同じ魔王なのに……
激しく土埃を撒き上げながら、かくや雷鳴かと思うほどの目まぐるしい勢いで、リリィは魔王へと襲いかかる。
「クッ……このっ!」
左右に素早くステップを踏みながら迫るリリィに、魔王は手から暗黒の炎を出して追い払おうとするが、炎が着弾する頃には既に彼女はその先へと抜けていた。
「な、ならば……」
魔法がダメならと、魔王は自慢の剛腕を振るってリリィを迎撃しようとする。
だが、
「遅すぎます!」
うねりを上げながら迫る剛腕に全く怯むことなく、完全に見切っていると謂わんばかりに紙一重で攻撃を避けたリリィは、電光石火の如く魔王の腕を何度も斬りつけ、そのまま深追いはせずに距離を取る。
飛び出した勢いのままリリィが距離を取ると同時に、魔王の腕にいくつもの切れ込みが入り、
「ぎゃああああああああああああああああああああああぁぁぁぁ……」
魔王の絶叫と共に、腕がまるでハムかウインナーのように輪切りにされ、傷口から黒い触手が勢いよく飛び出す。
魔王の傷口から溢れた黒い触手は、バラバラになった腕を集めるとすぐさま修復作業へと移る。
だが、腕は修復されても痛みは感じるようで、魔王は血走った目でリリィのことを恨めし気に睨む。
「お、おのれええぇぇ……痛いじゃないか! このっ、人間風情が!」
「……ギャアギャアとよく喚きますね……全く、愚かな魔王ですね」
「何だと!? 貴様、もう一度言ってみろ!」
「ええ、何度でも言って差し上げましょう」
リリィは剣を振るって血糊を払うと、剣を突き付けながら堂々と言ってのける。
「たかが腕を斬られたぐらいで喚くなど魔王として愚かだと言ったのです。私のお兄様は、腹に風穴を開けられても、表情一つ変えることはありませんでした」
石の街でライルに庇ってもらった出来事を思い返しながら、リリィは唇の端を吊り上げて、ライル顔負けのシニカルな笑みを浮かべる。
「同じ魔王なのに、何ですかあなたの体たらくっぷりは……全く恥を知ったらどうですか? この愚鈍!」
「こ、小娘がああああああああああああああああああぁぁぁ!!」
決して上手いとは言えない挑発だが、リリィを明らかに自分より小物だと過少評価している魔王は、額に青筋を浮かべて修復したばかりの腕を振り回しながら猛然と突撃する。
しかし、それこそリリィの思うつぼであった。
「すぅ……」
魔王が前へ出ると同時に、大きく息を吸って屈んで足に力を溜めたリリィは、再び地を強く蹴って大きく跳ぶ。
「はあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁ!」
気合の雄叫びを上げながらリリィは空中で激しく回転しながら真っ直ぐ魔王の顔目掛けて飛ぶ。
狙う先は魔王の首、その切断だった。
「――っ!?」
リリィの意図に気付き、慌てて魔王が腕でガードをするが、リリィはその腕を回転する勢いのままあっさりと斬り伏せると、そのまま魔王の首を刎ね飛ばしてみせる。
「がああああああああああああああああああぁぁぁ…………」
だが、それでも致命傷には至らないのか、魔王は腕で叫んでいる首をキャッチすると、傷口から溢れ出した黒い触手同士が結合して修復していく。
「チッ、これでもダメなの?」
首の結合を行いながら、憤怒の表情でこちらを睨んでくる魔王を見て、リリィは舌打ちをしながら安全な距離まで退避する。
どんな生物でも首を刎ね飛ばせば死ぬと思っていたが、どうやら魔王は生物としての常識の埒外にいるようだ。
一体どうすれば魔王を倒せるのだろうか。
こんな時、ライルがいれば的確なアドバイスをくれるのだろうが、そんな最愛の兄はもういない。
これからは、リリィが一人で考え、対処していかなければならないのだ。
「…………グスッ、ダメダメ!」
思わずライルがいなくなったことを思い出して、感傷的な気分に陥りそうになったリリィは、強くかぶりを振って溢れそうになった涙を吹き飛ばす。
「お兄様の想いを受け取ったんだもの……絶対に魔王を倒す方法を見つけてみせる」
実際、ライルが死んだ瞬間、リリィの中にこれまでとは比べものにならないほどの力が溢れたのを自覚している。
それだけライルのリリィに対する想いが強かったのか、それとも彼が死の間際までかけ続けてくれた補助魔法が効果的だったのかはわからない。
それに、ライルが何の策もなしにリリィにこれだけの想いを遺したとは思えない。
きっとリリィが気付いていないだけで、魔王を倒す方法は何かあるはずだ。
「もし、何も思いつかなくても、復活しなくなるまで切り刻むまでよ」
ライルが魔王は不死ではないと言っていた以上、回復力も無限ではないはずだから、回復しなくなるまで攻撃し続ければいい。
今の自分には、それだけの力があるとリリィは確信していた。
「悪いけど、これからもっともっと苦しんでもらうわよ……お兄様を殺したことを一万回は後悔させてあげるんだから」
リリィは獰猛な笑みを浮かべると、魔王の体をなます斬りにするために再び突撃していった。
目を開けると、何もない白い空間が広がっていた。
「ここは……」
自分は……魔王の一撃を喰らって死んだはずだ。
ならばここは天国……いや、悪行の限りを尽くした自分が天国などという楽園に行けるはずもないから、ここは地獄だろうか?
そんなことを思っていると、
「――クッ!?」
右手に鋭い痛みが走り、ライルは堪らずそちらへ目を向ける。
魔法の使い過ぎで、てっきり腐って朽ち果てたと思った右手だったが、まだかろうじて繋がっているのが見て取れた。
だが、手首から先は変な方向へ折れ曲がり、骨も剥き出しのままなので、この腕が使い物になることはなさそうだった。
「全く……死んだのなら怪我や痛みぐらい無くしてもらいたいものだな」
全身がバラバラになりそうな痛みに何度か気絶しかけながらも、ライルはゆっくりと身を起こして周囲に目を向ける。
「何だここは?」
「ここは俺の創った空間だよ」
ライルの呟きに返す言葉が投げかけられ、ライルは反射的にそちらへと目を向ける。
そこには全身を瑠璃色に輝く鎧を着た人物がいた。
一体何者だろうかとライルが訝し気に鎧の人物を見ていると、その者は両手でピースサインを作ると、
「ちゃんまおおひさ~、元気にしてた? ウェイ、ウェ~イ!」
底抜けにアホな挨拶をしてきた。




