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巻き込まれ召喚されましたが、要らないので返品されました  作者: 炉里 邪那胃(ろり じゃない)
第一章
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49 ビル・エバンス

 本当は『壁走り』とか『天井走り』したかった。

 でも、さすがにそれやっちゃダメだよね……。


 そう言えばレベルアップも無い。

 おっさん3人を押し倒して逃げただけだからか。



 隠れていられるとはいえ、追跡は続くだろう。


 僕は一体どういう扱いに?

 犯罪は犯してないけど。

 何かテロの準備罪とか仕立てられそう。


 公安も動くかも?



 僕自身は山の中とか外国とか、どうとでも暮らせる。

 でも周囲の人にまで被害が及んだら?


 美咲さんは大丈夫だろうか。

 栄田社長も。


 もちろん神代社長もただでは済まないかも。



 待てよ……

 その神代さんのいる組織を作ったのは。

 総理大臣だ。


 さっきの情報部官や次長の命令。

 総理への報告は無視だったらしい。



 総理は全く新しい組織を作った。

 世界には無かった一見実体のない組織。


 こういう暴走を予想していた?

 あるいはもうそういう事があったのか。

 あまりにも役立たずだったからかも。



 いずれにしてもはっきりしている。


 今日の出来事は総理の望んでいる物じゃない。

 少なくとも予想外に違いない。




 スマホで地図を検索し、感知で探る。


 いる。

 ひとりだ。


 積み重なった書類を読んでいた。


 立ち上がって外の夜景を見ている。


 もう7時か。


 とりあえず、跳ぶ。





 まだ仕事か。

 普通でも秒刻みのスケジュールらしいし。

 こんなのは普通なんだろう。


 僕は机の前に立っている。


 こっちを見た?!

 ドキッとした。


 知らずに音を立てていたか呼吸の音かも。

 勘がいいんだろうか。


 首を傾げている。

 霊感とかあるのかな?


 僕は霊じゃないけど。


 ともかくこういう時、完全に音を消せないと。

 また改良か。

 実際使ってみないと解らないことってあるな。



 ジャズが掛かっている。

 レコードとかCDじゃない。

 小さな画面にジャケットとアルバム名が出ている。

 デジタルプレーヤーかな。


 ミニコンポじゃあなくて。

 スピーカーは背が高くて細身、簡素なオーディオ。

 なのに、まるで本当に演奏しているような音だ。


 ビル・エバンスだ。

 叔父さんと、同じ曲をたまに聞いてた。


 こんないい音じゃなく鳴らしてるだけだったけど。

 メロディーや雰囲気は好きだった。


 思い出して、久々にほっこりした気分になった。


 聞き入ってる場合じゃないな。


 最善、は思い付かない。

 失敗してもまだ策はある。

 それなら、一番バカ正直なやり方で行こう。



 扉前へ跳ぶ。


 右にカメラが?

 いや、向いている方向が違う。

 ここに向かって来る者を監視している。


 こっちは恐らく生活区画。

 カメラは無いよう。


 出入りや進入路を断って安全確保できてるのか。


 下の階は結構人がいる、警備員とか事務関係?

 この一番上の階は奥さんと2人だけだ。



 覚悟を決めて2回ノックする。


「どうぞ」


 扉を開き、()()()()する。

 お辞儀をした。


 聞こえた第一声はあまりに予想外だった。


「え?

 なるほど。

 やっぱり君か」





「お、お願い、いえ、聞いていただきたい事が」


「声を押さえて、まず入って扉を。

 騒ぎになると不味い」


 無断で入ったことは当然気づいてるか。


 ある程度信用を得たいとは思っているが。

 予想外の反応に思考停止してしまった。



「音楽も掛けてるし、普通に喋っていいよ。

 仕掛けは知らないけど、さっき君はここにいたね」


 机の前を指差す。

 やはり霊感か?!


「ここで聴いてみて。

 楽器が並んで聞こえるだろ?」


 確かに。

 スピーカーの外側まで楽器の音が聞こえる。

 多分本物に近い大きさだ。


「前に誰かいれば変に聞こえて当たり前だ。

 異変の主は判ったが……」


「すみません、大変なんです。

 急ぐんです!」


 気さくな話し方や内容に安心してしまった。

 つい声を荒げてしまう


「その気なら君は何でも出来た。

 君が少なくとも安全なのは分かった。

 話してみなさい」


 こんなにうまく行っていいのか?

 何か落とし穴があるのか?


 とにかく前に進もう。



「君は特異な立場で例の『あの方面』に入った。

 そこまでは知ってる」


 僕は今日の出来事を話した。

 なるべくありのまま。


 どうやったか言えないこともあるが。


 公安と共に情報調査部、『情調』に連行された事。

 ソフトだが尋問を受けた事。

 そして、おそらく “消されそうに” なった事。

 注射と銃の事ももちろん。



「ちょっと待って」


 総理がパソコンを操作する。


 感知でこっそり見てしまう。

 パスワードを打ち込んでいる。

 意識をそらして見ないようにしたが。


「これが原因か。

『あの方面』が各所から吸い上げた情報だ」


 音声が流れる。

 さっきの会議室で流されたものだ。


「盗聴されていたんですね」


「あまり驚いてないようだね。

 なぜ盗聴できたか、なぜここに届いたか、とか。

 君は知ってたんじゃ?」


「あ、いえ。

 内容は知ってました」


 中途半端に答えてしまう。

 この人にすべて隠すのは無理だ。



 聞き終わると総理は話しだした。


弘坂舩三(ひろさかせんぞう)を知っているかね?

 大戦の時の」


 ああ、一部の人は知ってるだろう。

 そういえばテレビのバラエティでも紹介してた。


「不死身の兵士と言われてますね。

 何度も撃たれて、死んだと思ったら蘇生したとか」



 総理は今度は別の資料にアクセスしているよう。


「これをまず読みなさい。

 日本で数人しか読めない極秘扱いだが……。

 今の君には読む資格がある」


 そう言うとどこかへ電話している。


(かつら)君か、緊急だ。

 情調と公安による余茂一関連の活動を全停止。

 必要なら情調の幹部は即時解任してもいい。

 目処がついたら連絡を」


 相手は聞いた事もない名前。

 でも、ともかく動いてくれたよう。


 上手くいくよう祈る。



 横向きになった画面を覗き込む。

 極秘の判が押された書類の画像と文字。


  河村(ひろし)の日記より

  弘坂舩三(ひろさかせんぞう)についての記述


 これが “日記” か。

※政党や名前は出ず、総理大臣は「総理」という呼び名で統一します。


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