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聖剣よ、顕現せよ!

「ううっ……痛いです」


 脳天にチョップを受けたリリィは、涙目で頭を押さえながらも、嬉しそうに笑みを零す。


「ですが、この痛みは間違いなく本物のお兄様です」

「何が本物だ……全く、こんなことで本物と認識されるのは心外だな」


 リリィのライルに対する評価に対してあれこれと言いたいことはあったが、今はそのことを指摘している場合ではない。


「まあ、我に関する意見は置いておいて、リリィ、あいつが時間を稼いでいる間に、魔王を倒す術を伝えるぞ」

「は、はい、それはわかりましたが……あの方は一体」


 リリィは、素手で魔王と互角に渡り合っている瑠璃色の鎧を着た戦士を呆然と見つめる。


「どうして私たちを助けてくれるのでしょう……あの方はお兄様のお知り合いなのですか?」

「奴か? 奴は元の世界で四百年前に魔王である我と死闘を演じ、見事に討伐した本物の勇者だ」

「ええっ、お兄様を倒した!? しかも四百年も前に!?」


 突然告げられた衝撃の事実に、リリィは思わず頭を抱える。


「お兄様を倒したってことは敵なのでは? えっ、でも、今は助けてくれているし……そもそも元の世界って何ですか?」

「まあ、それはどうでもいい。とにかく奴とは昔は敵対関係にあったが、今は協力関係にあると認識していればいい」

「わ、わかりました。とにかくあの方は味方なのですね」


 難しく考えることを早々に放棄したリリィは、ライルの目を真っ直ぐ見据えて本題を切り出す。


「お兄様、私は魔王を倒すのに何をすればいいですか?」

「うむ、では右手を……それと剣を我に差し出すのだ」

「剣……ですか?」


 ライルから剣と聞かされたリリィは、表情を曇らせて床に転がっている剣を見やる。


「その、すみません。私が下手を打ったばかりにまたしても剣を駄目にしてしまいました」

「いや、それで問題ない」


 その剣でいいから拾うように指示を出しながら、ライルはリリィへと右手を差し出す。


「剣を手に、我の手を握るのだ」

「は、はい、今すぐに」


 リリィは駆け足で剣を拾ってくると、ライルが差し出している右手を取ろうとする。


「あれ?」


 だが、そこでライルの右手がいつもと違うことに気付く。



 リリィの記憶では、ライルの右手は魔王を全力で殴った衝撃で折れ、酷い怪我を負っていたはずだが、その怪我はまるで最初からなかったかのように綺麗に治っていた。


 それはまだいい。兄の腕が治って嬉しくないはずはないのだが、どうしてかライルの腕、肘から先が、まるでそこから生え変わったかのように色が赤銅色に変化していた。


 しかも、よく見ればライルの右手は、リリィが知っている記憶の中の手より一回り大きく、何だか逞しくなっているような気がした。



 早くライルの言う通りにしなければと思いながらも、リリィは好奇心に負けて思わず兄に質問する。


「お兄様、何だかその手……随分と変わっていませんか?」

「ああ、そうだろうとも。この手は、奴の……あの勇者の右手だからな」

「ええっ!?」


 素っ頓狂な声を上げながら、リリィは反射的に魔王と対峙している過去の勇者の右手を見やる。


「クッ……お前、何者だ! いい加減、名を名乗れ!」

「ハハハッ、悪いが悪に名乗る名前は持ち合わせていないのさ!」


 苛立ち気に振るわれた魔王の拳を、あるはずのない右手で軽くいなしながら、過去の勇者は華麗に立ち回っていた。


「えっ、でもあの人の右手……ありますよね?」

「そう見えるが、あの右手の中身は既に空になっている……どういう理屈で奴が戦っているかはわからん……だが、あいつのことは考えるだけ無駄だ」

「そう……なのですか?」


 見事な跳び蹴りで魔王の体制を崩している過去の勇者の戦い方に呆れながら。ライルが吐き捨てるように言う。


「ああ、そもそも相手は四百年も生きている人間……しかも、毎日欠かさず鍛錬を続けているという規格外の化物なのだ。既に人外の域に達している者の常識を、こちらの枠に当てはめて考える方が無意味だろう」

「はぁ……」

「安心しろ。全てが終わったら奴に返却する予定だ。だからリリィは早くこの手を取れ!」

「は、はい!」


 急かすようなライルの言葉に、リリィは勇気を出して赤銅色の逞しい手を握る。


「――キャッ!?」


 ライルの手を握ると同時に、まるで大きな波に呑まれたかのような衝撃がリリィへと襲いかかり、彼女は思わず背後へ吹き飛ばされたかと思う。


「……あれ?」


 だが、それも一瞬のことで、次の瞬間には体の底からマグマのように熱い想いが込み上げて来たかと思うと、その力が一気に右手へと集約する。



 次の瞬間、リリィの手にする剣が眩い光を放ち、半ばで折れてしまった刀身を補うような光輝く剣が誕生する。


「お兄様、この剣は?」

「ああ、これこそ魔王を倒すために必要な要素、勇者、想いの力に続く最後の力……聖剣だ」

「聖剣、これが…………」


 話には聞いたことがあったが、まさかここに来て勇者として憧憬の念を抱いていた聖剣を手に入れられると思っていなかったリリィは、ライルと繋いだ手の中にある光る剣を、子供のような純粋な眼差しで見つめ続けた。




「な、何だその剣は!?」


 リリィから眩く輝く剣が生み出されたのを見て、魔王が焦燥に駆られたように叫ぶ。


「馬鹿な! どうしてお前がそれを手にしている」

「驚いたかい?」


 大きく目を見開く魔王に、過去の勇者が逃がすまいとラッシュを仕掛けながらライルたちに向かって叫ぶ。


「さあ、今こそ反撃の時だ。君たちに託した力、魂の雄叫びと共に魔王に叩き付けるんだ!」

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