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偽りの王

「なっ、お、おお、お兄様!?」

「ライル、何を仰いますの!」


 ライルの無礼な態度と物言いに、すぐさま二人の少女から抗議の声が上がる。


「お兄様、いくらなんでも失礼が過ぎます。その発言は今すぐに取り消してください」

「リリィ……わかった」


 本気で怒っている様子のリリィに、ライルは困ったように眉を下げながら王が怪しいと踏んだ理由を話す。


「リリィ、覚えているか? この部屋に入る前にお前が言ったことを」

「私が……ですか?」

「ああ、謁見の間に食事も摂らず、トイレも行かずに閉じ籠り続けるのはどうかしている、と」

「あっ……」


 その指摘にハッ、となるリリィを見て、ライルは次にアイリスに尋ねる。


「アイリス、この先には王の私室があるということだが、そこには食糧や飲み物の蓄えはあるのか? それと、体を洗う場所、用を足す場所は?」

「そ、それは……飲み物なら多少はあると思いますが、それ以外は……」

「それだけ聞ければ十分だ。もう、わかったであろう」


 二人の少女を納得させたライルは、再び王へと向き直って顔をしかめる。


「それに、不審なのはそれだけではない」

「ま、まだあるといいますの!?」

「ああ、どうやら上手く誤魔化しているようだが、この我は欺けんぞ」


 ライルは自分の鼻をツンツンと指差しながら、アイリスにもう一つの懸念材料を話す。


「……臭うんだよ」

「臭うですって?」

「ああ、隠しているつもりでも、隠し切れていない……魔族だけが持つ魔力の臭いだ。アイリス、先程教えた魔力集中をやってみろ」

「え、ええ……」


 頷いたアイリスは、自分のへその下に手を当てて丹田へと魔力を集中させる。



 一度身に付けた知識ならお手の物なのか、あっという間に丹田へと魔力を集中させたアイリスは、


「――っ、そんな!?」


 王の魔力を見て、驚きに目を見開く。


「お父様の魔力……大きくて禍々しい黒一色ですわ」

「そういうことだ。あれが本物のアイリスの父親なら、そんな気配をしているはずがない」


 アイリスから証言を引き出したライルは、反論の余地はないと指で示しながら王へと問い詰める。


「さあ、もう隠し立ては無駄だ。おとなしく正体を見せたらどうだ?」

「…………」


 ライルの問いかけに、王はゆっくりと顔を伏せると、


「やれやれ、そのままおとなしく殺されていればいいものを」


 そう言って大袈裟に嘆息する。


「……ということは、本物の王ではないと認めるのだな?」

「ああ、認めるよ。だが、そんなことは関係ない」


 王の姿をした何者かは、顔を上げて口角を人の限界を超えて醜悪的に歪める。

「何故ならこの部屋にいる時点で、既に我の射程圏内だからだ」

「――しまっ!?」


 王の姿をした何者かが発した言葉の意味を理解したライルは、慌てて後方へと追いやっていたリリィへと手を伸ばす。



 次の瞬間、リリィの足元に巨大な影が生まれ、彼女の体が大きく沈み込む。


「お、お兄様!?」


 いきなり現れた影に囚われたリリィは、必死に逃れようと暴れるが、その分だけ早く影に沈んでいく。


「お、お兄様、助けて!」

「わかってる!」


 必死に助けを求めるリリィの手を、ライルはすかさず掴んで彼女を引き上げようとする。


「無駄だよ」


 だが、まるでライルの動きを見透かしたかのように王の姿をした何者かの声が聞こえ、リリィの足元にある影の広さが増し、逆に捕らえられてしまう。


「クッ、こうなったら……」


 少しだけもがいて脱出は不可能だと察したライルは、せめてリリィだけでも守ろうと、彼女に向かって必死に手を伸ばす。


「リリィ、こっちに来るんだ!」

「は、はい!」


 その声にリリィは体を投げ出すようにして手を伸ばす。

 ライルもまた手を伸ばしてリリィの手を掴むと、彼女を引き寄せて自分の胸に抱く。


「この先はなにがあるかわからん。絶対に我から離れるなよ」

「はい……私はどこまでもお兄様とご一緒します」


 緊急事態にも拘らず、リリィは頬を赤く染めてライルの胸に顔を埋めてうっとりとした表情を浮かべると、手を彼の背中に回してしっかりとしがみつく。


 これでリリィの方は問題ないだろう。



 そう判断したライルは、不安そうにこちらを見ているアイリスに目を向ける。


「ライル! リリィ!」

「アイリス、来るな!」


 案の定、影の中に足を踏み入れようとしていたアイリスに向かって、ライルは鋭い声で注意する。


「この中はどうなっているかわからん。祈りの保証ができない以上、お前までこの中に来る必要はない」

「で、ですが……」


 自分一人だけ被害を受けないのを悪いと思っているのか、意気消沈した様子のアイリスに、ライルは優しい笑みを浮かべて話しかける。


「気にするな。アイリス、お前はこれまで十分によくやったよ」

「ライル……」

「心配するな。我等は必ずや戻ってくる。だからお前は、早く本物の両親を見つけて、城から魔物たちを追い出して来い」

「…………はい! 再会する時を、お待ちしていますわ」


 アイリスは溢れそうになっていた涙を拭うと、ペコリと頭を一度下げて謁見の間から退出していった。



「…………ああ、約束だ」


 ライルはアイリスの背中に優しく声をかけながら、首を回して王の姿をした何者の方を見る。


 しかし、リリィを嵌めたことで用が済んだのか、忽然と姿を消していた。

 いや、おそらくリリィを迎えるべく、この影の中に潜んでいるとライルは予測する。


「…………」


 一体、あの王の姿をした者の正体は何だったのだろうか?


 ベリアルセブンを倒した後に出て来たことから考えると、少なくともあの悪魔より格下である可能性は低いだろう。



 上級魔族と名乗ったベリアルの立ち位置はわからないが、あれより格上の存在となると、


「もしや本当に……」


 ライルは脳裏に浮かんだ可能性を否定するように首を横に振ると、腕の中のリリィとはぐれないように、さらに力を籠めて彼女を抱き締める。


 そうして二人は、互いを想うようにひしと抱き合いながら、一緒に影の中へと沈んでいった。

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