秋の訪れ
この度は閲覧頂きましてありがとうございます!
『う…ぐはあっ!』
『生野さん……?』
『おい、どうし……生野…っ?』
『げほっ…うっ!』
『まずいっ!廉命、救急車呼べ!』
『生野っ!しっかりしろっ!』
─俺が倒れた日。その日は平日で客は少なかったので、入荷物や返品作業、出荷作業を全てバックヤードでやっていた。午前中に皆終わり、売り場に行こうとした時─何かが込み上げてくるような感覚が来て、そして吐き出してしまった。今までにない量の血で、俺は倒れ、意識を失ってしまった。それから覚えてはいなかった。ただ、高熱で魘されていたのだから。
─次に目を覚ますと、天井が見えた。そして腕に繋がれた細い管を見て、すぐに病院だということを察した。
「ううう…頭痛いっ!」
「血が…っうっ!けほっ…けほっ」
─当然再入院が決まった─そして、余命八ヶ月とも宣告され、この事実を受け入れたくなかった。何故なら─俺には如月という─希望を繋げるべき存在が在るのだから。高熱で魘され、意識も朦朧としていた。ナースコールを押そうとしても体を動かすと痛く中々出来ずにいた─。
─熱によりまた意識を奪われたが、意外な人物が俺を助けてくれた。
「………ん……誰だ?」
「起きたか…見舞い来たのに高熱でダウンしやがって…」
「加堂…さん……に…」
「生野。見舞いのキウイ持ってきたぞ」
「……釜淵…?」
「実は加堂君が、生野の見舞い行きたいけど、俺一人じゃあれだからお前も来いって言われてさぁ…途中で冷えピタやボカリも買っちゃって…素直じゃないよねえ…」
「あ?………生野、あの時、悪かった」
─加堂さんに釜淵だった。釜淵は最近新しくスポーツ用具店に仲間入りした二十七歳の男で、キャンプやスノーボードなどのアウトドアコーナーを担当しているのだ。加堂さんとはアメフト仲間だったのだが、二人の間には─俺達の知らない闇が募っていた。あれは俺が倒れる四日前のことだった─。
――――――――――
『今日から新しく入った…釜淵さんだ。何か一言お願い』
『えー…今日から新しく入った釜淵築です。加堂君とは……っ!』
『加堂っ!』
─その日から新しくスポーツ用具店に、釜淵が仲間入りした。彼が自己紹介をしようとすると、真っ先に加堂さんは彼を殴り飛ばした。俺達が彼を止める頃には─既に遅かった。加堂さんは容赦なく、釜淵を殴り続けた。
『おらっ!ふんっ!あぁっ!今更俺の前に現れやがって……ふんっ!何の用だよっ!』
『加、堂…君っ!久し…ぶりっ!』
『加堂さん、やめてあげてっ!』
『やめろっ!加堂…やめなさいっ!』
『ふん…っ!おらっ!…………俺の…脚を奪いやがって…ぐすっ!』
『ストップストップ…もう暴力は十分でしょ。とりあえず暴力は止めて、話を聞こうじゃん』
『あぁっ?』
『生野…今のうちにシューレースで加堂さんを拘束するんだっ!』
『うす…大人しく…しろっ!』
『チビのくせにうるせぇんだよっ!』
─何とか鳳兄と福吉さんで加堂さんを止め、俺は加堂さんの手首足首を拘束した。ちなみにだが─俺の手に掛かれば力が強かろうとシューレースでの拘束は朝飯前だ。だが、この日は力が入らなかったのか上手く最後にリボン結びが出来なく、そして加堂さんにも殴られた。
─何とか落ち着き、加堂さんは話した。
『俺は…引退前の練習試合で…この馬鹿に…釜淵に足を固定されて、アキレス腱断裂しちまったんだ。こいつとは大学違かったけど、アメフトでもゲームでも気が合ったから、余計にムカついた』
『俺も…あんなことはしたくなかった……でもある日聞いたんだ…加堂君と同じチームの人達が、加堂君の悪口言ってたの…そして試合では加堂君一人が戦って、あとの皆はサボり……都合良く思われるのは、可哀想だと思った…だからあの方法しかなかったんだ…』
『あ?わざとってことだよなあ…?』
『落ち着いてっ!まあ…スポーツで都合よく思われるのは俺も嫌だよ。加堂さんの気持ち分かる』
─アメフトの引退前の練習試合で、釜淵に足を固定され、アキレス腱を断裂してしまったのだ。しかし釜淵にも理由があり、加堂さんが都合よく動いて、あとのメンバーはサボっていたり、加堂さんの悪口を言っていたことが嫌になり、やるしかなかったのだという─。
─そこで鳳兄も共感の言葉を投げ、釜淵は加堂さんに向かって頭を下げた。そして鳳兄は俺に、シューレースを解くように言い、シューレースを解いた。しかし加堂さんの両脚に巻かれたサポーターを見ると、思っている以上にしっかりしている。
『確かに……俺は加堂君の残りの人生を奪ってしまった…それなのに何事もなかったかのようにしたかった…でもどうしても忘れられなくて、勤めてた会社を辞めてここに来た……一生自分を許さないし、君に許されないのも分かっている…っ!』
『………実はね、彼はわざわざ俺のところに頭下げて相談してきた。そしてここより給料や福利厚生のいい会社を辞めて、あんたに謝罪する為にここまでしてくれたんだよ…』
『……………お前』
『…生野。シューレース解いてあげて』
『お前、シューレースで手足拘束してたのかよ…せめて綱にしろよ』
『やだよ…俺綱引き嫌いだもん』
『そういう問題じゃねぇだろ……』
『まあ…確かにアキレス腱断裂して入院した時、見舞いに来たのは、同じチームでもない他でもない釜淵、お前だけだったよ……その時にお前がしたこと、分かってたんだ』
─何と、加堂さんもあの時─釜淵には彼のアキレス腱を断裂させた理由があったことを知っていたのだ。確かに釜淵のしたことは、彼の人生を壊すことでもあり、彼からすれば一生消えない罪ではあるが──
『でも…お前が俺の脚を壊したお陰で、こんなに恵まれた仲間も出来た。まあ…脚を壊したことは許さねぇけど、今日でこの件は終いだ…釜淵』
『加堂君……っ!うん…俺、君の分も走るからその……これからもよろしく』
『あぁ…』
『うぅぅ…俺は感動した!どりあえず雷磨とど福吉さんは…釜淵ざんの手当して…』
『兄貴やめてよ…恥ずかしいから。釜淵さん…まずは消毒しましょう』
『………良かった』
『良かったな…釜淵。もしもの時は加堂を支えてやれ』
─加堂さんと釜淵は五年程の時を経て和解したのだ。その時に交わした握手が─まるでアメフトの決勝後のようだった。加堂さんはアキレス腱断裂用のサポーターをしており、院長からも走るこを控えるように言われてるため、代わりに釜淵が彼をしている。そして釜淵は大のゲーム好きで、すぐにあの場に馴染んで、すっかりスポーツ用具店の一員になれているのだ。
『まあここの店舗は…加堂さんが来てからアルバイトやパート、社員がどんどん辞めていってね…その時の加堂さん、凶暴で当たりも強かった…でも今はだいぶマシになったよね』
『あぁ…確かにあの時の加堂は凶暴で手に負えなかったし、本社から何度もクビにしろって言われてたけどな…加堂。俺達はお前がいないとこの仕事は楽しくない…だから、これからもよろしくな』
『………うっす』
――――――――――
「何のことだっけ…?」
「だから、釜淵のついでにお前を殴ったことだよ」
「あー…めちゃくちゃ痛かったよ」
「あの時お前鼻血止まらなかったもんな。本当にごめん……だが、こうしてまたお前といれるとはな」
「うん…てか生野は何の病気なの?」
「俺は…白血病で余命と限られてるんだ」
「馬鹿かお前…なんでそんな重要なこと、俺達に黙ってたんだよっ!」
─そうだった─。加堂さんの隣にいるのは、 最近新しく入ってきた釜淵で、彼らは和解したことを高熱で忘れていた─。しかも釜淵には俺の白血病について説明をしそびれていたので改めてすると、ボソッと限られてる余命も話してしまい、加堂さんは俺の胸ぐらを掴んだ。
「落ち着いてっ!」
「……もうそこまで来てたのかよ…死が」
「ぐはっ!けほ……まあ…如月が今の俺を受け入れてくれるか、不安だったし」
「なんで如月ちゃんなの?」
「…俺はもう残りの時間が限られてるし、普通を失ってる……でも如月と出会った時、そのオッドアイに魅了され、そして未来が見えた……だから俺は、如月に希望を繋ぎ、普通を教えてた…でもそれも、もう終わりだな」
「………如月ちゃん、確かにあの子はオッドアイだし、瞳の色も独特…普通を知らないって何?」
「あいつは大阪出身で、オッドアイが原因で親に捨てられたり、関西中の児童養護施設を転々としながら周りの人に毛嫌いされてた…だから手を差し伸べたくなったのかもな」
─そう。如月が今の俺を見て悲しむ姿を思うと、職場の人達に打ち明けることすら出来ずにいた。如月に普通を教え、希望を繋いだことにより、如月は日に日に笑顔が増えていった。だからこそ壊したくない─。そう話すと釜淵は話してきた。
「…如月ちゃん、この前寒くなってきたって言ってた…東北の秋ってこんなに寒いんやなって話してた…」
「まあアメフトに最適な寒さだけどな」
「えっ…アメフトって秋から始まるのっ!」
「アメリカの大学フットボールの伝統もあるけど、他のスポーツのスケジュールとの競合を避けるために秋の始まりに設定したからなんだよ」
「まー…関西人からしたらここは寒いべ…」
─如月が東北の秋を寒いと言っていたことを。確かに季節の変わり目である今、如月は風邪気味になっている─。あの時俺が院長に言った言葉が響いたのか、彼女は第一志望である福島大学に受かるために日々努力している。
─その一方で限られた余命は残りの日数を更新しているが、今は如月を見守っていようと─思った。
……To be continued
閲覧頂きありがとうございました!
コメント、いいね、感想お待ちしております!
次回作もお楽しみに!では。




