タイムリミット
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「げほっ…!げほっ……!」
「また血が出てる…(俺の余命はもうそこまで来てるのかよ…)」
「(最近まで大丈夫だったのに…でもここで俺が倒れたら……如月に普通を教えられない…そして……)」
─希望を与えることも出来ないのに。職場のトイレで一人、口から何かが込み上げ、吐き出してしまった。その色は赤黒く、すぐに血だと判断出来た。どうやら、俺の命の短さを示してるようだった。でもここで俺が倒れたら、如月の笑顔を青春を奪うことになる─。だから、黙っていた。
「如月……足大丈夫か?」
「はい…でも結構痛みます」
「そりゃ色凄かったからな…」
「うん…一応テーピングして冷やしてるけど…やっぱり体育の授業に出るのは難しいって」
「歩くのも辛いベ?一応店長にも話しといたから安心しな」
「はい……私のせいで…ぐすっ!」
「あれは事故だよ…そういう時もある」
─仕事から帰ると、如月が足を怪我していた。俺も店長に事情を話し、帰宅がてら様子を見たが、内出血が酷く、足の一部が紫色になっていた。ちなみに福島弁で、くすんだ紫をぶんず色というのだ。
「こりゃぶんず色だなぁ……暫く安静だな」
「そうだね……痛そう…」
「(…言えない。俺の病が、また牙を剥こうとしていることを……やばい、また血が…っ!)」
「ちょっとトイレ行くわ」
「うん…夢玖ちゃん、ご飯食べれそう?」
「(……そりゃあ、この二人の顔を見れば、隠してた方がいいよなぁ…)」
─この前の検診では問題なかったのに、最近は近距離を歩くだけで息切れをし、夜に熱が出ることも増えている。でも─俺は─死にたくない。
─そして、この日から、舞姫や如月、職場の人達に─病の再発を隠す日々が始まった。本当は俺だってこんなことをしたくない─でも、どうしても如月の笑顔と舞姫の笑顔を、壊したくなかったのだ。病に苦しみながら月日は流れ、如月は夏休みに入った。
「海…初めて近くで見た…」
「福島ではね…海というよりは湖で、泳いだりするの」
「湖…なんやな…ここは」
「………よしっ!ビーチバレーしようぜっ!」
─まずは、如月に海を─湖を見せたいと思い、院長に頼み、日が昇る前に出発し、伊縄代湖に連れてきてもらった。俺達も水着を着て、彼女と遊んだのだが───舞姫と愛さんの水着姿の破壊力があったのだ。
─ただでさえ美人なのに、豊満なバストのせいで水着が可哀想なほど胸に食い込んでいたのだ。両方ともはち切れんばかりの胸と谷間が強調されていて、目のやり場に困っていた。
─それとは別に、水遊びやビーチバレーを楽しむ愛さんや舞姫、如月を見て、余計に病気の再発について話せなかった。俺は途中で抜けてシートに座っていると、院長が俺に話し掛けてきた。
「ふふっ…楽しいっ!」
「これが海水浴…」
「湖水浴よ……湖と太陽、綺麗でしょ?」
「うん……大阪には綺麗な海とかなかってんから、遠くから淡路島眺めとったなぁ…」
「楽しそう…っ!」
「希望君……娘達が楽しそうだ……」
「そうですね…如月、めちゃくちゃ楽しそうです」
「良かった……しかし、良かったのか?舞姫達に黙って」
─これで良かったのかと。俺はそれに対し良かったのだと答えた。だって─普通を失った俺が、こうして如月に希望を繋いでいて、そして彼女の笑顔も、舞姫の笑顔も、俺の生きる理由になっているのだから。
─ビーチバレーから砂遊びをしていた如月が俺のところにきて、あるものを見せた。それは─小さなカニだった。その他にも舞姫も貝殻などを俺にくれた。最初は如月、よく笑うようになったなぁと関心していたが、現実はそうでもなかった。だって─初めての海や湖なのにも関わらず、素手でナマコやカニ、ヤドカリを捕まえてるのだから。
「はい……これで…良かったんです。普通を失った俺が…こいつに…如月に…"普通"を、希望を繋いだんすよ…だから、俺がもし死んだら、如月の生きる理由も無くなりますし…」
「そうか……」
「生野さん見てや!ちっこいカニ!食えるんかな?」
「食えねぇよ」
「希望君。貝殻あげるっ!ふふっ」
「生野さんこれ見て!ナマコー!」
「うわあああっ!馬鹿…戻してこいっ!」
「あとワカメやヤドカリも見つけてん」
「如月君…?可哀想だから海に帰してきなさい……」
「あー…お父さんと希望君、海の生き物ダメなのよ…海に帰してあげて」
─そして写真も撮ったのだが─写真に映る如月も舞姫も愛さんも院長も笑顔だった。しかし鼻から血が垂れ、俺の顔の部分に垂れたことで、写真の時の俺の表情は分からなかった。
─そして八月末、寿賀河の花火大会があった。その日は二時間ほど早く店を閉め、皆で行った。仕事を終えると、凪優や如月は俺達の部屋に来て、着付けや化粧をした。ちなみに夜海や仁愛も来ていて、一緒に着付けをし、皆で出発をした。
─席は福吉さん達が確保するらしいので安心して行けた。如月は初めて見る人混みや屋台に怯えていたが、次第に慣れてくれた。
「…廉命君、今日の夢玖ちゃん可愛いよねえ」
「はぁっ!べ、別に…可愛いとか思ってねぇし」
「またまたぁ…廉命さん、これ夢玖ちゃんと食べて下さいっ!」
「えぇ…如月さん、一口…あーん(何のつもりなんだよ)」
「にゃあ〜!クレープっ!はむ…うみゃー!」
「………ん。この味…ミックスベリー味か……って!(嘘だろ…俺如月さんと…関節キスしたっ!)」
「廉命君顔真っ赤〜!」
「うるせぇっ!」
─県内最大規模の花火大会なので、その日の寿賀河市の人口密度は、想像の倍高かった。しかし、皆と見る花火は、とても綺麗だった。それと同時に、初めて舞姫と見た花火を思い出した。当時の俺達は高校生で、付き合いたてだった。浴衣姿の舞姫は、誰よりも綺麗で、花火よりも美しかった。
『希望君見て!花火…あと合唱も聞こえる!』
『そうだな…舞姫、かき氷食おうよ』
『そうだね…希望君、あーん』
『んっ。舞姫もほら食えよ…あーん』
『ふふっ。希望君が今日してくれた髪型…凄く可愛い…ありがとね!』
『ううん…』
『…また来年も…再来年も…何十年先もこうして、一緒に花火見れるかなぁ?』
『見れるべ。また来年、花火見ような』
『うんっ!』
「(……こうして、もう七年くらい付き合ってるよなぁ…でも、もうその約束を守れないなんて言えないよなぁ)」
─そういえば、舞姫とは七年くらい交際が続いてることに気付かされた。見ないうちに舞姫はどんどん綺麗になって、そして俺だけを想ってくれている。次第に花火大会はクライマックスを迎え、如月は凪優と仁愛と夜海と食べ物を買いに行っている時だった。如月達は買った食べ物と一緒に、酔っ払っていた愛さんも連れてきたのだ。
「愛さん…?」
「ううん……二千円つぎ込んだのに金魚一匹も取れなかったのよぉ…ヒック」
「めちゃくちゃ酔っ払ってるなぁ…」
「…水、飲みますか?」
「飲むわぁ…ヒック!」
─愛さんはフラフラしているので、相当酒で酔っ払っているのが分かる。しかし、雷磨がリードし、彼女に水を渡すが─愛さんはベロベロに酔ってるのか雷磨の腕に抱き着き、そのまま寝てしまったのだ。雷磨は顔を真っ赤にしていた─その瞬間を見て、別の恋の始まりを認識させた。
─他にも青い一時が─と思った矢先、突然廉命が立ち上がり、如月を連れて何処かに行った。俺達は気になり、こっそりと後をつけた。
「廉命、何処に行くんだよ?」
「ちょっとね…」
「もしかして告白…?」
「別にそんなんじゃねえし…如月さん、行くよ」
─それに便乗したのか、夜海や仁愛、風兄に加堂さんもついてきて、如月と廉命が二人きりになる場面を陰から見ていた。実は今年、ハートの花火が上がるのだが、そのタイミングで好きな人に告白すると恋が実るという─。廉命にとって最高なチャンスだと思い、彼に勧めてみた甲斐があった─。そして花火越しに廉命は如月に告ったのだが───他の花火も打ち上がり、廉命の声が打ち消され、聞こえなかった。だが、如月の答えはこうだった─。
「あのね…如月さん……俺と……」
「……………………えっ?」
「おおぉぉっ!廉命、男を見せたなぁっ!」
「廉命…俺は嬉しいよ…お前が、好きな人を見つけて、助けて、こうして想いを伝えたことが…」
「お前が泣いてどうすんだこの馬鹿っ!」
「夢玖ちゃん…どう返事するんだろう…?」
「あの…如月さん?」
「………粉物パーティ!えぇやん!やろか!」
「「「「えっ?」」」」
─花火の音に、廉命の声が打ち消されたのか─粉物パーティをしようという話をし出した。次第に廉命に見つかり、彼は頭を抱えていた。
─こっそりと俺は聞いてみた。如月への告白に何を言ったのかを。
「廉命…なんて告ったの?」
「…俺と家族になって下さいって……」
「出会って四ヶ月でそれは重いだろ…なんでその言葉にしたんだよ?」
「だって…如月さんは恋愛初めてだし…こうでもしないと伝わらないかなって…それに、家族を知らない如月さんに、家族を与えたいって思ってさ…ほら、如月さんが俺と結婚して子ども産んで…幸せになってたら生野さんも嬉しいでしょ」
「お前な…まあ確かに、あいつ恋愛に疎いもんな…ふわぁ」
「生野さん、眠いんすか?」
「なんか……めちゃくちゃ眠いんだよね」
─何と、俺と家族になって下さいと告白したらしいのだ。理由も明確だった。当然その言葉は如月に響かず、花火大会は終わり、如月達の夏休みも終わり、日々は過ぎていった。そして───
「くの……生野。生野」
「……ん、ふわぁ…なんだよ福吉さん。てかここどこ?」
「南北北病院だよ。お前昨日職場で倒れて救急車で運ばれたんだぞ?だいぶ無理してたらしいな」
「…嘘だろ…」
「希望君……分かってると思うが、再入院だ」
「…………はい」
─俺は再入院するようになった。目を覚ますと福吉さんが近くにいたので、彼に聞くとこういう経緯だった。昨日俺は職場で血を吐きながら倒れ、緊急搬送されそのまま再入院に─ということらしい。そして院長も病室に入ってきてこう言った。再入院だということを─。これは分かっていたが、彼は容赦なく更に重いことを話してきた。
「それとな…希望君、君に残された時間は限られてる」
「えっ…それってどういう……?」
「余命宣告だ。八ヶ月というところだな」
「それって…如月が高校卒業する頃に俺はこの世にいないってことすか?」
「まあ…そうなるな。最善を尽くすから、一緒に病気と闘おう。如月君には私から話しておく」
─何と、俺の余命は八ヶ月弱だと余命宣告までしてきたのだ。つまり、如月が高校卒業し、大学生になる頃に俺は─この世にいない可能性が大きいという意味でもある。その事実に俺は胸が苦しくなった─。そして、この病の重さを知らない如月にとって、この余命宣告はどれだけ重い話なのだろうか。
─嗚呼、一年もしないで命が終わると思っていると、舞姫が勢いよく病室に入ってきて、俺を抱き締めた。
「希望君っ!」
「舞姫……ごめん」
「……ぐすっ!」
「舞姫……残念だが、希望君に残された時間は八ヶ月弱だ」
「それって……余命宣告ってこと!お父さん…なんでっ!」
「舞姫ちゃん落ち着いて…っ!俺もパニクってる…気持ちは分かるけど、これからのことを話し合おう」
「ぐすっ。この前の花火大会の写真…希望君の顔だけ血で見えない……湖水浴行った時の写真も希望君の顔が血で…この時から無理してたんだ…気付かなくてごめんなさい」
「まあ未来から見たら、俺は最初からいなかった存在だよ」
「そんなっ!」
─舞姫も、俺の余命を聞くと更に泣き、院長を問い詰めた。しかしどうにも出来ず、ただ泣くことしか出来なかった。その日は今後のことを話し合い解散した。病室で一人思う─嗚呼、俺はやっぱり如月に希望を繋ぐなんて出来なかった。そして─最初から彼女と出会わなければ、こんなことにならなかったのに─という思いでいっぱいだった。俺が死んだら、舞姫や如月はどんな反応をするのか。
─さぁ、俺に残された時間は八ヶ月弱。どう過ごしていこうか─。
「……俺は嘘をついてる。夢玖に"普通"を与えたいなんて言いながら、俺は本当の自分を隠してる。そのうち、この笑顔を全部裏切ることになるのに」
『生野さんっ!』
「普通を与えるほど、俺がいなくなった後の喪失は大きくなる……それでも、出会えてよかった。救えたと思えた。それだけで、十分だった」
……To be continued
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<キャラクター紹介⑧>
名前 : 松寺 仁愛
血液型 : AB型
誕生日 : 5月25日
身長、体重 : 166cm、53kg
MBTI : ESFJ
好きなもの : 激辛な食べ物、藤の花
嫌いなもの : 甘いもの(刺激が足りない…♡)
趣味・特技 : 絵を描く、夢玖(?)、ナイショ♡
聖陵情報高校に通う、18歳の女子高生。
夢玖と夜海と同じクラスで彼女達と日々行動を共にしている。東日本一の美人とも言われ、過去に女子達から嫌がらせを受けていた。複雑な家庭環境の影響なのか、鎖骨に鎖の刺青を入れ、ピアスをバチバチに開けている。整った容姿と発育具合、顔立ちにより多くの男子を虜にさせているが、実は激辛が好きなためあの欲も強め…。明るくて頼りになり、お嬢様扱いされることも。夜海と一緒に、夢玖に大人の事情を教えている。
閲覧頂きありがとうございました!
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次回作もお楽しみに!では。




