昼
三題噺もどき―よんひゃくろくじゅういち。
窓を開くと、少し冷えた風が吹き抜けた。
太陽は薄い雲に覆われている。
刺すような光ではなく、ぼんやりとした柔い、温かいだけの光が差している。
ものを干すにはもう少し日が照っていた方がいいんだろうけど。
明日からまたしばらく雨が降ったりやんだりするみたいなので、今日のうちにしてしまおうと……思ったのだけど。
「……」
まぁ、気にするものでもないか。
日にさらして、風にさらしてしまえば、ある程度はいいような気もする。
どうせ使うのなんて私だけだ。誰かに貸すものでもなし。
「……」
寝室から半ば引きずりながら持ってきた毛布を、物干し竿にかける。
洗濯ものは基本的に浴室乾燥で済ませてしまうので、この物干し竿の使用頻度は知れている。何なら久しぶりに使ったような気がしている。
備え付けのものだった……かどうかも忘れている。これ自分で買ったものだったか?使うものと思って買ったなら、あの頃の私は未来への投資が下手すぎる。
まぁこうして、たまに使うぐらいには使っているので、そうでもないのかもしれないが。
「……」
持ち上げた毛布が想像以上に重かったことに少々耐久度の不安を感じたが、せいぜい一、二時間干せればいいと思っているので。気にしなくてもいいか。
ついでに押し入れから引っ張り出しておいた、薄手の夏用の毛布もかけて置く。
飛ばされないように、布団ばさみで止めてから、網戸を閉じる。
「……」
ついでに、愛用のひざ掛けを窓際のソファにかけて置く。
毛布を外にかけたおかげで、日は遮られているので、意味があるかは分からないが……これは気休め程度のものだし。
外には干したくないので、これでいいだろう。
「……」
さて、と。
とりあえずのやるつもりだったことは終えたので。
昼食でも食べよう。
「……」
とはいえ、がっつりと食べられるほど空腹でもないので。
なにか、軽く入れられればいいんだけど。
そんなことをぼんやりと考えながら、キッチンへと足を進める。
「……」
とりあえず、と思い冷蔵庫を開けて見る。
最低限のものしか入っていない冷蔵庫は、奥の方までしっかりと見えるほどスカスカだ。
そのくせ、食べ忘れたりするんだから、意味が分からないよな。あまりにも杜撰ぎないか私。
―そして、その忘れ物を一つ見つけた。
「……」
少し奥まったところに瓶を見つけた。
何だっただろうかと手を伸ばし、引っ張り出すと、イチゴジャムだった。
たしかこれ、妹家族と出かけたときに買ったやつだろう。
あと一回分ぐらいしか入っていないのに、どうして……。
どうせ、パンがなくなったとかなんだろうけど。
「……」
と、これを見つけたところで、いまパンがあるかどうか……。
イチゴジャムの瓶をもったまま、冷蔵庫を閉める。
いつもパンを置いているところを確認する。
電子レンジの上に置いてある、籠の中にお菓子と一緒に置いているのだけど。
―お。あった。
「……」
そうと決まれば、今日の昼食は確定だ。
見つけたパンとジャムを、一旦キッチンに置き、お湯を沸かす準備をする。
マグカップにインスタントのカフェオレを淹れ、スプーンを二本出しておく。
ジャムを塗る用と、カフェオレを混ぜる用。
「……」
パンは焼こうか迷った末、軽く温める程度に電子レンジに放り込んでおいた。
三十秒ほどなのですぐに終わる。
ジャムを塗ったりするのは、リビングでしてしまおう。
お湯が沸くまでのあいだ、ぼうっとキッチンに立つことになった。
「……」
そうすると、暇を持て余した掌は首元に動く。
今日はなんとなくそんな気分になって、朝から首元にネックレスをかけていた。
妹とお揃いで買ったものなのだが、これがなかなか使い勝手が良くて愛用していた。
おしゃれというものに興味はないが、こういうアクセサリーはそれなりに好んで使っていたので、最低限は持っている。
「……」
仕事中は別にしてもいいとは言われていたが、そこまでの余裕が正直なかった。
一応、直してしまうのももったいないと思って、寝室の見えるところに置いておいたのだけど、暇を言い渡されてからもあまり気分にはなれずに飾られていたのだ。
「……」
これからは、たまにこうしてつけてみてもいいかもしれない。
せっかく開けたピアスホールがふさがってしまってはなんだかもったいないし。
妹と揃いで買ったこのネックレスも、使わずにいるのはもったいない。
たまには、これをして出かけるのもいいだろうし、散歩程度でも邪魔にはならない。
「……ん」
かち―という音にぼうっとしていた意識が引き戻される。
まだ少しこぽこぽと言っているお湯を、マグカップに注ぐ。
さて。
昼食を食べて、その後少し出かけてみようかな。
お題:ネックレス・物干し竿・パン