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首尾よく行けば

−アーサー・ウェルシュ卿

「諸君に集まってもらったのは他でもない。先日ラルキア潜伏の諜報員から届いた呼称【七響】のアビリティ出現についてだ。にわかには信じ難いが、複数情報が届いていることからも与太話だと一蹴するわけにもいかなくなった。古のアビリティが復活したといっても現代でどれだけの脅威になるかも定かではない。まずは各々忌憚なき意見を出してもらいたい」


−グリント将軍

「……ふむ、まあ古代魔法のような伝承の類ですな。王国だった頃のフォルニアにて崇められていた七神から賜る7つの能力。当時の王族は神々の逆鱗に触れて、辺境貴族に力を与えたもうた。とまあ文献はいっとるわけですが、もともと原理教典には存在しない神々です。おそらく長い歴史のなかで併合していった国々の神を取り入れていったものでしょう。福音派は今も認めていません。愚かな王族がうんぬんは後からの創作でしょうな」


−レディ・エレノア

「あら、今日は将軍の講義を受けにきたわけではありませんのよ。話が脱線するのは委員会の中だけにして頂きたいわ。というより陸軍は我々にも情報を出し惜しみしているとしか思えないのよね。いったいローラー作戦で一斉検挙したラルキアの勇者達を一堂に幽閉してなにをしているのかしら。チーズの匂いに釣られて敏感なネズミ達はすぐに嗅ぎつけてくるわよ」


−エルヴィン・ゴディクス

「エレノア女史、せっかく超党派で集まった非公式会議です。政局の駆け引きは一旦傍に置きましょう。軍も統制派が勢力を伸ばしている今、探られたくない腹を突かれてはまとまるものも纏まりません」


−レディ・エレノア

「あら、さすがは思慮深き保守党のエースね。言っとくけどうちと連立するなら今の内閣では無理。現総統の退陣と、次の首班指名は首相である貴方に任されることが絶対条件ね。とりわけ本当に七響が帝国から現れたなら、宥和政策なんてそんな悠長なことは言ってられないわ」


−グリント将軍

「ふんっ、剛腕の乙女も厚い胸板には弱いみたいだな」


−レディ・エレノア

「……このクソじじい」


−アーサー・ウェルシュ卿

「まったく、つくづく相性が悪いこの面子で議題を解決せねばならない私の身にもなってくれ。有事の前だ。私怨は自重して知恵を拝借してくれないか」


−エルヴィン・ゴディクス

「サー、これはお見苦しいところをお見せしました。おふたりもいい加減にじゃれあうのはおやめください。話を戻しましょう。状況判断からしても七響の発現はあったとみるべきだと思います。先日帝都で起きたという歌劇場暗殺事件、同じく帝国内メヤニー地方から起きた無政府主義者アナーキストの大規模反乱主導など、レポートを読む限り七響第二種、第六種の特徴と合致します。他のアビリティも確認されていないだけで、すでに現れているかもしれない。それだけに我々は警戒せねばらならないことは確かです。しかしながら伝説になぞらえると、古の我ら王国が打倒するために行使されたそれらの力が、現時点ではラルキア国内の、しかも体制側に向けられております。議会で喫緊の課題かと問われれば、いささか口ごもるのも確かです。当然それらの力をラルキア軍部が掌握するという事態になれば、両国のパワーバランスを崩しかねないものであるため、やはり警戒レベルとして上げざるをえものにせざるを得ない。問題は今以上に軍事費に予算を割くと、国内世論への刺激は免れないということだと思います」


−グリント将軍

「少数与党苦しいところだな。国境線で1世紀も小競り合いをしているのだから、国内に危機感はない。実際両国にとっては戦争をしているという状態がいまや日常的で予定調和なものになっている。国民にとってオーブンで焼いたクッキーぐらいの関心しかないだろう。それでもこちらから仮に剣を納めるというならマスメディアを始めとして非難轟轟、政権自体が吹っ飛ぶだろうな」


−レディ・エレノア

「それで議会左翼に政権を奪われでもしたなら、それこそ政体自体の存続危機になりかねませんわ。しかし我々自由党と保守党の合流で過半数はとれても、強引に予算を通せば奴らは横暴な与党を打倒しようと次の選挙に訴える。みすみすこちらを攻撃する材料を与えるのも業腹ですわね」


−アーサー・ウェルシュ卿

「ううむ。モルトンの工作により親フォルニア政権の樹立を図り、勇者の供給を止め、フォルニア内で活動していた勇者もほぼ掃討出来ている。後ろの憂いはない。ラルキア内では各地での反乱に反政府主義者のテロ、ゼネストなどで情勢は混迷を極め、今にも吹っ飛びそうに見える。もし鉄面宰相が凶弾に倒れることがあれば、こちらが手を加えなくても自壊していくだろう。ただ、このまま帝政が打倒されたとして軍閥にコミュニストどちらが新たな政権を握ったとしても、我々の良い隣人にはなってくれるとは思えない。そして仮にどちらかの勢力が七響を確保したとなれば、今度はこちらが危うくなることもなりかねないときている。モンゴメリと同盟を組んで二正面から進軍したとして、互いに領地を刈り取ることも可能性として捨てるべきではないが、信用の出来ない仲間ほど怖いものはないからな。やはり独力でいくべきか。しかしそうなると塹壕だらけの国境線を越えるにはまず消耗が過ぎる。ならばモルトン経由で進駐するしか手はないが、とどのつまり制圧戦を実現するには金が必要だということに変わりはない」


−グリント将軍

「元老院の動向はいかがですか?」


−アーサー・ウェルシュ卿

「相変わらずの事勿れ主義だ。でなければそもそもフェリックスを総統になんて指名しないだろう」


−エルヴィン・ゴディクス

「結局ところ物語は我々が作るしかないでしょう。世論の後押しで軍備拡張、ラルキア侵攻を国是としていけるように進めるべきです」


−アーサー・ウェルシュ卿

「なにか策があるのかね」


−エルヴィン・ゴディクス

「人の心を打つには、とてもシンプルで、ベーシックで、よくよくオーソドックスであるべきです。国の誇りを傷つけられたと人々が狂ったように怒りの声をあげるようなものが望ましい。であるなら、あえて玉を相手に取らせましょう。つまり勇者に国トップが暗殺されたということになれば、双方の歴史的な背景からしても声を上げない方がおかしいと、こちらから世論誘導する手間も必要もなく、そしてなにより効果的です」


−グリント将軍

「フェリックスを殺るのか?」


−エルヴィン・ゴディクス

「残念ながら政策も陳腐なら、役者としても二流です。悲劇が悲劇でなければ物語は語り継がれません。重要な人物が死ぬことが物語を動かす装置なのです。馬の糞を踏んづけたぐらいの悲しみでは困ります。自分で言うのも気恥ずかしいですが、オークで初の元首として私が前に立つことが出来れば、始められる物語と自負しております」


−レディ・エレノア

「実際に死ぬわけじゃないのよね」


−エルヴィン・ゴディクス

「少なくとも侵攻までの諸々の準備を含めると3年は死んでいる、もしくは重篤でないとまずいでしょう。そのあと劇的に蘇生された、復活したと喧伝できれば戦時下の高揚を促すことも出来るとかと」


−アーサー・ウェルシュ卿

「国内に潜伏していた、めぼしい勇者は補足されていると思うが、適当に見繕って仕立てるのか?」


−エルヴィン・ゴディクス

「丁度おあつらえ向きの対象がいます。先日かの征夷の勇者がモルトン入りをしたところです。モルトン情勢を探る任務を帯びていますが、ラルキア軍部はモルトンのお家騒動に自分たちも噛んでいることを突き止められたくはないでしょう。万が一これからクーデターを起こそうと画策していたことがバレたらそれこそ事です。征夷の方は地方軍人で中央のパイプもない。時間も余裕もない中で懐柔するよりは我らフォルニアに向かわせようとするはずです。彼は軍属でありながら勇者局預かりでもある、他の者にはない属性をもっています。なにより実績としても補足した他の勇者と比べてもとびきりです。とても危うい立ち位置でありながら、彼が暗殺の下手人と公表すれば、果たしてどちらの陣営が出した指令なのかということで双方いぶかむことになるでしょう。そうなるともうラルキアは下手に動くことは出来ない訳で、我々にとっては好都合このうえない人物と言えます」


−グリント将軍

「それは素晴らしい!だが解せないな。いったいどこからの情報かね?」


−エルヴィン・ゴディクス

「みなさんにも目があるように、私にも個人で抱えている目はおります。我々は目的遂行のために結託しておりますが、各々の手の内をおいそれと種明かしするほど、胸襟を開く同輩でもなければ、清廉な代議士として売っているわけではないと思います」


−レディ・エレノア

「まあっ、この魑魅魍魎な御仁達と一緒くたにされたくないわ」


−エルヴィン・ゴディクス

「サー、エヴァンス商会に連絡は取れますか?」


−グリント将軍

「ふんっ、戦争屋なんかに頼らにゃならんのは、背中がむずむずするわ」


−エルヴィン・ゴディクス

「仕方ありません。これも時代の変化です。工作から占領後の統治まで我々はクリーンに見せないとなりません。内務省や統合作戦指令部が全てを担っていた時とは訳が違います。外部委託業者に任せた方が費用対効果は高いことは実績としても明らかです。特にラルキア軍部や、ラルキア内にいるパルチザンに渡りを付けられるのも商会あっての事です。まあ、彼らの場合、戦争が起きなければ利益が得られませんからね。今は我々が望む形を、望む方法で届けてくれておりますが、利益を追求するあまりスタンドプレーに走るようなら、今度は彼らが我々にとっての問題になることも考えねばなりません」


−アーサー・ウェルシュ卿

「エルヴィン、商会には伝えておこう。ただ難しい舵取りが必要ななか、君が不在というのは一抹の不安が残る。本当に君でなければならないのか?」


−エルヴィン・ゴディクス

「このシナリオを知っている者を無闇に増やすわけにもいきません。それに名目上私は退場しますが、諸兄、諸姉との会合は私が凶弾で倒死したあとも続けて参ります。あとは代打元首をホームベースの前に立たせてから、明に暗に院政をここにいる皆で敷いて頂ければと」


−グリント将軍

「決まったな。そうとなればとびきりのアクアヴィテを諸君に振舞わせて頂こう。シェリー樽で熟成させた10年物だ。ラルキア産で唯一褒められるべきものはアクアヴィテとシガーだな。まあそれも侵略され併合されたメヤニー地方の特産なのだから皮肉が効いてるわ」


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