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ファーストコンタクト

 覚悟を決めたライルたちは、肩を並べて赤い絨毯の上を歩み続ける。


 その歩みは実に堂々としたもので、これから魔王と相対することに対する恐れは一切見られない。

 どの道この空間から抜け出すためには、主たる魔王を倒さねばならないのだ。


 逃げ道などないとわかりきっているからこそ、ライルたちは逆に割り切って恐れることなく、堂々と挑むことにしていた。



 そうしてようやく見えてきた玉座が見えるところまで来たところで、


「フッ、勇者たちよ。待ちわびたぞ」


 玉座に鎮座している魔王が、唇の端を吊り上げてシニカルに笑いながら話す。


「我が策を潜り抜け、よくここまで来た。まことに不本意であるが、其方の功績を称え、我がじきじきに相手をしてやろう」

「あなたが……魔王?」

「いかにも、我が今代の魔王だ。勇者リリィよ」

「そんな……」


 肘をついて尊大な態度で語る玉座に座る人物を見て、リリィは無礼だと思いつつも思わず魔王を指差す。


「だってどう見ても、子供じゃないですか」


 玉座に座る魔王を名乗る人物は、リリィの半分程度の身長しかない齢五歳程度の児童と言っても差し支えないのない体躯をしていた。



 頭に生えた捻れた二本の角こそ立派だが、身に付けているものはマントのような黒いボロ切れ一枚で、剥き出しの手足は強く握れば折れてしまいそうなほどに細い。

 顔もまだあどけなさの残る美少年といっても差し支えない整った顔立ちで、嗜虐的に歪んだ笑みも、綺麗に切り揃えられた髪型と相まって、怖いというよりは愛らしいという表現が似合った。



 魔王、と呼ぶにはあまりにも似付かわしくない存在に、リリィは困惑した表情でライルに尋ねる。


「お兄様……本当にこんな子供が、魔王なのですか?」

「ああ、間違いない」


 困惑するリリィに対し、ライルは額から流れてきた汗を拭いながらしかと頷く。


「さっきから感じる波動……間違いなく奴が魔王だ。見た目が子供だからといって決して手心を加えるなよ。少しでも気を抜けば、一瞬で殺されるぞ」

「そ、そこまでですが?」

「そこまでだ」

「そうですか…………えっ、でもこの人って……」

「何だ?」


 何かを言い淀むリリィを見て、ライルは眉を顰めながら尋ねる。


「何か気付いたことがあるなら、遠慮なく言うがよい」

「あっ、い、いえ、何でもないです……きっと、気のせいですから」


 リリィは激しくかぶりを振って話を打ち切ると、腰から剣を引き抜いて構えを取る。


「…………」


 一体、リリィが何に気付いたのか問い詰めるべきか悩んだが、あえて踏み込む必要はないと判断したライルは、彼女に並んで構えを取る。



「フフッ、雑談は終わったか?」


 二人が戦闘態勢も移るのを見て、魔王は大きく肩で嘆息しながらゆっくりと立ち上がる。


「何やら我の姿に不服があるようだが……どれ、ちょっと遊んでやろう」


 そう言った魔王の姿が玉座の上から掻き消えたかと思うと、次の瞬間には、リリィの眼前に彼のおおよそ子供らしくない嗜虐的に歪んだ笑みが現れる。


「……えっ?」

「遅いぞ!」


 突然の事態にキョトン、とするリリィの頬目掛けて、魔王は宙でくるりと回転して蹴りを繰り出す。


 うなりを上げて魔王の足がリリィへと迫るが、


「――っ、リリィ!?」


 蹴りがリリィに当たる直前、ライルが間に割って入って両腕で攻撃を受け止める。

 瞬間、とても蹴りが当たったとは思えない轟音が響き渡り、殺し切れなかった衝撃が内部から爆発してライルの腕から大量の血が吹き出す。


「ぐうぅぅ……」

「お兄様!?」


 苦悶の表情を浮かべて膝を付くライルを見て、正気を取り戻したリリィは、手にした剣を魔王へ向けて振るう。


「このっ!?」

「おっと」


 だが、闇雲に繰り出した攻撃が当たるはずもなく、魔王はふわりと宙返りをして難なく回避してみせると、再び自分が座っていた玉座へと着地する。


「フッ、今の蹴りに反応して防ぐとは思わなかったぞ。それに、一撃で壊せなかったのも予想外だ」


 魔王は両手を大きく広げて大袈裟に驚いてみせると、そこで初めてライルに視線を向ける。


「貴様……確か勇者の兄だったな」

「……それがどうした?」

「いや、何……そうか……お前が…………」


 負傷した腕に回復魔法をかけながら射貫くように睨むライルに、魔王は得心がいったと大きく頷く。


「わかったぞ。お前が我のこれまでの作戦を、(ことごと)く潰してくれた者だな?」

「なんのことだ?」

「とぼけても無駄だぞ。我は従僕たちを通じて、ある程度のことは認識している。なんなら、これまでお前が行ってきた数々の行いを、全てここで話してやろうか?」

「…………」

「フッ、沈黙は肯定と取るぞ」


 魔王は自己完結して納得したように何度も頷いた後、


「だが、解せぬな」


 目を三白眼にしてライルを睨む。


「どうしてお前のような輩が勇者の味方をするのだ。お前のような……」

「ど、どういう意味ですか?」


 魔王の言葉を遮るように、前に出たリリィが怒気を孕んだ声で話す。


「お兄様は、私のたった一人の大切なお兄様なのですよ!? 兄が愛する妹を助けるのに、理由なんていらないはずです!」

「ほう、その反応……」


 ライルを庇うように立つリリィを見て、魔王は目を細めてニヤリと笑う。


「勇者よ……もしかしてお主、気付いているな?」

「――っ!?」

「図星か……」


 表情を硬くさせるリリィを見て、魔王はやれやれと大袈裟にかぶりを振りながら嘆息する。


「おい、勇者の兄よ……どうやらそこの勇者はとっくに気付いているようだぞ」

「や、やめて……」


 言葉を遮るように声を上げるリリィを無視して、魔王はライルにその一言を告げる。


「お前が我と同じ、魔に連なる者であるとな」

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