あなたに合う靴は。
この度は閲覧頂きましてありがとうございます!
第一足(一話)の前の、ショートストーリーです!
楽しんで頂けますと幸いです!
─いつもと変わらない日常。その日も某スポーツ用具店で働いてる俺は、いつも通り─変わらない仕事を進めていた。この店は─この南東北に本社を置いており、全国にも展開しているほど規模がデカい。バドミントンやバスケなどのアスレチック、キャンプやスキーなどのアウトドア、ゴルフ、トレーニングウェアや有名ブランドを扱うカジュアル、そしてスポーツ眼鏡、レジに担当が分けられているわけだが、俺が立つ売り場はシューズ。
─つまり陸上や駅伝、ジム通いの人達はもちろん、老若男女問わず年齢幅広く一足一足に合ったランニングシューズ、もしくはタウンシューズを販売・接客をしている。特にこの店舗に関しては方言が強い年配の方が多いのが困るが、それも醍醐味だと、思っている。
「兄ちゃん悪ぃない。靴べら欲し」
「はい。どうぞ」
「どうもないっ!ふぅ…おっ!こりゃ歩きやすい!こでらんに!」
─そう。まさに今がその時だ。南東北─つまり福島弁は─かなり聞き取りにくい。特に東北弁を話す年配の客は訛りが強く、聞き取りずらい時もあるのだ。てか、こでらんにって何?嗚呼、最高ってことか。
「いかがでしょうか?このランニングシューズ、結構人気なんすよっ!クッション性も良いし歩きやすいし疲れにくいでしょっ!」
「だからー!おらこれ買ってくわ!あと今度は孫もせでくからそん時よろしくないっ!」
「是非お待ちしておりますっ!ありがとうございますっ!」
─その年配の女性はシューズを買ってくれ、更には今度は孫も連れてくと楽しそうに帰っていった。
「うおおっ!ほだペラペラで七千はぼったくりだと思ってだけど、こでらんに!こりゃ幾ら走ってもこわくねぇっ!」
「こでらんに…?こわくねぇ……?」
「あ、最高って意味だべ。てか兄ちゃんイケメンだない。おなごにモテるべさ」
「俺は彼女とか…いたことないんで」
─今パート帰りであろう母親にインソールの接客をしてるガタイの良過ぎる男は日出廉命。身長は絶対百九十はあるうえ、顔立ちも良く俗に言うイケメンである。ちなみに歳は俺の一つ下だが、紅い瞳に派手なケロイドが目立つ為、時々怖がられることも多い。
「ママ〜!僕これ欲しい〜!」
「ダメよっ!危ないでしょ…もうすみません」
「いや、いいんですよ。君、これはお兄ちゃんが戻すからね」
「うぅ…ヒック!ふしんしゃ〜っ!うわぁんっ!」
「………」
─ほら、その息子であろう幼稚園児が泣いてしまった。しかも廉命はケロイドが全身に遺ってるだけでなく、縫合痕も結構多い─それでいて、その良過ぎる体格により、不審者や殺人鬼と勘違いされることも多く─彼自身も凹んでいる。
「……結局買ってくれて良かったよ。廉命も慣れてきたな」
「まあ…接客は慣れました…でも、子どもに泣かれるのは……」
「……こら、犬みたいにしょんぼりしないっ!」
「わんっ!いや…でも生野さんも泣かれたら凹むでしょ…」
─その姿はまるで─悪いことをして飼い主に怒られて反省する犬だ。喉からくうん─と聞こえてる気もするが─あまりにもその体格と合わな過ぎてることは黙っておこう。
「大丈夫だよ」
「なんで?」
「だって俺可愛いんだもんっ!」
「いい歳して自分のこと可愛いって言うか?」
「見ろよこの澄んだ瞳、そしてこの米のようにきめ細かくて白い肌…あとはこの猫っ毛!ふんっ!」
「なぁに自慢してんだよ。お前は幼く見えるだけだ。パッと見中学生か?」
─廉命が俺に、目が合っただけで子どもに泣かれるのは辛いだろと聞かれたが、そんなことはない。何故ならこの白くてきめ細かい肌に、この澄んだアメジストの瞳───そして、この猫っ毛。ふんっ!とドヤ顔を廉命にしてみるが、紅い瞳だけがドン引きをしていて、表情は特に変わらない。
─寧ろ俺は後輩にドン引きされた方が凹むのだが───大人びてる廉命と違って俺は子どもっぽいので自分の容姿を自画自賛するのは悪いことことではないと思う。なぜなら、付き合ってる恋人が毎日褒めてくれるからだ。
─すると後ろから軽く小突かれ、後ろを振り返ると悪人面眼鏡がいた。彼といえば悪人面だが、その下の下を見ると、両脚がギプスで固定されている。廉命とも彼とも十年くらいは付き合いあるはずなのに、毎回そのギプスを見る度に、痛さを想像してしまう。何だよ、と目を合わせてみる。
「加堂さん…何だよ?」
「相変わらずうぜぇなあって。あとお前顔立ち悪くねぇけど、性格のせいで台無しだぞ?」
「確かに、性格が強過ぎて小学生に見える」
「んなっ!そういう加堂さんこそ…相変わらず悪人面じゃん」
─そう。黒髪をハーフアップに纏め、眼鏡で悪人面が一ミリも隠せていない大柄な男は加堂霧也。彼はそのギプスを装着するまではアメフトをしており、なんとその実力は日本代表候補に選ばれた強さ─なのだが、ある練習試合にて両脚のアキレス腱を断裂してしまい、今ではギプスがないとまともに歩けない。
─彼は他の従業員に当たりが強いものの、俺には特に強く、毎回殴ろうとしてくる─そう。常にヤバいやつで、喧嘩(?)になることも多く、バックヤードで軽く乱闘する事も多い。
「へぇ?俺ちょっと野球バット取ってくるわ」
「じゃあ俺はアンツーカーのスパイク取ってくるわ」
「ちょっ…二人とも…どこ行くんすかっ!」
「今日こそお前ボコボコにしてやんよこのチビがっ!」
「それならあんたの脚失くしてやるっ!」
「出来んのかよ」
「どうだか…」
─二人して並列で、お互いを睨み合いながらバックヤードへ向かう。客の通行や他の従業員の作業の邪魔になっているにも関わらず、俺達はひたすらモノを取っては───
「すみませ〜ん。こちらアソックスの……」
「「あ」」
─喧嘩(?)をするはずだったのに、従業員出入口から、業者が来てしまった。俺達はモノを置き、大きなダンボールを受け取る。何事もなかったかのようにしたいが───
「もうだめでしょ二人とも」
「いえ、別にお気になさらず〜」
「すみませんいつも…」
「いえいえ……」
「ありがとうございますっ!」
─喧嘩(?)している場面を店長に見られ、軽く怒られた。が、その時従業員出入口のドアが開いていたが、そこから広がる景色から、こそっと黒猫が見えたような気もした。いや、黒猫ではなく─黒猫ではない何かだ。しかしそれがバックヤードから侵入はしなかったので、被害は何一つもなく、その後も軽く店長に注意され、俺達は各売り場に戻った。
「もう喧嘩しないの。二十歳以上なんだから」
「俺は別に……このチビがムカつくからっ!」
「ああっ!やるかっ!」
「やめろっ!ほら、スポーツマンらしくないよっ!」
「いてて……相変わらず加堂さん、力強え…」
「あ、希望君っ!」
─とぼとぼシューズ売り場に戻ると、廉命と恋人である、舞姫が喋っていた。栗色の長い髪を一つの玉ねぎ風に纏め、長い睫毛に艶のある唇─そして、その白くきめ細かい肌に翠の瞳。それらが俺の全て好きなもので、同棲してるものの密かに見惚れている。
「おう舞姫……来てたんだな」
「うんっ!そうだ。今日鮭にするね!」
「舞姫の飯は世界一なんだよ〜!めちゃくちゃ楽しみっ!」
「生野さん…舞姫さんにベッタリっすね」
「当たり前だべしたっ!めんこいし頭も良いしスタイル抜群…あと声もめんこい」
「もう…っ!そろそろお夕飯作るからまた後でね。お仕事頑張って」
─その後色々談笑し、舞姫は帰った。当然だが舞姫の作る料理は世界一美味い。ある事情で母親の味を知らない俺にとっては───舞姫の作る料理がそれだと言っても過言ではない。
─ちなみに舞姫の得意料理は茄子料理で…麻婆茄子や揚げ浸しが特に絶品だ。理由としては、舞姫は茄子が大好物だからであろう。
─他にも─いや、今は仕事中だ。今日の仕事も終われば舞姫と一緒──。俺達のラブラブっぷりを見ていた廉命はため息を吐いた。
「元気出せって……お前も彼女がいれば変わるぞ?」
「いたら、の話でしょ………」
「廉命は……黒髪で小柄がタイプか?」
「分かんないっすよ…一目惚れしたことないんで」
「ふーん?そういえばさっきバックヤードで出入口から、黒猫っぽいものが見えてな」
「黒猫……?」
「ほんとに一瞬しか見てなかったから、黒猫かどうかは知らんけどね」
─廉命は派手にケロイドが目立つが、高身長イケメンという俺とは正反対側なので、彼が何もしなくても女の子は振り向くと思うのだが、廉命自身が恋愛の気分になってないらしい。このまま恋愛の話は申し訳ないと思ったのか、俺は例の黒猫について話題を変えた。
「まだ近くにいたらどうする…?」
「……とりあえず、一晩保護して病院」
「引っ掻かれないようにしないとなぁ…猫の扱いって難しいよな」
「…猫の好物は……ええと…缶詰?」
「よし、とりあえず帰ったら舞姫にも話してみよ…さ、閉店作業行くぞ」
─その黒猫との出会いを境に、俺の意図により周りの人間が救われることを─この時の俺はまだ知らず、廉命と共に閉店作業を進めるのだった。
……To be continued
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次回作もお楽しみに!では。