聖者の行進
「ハロー、リスナー!今日もみんなに『征夷の勇者の冒険譚』と流行りのポップチューンをお届けするのはオールナイトレディオ、DJリー・ベンジャミンだ!ここは大陸の果てスリング。魔王国に繋がるここが最前線。お待ちかね征夷の勇者がついにスリング国境を越えて、魔王国へと乗り出すシーンからだ!手に汗握る見逃せない瞬間、リスナーのみんな、ボリュームとテンションぶちあげていこうぜ!」
〜間奏30秒〜
「さぁ、現地で色々あってコーディネーターを雇った。征夷の勇者が踏み出すのは見渡す限りの荒野、あの山々の向こうには魔王国が広がってるっているわけさ。リスナー、どう思う?あの雲、何か不気味だよね。うんうん、そう。あれはただの雲じゃない。魔王の呪いが漂っていると言われている。だたの乱層雲なんかじゃ決してないぜ、ヒアウィーゴー!」
(雷鳴響くSE挿入)
「赤土の大地を歩き、不毛地帯の塩山を越えていく。途中翼竜の群れが空を過ぎっていく。険しい道を選ぶのは見つからないようにするためさ。っていうのも、この頃スリング国境線はモルトン軍に封鎖されてしまったから、多くの勇者たちは魔王国に侵入出来ないでいた。同時にあぶれた魔王国侵入案内人であるコーディネーター達の情報も遮断されてしまったってわけ。そういう理由から未開拓の陸路を採る必要があったのさ。サンドワームの巣をすり抜け、トロールを起こさないように吊り橋を渡り、焚き火で暖をとり、缶詰でお腹を満たし、ハーピーの谷をやりすごして、世界を飲み込むような瀑布に心奪われ、お約束の触手ハプニングがあり。と、スリリングな展開はこの後も続く、ここでリクエスト曲を挟んで一息つこう!ヴィンガード在住ペンネーム【左手は右手の真の支配者さん】から、リーさん。いつもラジオ聞いてます。受験勉強でやさぐれた心を征夷の勇者の冒険譚を聴きながら自分を鼓舞している時間が、今は一番の拠り所です。→ありがと。リクエストは彼氏の影響で聴き始めたインダストリアルメタルバンド【十三番目の魔法使い】の曲で【君がいつも水をあげていた花】です。どうぞ」
〜ジングル明け〜
「さて、CMを挟んでお送りしている深夜の賢者タイム。ここからはもう少しスローなトーンで、夜の雰囲気にぴったりなトラックをバックに流しながらお届けします」
〜アーバンメローなBGM〜
「ここでお便りコーナーだ。ペンネーム【嘴でつつくキッスさん】こんばんはリーさん。(こんばんは)私の彼は避妊具をしてくれません。最初のうちはつけて欲しいと伝えてましたが、なあなあになってからは、言い出せなくなってしまいました。彼に大事にされていないようでとても不安です。彼とは別れた方がいいのでしょうか?ということです。【嘴でつつくキッスさん】は鳥獣人種なのかな?雄雌の問題はいつも複雑だよね。そんなキミに征夷の勇者の言葉を送るよ」
(3秒タメ、リバーブ・オン)
「きみの口汚く罵る言葉を愛そう。枕で防御しても貫通するいびきを愛そう。大事にしていた詩集を焼かれたことも許そう。きみがいないと知った時、それを上回る喪失はもうやってこないのだから」
(鳴り響く拍手SE挿入)
「人種は関係ないね。そんなクソみたいな男はさっさと尻も拭かずに流したほうがいい。さあ、気を取り直して征夷の勇者の冒険譚の続きを綴ろう。山超え谷超えたどり着いたのは海岸線。海に向けた大砲がずらりと並ぶ、その昔、魔王国へ辿り着いた多くの帆船を墓標とした、いわくつきの場所かもしれない。そして丘の上にそびえるは魔王城、もしくは幹部の城かもしれない。闇夜に感覚は鋭くなっている。無言で頷きあう勇者達一行。固く閉ざされた城門を通り過ぎて、城壁を飛び越える。見張りは見えない。背中に汗が走る。物音を立てぬように城内へ、おかしい?誰もいない。罠にかかったのだろうか?疑心が頭をもたげる。城内にある一つの部屋に入るとそこは……」
(心音SE10秒)
「さあさあ、このあとはみんながお待ちかねの魔王との邂逅だ。でもそのまえにお手紙を読ませてもらうよ。ペンネーム【左手は右手の真の支配者さん】リーさん。こんばんは。(はいこんばんは)今のところ、この番組のリスナーは非常にアクティブな2名しかいないみたいだね。私の彼は避妊具をつけたがりません。(キミもか!)彼には幼馴染の彼女がいますが、私のことも大事にしたいと言ってくれます。ただその内縁の娘との時は避妊具をつけていないらしく、そう言われると私も負けたくありません。自分が愚かだとは頭では分かっているのですが、誰かに相談できることでもないので、ここで吐き出させてください。うんうん。とにかく今日同じ男から受けた同じ悩みを抱える娘達がマッチングした。その奇跡を今感じているよ。そしてよく見たら二人の住所も近すぎて、もうこっちがヒヤヒヤだね。そんな悩める二人に征夷の勇者の言葉を捧げるよ」
(5秒タメ、リバーブ・オン)
「真実は時に雄弁だが鼻につく。虚偽は時に優しく傾倒してしまう。私たちはそんな世界で互いを見ている」
(……)
「正直全く意味がわからないね。なんか良いことを言ってやろうというというのが透けて見える、うっすい言葉だと思わないか?この教訓はメトロポリスに身丈の合わない家をローンで買った男の末路と一緒さ。所詮ベットタウンが関の山の己を知れってね。というこで、今週もこのへんでお開きだ。えっ?全然話が進んでいないじゃないかって?そんなのは構成作家に文句を言ってくれ。あいつ俺の女房と寝てやがるんだ。クソが書いている台本に、なにを期待したって無駄さ。最後にキミ達に伝えたい。誰かの人生に自分を重ねても、何者にもならないし、意味なんてないってことさ。答えを導くのも、答えを出さないのも自分の責任でやったらいい。避妊具をつけないのも、構成作家を海に沈めるのも自由に出来る。人生とは巡り合う選択の中でもがくことしか出来ないのさ。ということでディレクターに降板させられてなければまた会おう!今夜もお付き合いありがとう。それじゃあ、グッナイっ」




