祈願
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「へぇ…如月、福島大学受けるんだ」
「うん…生野のことを思って、彼女から選んでくれたんだよ」
「そう、かぁ……ぐすっ…!」
「とりあえず、彼女には君の余命のことも話した…それに今日の放課後来る」
「如月には心配掛けたなぁ…」
「しかしどうするつもりだぁ…?廉命も如月さんも…凪優ちゃんも受験シーズンなんだぞ?ただでさえうちの店舗は人数少ない…そこは理解してるか?」
「……………はい。俺は…」
─如月の進路が決まった翌日。俺は院長からそのことを聞いて胸を撫で下ろしていた。良かったと言葉にしたかったが、それを鳳兄は否定した。如月達が受験シーズンに励むため─彼女達のアルバイトが減る分をどうするかの問題だった。
「にしても入院生活ってこんなに暇だったっけ…」
「……そういえば、如月と出会ってから五ヶ月は経ってるはず。普通を教えたお陰で、俺は如月の笑顔を守ることが出来ている。普通を失った俺が……ははは。ありえないよな…」
「はぁ…如月早く来ないかなぁ…退屈だしなんか書くか」
─今のところ症状は出血と高熱だけだが、院長が様子見て抗がん剤治療も視野に入れると言っていたのでそのつもりでいる─。しかし最低限の医療しか知らない如月から見れば、白血病で痩せこけ、髪がなくなった俺は別人だろう。
─だからせめて、抗がん剤治療で苦しむ前に何かを書きたい─そう思い、メモ帳に書き始めた。
「……舞姫のウエディングドレス姿……凄く綺麗なんだろうなぁ…」
「禁煙した福吉さんに、悪人面じゃない加堂さん……あと一年もしないでお別れかぁ…うっ!」
─落書きにはなってしまうが、残り一年弱で俺はこの世界とお別れをするのだから、妄想でお絵描きするのも自由だろう─とシャーペンを進めるが、途中でペンが止まり、メモ帳の髪に涙が零れ、滲んだ。やっぱりまだ生きたい、まだ死にたくないという気持ちが強いからだろう。
─また血を吐いてしまい、さすがに考えるのを止め、俺は一度眠りについた。次に目を覚ますと午後の五時で、俺は誰かに起こされ、嫌々起きると如月と夜海、凪優に仁愛が来ていた。
「……のさん……生野さん」
「…ん、ああ…如月に夜海ちゃんに凪優助?それと…この子は?」
「初めまして。松寺仁愛です…花火大会で会ったでしょう?福吉さんに、生野さんの病室聞いて探したんです」
「へぇ……俺は生野希望。如月からよく話は聞いてるよ…ぐすっ!俺は嬉しいよ…っ!如月が…こうして…っ!友達ぢゃんど出来で…ぐすっ!」
「………大袈裟やなぁ。それより聞いてや。私達進路決まったんやで?」
「あぁ…聞いたよ。如月、福島大学のスポーツ健康科学科に進むんだってな…夜海ちゃん達も?」
「仁愛と夜海は幼児心理学コース、凪優ちゃんは特別支援生活科学コースを受験します」
「そっか……ちなみに廉命も、スポーツ健康科学科を受験するらしいな」
─なんと彼女達も、福島大学を受験するそうで、一緒に勉強してるそうだ。ただ、全員同じコースではないので求められる偏差値に誤差はある─。それに、俺の知る限り如月は─皆は成績が良い。現代国語と英語は舞姫と愛さんに、数学や物理・化学は福吉さんや雷磨、歴史は加堂さん、そして商業の科目は皆舞姫に教えてもらい、彼女達が必死に努力しているのを俺は見ていたのだから。
─こうして、俺の闘病生活と共に如月君の受験シーズンが幕を上げた。
――――――――――
「そう。ここはね…如月さん。覚え早いね」
「そりゃ…周りにバカにされたり置いてかれるんは嫌なので…」
「……そっか(……てかさ…)」
─生野さんが倒れてから数日後。バイトがないある日、南北北病院の院長室で俺達は勉強をしていた。後から夜海、仁愛、凪優も合流するのだが、三人は一緒に行くらしいので、俺は如月さんと勉強していた。スッキリとしてる間取り、そして綺麗な机にソファ、棚や観葉植物。それらの空間が如月さんの身を包んでいた。
─そして隣には彼女が座って勉強をしているわけだが、彼女のノートに目をやると、癖字だが丁寧に、そして補足も細かく書いていて分かりやすかった。たまに猫の落書きもあるがそれも愛らしかった。
─でも何だろう。隣だし距離が近過ぎるせいか、全く勉強に集中出来ない。当然隣なので、如月さんの甘くていい匂いが俺の脳と心臓を支配して、集中出来ないのだ。
「(如月さんいい匂いし過ぎて…勉強に集中出来ない…てか化粧してるし服も髪も可愛いし…!クソ…心臓がバクバクうるせぇ……)」
「…廉命さん、この問題、どの公式で計算すれば…?」
「あ…ええとね…これは反比例だから…この式で計算してみな」
「なるほど……廉命さん、めっちゃ頼もしいやんっ!」
「(…傷だらけの俺が…彼女を笑顔に出来てる…)」
─気を紛らわす為に携帯を見ると、夜海からメッセージの着信があり、見てみると、あと十分ぐらいで着くらしい。それまでの時間は─ひたすら自分との戦いだった。
─俺が如月さんに勉強を教えてることで彼女が分からなかった問題を解決出来て、凄く笑顔になっている。その可愛い笑顔を隣で見るだけでも満足だったが、一瞬だけ俺の心臓に闇が着火した。
─本当に俺は、如月さんを守れる男になれるのかが不安なのか─俺は聞いた。俺が怖くないのかを。優れたガタイはともかく、顔や体に派手なケロイドや傷の縫い跡が残っているため、怖がられることが多いのだ─。
「あのさ…如月さん……俺が怖くないの?」
「えっ…急にどないしました?」
「いや…その……俺、顔に派手なケロイドあるじゃん。それでよく子どもに怖がられるんだけどさ…如月さんは怖くないのかなぁって」
「………怖ないです。実は生野さんから廉命さんの過去は聞いとるんですよ。大切な弟二人を必死に守って出来た証やと思います。まあ初めて会った時は怖かったです。でも…今の廉命さんはかっこええと思います」
「〜!(それって……)」
「…それって…人として「ごめん遅れたー!」
「……夜海、よっ」
「うわぁ!二人ともこんなに距離近くて…」
「廉命君…どんどん進展してるね」
「はぁっ!べ、別に…隣に座りたいなんて言ってねぇし…」
「受験と書いて恋と読む、か……夢玖、抹茶のお菓子あげる」
「おおきに…」
─しかし如月さんは、今の俺をかっこいいと言ってくれた。それってつまり─一人の人間として、なのか。それとも異性としてなのか─勢いで聞こうとしたが、夜海達がやってきたので、気まずかった。
─時々夜海や仁愛に先ほどのことを弄られつつ、俺達は勉強に励んだ。休憩も挟みながら大体三時間は経過しただろうか。せっかくなので、帰りに生野さんのお見舞いに行ってから帰ろうとなり、彼の病室を尋ねた。
─顔を見ると、高熱で顔色は悪かったもののいつもの生野さんに変わりはなかった。近況報告や闘病頑張ろうと話をしていた時、彼は吐血をした。赤黒い血がシーツに─そして彼の入院着に染み、彼の死が迫っているのを分からされた。
「お、皆……受験勉強はどうだ〜?」
「めちゃくちゃ捗ってます。廉命さんが色々教えてくれて…仁愛、化学が苦手で…」
「そりゃ良かった…院長が院長室で勉強していいって言ってくれたし、やりやすいだろ。あと仁愛ちゃん、化学は福吉さん…まあ院長の元部下に聞くといいよ」
「あー…この前夢玖ちゃん迎えに来てた、銀髪でサングラス掛けて煙草吸ってた……」
「まあ…」
「俺は皆が進路に向かって進んでいくのを見て、俺も闘病頑張らなきゃなぁって思っててさ」
「相変わらず高熱っすか……とりあえずボカリ置いときます」
「ありがとよ。皆…如月をどうか頼む……ぐはっ!」
「「っ!」」
─そして、俺達に如月さんを託すと話してきたのだ。当然その発言に唖然とし、雰囲気は静まった。生野さんがいない日常─そして生野さんと死別した如月さんの姿が想像出来なかったからだろうか。しかし如月さんの顔を見ると、彼女の瞳の色が変わっていた。いつもは緑とオレンジなのに、アックで見た時と同じ─片方が紅い瞳だった。
─その後、俺達は解散した。如月さんは後で舞姫さんが迎えに来るとのことなので、彼女が帰るまで傍にいた。そして質問を変えて彼女に聞いてみた。何故彼女の瞳の色が変わったのかが気になったのだ。
「ねぇ如月さん…」
「はい」
「片目…紅くなってるけど」
「へっ!ほ、ほんまや…」
「無意識で瞳の色変えられる感じなの?」
「半分無意識で…残りの半分は自力でこんオッドアイの色変えられるんです……この前鏡見た時、自分でオッドアイの色変えられるって分かってんで」
「そうなんだ…やっぱり生野さん、心配?」
「はい……最近よく寝れへんし…寝ても悪夢を見て何回も目覚めてん……」
「………そっか」
─何と無意識でオッドアイの色が変わったり、自力で変えられたりするらしい。しかもそれは伝えたい事や感じてる事によって色が変わるのだとか─。しかも、それだけ生野さんが心配なのか最近は寝ては悪夢を見て、夜眠れないらしい。
─確かに、先ほどの如月さんの紅い瞳には、とても想像出来ない、最悪な未来が映っていた。言葉では表せない何かが映っていたのだ。次第に如月さんは俯き、小さく泣いた。
「ぐすっ……ヒック…ぐすっ!」
「如月さん………」
「嫌や!生野…はんっ!死なん…といて…やぁっ!今度一緒にゲームする言うてた…やんかぁっ!」
「………君は抱え込み過ぎ。泣くなら俺の胸で泣いて」
─彼女は綺麗に泣く。その姿を見られたくないあまりなのか、それとも彼女を安心させたい一心なのか、俺は彼女達胸に抱き寄せ、肩と後頭部に手を添え、抱き締めた。
─彼女の顔が俺の胸に埋まり、如月さんが泣き止むまで抱き締めていた。どうか、この高鳴る心臓の音が聞こえていませんように─そう願いながら俺は、如月さんを抱き締めていた。神に如月さんと生野さんに、笑顔が戻ってくる日を願って─。
「(どうか神様……生野さんも如月さんも…笑顔になる日が来ますように…)」
……To be continued
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<キャラクター紹介⑩>
名前 : 盾澤 鳳斗
血液型 : AB型
誕生日 : 6月23日
身長、体重 : 176cm、75kg
MBTI : ENFJ
好きなもの : 鰻、スポーツ、雷磨
嫌いなもの : 酒、加工肉(筋肉に悪いじゃん!)
趣味・特技 : 筋トレ、ランニング、ジム
某スポーツ用具店の店長である、24歳。
雷磨の兄で、内向的な彼とは正反対で明るく、人前に立つリーダー的存在。加堂と希望を仲裁しつつ、スポーツ万能で、学生時代は運動部の引っ張りだこだったが、それは女子にモテたくて自分が利用されてたことに気付き、人を踏みにじるスポーツが嫌いになった。スポーツ全般得意で、鳳凰のように速く美しく動き回る。この物語の始まりと言えるスポーツ用具店にメンバーを集めた張本人で、希望にスポーツの楽しさ、働く大変さなどを教えた。とてもイケメンなため、モテるが、彼は筋肉とスポーツに恋している。
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次回作もお楽しみに!では。




