アルバム
この度は閲覧頂きましてありがとうございます!
「わ〜懐かしいそれっ!確かあの時、生野メイド服着せられてたよね〜」
「いや、それ……黒歴史なんすけど…」
「まあまあ。でも…ぶはは……ぷぷ…っ」
「福吉さん笑ってんじゃん!院長まで…」
「お前、中性的な顔立ちだしチビだし…ぷくくっ…!似合っ…やべ。笑いすぎて腹痛てぇ…」
「ふぅ……」
「あ、皆で花火した時の写真もある…!あの時、花火の火花が髪に当たりそうで死ぬかと思ったわ…」
「大袈裟だろ…てか勝手に写真撮られてんじゃん」
─俺が再入院するようになってから数日後。午前十時─店長と加堂さん、福吉さんが仕事前に見舞いに来てくれた。店長の携帯に写ってる写真は、高校の時─院長室にて、舞姫と付き合い始めた時に病院で過ごした仲間でやった、罰ゲームの様子だった。そう…舞姫が持ってきたのか、それはメイド服だった。
─確かに俺は肌も色白で、男性にしては声も高めかつ身長が低めで割と細身だ。そして何よりも─この中性的な顔立ち。一応一重まぶたではあるが、二重まぶたにもなれる。それに、女性と勘違いされることも意外と少なくはない─。無理やり舞姫にメイド服を着せられ、化粧もさせられ──俺は人生初の女装を経験した。鏡で見てみると、そこには可愛くなった俺が映っていて、それがそのまま写真にも映されたのだ─。そして何故か、女装した俺に頬を赤らめていた男も意外と多かった。それから数年経過した今でも、全然女装は出来る。
「懐かしいなぁって思って……確かほら、これ皆で撮ったやつだよ」
「本当だ……煙草吸う前の俺だ」
「あれから福吉さん、だいぶ吸う量増えましたよね……そん時からメロンパン好きで…」
「それは…医大生の時の実習で、ここの売店のメロンパンによく助けられてさ……」
「懐かしい……君達が大人になった今でもこうして繋ってるとはな……」
「院長……その……勝手に休職してて、ごめんなさい……」
「福吉君、頭を上げなさい。少なくとも私には君の力が必要だ。医師は燃え尽き症候群が職業病でもおかしくない……医大生の時点で、そのことは分かってただろう?」
─他にも店長かスマホの写真アプリで、十年前くらいに撮った写真をスクロールしては懐かしいとばかり言う。それには病院の駐車場で皆で花火をした時の写真や、院長室で恋バナやゲーム機で遊んだ時の写真、当時の雷磨が人気のない場所で愛さんにヘアピンを渡す時の写真や当時の店長が加堂さんと殴り合いしてる時の写真──その後にアイスを食べて和解する二人の写真。
とにかく、一枚一枚のそれにより、今の俺達を物語らせていた。
─院長もそれを見ていて、共感の旨を伝える。確かに彼の言う通り─過去はそれぞれだが、俺達はこの病院で出会って以来、長年の付き合いがある。そして──この盾澤鳳斗は、俺の憧れでもある。彼が勧めたランニングシューズがあったから、今の俺がいる。あの時彼が精一杯話したランニングシューズの機能やデザイン、その全てに俺は魅了され、いつかそれに携わる仕事がしたいと考えるようにもなっていた。
─今思えば─彼の誘いで皆、あのスポーツ用具店で働くようになったわけだが、最初はシューズのことは一つも分からなかった─。でもその当時に感じた意図があったからこそ、今がある。
─俺が白血病で少しでも疲れにくくするために、クッション性の良いランニングシューズを勧めてくれた──そして、更にクッション性を高めるインソールも、教えてくれた。
─盾澤店長はスポーツのことだけではなく、本当に俺のやりたいことを教えてくれた。だから今、シューフィッターとして働いてる今がある。
─それに、俺が売り場に立ち始めた時は必ず店長が傍にいたが、俺一人で売り場に立ってるはずだった───。でももう、あの売り場に立つことは厳しいらしい。
「はい…」
「君が良かったら、眼鏡と同時に医師の仕事をして欲しいんだ。私はどうしても助手は君が良いんだ」
「……院長」
「実は最近、給与を理由に、私に助手をしたいっていう医師が多いんだが、私は皆断ってる。何故なら…君にしか、私の助手は務まらないからだ」
「でもあの時…俺……無断欠勤しちゃって…(そんな…あの時逃げた俺に……院長の助手なんて務まるのか…?)」
「福吉君…それはもう何年も前のことだ……希望君が…ずっと君の様子を話してたから、私は納得出来た」
「確かに…福吉さんが研修医になってからも入退院してましたよね」
「……そうだよ。福吉さんの性格上、院長に限界と言えないと思ったからね……話してて良かった」
─というのは、院長の診断もあって─売り場に立つことは難しいと言われたのである。
─まだ院長に恩返し出来てないというのに─と思っていると、ある一枚の写真を見て、福吉さんが話し始めた。
─その写真には、煙草を吸う前の彼が映っていた。確か煙草一本で、一日に必要なビタミンCの約半分が失われるそうで─今の福吉さんの喫煙量は一日五箱だろうか。
─しかし、それだけ吸っても福吉さんの肺は正常で、しかも肌荒れもしていない。まぁ、その写真と比べれば少し老けたかもしれないが─。
─福吉さんは─研修医という職を休職してるようで、院長に頭を下げた。すると院長は頭を上げるように言い、自分の助手は彼じゃないと嫌だと言った。確かに、院長の助手が福吉さん以外の人間となると、中々想像がつかないが─。
「わ〜!懐かしい……二十年前の私達って、こんなに小さかったのね!」
「うんうんっ!お姉ちゃん…赤ちゃんの時から美人だよね」
「そういう舞姫も赤ん坊の頃から美人だぞ。ちなみに、年齢別にアルバムは作ってあるからなっ!」
「年齢別って……大袈裟じゃない?」
「娘の成長記録となるアルバムを見ながら飲む酒が美味いんだよ。ページを捲りながら思い出を酒のツマミにするんだ」
─その夜、舞姫と愛さんが見舞いに来てくれた。今朝スマホの写真アプリで見た写真について、二人に話す。
─姉妹とはいえ、笑う顔はほぼ似てるのに─性格は正反対だ。
─院長も、二人のアルバムを年齢別で作っていることを自信満々に彼女達に話すが、二人にとって予想外に重かったのだ。
「やめてよお父さん…恥ずかしい」
「中々家には帰ってこれないから、院長室にアルバムを運んだんだ。せっかくだし見てみよう」
「そういえば、幼少期の舞姫とか愛さんの写真とか知らなかったな」
「希望君もきっと驚くぞ〜?」
─院長は院長室から沢山のアルバムを両腕で抱えて持ってきた。確かに、四十冊くらいはあった。まずは一歳の時のアルバムを見た。
「ほら、生まれたての時の舞姫で、当時一歳の愛だな」
「院長…若いっすね……あれ、結構イケメン」
「懐かしい……この時、中々ミルク飲んでくれなくてよく泣いてたわね」
「もう……あ、私が歩き始めた時の……確か、一歳になる前だったかな」
「足型の判子もあるんすね……ちっちゃいな」
「当時の私は研修医になりたてで金銭的にも厳しかったが、二人が小学生になった頃には医師となったのだ……」
─ざっくりではあるが、愛さんと舞姫さんの二人分─二歳、五歳、十歳─と二人の成長記録を見ていた。
「ほら見てくれ。愛が中学生の時、反抗期だったんだ」
「あぁ……あの時愛さん荒れてましたよね」
「しょうがないでしょ……バスケ部の主将と生徒会長してたんだもん。お父さんに強く当たってたし……お父さん臭いとか言ってたわね」
「覚悟はしていたが、いざ言われると結構グサッとくるぞ」
─反抗期の中高生時代、大学の入学式や卒業式の写真、バスケ部の写真、七五三や成人式の写真など煌星家の沢山の思い出を見た。
─舞姫と愛さんは一部始終、顔を真っ赤にしながら楽しそうにアルバムの写真を見ていた。すると院長は、もう一つのアルバムを俺に差し出した。
「これは……?」
「希望君のアルバムだ。舞姫が中学生の頃、勉強そっちのけで夜遅くまでアルバム作ってたんだ…そのせいで英語が全く出来なくて、愛と私に叱られてたなぁ」
「へぇ……どれどれ……可愛いイラスト…相変わらず舞姫、字綺麗だよね」
「ありがとう…まあお姉ちゃんにはめちゃくちゃ怒られたけどね…」
─そこには─煌星家との思い出が一枚一枚映っていた。
─実のことを話すと、中学生になって以来─両親と会っていない。が、院長と、舞姫と愛さんも傍にいてくれるようになって──今に至る。
「お、確かこれ…初めて院長室でクリスマスパーティしたよなぁ!懐かしい…」
「ほんとだ!確かお父さんが張り切ってさつま地鶏を取り寄せて七面鳥作って持ってきてたよねぇ…美味しかったなぁ…」
「あぁ。舞姫に、花のネックレスもプレゼント出来て良かった…ふふっ」
─その夜、俺達は一ページずつ、過去の思い出に浸るのであった───。
─この一枚一枚の写真が、これまで歩んできた俺の人生なんだと教えてくれたのだ。
……To be continued
閲覧頂きありがとうございました!
コメント、いいね、感想お待ちしております!
次回作もお楽しみに!では。




