マイフーリッシュハート
室内に乾いた音が響いた。
セシルは目に涙を浮かべ、なにかを伝えようとして、ためらい、そして走って部屋を出た。
セシルの聖獣はこちらを一瞥して、やがてセシルを追っていった。
打たれた左頬より、脈打つ心音を通って去来する鈍い痛みが体を蝕む。
セシルは私とは口喧嘩ができないことがわかっているから、自分が受け入れるしかないことを知っている。
その優しさに縋るしかできない自分を、とても許すことは出来そうになかった。
「陛下、あなたは正しい選択をされました。娘には私から言って聞かせますので」
セシルの母親であり、新たな宰相となったティト夫人は言った。
こんな時、曖昧に微笑むことしかできない自分が嫌いだ。
「それより問題はマヨリア女史が政策に口を挟んでいるという噂が宮廷中に蔓延っている件です。畏くも陛下におかれましても、ゆめゆめ疑われるような行動は控えて頂くよう、切にお願い申し上げます」
口調は丁寧だったが、明らかに非難の色が含んだ発言だった。
さすがは実父が認めた才だけある。母親としての情と、宰相としての危機感どちらも看過できないということだろう。
私が頷くと、ティト夫人は、すこしためらい、退出した。
細かい仕草がどこか似ていて、やはり親子だなと思った。
ため息をつくと、体の中からすべて抜け落ちたような感覚を感じた。
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「皇后陛下はまだ興奮なされておりすが、同時にわかってもいるのです。陛下の力になりたいけど自分にはなにもできないのだと嘆いておられるのです」
アニタは私のズボンを下げ、股間に手を伸ばす。
冷たい手の感触に愚息はすぐに反応を返す。
昔の世界の友人が、自分の手を輪ゴムで縛ってから自慰をしてると、自慢げに豪語していたことを思い出した。
「私も勿論反対です。陛下は永年の君主権を要した、神の恩寵を受けた存在です。帝都から離れて戦場のヒロイズムを発揮するために生まれついたわけではないはず」
指を這わせ、空から舞い降りる淡雪を掬い上げるように竿を包む。
彼女の親指の付け根あたりから、手首までのラインが細いと思った。それらは呼吸に合わせて上下に連動していった。
「ご家族を思う気持ちは人民にも伝わります。国事が困難であればこそ、皇帝陛下に今求めるのは不撓不屈の精神ではなく、寄り添う気持ちではないでしょうか?」
どの口が言っているんだと思ったが、その口が私のものを含んできた。
舌は裏筋を通り、先端へと意志を持って進む。ランディングはボーイングを操縦するベテランパイロットのように正確だった。
「ふぉふぇてを、ふぇうかが、ふぉおふふふつゆおふぁふぇんもふぇす。ふぇらふぃはみふぁでふぁけふぁないふぉ」
それは宇宙であった。時空の秩序と、沈黙の総体、創造の海。有史以来の苦しみに対するアンサーだった。
腰は重力から解き放たれ、世界から音が消えた。
彼女は新たに睾丸へと手を伸ばす。あたかも猛禽類が獲物をしとめる瞬間のようだった。私は爪にかけられ、捕獲されたアオバトのように生気なくなく横たわる。
「…わ、わ、私が、ふ、ふ、ふ不在の、あ、あ、間、つ、つ、つ妻を、い、慰撫して、ほ、欲しい」
たったいま不貞行為をしておきながら、我ながら浅ましい望みを口にしたものだ。
戦場へと向かうのは、父親の死を願い、それゆえに統制を無くした国を率いる王として、ふさわしい報いだと感じていた。アニタに言われて翻意することはないが、なぜ己に罰を与えたがっているかは自分でもわからなかった。
アニタは髪をかき上げ、唇に吸い付いてきた。
上着を脱ぎ捨て、私の服も放り投げていく。
再び股間は精気を取り戻すと、もう考えることはやめた。




