俺の近くにいろ
この度は閲覧頂きましてありがとうございます!
「ありがとうございました」
「(…やっと客足落ち着いた…土日は家族連れも多いからなぁ…にしても、如月は…)」
「ちょっと!他の他人に変わってよ!あんたじゃ話にならない!」
「ひ…も、申し訳…ございま……せん」
─ある日の土日。
─気付けば如月と出会ってから一ヶ月弱が経過した。如月はすっかりこの生活に慣れたのだが、最近は中間テストが近いこともあり、アルバイトを控えていた。
─元々彼女の接客は日に日に改善されてるが、始めたての頃は、苦労していた。オッドアイにより、目を見て話すのが怖く、接客の度に泣いていた。
「お姉ちゃん、なんでお目目の色変なのー?」
「そ、それは…」
「ちょっと!ごめんなさい…うちの息子が…」
「いえいえ…ボク、この目は生まれつきなんやで」
「姉ちゃん…ちっちゃいねぇ…中学生?カラコンしてるの?」
「高校生です…カラコンやなくて、生まれつきです…」
─それに、オッドアイが目立つため、お客さんからも瞳の色について色々聞かれることも多く、如月に困っていた。
「接客…慣れたと思ってたんに…」
「まあ…中間テストあるならしゃあんめえべした…。それに、高校三年生の一学期の成績は死ぬほど重要だからな。進路にも響くぞ」
「ほ、ほんま……?」
「あぁ…(そういえば、如月の進路、あんまり決まってないんだっけ?)」
─久しぶりのアルバイトだったのか、如月は接客に苦労していた。
─噛んでもいい。気持ちが伝われば何とかなると教えているのだが、それ以前に瞳のことを言われて回答に困ってるようだ。
「困りましたね……まあ、生まれ持ったものに対して答え続けるのも辛いですよね…」
「あぁ。如月ちゃん、鳳斗に相談して、カスタマーハラスメントの基準…見直してもらうか?」
「そこまでは…私ごときで大事にしたないし…」
「ごときじゃない…如月さんがいいなら俺達は気にしないけど…如月さんはまだここに来たばかりなんだし、いちいちオッドアイのこと聞かれても疲れる一方だ。それに…君も大切な従業員なんだから」
─さすがに心配になり、仕事が終わった後、皆で話していた。
─如月と過ごすようになってから分かったことがある。彼女は一人で抱え込みがちなところだ。
─俺とは違って繊細で、感受性が人一倍強く、計画的に動く。俺とは正反対の性格で、いつか如月は接客のストレスでダウンしてしまうかもしれないと思ったから─。
「はい…。オッドアイのことは…説明できるん私だけやし…」
「まあまあ如月…お前の接客も良くなってきてるんだから、これを機に相談してみなよ。俺達も協力するからさ…」
「そうそう。俺達は如月さんの味方だよ?加堂さんは悪人面だし、福吉さんはヘビースモーカーだけど、皆味方!ね?」
「あ?喧嘩するか?」
「ふぅ…俺、ヘビースモーカーなのか?」
「福吉さん、煙草じゃなくて、ココアシガレットにしませんか?」
「まあまあ…。そうだな…如月が接客してる時、俺達が傍にいるようにするわ」
─その日は中々考えがまとまらす、如月の接客時は見守る形になった。
――――――――――
「如月さんがオッドアイのことをお客さんに聞かれて苦労してる?」
「まあ…ざっくり言うとそうだな…。たまにカメラで如月を撮影する客もいてさ…」
「はぁ…?んだよそれ…如月さんを映していいのは俺の目だけっすよ」
「お前…無意識に言ってるだろ…それ」
「別にそんなんじゃないっす。ただ…見過ごせないんすよ」
─後日。廉命にもその話をした。
─すると彼は無表情のまま怒っていた。
─それに、無意識なのか、如月に対して色々言っていたが、無意識で涼しい顔をしながら言う台詞じゃないため、俺は笑いが止まらなかった。
「ぷふ…ぶふっ!」
「いやいや…今のは面白くないでしょ……如月さん、中間テスト近いもんな…」
「うんうん。昨日鳳兄と電話で話して、落ち着くまで如月にはバックヤードでの作業をしてもらう予定。丁度入荷物や品出し、出荷もあるからね」
「それがいいっすよ……てか、如月さん今日も来るんすね」
「まあな……って、お前尻尾振り過ぎ。飛行機耳にもなってるぞ」
「なってないっすよ」
「(無表情でその姿……なんて独占欲強いお犬様なんだ…)」
─その後は、廉命と入荷物や出荷、販売の業務をこなし、夕方になると如月が来た。
「如月、今日から落ち着くまでお前はバックヤードで作業してもらうわ」
「あー…さっき福吉さんから話聞きました。それで今日は入荷物多いから、廉命さんも一緒に…とか」
「そういえば今日入荷物めっちゃ多かったわ…廉命、任せてもいいか?」
「いや…俺は…接客したいっす」
「嘘つけ。尻尾取れそうだぞ?」
「………福吉さんに、視力見てもらった方がいいんじゃないすか?」
「お前な……」
─如月には、落ち着くまでバックヤードで作業してもらうことに決まったのだ。
─そういえば、今日の入荷物が多いことを忘れていたため、如月と廉命に、入荷物の処理を任せることにした。
─俺は販売や書類整理、レジ対応をしてる間に、如月と廉命で入荷物の処理をするわけだが、俺的にも廉命的にもメリットがあると思い、彼に託した。
――――――――――
『お姉ちゃんなんで目の色違うの〜?』
『変な目〜』
『姉さん…あんたカラコンしてるのかい?』
「(……やっぱり、場所が変わってもオッドアイを変な目で見る人はおるんやな…)」
「……さん、如月さん?」
「はっ……あ、ごめんなさい」
─早速私は廉命さんと入荷物を処理していた。
─そういえば、初めて彼と二人きりになるが、特に何の感情も浮かばなかった。
「(如月さん…近くにいるだけでこんなにドキドキするのはなんでだよ…俺はそんなんじゃないのに…)」
「……ふぅ…やっと半分、片付きましたね…」
「そうだね。よし、ストック用のダンボールを積み上げようか」
「はい。ほな、私登ります」
─作業して一時間、入荷物は半分処理出来た。
─ストック用のダンボールを積み上げようと、脚立に乗る。ちなみにだが高さには慣れている。
─大阪にいた頃は、大きな木をキャットタワー感覚で登ってたから─。
「如月さん、落ちないようにね?」
「大丈夫ですよ…ほな……」
─ストック用のダンボールを棚に積み上げ終わり、降りようとした時、私は足を脚立から踏み外し、私の体は宙に舞い、地へ落ちようとした。
「(私…死んでまうん?)」
「如月さんっ!」
─だが、廉命さんが私を受け止めた。
─体勢で言うと、お姫様抱っこといったところだろうか。
「お、おおきに…」
「全く…気をつけなよ…あ、別に君を助けたいとは思ってねぇし…」
「にゃ?(……ぬ、温い)」
「まあ、次から気を付けなよ…」
「…………廉命さん、はよ降ろして下さい」
「やだよ。てか、如月さん軽過ぎない?ちゃんとご飯食べてる?」
「食べてます……」
「タンパク質沢山摂った方がいいよ。べ、別に心配してねぇから」
─だが、廉命さんは暫く私を降ろそうとはしなかった。
─廉命さんは涼しい顔で、ちゃんと食べてるのか、タンパク質沢山摂った方がいいと言ってくる。
─だがまあ─確かに高身長で筋骨隆々な廉命さんからすると、私は軽過ぎるのだろうか。
「おーい青春してるかーって……廉命、やるな」
「はぁっ!べ、別に俺はそんなんじゃ…!」
「れ、廉命さん…降ろして下さい…」
「あ、いや……お、おう…」
「廉命、接客頼………何この状況」
「鳳兄!実は廉命が如月を姫抱きに…!」
「甘酸っぱいじゃん!ほらほらー、シューズの接客お願い!」
─生野さんが様子を見に来たことにより、廉命さんは私を降ろしてくれた。
─その動作は、大柄な体格からは想像がつかないほど慎重だった。まるで、壊れ物を扱うかのように───。
「如月ー、これ重いから俺が上に運ぶよ」
─生野さんがにこっと笑って、ひょいっと段ボールを持ち上げた。
─その細身で、女の子のように色白で細い腕で持ち上げられるとは意外だ。
「えっ、生野さんすみません!助かります!」
─字汚いし我儘な時多いけど、ほんま優しい人やなぁ──と思っていた、その時。
「…………」
─横から、氷みたいな静けさがした。
「廉命さん?どないしたん?」
「してない」
─返事が速い。
─しかも声低い。
──なんか怒ってる?
「てか如月さん、生野さんと仲いいよな」
「はい!優しい人やし……よく話してくれるんです。あ、最近はよう一緒にゲームしとるんです」
「…………ふーん」
─あれ、この"ふーん"、ちょっと怖いやつかも。
─でも理由が分からん。
─耳が真っ赤なのに、暑いんかな──?
─店、そんな暑かったっけ?
─するとまた、生野さんが声かけてくれる。
「如月ー、このメモ書きってこれで合ってる?」
「あ、はい!」
「さすが如月。癖字だけど丁寧で助かるよ。ありがとな」
─褒められると、普通に嬉しい。
─けど、その瞬間。
「…………」
─廉命さんの眉がピクッと動いた。
─なんやろ──目が怖い。
─眠いんかな──?
─そう思ってたら。
「……如月さん」
「はい?」
「こっち来て」
─急に腕掴まれて、ぐいっと引き寄せられた。
「きゃっ……れ、廉命さん?」
「そっち危ねぇから。俺の近くにいろ」
「えっ、そんな危ないですか?」
「危なくねぇけど」
──え?
─危なくないのに危ない?
─どっちなんやろ。
─横から、生野さんがちょっと笑って言った。
「廉命〜……それ嫉妬って言うんだぜ?」
「ち、ちげぇ!!!」
「顔真っ赤やで……?」
「暑いだけだ!!」
──うーん。
─やっぱり体調悪いんかな?
─耳まで赤いし。
─でも手は温かい──。
「廉命さん、風邪ですか?顔赤いし」
「ちがっ……!もういい!!」
─そっぽ向きながら、でも私の袖はぎゅっと掴んだまま。
─離す気ゼロ。
「(……怒ってる?
いや、怒ってるんやなくて……なんやろ……?
分からへんけど、でも手が温いから……まあ、ええか)」
─すると、生野さんが小さく呟いた。
「廉命、完全に恋だな」
「うるせぇ!!」
─また怒ってる。
─なんで怒ってるんか分からへんけど──
「(……廉命さん、今日なんか変やなぁ)」
私はただ、そう思うだけだった。
─彼の胸の中がぐちゃぐちゃになってるなんて、
その時の私は全然気づいていなかった。
――To be continued.
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