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マッチメーカー・マッチメーカー

日がゆっくりと西に傾き、皇宮は淡い橙色の光に包まれる。

庭園の中央に備わったガゼポまでの道をポピー種の花で飾られた絨毯が伸びている。

ガゼポ周辺には帝国の貴族や要人たちが集まっていた。

彼らの服装は一様に華やかで、宝石や装飾品が輝きを放ち、その重みでドレスは変形するほどだ。


ガゼポで待つのは皇后となる花嫁

私はブライズメイド兼、専属ドレスコーディネーターとして側に控える。

本来であれば平民出の私が並び立つことも出来るような存在ではないのだが、彼女たっての願いとなれば、自尊心に溺れないように精一杯あがいている。


彼女は後ろ髪を結いあげ、頭で輝くティアラは、その重責とはうらはらに気高さを与えている。

肌は白く透きとおり、鼻梁から額にかけて聡明さと、口元に微かな憂いをたたえていた。


「大丈夫?」

「うん。大丈夫。あなたがいるもの」


嗚呼、誑らされるなこれは。


「セシル。そろそろ行くわよ」

「ええ。お母様」


公爵夫人の連れられて、礼拝堂に向かう彼女の背中を見送る。

その姿を見ながら、てらてらと光る寂寥感が身体を襲う。

頭を振って打ち消しそうとするが、肥大する影は爪を立ててしがみついていた。


今になって思えばそれは、予感だったのだろう。

すべては彼女が来てから、なにもかもが狂ってしまった。

それとも私がそう思いたいだけだろうか?


彼女の名前はアニタ・マヨリア

皇宮に仕える侍女として新しくやってきた。

宮廷付きの侍女の多くが没落貴族の成れの果て、というわけではないが、女郎屋に売られる前に斡旋されたことは、彼女にとっては僥倖と呼べるだろう。

とはいえ侍女の仕事は簡単ではない。しかも先輩侍女からの嫌がらせや、陰湿ないじめもあったみたいだ。

(親しくなってから彼女が教えてくれた)

彼女はそれにはめげずにどこかで浮上するきっかけを待っていた。

そういった意味でいえば、彼女は決して運命にこうべを垂れない、高貴な元貴族らしい精神を宿していたとも言えるだろう。


彼女が来た時は皇后が初めての男の子を出産した頃で、城内は祝福一色だった。

待望の世継ぎの誕生に大いに沸いた皇宮だったが、すぐに打ち消されることになる。

皇太子となる赤ん坊の臍から血が出てきたのだ。

それはごくごくありふれた死の印。

息子に疾患があることを知った皇帝夫妻は悲しみに暮れ、そして隠匿した。

それが第一の間違い。


セシルは特に荒んだ。

おりしも、対魔王国戦線は苦戦の報が続々と届き、国内は重税に苦しむ民衆の声が渦巻いていた。

しかし宮廷は情報統制されているため、すべてが届くわけではなかった。

セシルは皇帝陛下に強く父親であることを求めた。


嗜める彼女の母親の腕を振り払い、頑迷なる殻にこもって、フルギルを摂取する量が日に日に増えていった。

周りで狼狽えるだけの私がしたことといえば、役立たずな自身を呪ったこと、だけである。


ある日、痛みで泣き止まない息子に癇癪を起こしたセシルが花瓶を割った。


「早く片付けて!」


セシルは叫びながら部屋を出て、煙草に火をつけた。

その手は怯え、泣いていた。


命を受けた侍女たちが片付けをしていると、ひとりが手を止めて泣き止まない皇太子に近づいていく。

他の侍女が叫ぶ


「この子を止めて!」


娘はそれに介さず、赤ん坊を抱き上げる。

私も頭に血が昇るのを感じ、怒りで体が震えた。


「従僕!なにしてるの早く止めさせて!」


騒ぎを聞きつけたセシルが部屋から出てきた。

私は他の従僕に女中頭を呼ぶように命じた。


「テディが…」


泣き叫んでいた赤ん坊は侍女の腕の中で笑っている。

よろよろとセシルが近づいていくと、侍女は赤ん坊を母親の手に渡した。

セシルは涙を浮かべながら抱き上げると、皇太子殿下はセシルの指を小さな手で掴んだ。


「あなたが?」


懇願する声が部屋で響いた。

侍女は下を向き、そしてゆっくりと目を上げて笑顔で頷いた。


こうして帝国の怪物と呼ばれた女は誕生した。


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