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露わになる正体

「こんのおおおおおおおおおおぉぉ!!」


 魔王の肩に刃を当てたリリィは、盛大に吹き出す血に顔をしかめながらも、そのまま刃を走らせて胴を両断しようとする。


 だが、


「は、刃が……通らない!?」


 踏ん張って力を籠め続けているのだが、どういうわけか刃先が不思議な力に阻まれて、肩口から十センチほど埋まった場所から先へと進まない。


「そんな……どうして」


 焦りを覚えながらも、リリィはさらに力を籠めようとする。


「リリィ、今すぐ下がれ!」

「――っ!?」


 するとその時、背後からライルの緊迫した怒声が聞こえ、リリィは反射的に刃を引いて大きく背後へと飛ぶ。

 それと同時に、リリィが斬りつけた傷口から無数の黒い触手飛び出し、彼女の体を拘束しようと手を伸ばしてくる。


 だが、ライルの指示が僅かに早かったお蔭か、触手は逃げるリリィの足を掠めただけで、彼女の体を拘束することはなかった。


「これは……グランデラパスと同じ!?」


 拘束に失敗し、シュルシュルと音を立てながら魔王の体に戻っていく触手を見て、リリィは顔を青くさせる。


「まさか、魔王も不死(アンデッド)だというの?」


 王都に入る前に戦った怪鳥、グランデラパスは不死使い(ネクロマンサー)によって不死へと変えられ、体内に寄生された無数の触手によって、受けた傷をたちまち回復させるという無敵にも近い状態になっていた。

 この不死状態になった敵を倒すのは、対不死用の魔法を使うか、術者である不死使いたちを倒すことのみとなっている。


「で、ですが、一体誰が魔王を不死にしているというの?」

「違うぞ。あれは一見似ているように見えるが、不死というわけではない」


 冷や汗を流しながら武器を構えるリリィに、ライルが隣にやって来て状況を話す。


「あれは奴の中の本体が溢れ出ているのだ」

「魔王の中の……本体?」

「ああ……」


 怪訝な顔をするリリィに、ライルは倒れたままの魔王へと話しかける。


「おい、いい加減そのふざけた見た目を止めたらどうだ? 少なくとも我らがその見た目に(ほだ)されることはないことはわかっただろう。それとも力の使い過ぎによって成熟していないから、本来の姿になれないのか?」

「………………フッ」


 肩を揺らして薄く笑った魔王は、手も使わずに仰向け状態から音もなくスッと立ち上がると、ライルの顔を見ながら静かに話し出す。


「勇者の兄よ……お前はつくづく不思議な奴だ。どうして仮にも人間であるお前が、魔王の生態についてそこまで知っている。それに、こうして相まみえてみると、我とお前……どちらが魔王かわからなくなるほど、似た気配をしているとは思わんか?」

「何を言っている。我を貴様のような下賤な輩と一緒にするな」

「ククク……魔王たる我を指して下賤とは……言い得て妙とは思わないのか?」

「高貴な者なら、手段を(えら)ばず勇者を殺そうとする真似はしない。少なくとも我は、そんな奴を魔王とは断じて認めん」

「……見解の相違だな」


 同じ魔王であるが、最高に育った勇者と戦うことを望むライルと、ただひたすらに勇者を殺すことに固執する魔王とでは、意見が一致するはずもなかった。


「まあいい……」


 何処までいっても平行線を辿ると理解した魔王は、大きく息を吐きながら肩の力を抜いて、弛緩したようにだらりと腕を垂らす


「そこまで言うのなら、望み通り我の真の姿を見せてやろう」


 そう言いながら魔王がニヤリと笑うと、頭の角が倍近く伸び、身に纏っているボロ切れを突き破って二枚の巨大な蝙蝠の翼が生える。


 同時に手足がみるみる肥大化し、筋肉質なものへと変わったかと思うと、それに併せて胴体部分も大きくなり、全長が二メートルを超える。

 口が狼のように前へと突き出したかと思うと、大きく裂け、チラリと覗く口内には鋭い牙がずらりと並ぶ。代わりに巨大化した鼻は潰れ、目を一度閉じた方と思うと、爛々と輝く赤いルビーのような不気味な瞳に代わる。


 最後に臀部(でんぶ)からトカゲのような巨大な尻尾が生えたかと思うと、全身が淡く光って表皮が紫色の肌から竜を思わせる鱗へと変わる。



 最強の魔物と謳われる魔神将(アークデーモン)を彷彿とさせる人外の化物へと変身した魔王は、口の端から蒸気のようなものを吐き出しながら、体の調子を確かめるように手を開いたり閉じたりを繰り返す。


「フシュルルル…………まだ不完全とはいえ、こうも早くこの姿になるとはな」

「フッ、実に醜いな」


 どちらかといえば人に近い姿の魔王だったライルは、魔神将に近い姿となった魔王を見てシニカルな笑みを浮かべる。


「その醜さ。正に貴様の生き様そのものを体現したようだぞ」

「ククク……今のうちにほざくがいい」


 ライルの挑発に動じることなく、魔王は赤くて長い舌でチロリと舌なめずりをすると、口角を限界まで吊り上げて笑う。


「この姿となった我を見たからには、一切の手加減などしない。塵芥(ちりあくた)残すことなく殺し尽してくれよう」

「ハッ、言ってろ」


 ライルは改めて自分とリリィに何重にも補助魔法(バフ)を重ねながら、油断なく武器を構えている妹へと話しかける。


「リリィ、これが最終決戦だ。持てる全てをもって奴を倒すぞ」

「はい、お任せ下さい」


 リリィは自分の力が何倍にも膨れ上がっていくことを実感しながら、兄に負けないほどの獰猛な笑みを浮かべる。


「勇者リリィ、全力で参ります!」

「ああ、期待しているぞ」


 そうして頷き合った二人は、本性を現した魔王へ向けて突撃していく。

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