猿? ゴリラ? あ、猿ゴリラ?
私は、今【索敵】画面の上部が真っ赤な山を登っている。
ふふっ、なぜかって? それは塩、塩を求めてだ。
なんでこの山に塩があるのかが、わかるかって?
んもう! 知りたがり屋さんだなー。
それはこの立派な豚っぱなさんが言っているわけですよ!
この山に岩塩があるって!
……いや、冗談です。
なんかどっかのほのぼの系ファンタジー小説に載っていたの鵜呑みにしただけです。
仮に嗅覚が優れていても、岩塩の匂いとか知りませんし、オークも知らないっぽいです。
「ブヒィ、ブヒィ! ジョウダンブヒィ」
うっせぇぇぇー!
なんだ、なんだ。毎回ブヒィブヒィ言いやがって!
というか、なんだろう? 寄生スキルがレベルアップするに連れて、こうやって勝手に体が反応することのあるような……?
私がおしゃぶり単体だった頃の癖かなとか、思ってたんだけど、なーんか違うんだよね。
ゴブミさんの時も生理現象とは言えど、オートに近い感覚で動くことがあったし……うーん、わからん。
私は念の為、自分の体が意のままに動くか確認する。
右手に斧を持って左右上下振り回してみる。
――ブォン、ブォン、ブォン!
うん、問題ない。
その場でジャンプもしてみる。
――ダン、ダン、ダン!
うん、なんの違和感もない。
「シャベレルシネ」
んじゃ、気の所為かー。
ま、深く考えても今すぐ答えは出ないよね!
とにかく、塩を求めてハイキングオーキングだー!
ふふっ、ダジャレを言ってやったぜ!
という冗談はさせておき、ただのほのぼのLIFEなら、この場所でおしゃぶりオークとして、生きていくっていうのもありかもだけど。
やっぱりさ、人恋しくなっちゃうし、もっと美味しい物を食べたいんだよね! あと、知らないこと知りたい欲求ってやつ。
この思考が一般人として、適切か? なんて聞かれたら、そうでもないし、意味不明かもだけどさ。
私の第六感が告げているのだ。
少年よ大志を抱け! と。
「ッテ、ショウデモナイシ、ニンゲンジャナイケドネ! ブヒィ」
ふぅ……やっぱり、全然締まらなぁぁぁーい!
☆☆☆
――ちゃぽん。
滝つぼから、舞い上がる水飛沫が日に照らされて美しい景色。
ほのかに香る硫黄の匂いと、乳白色の湯水。
体温より、少し暖かいのがまた良きかなー……。
うむ、いとおかしだねー。
うんうん。
はい! ご察しの通り私、加藤和世は温泉を満喫しています。
大体、山の5合目辺りかな?
この一帯は、温泉が湧いているようで、上流から流れてくる清流と混ざり合い人肌ほどの温度になっており、おかげであの鮭の三倍のある魔物は追いかけて来ない。
てか、この山、結構高いよね……アルプス山脈って例えたのは間違ってなかったかも。
ただ、懺悔させて下さい。
めかりん、というか、どっかにいる女神さん私、加藤和世は罪を犯しました。
当初も目的である塩の調達を後回しにして、【おしゃぶりオーク温泉にハマリました】っていう物語を始めちゃっていました。
塩、塩、塩、調味料ー!
とは、思っていましたし、真剣に探していましたよ?
洞窟っぽいところを探索して、集団で襲ってくる烏みたいな風を起こす魔物とか、岩を生成して投げてくる鬼みたいなデカい魔物とかとも、戦ったりしてしたしね。
まぁ……それも途中までですけども。
だってさー、温泉の匂いがしちゃうとさ、やっぱり日本人の血が騒いじゃうじゃん!?
「プギィ、サガプギィ」
そうそう! 性ですよね。
しかも!
異世界に来てお風呂なんかと縁はなかったし。
てか、入れると思ってもいなかったし。
その上さ? この豚っぱなさん、めっちゃ嗅覚いいんだもん。
だから、致し方ないのです。
あ、でもステータスは上がったよ?
「ステータスオープンプギィ」
【個体名】おしゃぶり(転生者)『オークに寄生中』
【種族】物
【レベル】20
【体力】2000/1800+400【魔力】3650/3000+650
【攻撃】1800+550【防御】1500+350
【敏捷性】2000+400【知力】1500+150
【健康状態】良好
【空腹状態】普通
【スキル】寄生レベル10 継承レベル10
捕食レベル10 酸攻撃レベル10
氷魔法レベル1 料理レベル10
威圧レベル8 索敵レベル10
格闘術レベル6 仲間呼びレベル5
斧術レベル10 風魔法レベル5 土魔法レベル5
と、こんな感じに。
けど……スキル【寄生】がレベル10に達してから、オートで発動して乗り移るとかはなかったんだよねー……不思議ー。
もしかすると、レベルのせいで条件が変わったのかな?
ピンチじゃないと発動しなかったりとか、私が意識して使わないといけなかったりとか?
実際、1合目から4合目辺りでスキル【索敵】を発動させたら、その画面表示されていた魔物たちは緑の点で表示されてたしね。
それにスキル【威圧】発動&酸ぼーるからの斧でトドメを刺すってコンボで呆気なく終わったしなー。
結論、なんの検証にもなっていなくてわかりません。
すぐ倒せてしまうのも問題だよね。
あ、スキル【魔法系】はやっぱりまだ使えません。
こうなると何が原因なのか考えるのもめんどくさいので、今のところ封印中ですね。
けど、ひと仕事終えたってことには変わりないので、日本人の性に従って、天然温泉でほっこりしちゃっていますー!
って、やっぱり返事はないよね……。
やや寂しい……ぬーん。
ま、でもせっかくの異世界、こういうのがやっぱないとね。
ただ、自然を満喫してオークが温泉に浸かるっていうぼのぼのシーンがさ。
「ヤッパコレダヨネー、ブヒィ」
目を瞑って、リアル非日常ほのぼのLIFEを満喫していたら鳴き声が聞こえた。
「ウキャ、ウキキキ」
ほうほう、お猿さんですかー。
これも自然との触れ合いがあってこそだよねー。
そういえば、お猿さんって温泉好きだって言うもんね。ルーミーも言ってたなー。
えーっとなんだっけ? 結構、お猿さんって無遠慮なところがあって、人間より人間っぽい側面があるとか、なんとかって……。
「ウキキキ!」
――バシャ、バシャ!
お猿さんが水飛沫を飛ばす。
「コラコラ! マナーハ、マモラナイトイケナインダヨ、ブヒィブヒィ」
「ウキャウキャ!」
「エッ!?」
待って、なんで……お猿さんが……?
私は湯けむり漂う、その先を見つめる。
「イヤ……ゴ、ゴリラブヒィ?」
そこには、逞しい筋骨隆々なゴリラと猿を足したような魔物がいた。




