恩を彼に
この度は閲覧頂きましてありがとうございます!
「ありがとうございますっ!」
「…何とかシューズも売れたし、俺達二人で販売してるけど、カツカツだね」
「そう、ですね……ふわぁ」
「(…猫の手も借りたいってこの事なんかな?)」
─受験シーズンに入り、限られた時間でアルバイトをしていた。盾澤店長と話し合い、勉強時間や学力、負担などを考慮し、アルバイトは週に三日入っている。それは─廉命さんと凪優も同じだ。
─とはいえ、生野さんというベテラン─いや、社員がいない今、廉命さんと必死にシューズを売り捌かないとならないのだ。更に勉強に力を入れているため、心身の負担はかなり大きかった─しかしある日、私達にある手が差し伸べられた。
「如月さん、廉命君、ちょっとお話いいですか?」
「雷磨さん…?かまへんですけど…」
「何すか?」
「実は……新しくアルバイトの方が来ることになっていてそれで…シューズに入ってもらうんです」
「ほんまですかっ!」
「はい。医大の後輩なんですけど…丁度アルバイト探してたみたいなので…話してみたらやるって言ってくれて…今週の土日、来ますから」
─何と、新しいアルバイトの人が、シューズコーナーに入ってくれることだ。雷磨さんの医大の後輩で今週の土日に来るとのことで、勉強に明け暮れ、その日がやってきた。その日の朝礼で彼女が来た。
「えー、今日から新しく入ったアルバイトの…」
「師茶鍋空亜ですっ!皆さんよろしくお願いしますっ!」
「師茶鍋さんにはシューズに入ってもらうし、レジもやってもらうから…皆で彼女をサポートしよう!師茶鍋さん、よろしくね」
─金髪でギリギリ結べる長さのショートヘア、片目を隠す長い前髪、そしてアンバーのような琥珀色の瞳を持つつり目。それが、師茶鍋空亜だった。朝礼が終わり、アルバイトが始まった。まだ会って間もないので私達は軽く質問をした。
「師茶鍋さん医大生…今何回生です?」
「はい。今二年生ですね」
「へぇ…なんでここを選んだの?」
「実は…生野さんに恩があるからなんです」
「「恩………?」」
「はい…だから、生野さんに恩返し出来ればと思って…南北北病院でたまたま祖母の見舞いに行ったら、生野さんがいてビビっと来たんです」
「それでタイミングよく雷磨さんが…ってわけか」
「はい…彼には、あの時お世話になったので」
─何と、生野さんに恩返しがしたくここに応募したとのことだった。彼が師茶鍋さんにしたことは希望というバトンを渡していたのだ。それは彼女が高校の駅伝大会前にて起こったことだった。
『はぁ…っ!はぁっ!よしタイム縮まった!』
『皆〜!タイム縮まりました……私、アンカーやります!あと一本、皆で走りましょう』
『……うっざ…あんたさ、よく距離感考えないでうちらに話し掛けられるよねぇ…ダルいわ』
『てかガチ勢なのあんただけだから…あんたが駅伝辞めたらやる気出るのに…邪魔なんだけど』
『そんな…っ!』
『消えて…てか視界に入ってこないで』
『邪魔…』
─秋の駅伝大会前、彼女は受験シーズンにも関わらず駅伝大会出場に向けて練習していたが、同じチームの一部が彼女を思っていなく、それでも彼女は走り続けた。
─しかし酉見山競技場で一人練習していたところ、悲劇は起こった。何と、誰よりも走り続けていたせいで、足の裏のアーチが潰れてしまい、上手く走れなくなったのだ。それを救ったのは生野さんだった。
─彼女は練習でもベストを尽くしていたため、それが出来なくなり、二日間学校を休み部屋に籠った。しかし、インソールでアーチの潰れを解消出来ることを知り、このスポーツ用具店に向かったという─そして生野さんに出会ったのだ。
『うーん…アーチが潰れてるなら、そのロータイプを使おう。扁平足は疲れやすくて、歩行も不安定になる…それに痛いだろうからクッション性あるものにしよう』
『……扁平足…アーチが潰れたら…足は二度と治らないんですよね……?』
『まあ時間や努力は要るけど、潰れたアーチを復活させることは可能だよ…一番手っ取り早いのは通院なんだけど、マッサージやインソール、自分に合った靴を選ぶことも効果あるぞ』
『……本当ですか?』
『あぁ。俺の彼女の父ちゃんが医者なんだけど、これ名刺…。南北北病院で俺の名前言えば治療してもらえるよう言っとくね』
『……っ!』
「……ってことがあって……生野さんには本当に感謝しかないんです」
─そして、自分の足と向き合いながら駅伝大会で優勝をし、更には福島医大で特待生で合格し、奨学金の一部免除も得られたのだとか─。
─もしあの時生野さんがいなかったら、私はここにはいないと、師茶鍋さんは言っていた。
─確かに、今思うと私も、彼に救われた命があった。あの日、彼が手を差し伸べてくれなかったら私は間違いなく野垂れ死んでいた。だから、彼には感謝しかない。彼に対する感謝で、私と師茶鍋さんは意気投合をしたのだ。
「師茶鍋。今日のアルバイト、どうだった?」
「いやあ…如月さんと意気投合も出来て、一日で部門の仕事覚えました!てか夢玖さん可愛いですね」
「そうか…雷磨から話聞いてると思うが、如月と廉命がいない分も…頼むぞ」
「……はい。私、人との距離感バグってるってよく言われるんですけど…ここの人達は優しいですね」
「でしょ?ここの店舗はメンバーは少ないですが、色んな過去を経てきてその分深い関係で結ばれてます」
─こうして、師茶鍋さんもアルバイトに入って一ヶ月が経過した。十月に突入したものの、秋が来てより世間はもうすぐ冬に突入しようとしていた。
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「くしゅっ!」
「夢玖、最近くしゃみしてるけど大丈夫?」
「うん…かまへん……」
「受験生は年が明けるとよりピリピリしますからね…生野さんの病室は…どこです?」
「ここです」
─そして次の日のバイト終わり、私と凪優は師茶鍋さんの車に乗って南北北病院に来ていた。勉強や文化祭の準備で忙しく、ここ一ヶ月生野さんのお見舞いに来ていなかった。それに今日は師茶鍋さんもいるので新鮮だった。
─病室に入ると、生野さんが眠っていたのだが、最後に見た時と比べて痩けていた。つまり彼の余命はあと七ヶ月。点滴の滴る音、白いシーツ、息の弱さが─それを表していた。
─師茶鍋さんは生野さんの顔を見ると目を丸くし、彼女が新しくアルバイトとして入ったことを話すと彼も喜んでいた。しかし彼女が話した発言により、雰囲気は静まった─何故なら
「生野さん……痩せとる……」
「そりゃあ…高熱で中々飯も食えねぇしよ……あはは。てか…この子は?」
「〜っ!わ、私…あの時あなたに助けていただいた、師茶鍋ですっ!」
「あの時…あー。駅伝の…久しぶりだな」
「実は師茶鍋さん、新しくアルバイトとして入ったんです」
「ほんとか!ボソッと話は聞いてたけど、頼もしいなぁ…師茶鍋、頼むぞ」
「はい……てか生野さんって、男性だったんですね」
「「「えっ」」」
─師茶鍋さんは生野さんを、女性と勘違いしていたから。確かに生野さんは男性にすれば背も低く細身で、肌も色白く声も高い─そしてまつ毛も長く、一重だが目もぱっちりしている。つまり、生野さんは中性的な顔立ちなので、女性と間違われるのも納得した。
「おま…えぇっ?俺、男だよ?」
「えぇー!ずっと女の子だと思ってました」
「いやいやっ!ちゃんと男だから!」
「え〜?だいぶ前に病院行って…院長に生野さんの写真見せてもらった時…メイド服着てた写真だったのでてっきり…」
「あれは女装だから…」
─女装の写真のことで赤面しており、気持ちが落ち着いたのか生野さんは師茶鍋さんに、どうしてスポーツ用具店を選んだのかを聞いた。
「師茶鍋…なんでここを選んだの…?」
「……実はこの前、祖母の見舞いで来た時に生野さんが入院してるのを見て、恩返しがしたくなって、雷磨先輩に相談して、紹介してくれたんです」
「そっか……そういや二人は高校同じだったからなぁ。今じゃプロゲーマーとしても稼いでるからな」
「はい…これからは恩返しとして皆さんをサポートするので」
「それは嬉しいけど…無理しないようにな」
─こうして、師茶鍋さんの恩返しは出来た。
─今は受験シーズンのため中々アルバイトに入れないが、いつかは私も─恩返しがしたい。
─受験が終わった後、つまり余命一ヶ月の彼には何を送ろうか、頭の片隅で考えていた。
……To be continued
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<キャラクター紹介⑫>
名前 : 盾澤 雷磨
血液型 : A型
誕生日 : 11月14日
身長、体重 : 172cm、59kg
MBTI : ISTJ
好きなもの : エナジードリンク、ゲーム、愛
嫌いなもの : ミョウガ(生姜かネギか分からない)
趣味・特技 : 勉強、ゲーム、鳳斗のサポート
某スポーツ用具店でアルバイトをしてる、22歳の医大生。幼い頃、交通事故で両眼を失明し掛けたが、入院していた時に愛と出会い、彼女に一目惚れして、今でも好意を抱いている。頭脳明晰でずっと成績は学年…県内…いや、全国トップ。ただ兄の鳳斗とは違い、細身だが運動神経もそれなりにある。実はアルバイトの他にプロゲーマーとして稼いでいるが、兄・鳳斗のサポートにはかなり苦戦している。スポーツ眼科医を目指していたが、煌星に憧れ、そして愛と再会して、医師を目指している。最近の悩みは上司・福吉の喫煙量が日に日に増えていくこと。
閲覧頂きありがとうございました!
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次回作もお楽しみに!では。




