関係ないね
「ち、違います!」
衝撃の一言発した魔王の言葉に対し、リリィは必死の形相で否定の言葉を並べる。
「ふざけたことを言わないで下さい! お兄様があなたなんかと同じはずありません!」
ライルを庇うように前に立ちはだかって叫ぶリリィに、魔王は子供の見た目からは想像もできないような嗜虐的に歪んだ笑みを浮かべる。
「フッ、いい加減に認めろ。お前の兄はお前たち人間ではなく、我々魔族側の存在だ」
「そんなことありません! だってお兄様は……お兄様は……」
「……リリィ、もういい」
半狂乱になって叫び続けるリリィに、ライルが背後から近付いて彼女の肩を掴んで優しい声音で語りかける。
「先程言い淀んだ時に、奴が指摘してきたことに気付いたのだな?」
「それは………………はい」
ライルの指摘に、リリィは肩を落として気落ちした様子で話す。
「魔王を初めて見た時、誰かと雰囲気が似ていると思ったのですが……」
「それが我だった……というわけだな」
「…………はい」
「ふむ……」
勇者としての本能がそうさせるのか、どうやらリリィは、魔王からライルと同じ気配を感じて戸惑いを覚えている様だった。
だが、それも無理のない話であった。
異世界の勇者に敗れ、人間として生きていくことになったライルであったが、魔王としての記憶と力の一部を持っている。
そういった意味でライルは、人間であっても同時に元魔王でもあった。
しかし、ライルからしてみればそんなことは些末なことであった。
「……それで、我と魔王が同じ気配だとして、それが何だというのだ?」
「えっ?」
「奴がどんな戯言を吐こうとも、我がリリィに教えて来たことは本物だ……違うか?」
「ち、違わないです!」
「ならば何も問題はないだろう」
何度も繰り返し頷くリリィに、ライルは魔王にも負けないほど好戦的で歪んだ笑みを浮かべてみせる。
「我々の目的は魔王を倒し、世界を平和にして、母たちの待つあの家に帰ることだ。違うか?」
「いえ、何も間違ってないです」
「ではとっとと為すべきことをするぞ。あの、様式美を全く理解していない愚か者に誅を下すのだ」
「はいっ!」
ライルの一言で迷いが晴れたリリィは、涙を乱暴に拭って再び剣を手にして魔王と対峙する。
「……やれやれ」
すっかり調子を取り戻した様子のリリィを見て、魔王が後頭部を掻きながらめんどくさそうにしかめっ面をする。
「少しは動揺してくれればと思ったが、中々上手くいかないものだな」
「フッ、姑息な手を用いることにかまけてばかりいるから、言葉に重みが生まれんのだよ」
「……そういうことは、我に肉薄できる実力を得てから言ってもらいたいな」
そう言った魔王の姿がまたしても消え、今度はライルの背後へと出現する。
「ほら、いくぞ!」
魔王は軽くジャンプすると、空中で回転しながら右足を大きく振り上げてライルの側頭部を狙う。
「……フッ」
風邪を切り裂きながら迫る攻撃に対し、薄笑いを浮かべたライルは、背後を見ることなく体を折り曲げて回避する。
「――っ、何!?」
「ハッ、全く……莫迦の一つ覚えだな!」
魔王の攻撃を難なく回避したライルは、攻撃を回避されて体勢を崩している魔王の背中を蹴り飛ばす。
「リリィ、そっちに行ったぞ!」
「はい!」
ライルが攻撃を回避した時点でこうなることを予期していたリリィは、吹き飛ばされた魔王目掛けて、構えていた剣を思いっきり振り抜く。
「ぐっ……」
流石に首を刎ね飛ばすまでは至らなかったが、咄嗟に防御した魔王の腕が切り裂かれ、魔族の証とも言える紫色の鮮血が舞う。
「莫迦な!? 想いの力もなしにこの我を傷付けるだと!?」
「当然だ。それだけの援護を我がしているからな」
そう言いながらライルは、会話をしている間に何度も重ね掛けしておいた補助魔法が乗った拳で、よろけている魔王の顔面を殴り飛ばす。
「ぐはっ!?」
「これで先程の借りは返したぞ……リリィ、我に続け!」
「はい、お任せ下さい!」
ライルの言葉に二つ返事で応えたリリィは、猛然と突き進む兄に続いて魔王へとラッシュを仕掛けるために前へ出る。
「チッ……炎よ!」
迫る兄妹を前に、魔王は蚊を振り払うかのように手を横に振る。
すると、地面に赤い軌跡が描かれ、そこから炎が勢いよく天を貫くように吹き出す。
「ハッ!」
噴き出す炎を前にライルは余裕の笑みを浮かべると、足を振り上げて炎が吹き出している手前の床を、足場を踏み抜く勢いで強く踏み込む。
すると、ライルの足から淡い光が地面を素早く走り、それが壁となって炎の噴出を阻んでみせた。
「な、何だと!?」
「何を驚いている。ただの基礎魔法の一つ、プロテクションだろうが」
魔法を足から出すという離れ技を難なくやってみせながら、ライルは驚愕の表情を浮かべている魔王目掛けて思いっきり腕を振り上げる。
「――っ!?」
反射的に顔をガードするように手を交差させる魔王に、ライルはニヤリと笑いながら素早く屈むと、足で掬うように足払いをする。
「んなっ!?」
まさかここにきて搦め手を使ってくるとは思っておらず、足元を掬われて背後に倒れる魔王の目に、大きく跳んで大上段で剣を構えるリリィの姿が映る。
「お兄様を侮辱した罪、万死に値します!」
リリィはライルが素早く魔王から距離を取っているのを確認すると、重力に従って下降する速度も上乗せする一撃を繰り出す。
「はああああああああああああああああああああぁぁぁっ!!」
そうして裂帛の気合と共に繰り出されたリリィの渾身の一撃が、ようやく立ち上がった魔王の肩口を捉えた。




