インソール
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「はぁ……インソール、売れへん」
「確かに、あの人忙しさでインソールのこと教えてなかったよなぁ……あ、そうだ!」
「それで……」
「わざわざ俺のとこに来た、と……?」
「ごめんなさい……店長、急遽出張が入っちまったんです!」
「生野さんに教わりたいんですっ!」
「そこまで言われたら…仕方ねぇなぁ。とりあえず、インソール幾つか持ってるから、それ見ながら学ぼうか」
─ある日の夜、見舞いに如月と廉命が来た。時間的には消灯だが、院長が特別に許可を出したことで、俺達三人は今、喫茶室を貸し切っている。
─最近忙しかったからなのか、インソールについて深く学んでいなかったようで、わざわざ俺のところに来て教えて欲しいとのことだった。
─一度ため息をついてから─鞄から数種類のインソールを出す。
「確か、インソールは土踏まずの形状によって提案してあげるというのは教えたんだっけな…?」
「はい……それで…土踏まずの種類って」
「あ〜、説明しようとしてたけど、俺倒れちゃったもんね……よし、復習しようか。って、廉命…寝ないの」
「すう…わんっ!ね、寝てなんか…っ!」
「とりあえず、大事なところしか話さないからね……まず土踏まずには…けほっ!けほっ!」
─コクコクと首を上下させてる、廉命が眠りそうなところを指摘するが、勢いよく起きた。如月も猫のように欠伸をしているが、とりあえず俺は二人に、スマホで土踏まずの画像を見せながら、まずは土踏まずの種類について教えたが、何度か説明の途中で息が乱れていた。
「まずは扁平足。土踏まずが無くて、疲れやすいんだ。腰や足を痛める原因にもなる。生まれつきだったり、後天的になったりする」
「あー、確かに雷磨さん…よく疲れるって言ってたかも」
「後天的な扁平足には、肥満や運動不足、激しい運動や足の怪我、加齢とか様々な原因があるんだ」
「そんな原因で扁平足になるんすか…?」
「ああ。肥満だと体重を支えきれなくなってアーチが潰れるからな」
「なるほど……だからインソールあるといいんですね」
「そうっ!インソールあるのと無いとじゃ、違ってくるからね。次はニュートラルなんだけど、着地の際にかかとが適度に内側に倒れ込んでいる状態のことなんだ。余分な力を必要とせず、スムーズな足運びが可能なんだよ」
─人間の足の土踏まずには三つの種類がある。
─一つ目は、ロータイプ─別名扁平足ともいえる土踏まずは、生まれつきでなるものと、運動不足や激しい運動、肥満などの様々な後天的な原因でなるものだ。なので疲れやすくなり、足の怪我にも繋がりやすいため、インソールは必須だ。
─二つ目は、理想の形ともいえるニュートラル。その土踏まずは、余分な力を必要とせず、足運びをスムーズに出来る。
「そういえば、俺…ブーツのインソール、作らないと……」
「残念だけど、お前の靴のサイズに合うインソールは少ないよ?あ、それなら…今度院長に外出許可出して、俺がインソール作るよ」
「おー!あざっす!」
「ついでに加堂さんと、如月の分も作るわ」
「やったー!」
「あははっ……そして最後は…ハイアーチ。これは遺伝、筋肉や靭帯、足の骨格異常、神経筋疾患が原因なんだ」
「神経筋、疾患……?」
─最後はハイアーチ。これは遺伝的要因と、筋肉や靭帯の異常、神経筋疾患、足の骨格異常、後天的な発生によってなるものだ。
─これには、ハイヒールやヒールの高い靴を履くことが多い人や、かかとが外側に倒れ込みやすく、内反捻挫の既往がある人にハイヒールが当てはまることが多い。
─しかも、アーチが衝撃吸収の役割を果たさなくなり、かかとと前足部に集中して圧力が掛かることで、皮膚が硬くなり、タコや魚の目が出来やすくなる。もちろん疲れや痛みも感じやすいので、インソールはあった方がいい。
「なるほど……すやぁ…」
「こらっ!とりあえず、今日はこれくらいにして、今度院長に外出許可取って、インソールを加工してるところを見せるよ」
「ありがとうございます……愛先生も、ハイヒール履いてること意外と多いから、もしかしてハイヒールなのかも……」
「かもね……あとはね…病院の先生からインソールを処方されてる、って人もいるんだけど、その人はアーチが崩れてる可能性が大きいから、クッション性に特化してるものを勧めてあげて」
─カリカリとメモを取る如月と、コクコクと眠そうに首を上下させる廉命。猫は夜行性だと知っているが、犬はそうでないらしい。
─土踏まずについての説明が終わり、少し談笑していると、院長が喫茶室に入ってきた。
「院長…?」
「すまない……盗み聞きするつもりはなかったんだ……その……」
「院長も……最近疲れやすい言うとるような…」
「…ハッハッハ。流石如月君だな。希望君…君が良ければ…私のインソールも、作ってくれないか」
「逆にいいんですか?」
「もちろんだ。もちろん外出許可も出すから、よろしく頼むよ」
「っ!良かった……はいっ!」
─なんと、如月が院長の言いたいことを読み取り、院長は俺にインソールを作って欲しいと頼んできた。
─もちろん俺はそれに乗り、交渉の握手を交わした。病のせいか、その手は震えていた。
「元のシューズのインソールに合わせてカットしてあげるのが基本ね。でもシューズによっては切る必要が無いものもある。あと、切るところはつま先のところだけだ」
「あ、このインソール……懐かしいっ!私、中学生の頃、生野さんに勧めてもらったやつだっ!」
「このインソールねえ…舞姫も使ってた」
「後で可愛い彼女さんいると知って、尊いってなりました……」
「おい……」
─師茶鍋空亜─初対面でも距離が近いと数年ぶりにそう感じた時だった。
─確かにあの時、俺は当時高校生だった彼女に、女と間違われた記憶がある。中性的な顔立ちと肌の白さ、男性にしては高い声と小柄な体により、女性と勘違いされるのは慣れてるのだが──。
「思い切り切って…あとは微調整として変なところを切って…シューズに入れる。院長、履いてみてください」
「よし……っと……おおっ!さすが希望君だな…」
「いえいえ…院長の治療と比べればこんなものは全然ですよ」
「いいや…娘の大切な人に、インソールを作ってもらえるとは……私は幸せだよ」
「彼女さんって今…看護学生なんでしたっけ?」
「ああ。舞姫は来年…看護師の国家試験を控えてる。その姉が愛で…如月君の担任の先生なんだ」
「担任の先生ってことは…教師っ!」
「そうっ!愛さんは凄く綺麗で、教師になっても凄く綺麗で……実は誰よりも人思いで…如月さんが羨ましいです。こんなに綺麗な人の授業を受けれるなんて」
─それに、雷磨はあれから十年近くくらい、愛さんに片想いをしている。愛さんの話になると必ず反応する。俺や院長もその事は完全に理解していて、愛さんの父親でもある院長も、愛さんを彼に任せたいとも言っている。
「相変わらず、雷磨君は十年前くらい前からゾッコンだな……まぁ、君なら愛を任せたいよ…愛も、たまに君のこと話すし、私はそれを望んでる」
「院長……詳細よく分からないけど、凄い縁があるんですねっ!」
「あぁ。君は確か、師茶鍋君と言ったか…私は煌星癒。四十五歳独身の医者だ。ここで働く人は皆深い関係だ。悪い人では無さないから、安心して働きなさい」
─いつになれば雷磨と愛さんは結ばれるのか、と毎日のように思ってはいる。師茶鍋は俺達の深い関係に対し感激している。初対面にも関わらず、ものすごく関心を持つことで、彼女なりに人との距離感を見つけているのだろう─。
─院長は師茶鍋は自己紹介し、安心して働くように言った。何故だか知らないが、師茶鍋からも、何かしらの意図が感じられた。
「まぁ、少しは分かった?大丈夫?」
「………」
「最初は失敗したっていいよ。俺も最初は失敗して理不尽なあのババアにブチ切れされたから、なっ!」
「あはは…私、雷磨先輩から生野さんのこと聞いて応募して良かったです!」
「けほっ!けほっ!師茶鍋だったっけ?四文字は長いから……なべちって呼ぶわ」
「ふふっ!皆さん、よろしくお願いします」
─インソールは、足は勿論─人間の動きを支えるものである。
─俺を支えてくれる大切な人々《もの》は、すぐ目の前に広がっていた。
……To be continued
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<キャラクター紹介⑬>
名前 : 師茶鍋 空亜
血液型 : AB型
誕生日 : 9月9日
身長、体重 : 157cm、45kg
MBTI : ESTJ
好きなもの : 韓国料理、林檎、韓国アイドル
嫌いなもの : 雲丹(美味しくなかった……)
趣味・特技 : 韓国ドラマ、勉強、ランニング
二十歳の医大生で、某スポーツ用具店で新しく入ったアルバイトの学生。南北北病院に祖母の見舞いで来てたが、夢玖と出会い、意気投合するように。シューズを担当しており、廉命を揶揄うこともある。高校時代、周りとの距離感に悩んでいたが、希望との出会いを機に少しずつ距離の取り方を覚えるようになる。雷磨の後輩で、愛や舞姫に対しオタクになるが、韓国好きなのか彼女達に韓国コスメについて話すこと、夜海と呑みに行くことが楽しいみたい。
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次回作もお楽しみに!では。




