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ゲームの課金ももう無理だ。
預金は生活費ギリギリ。
せっかくのバイト休み、ちよっと出かけるか。
最近食費だけは余分に下ろすので手元には一応ある。
いつものラーメン屋でささやかな幸せを……。
車も人も少ない一方通行。
トラックがやけにふらついているな。
あれ……うわっ突っ込んでくる!
目の前には高校生っぽいカップル、すれ違うところだ。
男のほうがエンジン音に気づいたかトラックの方へ振り返る。
バカ!早く逃げろ!
思わず二人を突き飛ばす。
助けようなんて考えたわけじゃない、体が勝手に動いた。
第一でかいトラックが目の前なのに、そんなんで助けられるわけが無い。
不意に目の前の二人が光って、消えた。
何?
幻覚だった?
時間が遅くなった感覚。
のろのろとトラックが僕に迫る。
走馬灯……じゃなくてまあそんな感じのアレだ、もう死ぬのか。
(遅れてスマン、ほれ)
爺さんの声が聞こえて、緑の光が見えた。
景色が変わった。
「もうひとりキターーー!」
「さすがアネさん、3人目ですな。
姫様お呼びしますんで」
「慌てるなっ、だからお前は出世できないんだよ!」
いきなり変わった風景。
何だここは。
この変な人達は?
杖を持ったコスプレおねえさん。
もうひとりは兜はないが騎士っぽい格好のおっさん、金髪だ。
ヤンキー……ではなく外人だな。
おねえさんは国籍不明、というか紫っぽい髪色。
気合満々のコスプレメイクだ。
結構かわいいかな。
薄暗い広間、床には丸の中に模様が描いてあり……。
魔法陣か?
ネットの異世界ラノベは読みまくって、そういうのはよく知ってる。
ゲーム課金しまくって金が無いときの一番の娯楽だ。
いきなりの移動が現実なら、ここは“召喚の間”といったところか?
転送とかもあるか、幻じゃないなら。
さっきの声の爺さんのおかげ?
少し離れると物が相当散乱しているようだな。
はっきり言って汚い……。
なにはともあれ、状況を聞いておく。
「あのー、ここは……」
尻餅をついた格好から立とうと……
「動くな!」
杖の先に炎の塊が。
特殊効果とかじゃなく自分の目で見ている。
熱さを感じる、本物だ。
とりあえずヤバそう、動くなと言われただけだが黙っておく。
「ボヤール、こいつの鑑定内容を全部読み上げな」
「あー、名前は モイチ アマリ。
年齢は……」
読み上げたのは以下全て、順番だ。
名前 : モイチ アマリ 年齢 : 25
種族 : ヒト
職業 : なし
レベル : 1
体力 : 1/1
魔力 : 1/1
強さ :1
丈夫さ :1
知力 :1
器用さ :1
敏捷 :1
運 : 100
スキル :
【見る】
称号 :
巻き込まれた異世界人
「ボヤール、お前本当にアホだな。
最後の称号読めば丸わかりじゃんか! 使えんやつだ」
「全部読めって言ったのはエリーナ様でしょ」
ちなみに聞いているうちに自分でも文字で見えた。
意識すれば読めるようだ。
「ボヤール、姫様にはあたしから説明しとく」
「勇者様とは一緒にじゃないんですね?」
「異世界人特有の伸びはあるだろうが、この能力値は話にならん。
なによりスキルが大外れだからな、この判断で間違いないはず。
決め手は職無し、称号も『巻き込まれた』とはな……」
魔法使いはやっと杖を下ろした。
少し安心して尋ねてみる。
「確かにバイトなんで無職とも言えますが……なんか酷くないですか」
これまで人生全て、特に何も目立った事はない。
なんとなく自立はしたがずっとバイトだ。
学生時代は名前のせいで「アマリモノ」と呼ばれ続けた。
確かに、能力も風貌も平均未満でぱっとしないが。
余ってなどはいない……。
「職業というのは天職、つまり適正の事だ。
それが無いのは、これからも知れているということだ」
不意に背後から肩をつかまれ起こされた。
ボヤールという騎士、いや兵か。
びっくりしたが意外と乱暴ではなかった。
「こいつは一番奥の宿直室にでも居てもらいますか」
「いや、アタシは勇者探索と召喚に魔力を使った。
間違いなく二人分だ、もう一人来るのはおかしい。
何者かが干渉したのは間違いない、もし魔物なら……」
可愛いがキリッとした魔法使い(?)の少女の声が震えた。
えっ、さっきの声って魔物?
そんな風には思えない、助けてくれたし。
何かを恐れていたはずの魔法使いさんが豹変、ニヤリとした。
「何者の仕業かは分からんが。
幸い、日頃の研究成果で魔力は残ってる。
送り返すだけなら楽勝だ」
(ええっ、せっかくの計画がぁ)
爺さんの焦った声。
「精霊の御名において、次元の壁を超え……」
景色がぼやけ、光ったのが分かった。
さっきのカップルの光と同じだ。
良かった、何が何だか分からないがともかく戻れる。
って……
目の前トラックぅぅぅ!
ドガッ
痛っっ!
ふっとばされて転がる。
(ばんぱかぱーん)
?
景色がゆっくり回転、痛いが死んではいないようだ。
うずくまって痛みに耐える。
さっきの、爺さんの変な声はなんなんだったのか。
(レベルが上ったぞい、危なかったのう。
ちょっとだけサポートしたから怪我も無いはずじゃ)
トラックは住宅に突っ込んでいた。
近所の人か、数人近づいてくる。
そのうち警察も来るだろう。
逃げた。
なんとなくこの状況はまずいと思った。
トラックに轢かれて無傷だ。
あの二人も消えた……そっちは誰も見てないか。
運転手はずっと見えなかった。
急病か何かでうずくまっているのか。
いや、『召喚』のせいに違いない。
あの魔法使いのせいだ。
恐ろしく速く走った気がする。
一人暮らしのアバートに戻り、鍵を締める。
夢じゃない、トラックに轢かれた。
どこか違う世界?に行って戻ってきた。
レベルが上ったと言ってたな……。
恐る恐る見た例のステータス数値は、予想と大きく違っていた。