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普通を失った俺が、世に希望を与えるまで。  作者: 速府左 めろ
<第一章>希望とは。〜集われた意図編〜
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大人の階段

この度は閲覧頂きましてありがとうございます!

「沢山ケーキ買っちゃった!他のケーキもあるから、皆で食べよう!」

「じゃあうちはイチジクのショートケーキ食べる」

「仁愛はオペラにする!」

「私は洋梨と木苺のマカロンケーキにするわ」

「私は抹茶のフォレノワールいただきますっ!」

─ある日の休日。私は愛先生のマンションで女子会をしていた。


「私は……カシスタルト…?」

「うん。あ、夢玖ちゃん…今廉命君のこと想像してたでしょ?」

「……えっ?」


─愛先生が人数分の紅茶を淹れ、夜海が買ってきたケーキを皆で取り分けている時の話だった。イチジクのショートケーキは凪優が、オペラは仁愛が、タルトタタンは夜海が、洋梨と木苺のマカロンケーキは愛先生が、師茶鍋さんが抹茶のフォレノワールを選んだ。それら以外にもモンブラン、カシスタルトが残っていた。

─私はモンブランを選ぼうとしてたのに、無意識かカシスタルトを選んでしまい、モンブランは舞姫さんの手に取られた。何故だろうか。夜海は直感的に何かを感じ、私がカシスタルトを選んだのは廉命さんを意識したからと考察を述べていた。確かにカシスと言えば、日出廉命の顔が思い浮かぶ。


「……廉命君、夢玖ちゃんのこと大好きだからねぇ」

「分かります!この前携帯見たら、ウマゾンでベビーグッズ見てました」

「確かに…うちも見たかも…プロポーズのし方とか子どもの名前とか」

「重いわねぇ……愛されてるわね。夢玖ちゃん。オレンジジュースでさっぱりしましょうか」

「………お姉ちゃん、夢玖ちゃんはオレンジ苦手なの」

「嘘…ごめんなさい」


─彼のことを頭に浮かべ、カシスタルトを見つめるが中々フォークが刺せない。愛先生がオレンジジュースをついで渡すが、私はオレンジが苦手だ。酸っぱい匂いが苦手だから─。 それとは別に、廉命さんが思ってた以上に私にゾッコンだった。通販サイトでベビーグッズ見漁ったり、プロポーズのし方や子どもの名前まで調べていたのだ。衝撃の事実に、私は驚いて持っていたフォークを落としてしまった。

「いやー、あれだけ絶望的だった廉命君が、恋…とはね」

「うんうん!凄くイケメンでガタイもいいのに、もったいないよ!」

「めちゃくちゃ食べるし、仕事も出来る。あと…夢玖だけに対して重度のツンデレ……この前うちに、夢玖の好み聞いてきたし」

「夢玖ちゃんとしては……」


─どうなの、と夜海が銀色の瞳で問う。口では何とも思ってないって即答出来るはずなのに─何故か言葉が詰まる。別に─廉命さんのことは何とも思ってないのに─。一方で仁愛は、自分も恋人が欲しいと話題を上げ、夜海も愛先生も凪優も、その話に便乗しては盛り上がる。

「あ、夢玖ちゃん…あーん」

「ん………栗…あとなんか酸っぱい」

「栗とカシスって凄い相性抜群なの知ってた?」

「っ!」


─一応私も、歳頃の乙女だ。でも─恋愛話には────疎い。すると舞姫さんが一口、モンブランを私に食べさせてきた。それは美味しかったものの、そのモンブランの中に何か甘酸っぱい味を感じた。なんと、その正体はカシスだった。

─舞姫さん曰く、カシスと栗は相性抜群らしい。そのことを聞いて一気に顔が熱くなった。赤くなった私の顔を見た夜海は気付いた。


「ああ〜?廉命君のこと…好きになっちゃった?」

「いや………」


「ふぅ……」

「(……恋、私には分からへんもん……でも廉命さんは私を好きでいてくれとる…?私だけに対して重度のツンデレ…?猫みたいな…?いや…廉命さんは……)」

「わっ!如月さん?」

「っ!」


─ある日のアルバイト。生野さんが倒れてから、シューズコーナーは私と廉命さんを中心に、新しく入った師茶鍋さん、凪優や加堂さん、盾澤店長も手伝うようになった。

─と言っても、各担当はそれぞれなのでたまに手伝うという感じなのだが───。つまり、廉命さんの二人きりの時間が増えたということにもなる。愛先生から進められた恋愛ドラマも見てみたが、壁ドンやキスシーンもしっくりこなかった。

─大阪にいた頃、お金に困り自分から春を売りにいっては互いの合意もないドロドロとした営みを見てきたからであろうか。

─結局、私の春は売れなかったけど────いや、待て。彼と─廉命さんとそういうことが─ダメだ。仕事仕事、と切り替え、休憩室から出ようとすると注意力が落ちてたのか誰かとぶつかった。


「………如月さん…?」

「…………」

─まさかの廉命さんだった。しかも身長差が大きいせいか、彼の胸に顔が当たり、私の顔は彼の胸に埋もれてる感じだった。あまりにも衝撃的で状況を読めない。位置的により、廉命さんの心臓の鼓動が聞こえる。───大切な人が生きてるということはこのことだろうか。


「如月さん…?大丈夫?」

「……もう少し、こうして……たいです」


─無意識に言葉が出た。もう少し彼の心臓の音を聞いていたいと。すると廉命さんは─そっか、と私の背と後頭部に手を添え、抱き締めた。これが……恋人との、愛情表現というものか。そしてその日も店は閉店し、終礼してる時だった。終礼してる間、廉命さんはロッカーの前でしゃがみ、携帯を見ていた。それを覗き込むと─ベビーグッズの画像が沢山表示されていた。本当だったんだ─。

─それを見る紅い瞳から、ある未来が読み取れた。廉命さんの背が高過ぎて気付いていなかったが、しゃがみ込んでる今なら触れられる─。彼の髪に。少しパーマが掛けられたように跳ねていて、もみあげや襟足も綺麗に剃られている。気付いたら私はそれに触れていたのだが──それは、十分過ぎるほどに鍛え上げられた筋肉によらず、犬のようにふわふわな髪の毛だった。


「ん、如月さん?」

「はわわ……廉命さん…髪の毛、わんちゃんみたい!」

「わんっ!最近髪のケア頑張ってんだよね」


─それはまるで犬のようにふわふわしてて、指通りも良かった。彼のシャンプーの香りもした。それは、ミックスベリーとハーブの香りで、彼に似合っていた。しかも────ガタイも良くて、ケロイドも目立つけど顔立ちも整っている。そして何よりも───


「へ〜!廉命さん、可愛ええとこあるんですね」

「は、勘違いするなよ…別に……モテたいとかじゃねぇし…美容室行ったら髪傷んでるって言われただけだし」


─その紅い瞳の奥には、誰かに対しての恋心が見えていた。そして終礼をし、その日のアルバイトは終わった。舞姫さんが車で迎えに来てくれてるので、店の従業員専用入口から出る。私の後に廉命さんが出てきたが、私は携帯に夢中でそれに気づかなかった。


「……くっ…」

「…如月さん………」

「…廉、命……さん?」


─廉命さんの腕が私の肩を抱き締めてきた。携帯の画面に夢中で、余計驚いてしまった。身長差が大き過ぎることにより、私の後頭部や背中に、廉命さんの胸板や腹筋に当たっていて、とても暖かかった。

─顔を上げ、解放して欲しいと目で訴えてみるが、廉命さんの紅い瞳からは─大粒の涙が零れていて、その粒が私の額に落ちた。


「…ぐすっ……ヒック」

「……れ、んや……さん……っ!」

「ごめん……如月、さん……っ」

「はい。廉命さん……とりあえずこれ飲んで下さい」

「……ありがと…」

「………まあ、言いたいことは分かりますよ…私も、生野さんがいたから毎日幸せなんです」

「…違うよ………もし、希望さんが最悪の場合になったら…如月さんには何も残らないじゃん…」

「それはそうですけど……」

「俺も…あの家から追い出されたから、家族も何もないんだけどね……もし、君で良ければ…」


─一緒に家庭を築こう。そう廉命さんが提案してきた。家族になるということは────私が廉命さんの妻になり、彼との子どもの母親になるということだ。いきなりの言葉で頭が真っ白になっていると───


「それって……」

「…ああ。その……実は…ずっと前から…「ふぅー…あれ、如月と廉命じゃん」

「「ふ、福吉さんっ!」」

─車から誰か降りてきた。煙草を持ちながら口から煙を吐いている。その人は誰かがすぐに分かった──福吉さんだった。

「…二人で何話してたの?」

─新しい煙草に火を付けては、吸うのを繰り返している。

─そういえば福吉さんは確か─一日に三箱の煙草は吸ってるはず─いや、それより多いかもしれない。


─廉命さんが、彼に先程のことを話した。


「結婚、かぁ………二人なら大丈夫でしょ」

「そうっすよね!如月さん十八歳だから、結婚も出「それは違う」

「………え?」

「ふぅ………まぁ、好きな人と家庭を築きたいのは分かるよ。でも、好きだけで結婚が上手くいくと思うか?俺はダメだった………ふぅ」

「あー、確か元カノの影響でしたっけ?」


─確かに、好きだけで結婚は上手くいかないのは私でも想像はつく。

─一言話す度に煙草を吸っては煙を吐いている福吉さんに対し─廉命さんは分かる範囲のことを言った。すると彼は煙草を落とし、踏んで消した。

そしてまた新しい煙草に火をつけ、吸った。

─そして福吉さんは語り始めた。その元カノについて。

「そうだよ。俺の家は…良いとは言えなかった。親父が酒狂いでよくお袋に暴力を振ってて、俺と二つ下の弟は怯えることしか出来なかった……それから親父から逃げるように生活してた」

「……弟…おるんやな……」

「お袋はパートを掛け持ちしながら俺と弟を女手一つで育ててくれたんだ。でも、俺が高校三年の時、お袋が倒れて…俺は医師になろうと決めた。死ぬ気で勉強して学費免除で医大生になった頃にはお袋の体調も良くなった…でも研修医になった頃…お袋は突然この世を去ったんだ」

「え………」

「もちろん、最期を看取れなかった…それと同時に……当時付き合ってた彼女から振られた。研修医の給料が低くて、振られたんだ」

「……あ、研修医…一年目で五百万弱…凄」

「奨学金免除だったし、金には困らなかったよ。でも…元カノに振られてから、女は皆金しか見てないって思っちゃって…」


─福吉さんは、酒に溺れた父に殴られる母親の姿を見て怯えたり泣いたりすることしか出来なかった幼少期を過ごしたらしく、その後は父親から逃げるように母親と弟と生活し、母が女手一つで彼とその弟を育て上げたものの、過労で倒れてしまい、それで医師になろうと決めたらしい。

─それで死ぬ気で勉強し、学費免除で医大生になった頃には母親の体調は回復していたものの、研修医になった頃には、母親がこの世を去ったという─。


「ふぅ……研修医の頃には結婚とか恋愛とかで忙しかった同期もいたけど、俺はその気になれなかった……俺も結婚したら、親父みたいになる予感がしてね……気付けばもう二十九歳だしな」

「二十九歳って…まだまだ若いでしょ」

「…結婚は諦めるつもりだった……でも、仁愛さんに出会ってからは、変わったよ…ふぅ」

「……いやアンタ話題変わるごとに四本くらい煙草無くなってるよっ!吸いすぎっ!」

「……なんで仁愛ちゃんなんです?」

「背中の縫合した時に彼女と色々話して、見た目も中身も凄く綺麗な人で…」

「それなら……そろそろ禁煙、した方がいいんじゃないですか?」

「まだしないよ……。今思うと、如月が俺のことをあの子に話してくれたから俺は素敵な女の子に出会えた。十歳くらい歳離れてるけどね…ふぅ」


――――――――――


─母親が亡くなってからも、彼は研修医として働いてたものの、精神的に辛くなって休職してる今に至るのだとか。

─かといって、医師という職を休んでるだけで、福吉さん自身は元気なのだが─。

─というか、如月さんは福吉さんの煙草の箱に興味津々なようだった。煙草は酒と同じように二十歳にならないと吸えないわけだが、十八歳の彼女は煙草に興味を持っているようだ。


「……福吉さん、それ…オレンジの香りの煙草…?ですか?」

「ふぅ………そうだよ。ニコチンの量も少ない方だし、よく吸うんだよねぇ……ふぅ」

「如月さん、君に煙草はまだ早いよ」

「………まあね。でも、カシス風味の煙草もある。一本吸うか?」

「では試しに……ふぅ…けほっ!けほっ!」

「ええ……余裕で煙草吸える福吉さん……大人や」

「そんなんだから、ノンアルのカシオレしか飲めないんだよ……ふぅ」

「カシオレ……?」

「カシスリキュールとオレンジジュースを混ぜたカクテルのことだよ。多分如月も飲みやすいと思う…ふぅ」

「大人……って、凄い」


─福吉さんにカシス風味の煙草を渡され、試しに吸ってみた。しかしむせてしまったが、ほのかにカシスの甘酸っぱい香りが肺や鼻腔に広がった。

─それに、俺は酒には凄い弱い。百九十センチ九十二キロという今現在の体格にも関わらず、酒には異常に弱い。ちなみに夜海は女性にも関わらず酒豪で、二日酔いという言葉を知らない。


「よし二人とも。ラーメン行くよ。ここは大人の俺が奢るから」

─如月さんが大人になるということは─きっと、俺の妻として─美しくなっていくということだろう。

─ラーメン屋にて、髪を結ぶ如月さんの横顔を見て、彼女の花嫁姿を想像しながら、ラーメンを待っていたのだ。そして後日─


「もう!狡い!なんで連絡しないで福吉さん達とラーメン行ったの!もう!」

「ごめんなさい……」

「舞姫ちゃんごめん…幾らでも奢るから許してくれ…ティラミスもいるか?それともアイス食べるか?パフェ食べるか?それとも…何か飲み物も…」

「ここから全部食べます。皆も協力して、ね?」

「「「はい……」」」


─俺達は如月さんを迎えに来てた舞姫さんの存在を忘れ、ラーメンを食べに行ったので、舞姫さんが拗ねてゴストにて夕飯兼夜食に付き合わされたのだ─。







……To be continued

閲覧頂きありがとうございました!

コメント、いいね、感想お待ちしております!

次回作もお楽しみに!では。

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