黒猫を拾った
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「うえっ!猫……じゃない……?」
「にゃ…?」
─終業後、加堂さんや舞姫が話してた例の黒猫を探していたわけだが──俺が見つけたものは、猫じゃなかった。人間─いや、女子高生だった。彼女は痩せ細っていて、頬も痩けていた。もしかしたら彼女は親に置き去りでもされたのでは、と思い、彼女に聞いた。
「こんなとこで何してんの?」
「…………」
─しかし答えない。俺は自販機で飲み物を買い、彼女にもう一本手渡した。俺はミルクティーで、彼女にはカフェオレを渡した。するとチビチビ飲んでいたので、もう一度聞いた。ここで何をしてるのかを─。また暫く黙ったが、彼女はようやく口を開き、色々話してくれた。
「私……大阪から、ここまで歩いて来てん…」
「はぁっ!なら飯とかどうしてたんだよっ!」
「………食べれる時に食べて……時にはネカフェで泊まってました……でも三日前にお金が尽きてもうて……ここで死ぬのを待っとった……」
「何だと……よし、ちょっと待ってろ」
─目を合わせてくれなかったが、分かったことがある。彼女は大阪で生まれ育って、ここまで歩いてきたことだ。しかも手持ちの少ない金はネカフェや飯に当て、三日前に金が無くなり、ここで野垂れ死ぬのを待ってたらしい。
─流石に身の危険を感じ、俺は舞姫に電話した。
<希望君…?どうしたの?>
「急にごめん…実はさっき話してた黒猫…女子高生だった……三日ぐらい何も食ってないらしいから、家連れて来てもいい?」
<えっ…そうなの?わ、分かった。他にも食材あるから、その子のご飯も作るね!>
─何とか舞姫に事情を話し、彼女の手を引いて車に乗せようとしたが、彼女は手を振り払った。もう一度彼女の手首を掴んだが、それと同時に、彼女の瞳に見惚れてしまった。緑と紅い瞳─そう、彼女はオッドアイだったのだ。
─緑というよりは─ビリなんとかという色に、紅は廉命のそれとはまた違う─カーマインという色の種類だったと思う─。
「オッドアイ……初めて見た……生まれつき?」
「………」
「めちゃくちゃ綺麗じゃん…」
「っ!ふーっ!」
「うぉっ!こら……暴れるなっ!痛っ……大丈夫だよ。俺は怪しくない。ほら、ここの社員証」
「…………」
「(どう見ても信頼されてない……)」
─その瞳に見惚れていると、見るなと言わんばかりさっきより強く手を振り払った。勢いがあったのか身体が吹っ飛びそうだったが──俺はめげずに、彼女を連れようとしていた。
─この機会を逃したら、一生後悔しそうだから。
─まずは彼女に信用してもらうため、社員証や運転免許証を見せたが、ふうんと言わんばかり──そして猫が尻尾を地面に叩きつけるように、不機嫌だった。もしかしたら、彼女の前世は猫かもしれない─と思った時、彼女は逃げようとしていた。
「おいっ!」
「………ふーーっ!」
「っ!ま、待て……っ!」
「…ふしゃーっ!」
「悪かったよ!でも……お前を助けるやつは俺で最初で最後かもしれないぞ?話は後だ……いい加減乗れっ!」
─逃げようとした肩を掴んだ。どうやら俺のことは信用してないようだったが、彼女を怯ませ、隙が出来たところに彼女を担ぎ上げ、車の助手席に乗せた。シートベルトも締めたのを確認し、俺は車を運転した。時間的に大通りが渋滞しており、少しでも安心してもらうよう彼女に話し掛けた。
「そういや名前…聞いてなかったな。名前何?」
「………如月、夢玖…」
「如月ね……俺は生野希望。よろしく」
「……ふーっ!」
「暴れるなって!暴れるならこうだっ!」
─彼女の名前は如月夢玖といった。だが、車の中でもお構いなく暴れるのを止めてくれない。その姿は、不機嫌な猫そのもので──常に猫の威嚇の声を上げている。本当に、前世は猫だったのかもしれない───。そして引っ掻かれるのも時間の問題だったので、渋滞が落ち着いたところで近くのコンビニの駐車場に停車し、彼女の手首や足首、両膝をシューレースで拘束した。これ以上暴れたら、車も俺も危ないからだ。
─そう。シューレースは靴を履く為に使うのが一般的だが、俺はそれ以外にも使っている。パーカーの紐にしたり、食パンの袋のクリップ代わりにしたり、舞姫の髪留め代わりにしたりなど──。
「何…するねん……っ!」
「お前が暴れたら俺も怪我するし、車も壊れちまうから、家に着くまでこのままだからな」
「動けへん……うぐぐ……っ」
「口閉じられてないだけでいいべ…行くぞ」
─運転を続け、俺達の住むマンションに着いた。エレベーターで移動し、俺達の住む部屋に辿り着いた。鍵を開け、ドアを開けると、エプロンを身に纏った舞姫が俺達を出迎えてくれた。
「希望君お帰り!お疲れ様」
「ありがとう」
「てか何この状態……もうっ!女の子を紐で縛ってはいけません!めっ!」
「さーせん…」
「もう大丈夫だから、解くからね」
─部屋の中に入り、如月の拘束はそのままにして、話を続けた。相変わらず如月は俺達を強く警戒してたが、舞姫が軽く怒ったので拘束を解き、舞姫が飯の用意をしてくれた。ついでにコンビニで如月の下着も買ってきたそうだが、本当に黒猫だと確信してたのかチュールまで買ってきてしまったらしい。
「まず…加堂さんと舞姫が話してた、黒猫の正体は……こいつ、如月だったよ」
「わぁ……でも凄い痩せてるね…お風呂も……そうだ!一緒にお風呂入っていい?着替えは私の貸すし。一応…さっきコンビニで下着買ってきたから…あと…黒猫だと聞いてチュール買っちゃった!」
「……私、チュール食べへん……」
「そうそう…こっちは俺の彼女…煌星舞姫っていうんだ。料理上手で美人だろ〜?」
「よろしくね〜」
「それでな、如月は大阪からここまで歩いてきたんだとよ…しかも三日ぐらい何も食ってないらしい」
「嘘……それなら、すぐにご飯食べよう!希望君が帰ってくるの遅いから、カップ麺三個も食べちゃった…でもお腹空いた…」
─この日の夕飯は、鮭のムニエルとゆで卵、ミネストローネに白飯、茄子の南蛮漬けだ。俺の病、白血病は─ドライフルーツや発酵食品、漬け物や生ものは基本食べてはいけないため、舞姫が考慮して、いつも飯を作ってくれるのだ。まあ彼女の作るお菓子は皆ダークマターになるが─。
─食卓を囲み、如月の前にも飯を置くが、彼女は食べようとはしなかった。やっぱりまだ俺達を、信用出来てないからだろう。
「へぇ…大阪出身かぁ……もしかしたら関西風の味付けでも良かったのかも」
「……」
「ほら、食えよ。舞姫の料理は銀河一だからな」
「食べへん…」
「なら私が食べ「っ!」
─冗談で舞姫が如月の分も食べようとすると、凄い勢いで茶碗を取り、白飯を一口かき込んだ。すると如月は、一筋の涙を流し、ボロボロと大粒の涙が溢れていた。それほど辛い過去を乗り越え、福島まで来たのだろう。舞姫はひたすら如月の頭を撫でていた。
「ぐすっ……ヒック…ぐすっ……ひぐっ!」
「……よく頑張ったね。よしよし。辛かったでしょう?これで分かったよね…?私達は味方だよ」
「俺達はお前の敵じゃない。味方だ。少しずつでいいから、俺達のこと、信頼して欲しい」
「ぐす……ヒック…っ!」
「ふふっ。美味しい?味…濃くない?」
「はい………こんな美味い手料理…初めてや…!ぐすっ!」
─舞姫は食事を中断し、如月を抱き締め、背中や頭を撫で、如月は三十分くらい大泣きし、やっと落ち着いた。その頃には、飯は冷めていた。でも、初めて味わった雰囲気のお陰から、温かく感じた。
「ふふっ。辛かったよね…苦しかったよね。よしよし………後でお話しいっぱい聞くから、まずはご飯、食べて欲しいなぁ」
「……はい」
─如月が落ち着くと食事が再開し、どんどん料理が減り、あっという間に完食し、おかわりも二回はした。舞姫が如月と風呂に入るため、その間に俺は皿洗いとシンク掃除をしていた。皿洗いを終え、一時間後に、舞姫と如月が風呂から上がってきた。風呂上がりの如月は先程とは別人だった。
「た、た……舞姫さん、たわわやった……湯に浮いとった……」
「夢玖ちゃんもこれから大きくなるよ!あ、希望君お風呂どうぞ」
「ありがとう。ついでに洗濯機回しとくわ」
「ありがと〜!よし、髪乾かすよー!」
─俺が風呂に入ってる間に、如月の髪を乾かしたり、スキンケアもしたようだった。先程まで身なりが酷かった如月は──すっぴんでも可愛い乙女になっていた。
「夢玖ちゃん髪サラサラだー!猫っ毛だね。あとこの猫耳…癖なんだね」
「猫…?」
「よしドライヤーお終い!私の髪長いから、乾かすの手伝って〜!」
「はい」
─俺が風呂から上がると、舞姫や如月の髪はサラツヤになっていて、肌も艶々だった。次第に疲れたのか、如月はすぐに眠ってしまったので、舞姫と話し合いを始めた。
「舞姫…こいつ、親戚とかいないんだってよ」
「親戚ねぇ……施設に預ける?」
「……如月、オッドアイが原因で、関西中の養護施設を転々としてたから…また施設に預けるのは如月にとって拷問かもな」
「そうだね……そうだ!お父さんに実家の部屋借りれるか聞いてみる!」
─舞姫は如月を施設に預けると話してきたが、オッドアイが原因で関西中の養護施設を転々としてきた彼女にとって、また施設に預けるのは拷問だろうと思い、それは却下となった───。
─頭を悩ませていると、舞姫が閃き、彼女の父親に電話を掛けた。
「お父さん、夜遅くにごめんね…あのね……」
「うん……うんうん……」
<私が面倒見たいが、月に二回しか家に帰れないからな……確か、舞姫のマンションの契約内容に、三人まで可能で同居人が出来た場合、管理人に一声掛ければオッケーだったぞ?>
「ええと……つまり…?」
<舞姫達のマンションで、部屋を貸すってことだよ>
「……それならいいけど…」
<とりあえず明日会わせて欲しい。健康状態が心配だ。ついでに愛とも会わせよう>
─ひとまず俺と如月が出会った経緯や、今晩は家にとまらせることを話し、明日、舞姫の父親の職場かつ病院に行くことが決まった。次第に眠くなってきた中、如月が目を覚ました。するとオッドアイの色が緑と水色─セルなんとかブルーだったと思う。その色に変わっていたが、如月はそれに気付かなかった。自然と吸い込まれたが、水色の瞳の方に目をやると、何かを感じた。
「すう……すう…」
「……そういや如月の制服のポッケに入ってたけど…生徒手帳落書きされてるし悪口も書かれてる…高校三年生か………」
「それなら…私の制服のお下がりもあるし…」
「だな…とりあえず俺明日休みだから、夕方如月を南北北病院にせでくわ。定期検診ついでにね」
「うん、お願いね…ふわぁ…」
「…ん………私、寝とったん……?」
「……寝てたぞー。ぐっすりな…てか如月…オッドアイの色変わってるぞ?」
「えっ……ほんまですか?」
─そういえば飯を食ってた時は、緑とオレンジだったが────そうか。彼女は感じてることでオッドアイの色が変わるのか───。それはさておき、水色の瞳には俺のはずが違うものが映っていた。それには──健康な俺の姿が映っていた。
「如月、水色の目から何か見えるぞ…?」
「ほんま…?」
「うん……いつもの俺じゃない奴が映ってるよ」
「そうなん…?私、伝えたいことや思っとることで、オッドアイの色、変えられるんやなぁ……」
「色、ねぇ…」
─オッドアイが珍しかった、瞳の色が澄んでいたとかではなく─どおりで、彼女の瞳に心臓を射抜かれたわけだ。やはり─彼女との出会ってしまった以上、何気ない何かが─今までの日常が大きく変わっていくのだとあらためて確信した。
「すう…すう……」
「すう……ゴロゴロ」
「俺も寝るか…如月、丸まって寝てる…猫かよ」
─こうして、大阪から来た女子高生・如月夢玖との出会いを通じて、多くの人に"生きる希望"を与え続ける、物語が、幕を開けたのだ。
─出会って数時間なためか、まだまだ如月について他にも知らないことが、沢山あったことを─俺と舞姫はまだ知らずに、ぐっすり眠ったのだ。
─如月を助けたのは俺のエゴかもしれないが、どうしても放っておけなかったのだ。
……To be continued
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〔キャラクター紹介①〕
名前 : 生野希望 (いくの ゆめ)
血液型 : A型
誕生日 : 5月1日
身長、体重 : 164cm、52kg
MBTI : ESTP
好きなもの : キウイ、ミルクティー、シューズ、舞姫
嫌いなもの : ブロッコリー、ピーマン(シンプルに食感が無理)
趣味・特技 : シューズ磨き、ゲーム、ヘアアレンジ
当作の主人公。某スポーツ用具店でシューズ売り場を担う、21歳のシューフィッター。重度の白血病を患ってるため、食べられるものや出来ることは限られているが、一緒に働く仲間や舞姫を精一杯大切にしている。大阪から歩いて来た少女、如月夢玖との出会いを境に、沢山の意図を広げて、皆に生きる希望を与えるようになる。
閲覧頂きありがとうございました!
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次回作もお楽しみに!では。




