ココロで語る想い出
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「………はぁ。あの頃は楽しかったなぁ……」
「どうしたんだよ急に……」
「いや………なんか色々思い出しちまってさ……如月と出会ったのが懐かしいなぁとか」
「確かに半年経つけど色々あったよな」
「あぁ……中でもね……こんなのがあったんだよ」
─この日は加堂さんが見舞いに来てくれた。本来なら福吉さんも来る筈が、急用が入り、午後から来るらしい。
─相変わらずダルい体を起こし、話を続けた。余命は一年持つか─。そう、一年弱で俺はこの世を去るのだから、死ぬまでに思い出を語らせて頂きたい。確かあの日も、あの日も───様々な思い出があった。
─それは師茶鍋がスポーツ用具店に新しくアルバイトとして入る前のある日、仕事の終礼にて、廉命はあるものに怯えていた。それは─注射だった。
『え?まだワクチン打ってないの?』
『だって注射が……どうしても…』
『犬かっ!とりあえず、院長に連絡して打ってもらおうよ。店長…こいつ怪力過ぎます…』
『わんっ!そ、れだけ…はっ!』
『大丈夫?廉命君すっごい震えてるけど』
─それは、世間的に広まった某感染症にてマスクの着用義務が無くなり、むしろインフルエンザの予防接種が進んで行われていた。
─俺も加堂さんも、福吉さんも盾澤兄弟も、凪優も如月も皆インフルエンザの予防接種は受けたのだが───廉命だけは受けていなかった。
─何故なら─廉命は注射や病院が大の苦手だから。というよりも、それは嫌いに近いのだが─。まるで注射や病院を嫌がる犬のようで、激しく抵抗もするので──廉命は激しく抵抗していた。それは去年知ったことだが、廉命は注射という言葉を聞くと─犬のように背を向けては体を小さくしようとし、震えていたから。
『大丈夫大丈夫。まるで…注射を嫌がるわんちゃんみたいだ……こら!抵抗しないのっ!』
『ぐるるる…わんっ!注射…病院……やだっ!』
『…廉命君。この前希望君が僕のLINEに送ってくれた、如月さんの写真ありますけど、見ます?』
『わんっ!見ます……』
『よし……それなら予防接種打つよ!』
─幾ら二十代の男五人で廉命を抑えるが、彼の良過ぎたガタイのせいか、中々諦めてくれない─。幾ら犬でもそこまで注射を怖がらないのに─。注射を乗り越えた犬は、ご褒美をもらってるものの─彼に対するご褒美は─。
『え………』
『おら、さっさとお注射だ。チクッとすれば終わりだよ』
『きゃうわうん……わんっ!嫌っす!』
『いくら犬でも…そこまで注射嫌がらないだろ』
『……はぁ。鳳斗も加堂も、雷磨もダメだよ……あと生野も……ふう』
『ここで煙草吸うなよ…福さんなんかいい考えあるの?』
『ふむ……あ、如月。ちょっと』
『え、あ…はい……福吉さん…煙草吸っとるんですね』
『まあね…てかちょっとお願いなんだけどさ…』
─やはり、如月だった。福吉さんは何かを思いついたのか、丁度バックヤードにいた如月を呼び、彼女の耳を借りてはごにょごにょと話した。
『まあ。廉命……残念だが注射は打ってもらうからね』
『え………』
『あ、なるほど……』
『『『?』』』
『嫌だ嫌だ嫌だ……わんっ!』
『我慢しなさい…チクッと一瞬だ』
『廉命、大丈夫だよ』
『そうそう。大丈夫やで…廉命さん』
『如月さんも…なんで?』
『………ほら』
『っ!』
『手にぎにぎしとりゃ、怖くない…やろ?』
─そして次の日の夜─廉命は院長に予防接種を打ってもらった。
─本当に注射を嫌がる犬のようで、最初から最後まで犬のように震えていた。
『日出君……男なら注射を怖がらないだろう』
『いや…』
『……しかし、肩の筋肉が厚すぎて薬剤が全身に渡るか心配だが…』
『確かに、廉命はガタイ良過ぎますからね』
─如月が廉命の片手を両手で握り、院長が注射を打つ。強く目を瞑っていた紅い瞳も─涙を浮かべていた。
『……撫でて…ください』
『…ふふっ。よしよし…』
『よしよし〜!頑張ったなっ!』
『廉命さん…偉いで…ふふっ』
─しかも、椅子から立ち上がったと思ったら、俺の前でしゃがみ込んできて、撫でて欲しいと言った。
─されるがままに頭を撫でる。すると、廉命は嬉しそうにしていた。まるで飛行機耳をする犬みたいに、彼は嬉しそうだった。
─そして、如月の手を話すまいと必死でしがみついていた。
『廉命君、頑張りましたね』
『やっと打ったか…お疲れ廉命…尻尾も振ってるよな』
『ふふふっ……あははっ』
「ってことがあったよな…」
「うんうん。来年は注射克服を目標としてるらしいけど、デジャブ来そうな予感する」
「分かる。廉命は犬より注射嫌いだからな……」
「はぁっはぁっ!ごめん…遅れた」
─加堂さんと思い出を色々と語っていると、勢いよく福吉さんが病室から入ってきた。
─息を切らしながら、遅れたことを謝るが、彼が何をしていたか聞いてみた。
「実は……仁愛さんの……背中を治療…してて、さあ…はぁっ」
「まじか……確かに背中にケロイド出来たって如月から聞いたなぁ…」
「へぇ…それで、なんかあったんすか?めちゃくちゃ嬉しそうですけど」
「な、それは……その…」
「いやぁ…福吉さんにも春が来たのかー!ギリギリ青春してるね」
「とりあえず、今度話聞かして下さいよ…俺、恋愛相談得意なんで」
「いや……その…あの子、いやぁ…確かに可愛かったけども…っ!」
─何と、松寺仁愛の背中のケロイドを縫合していたのだという。彼女は体育の授業で転んで、背中にケロイドが出来たと如月から聞いたこともあった。
─何処か福吉さんは仁愛について、愛おしそうに話していた。その証拠に煙草に火を付けようとした手が震えていた。
「クロじゃねぇかよ……耳まで赤いし、らしくないよ」
「そうっすよ。福吉さんイケメンですし、頭もいいんすから、自信持って下さいよ」
「いや…福吉さんヘビースモーカーだからなぁ…」
「あー、でも…仁愛さんに俺の事知ってるか話してみたんだけど…煙草には慣れてるみたいで…なんか、父子家庭で父親が仕事でいない夜が多かったから、独りの夜には慣れてるみたい」
「だとしても…女の子の前で煙草吸うのは…ちょっとアレだよなあ…生野」
「いや、背中の縫合しながら彼女と色々喋ったんだけど、家庭環境の影響で煙草は慣れたんだって」
─そう。松寺仁愛は、十八歳とは思えないほど顔立ちや容姿が整っている。刺青やバチバチに開けられたピアスには─ある闇が秘められている。
─噂によると、彼女は十万年に一度の美女といわれておるが、福吉さんとは相性抜群に見える。
「と、とりあえず……俺達は仕事行くから、しっかり寝とけよ」
「おうっ!朝早くからありがとうね〜」
「良い子は寝んねしろ……また来るわ」
「へぇ…あの福吉さんが…恋なんて」
「なぁっ!意外だろ?」
「はい…いやぁ…これからが楽しみだよなぁ」
「ですねっ!」
「てか、夜海ちゃんとかなべちとか、どうなの?」
─その夜、夜海と師茶鍋が見舞いに来てくれた。同い年ということもあり、二人は気が合って意気投合したらしい。
─俺は二人に、今朝病院であったことを話した。まさか福吉さんが─恋をするなんて、思ってもいなかったのか、二人は─特に夜海は驚いていた。
─が、俺は気になり、二人の恋愛事情を聞いた。
「ええと…私は……その……」
「あ、夜海ちゃん…この前加堂さんのこと気になってるとか言ってましたよ!」
「ちょっ……くうちゃんっ!」
「あの暴力アメフト悪人面のあの加堂さんが…まじか…」
─すると夜海は、加堂霧也のことが気になってると打ち明けた。
─俺からすれば、あの暴力アメフト悪人面の彼が女性と付き合う想像がとても出来ない─。
─それよりも、その理由が欲しい─。
「実は花火大会の時…仁愛ちゃんや凪優ちゃんとかとはぐれて…刺青多くてガタイの良い男の人とぶつかってしまって…手をあげられるところに加堂さんが助けてくれて…でも余計なこと言わずに去ったんですけどね。ただ…その背中がやけに頼もしく見えたんです」
「それでか……悪人面だし特に俺に対しては当たり強いんだよねぇ…まあ俺は慣れてるけど」
「いやぁロマンチックですね…廉命君のとはまた違います」
「あぁ。あいつなりに好意は伝えてるけど如月がなぁ……」
「いつ見てもあの二人は尊いですっ!」
「そういう師茶鍋はどうなんだよ?」
─が、加堂さん自身も─俺達には見せない一面があるのだと知った。
─といっても、恥ずかしそうに話す夜海と、興味津々の師茶鍋の差が凄い──。俺はふと気になり、師茶鍋に聞いてみた。
「え、私………あ、あぁ…」
「…なんか、ごめん」
「くうちゃん…そういう時もあるよね」
「ちょっと!二人ともっ!」
「悪い悪い…でもこの前如月と廉命言ってたぞ?師茶鍋が来てから作業効率が急激に上がって仕事しやすくなったって…」
「嘘……」
「あいつら、意外と素直じゃねぇのは似てるからなぁ……二人とも、これからもあいつらをよろしくね」
─師茶鍋の恋愛事情は───一言で表すとノーコメントだった。まあ、彼女は顔や性格も悪い方ではないだろうが───いや、ここは何も言わないでおこう。
─それに─この前如月と廉命が話していたのだが、二人は─師茶鍋が来てから作業効率は一気に上がり、仕事がしやすくなったと話していた。
─そのことを彼女に話すと、師茶鍋が満面の笑みを浮かべた。その日はやけに脚が重く、嫌な予感がしていた。
『この子なんか…産むんじゃなかったっ!』
『なんで治りもしない病に金を払い続けてきたんだ俺達は…っ!』
『うあ……あう……』
『また顔色悪い………何度私達を困らせるのよっ!この…ろくでなしっ!』
『あう……ぅぅ…っ!』
『その顔見ただけでムカつくっ!脚なんかいらないだろっ!』
『そうねっ!どうせ歩けないんだからっ!こんなの…斧で……っ!』
「……はぁっ!はぁ……はぁ……」
─そして二人は帰り、俺は消灯の時間となり、いつもと同じように目を瞑った───のだが、今日見た夢は、赤ん坊になった俺が─両親に斧で脚を切断される夢だった。その斧をぶんっと振りかざす親の顔が歪んで笑っていた。
「……おはようございます…ってあれ?」
「は……よ……」
「希望君っ!顔色…凄い悪いですよ……?」
「雷、ちゃん……実は悪い夢見て…」
「夢……?」
「……なんか、赤ん坊の俺が…親に脚を切り落とされる夢…」
「すっごい夢…そういえば昔よく悪夢見てましたよね…その度に僕や兄貴、福吉さんと加堂さんや院長が…希望君の傍で寝てたの、思い出しました」
「確かに……懐かしいなぁ…(今の俺は…あの頃とは違う。そして恐怖を押し返す力がある)」
─翌朝。冷や汗でシーツが湿っている最悪な目覚め方で起床した。更に目の下にクマが目立ってしまっていた。しかも色白なので余計に目立ってしまうのだが。しかも髪も寝癖がついていて、鏡を見た時に驚いた。
─しかし昨日も今日も、心で語る思い出を振り返るのだった。
……To be continued
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次回作もお楽しみに!では。




