縁は異なもの
10年……10年経った。
皇帝にあてがわれた執務室デスクの下に「この日を忘れるな」と彫ってから、10年も無為に過ごしたことになる。
あの日実父を殺そうと決めてから、進捗としては1ミリも動いていなかった。
いや、違うな結婚をした。
あてがわられた娘と、いわれるがままに。
本来であれば政治的な見地からも、他国の娘を迎えるべきであるのだが
隣国の殆どが緊張状態であるため難しく
また、内政的にも問題を抱えているため他国が嫌がったというのが実情だ。
という訳で有力貴族の娘の中から選ばれたのがセシルだ。
同じく10年前に公爵が王立歌劇場では白昼堂々と殺される凄惨な事件があった。
その娘が皇后に選ばれたことは、発表当時センセーショナルな話題となった。
というのも公爵位を受け継いだ長兄である息子は、顔と名前が一致しないぐらいぱっとしなかったし、どちらかというと、あいつで家を守れるかと懐疑的な目で見られていたからだ。
しかし母である公爵未亡人が後ろ盾となり、宮中への根回しから、婚約のお膳立てまで一気にまとめ上げる剛腕をティト家は発揮し、宰相(実父)を味方につけることで反対勢力を黙らせた。
公爵家なので、勃興という表現は正しくはないが(明治でいえば五摂家、徳川宗家に与えられた爵位だ)
夫人が家に嫁いできてから、急速に宮中を席巻したともっぱらの噂だ。
そういった意味でも実父によく似てる。
セシルのことは昔から知っていたし、可愛らしい娘だと思っていた。
初夜など恥ずかしがって、声をあげないようにしていた姿がいじらしく、体の奥で太陽を飲み込んだように興奮したものである。
だが立て続けに女児ばかりが生まれ、世継ぎが生まれてきていないことを、暗に明に周りからのプレッシャーにさらされたことで、彼女はひどく神経質になり
また行為中に神に祈ったりしていたので、自分が受肉製造マシーンにでもなったようで、私は次第に行為自体に辟易していった。
無事に男の子が生まれたが、息子が疾患を持っていることを知るとセシルは変わった。
公務にも口を出すようになり、息子のことをもっと考えろ、家庭を顧みていないと私を非難するようになった。
今は息子の症状を和らげてくれる侍女を皇后専属にして、なにかと傾倒している。
そんな頭が痛い状況だったから、目の前にいる内務大臣が言っている意味がよくわからなかった。
「え?」
「陛下、落ち着いて聞いてください。お父様、トラクス様が凶弾に倒れ、御命を落とされました」
「え?な、な、な、ななななんで…」
「軍が下手人を捕らえたと報告を、コミュニストだそうです」
あの憎き実父が死んだ。殺されたと報告を受けて、どう受け止めればいいのかわからなかった。
振り上げた拳のもって行き場がないという喪失感ではない。まだ振り上げてもいなかったのだ。
ただ憎み、憎悪し、忌避し、この世から消えてくれてと願ったが、簡単に達成をされてしまったことに誰に礼を伝えるべきなのかわからなかった。
まだ目標達成のために自分のリソースも割いてなければ、優先順位をつけてタスクを効率よくこなすことさえしていない。
ただ10年待っていたら牡丹餅が転げ落ちてきただけである。
呆気に取られ、放心していると内務大臣が言葉を続けた。
「陛下、このような状況下の中、申し上げ難いのですが、先ほど軍からもう一つ報告を受けており、征夷の勇者が兵を上げて、軍とぶつかったそうです」
(まるで革命が起きたような言い方だな)
内務大臣は呆気に取られたような顔をしていた。
あれ?声に出てたかな?
「陛下…これは革命です」




