別路2
「あなたの好きな方でいいよ」
にこりと笑う彼女が愛おしかったあの頃を思い出して熱い缶コーヒーのプルタブをあける。
4年間大好きだった彼女。バイクの後ろに彼女を乗せて夜風を感じるあの瞬間は今でもはっきりと思い出せる。それと同時に彼女の目に溜まっていたあの綺麗な潤いもはっきりと脳裏に焼き付いている。
僕は寒い日には彼女に缶コーヒーを渡し、夏の暑い日には氷の入った冷たい飲み物を渡す。彼女はにこりと笑って黙って飲んでいた。そしてその後に必ず具合の悪そうな青白い顔で「ありがとう、おいしかった」と、嘘をつく。
僕が仕事で辛いことがあると一晩中やけ酒に付き合ってくれて、「あなたが悪いんじゃないわ」と必ず言ってくれていた。そんな彼女は会社でいじめを受けていた。
にこりと笑う彼女が大好きだったのに、いつの間にか笑いかける彼女が嫌いになっていった。
「俺たち…別れよう」
声が震えた。
「そっか。うん、わかった。ありがとう」
なぜ彼女は縋ってくれなかったのか。本当に僕を好きだったのか。今となっては聞くこともできない。