ。それより…皆、なんで仲良いのかなって…』
─白衣を羽織り眼鏡を掛けている目白福吉。当時の彼は医大生で、よく実習でこの病院に来ていた。それで私に興味を持ったのか、たまに遊びに来てくれてる。責任感が強く頭も良い─が、プレッシャーに弱い。だが、県内トップの高校を首席で入学かつ卒業をした実績はある。
─悪人面で、気性が荒い加堂霧也。彼は元アスリートで、アメフトの日本代表候補としても有名だった。しかし、アキレス腱を断裂したことにより、更に気性の荒らさが悪化し、当時の私と福吉君は彼の対応に困っていた。
─ちなみに、福吉君の方が一つ歳上で、彼らをまとめようとする。
『たまたまっすよ。あ、俺雷磨の兄貴の…盾澤鳳斗って言います』
『ねえ見たさっきのイケメン……』
『分かる!なんか…王子様って感じ』
『いやぁ……おばちゃんメロメロだわあ…』
『……なんか言われてるが?』
『あー、いつものことなんで気にならさず』
『兄貴はスポーツ万能で、加堂さんと同じ日本代表候補でもあるんです……球技や格闘技などジャンル問わず実力があります』
『おいおい……身近にそんなに凄い若者がいていいのか……?』
─私は彼らの実力に、膝まづいてしまった。しかしそれだけではない───。いい意味で、蒼い瞬間が、私を待っていたのだ。
─病室にある女子中学生二人が入ってきた。しかも小さいバッグを提げて─。私はそれを見て、気付いたのだ。
『お父さんっ!またお弁当忘れてる!もうお昼休憩まだなの?』
『はっ!もういえばもう三時か……おやつの時間だな』
『おやつじゃないよ…ご飯だよ……お父さん……あれ、生野君いるっ!』
『……っ』
─愛と舞姫だった。どうやらいつものように、弁当を忘れていたようで、届けに来たようだ。ズケズケと病室に入っては、舞姫は生野君を見て嬉しそうだった。
『え…お父さんって……娘いるのかよ…』
『ひぇー…美人姉妹……先生、贅沢ですね』
『……よ、舞姫』
『わぁっ!生野君……これ、良かったら』
『何これ?』
『ガーベラ。お姉ちゃんとお弁当届けに行く途中に見つけたの』
『ありがとう……』
『?さっきから……雷磨君はどこを見てる…?』
『あれ、雷磨〜顔赤いよー?』
『違うよっ!』
『なるほどねぇ……春が来たんだね』
─舞姫は生野君にガーベラを渡した。視線が舞姫から雷磨君に移るが、彼が顔を赤くしてるのが分かり、私は彼に質問した。すると挙動不審になり─暫くして、彼は答えた。
『愛か?』
『……な、何よ?』
『いやぁ…その………本当に綺麗な人だなって』
『はぁっ!初対面の人に向かって何言ってるのよ!』
『そういう愛も顔赤いぞ?いやぁ、蒼い…若いっていいな』
─それからその関係が続いて────
「今の私達が在る」
「すう……すう…」
「すやぁ……すやぁ……」
「二人とも、寝てる。朝の九時か……二人は寝かせて、久しぶりに二人の大好きなフレンチトーストでも作るか」
─今の私達が在る。話を終えると愛や舞姫は寝ていてた。最初は驚きで目を見開いていたが、次第に眠くなってしまったようだった。
─時計を見ると時刻は朝の九時手前になっていて、私は新聞を閉じ、娘二人に布団を被せ、重い腰を上げ、キッチンに立つ。
─今から作ろうとしてるのが、よく娘二人に作っていたフレンチトーストだ。色々あったが、当時は子育てのあれこれから始まり、そして立派に成長してくれた。苦労したようで、楽しかった。
─たまには家に帰り、これを食べて、二人には教師と看護師を頑張って欲しいものだ───。
……To be continued
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