真の勝利に必要なこと
「や、やりましたわ!」
真っ二つにされたベリアルセブンの体が消滅するのを見て、アイリスはライルに飛び付いて喜びを爆発させる。
「ライル、やりましたわ! とうとう……とうとうあの魔物を倒しましたわ!」
「あ、ああ……わかったから落ち着け……首が……首が絞まっておる」
「えっ? 何ですの? 聞こえませんわ。アハハハハ!」
念願だった兄の仇を討てたことが余程嬉しかったのか、アイリスはライルの言うことを無視して彼の体をきつく抱き締め、何度も頬にキスをしていく。
「本当、あれもこれもライル……全てあなたのお蔭ですわ!」
「わかった! わかったから少しは落ち着け。ほら、あいつが見てるぞ」
「ウフフ、もう照れなくてもよろしいですのに……一体、誰が見ているといいますの?」
もう一度ライルにキスをしながら、アイリスは彼の目線の先を追い、
「…………あっ」
そこでライルの言葉をようやく理解して我に返ったのか、アイリスの顔から一気に血の気が引く。
「あ、あの……これは、違うんですのよ?」
焦ったように言い訳を述べるアイリスの目線の先には、まるでリスのように両頬を膨らませて怒りの表情を浮かべるリリィがいた。
目に涙を浮かべているリリィを見たアイリスは、流石にマズいと思ったのか、慌ててライルから距離を取る。
「あ、あの……リリィ? これはですね。違うんですのよ?」
「何が違うんですか?」
まるで能面のような笑顔を張りつけたリリィは、ゆっくりと歩を進めながらアイリスへと問いかける。
「アイリス、私たち……仲間じゃなかったのですか?」
「な、何を言ってますの!? わたくしとリリィは、かけがえのない仲間ですわよ!」
「ですよね? なら、どうして喜びを分かち合うのが、私よりお兄様が先なのですか?」
「そ、それはライルがたまたま近くにいたのと、彼の協力があったからで……」
「ええ、横目で見ていましたよ。お兄様に手取り足取りご指導を受けるのは、さぞ楽しかったでしょうね?」
「リ、リリ、リリィ!? 何を仰いますの。それは完全に誤解ですわ!」
確かにライルと密着することになってはいたが、あの行為に疚しい気持ちは一切ない。
その旨をアイリスは必死に伝えるが、尚もリリィの表情は晴れない。
「誤解? では、その誤解とやらについてゆっくりと話しをしましょうか?」
「う、ううっ、ラ、ライル……」
このままではリリィに何か危害を加えられると察したアイリスは、べそをかきながらライルに助けを求める。
「リリィが……リリィがとても怖いですわ」
「はぁ……」
アイリスに泣き付かれたライルは、頭痛を堪えるように額に手を当てて大袈裟に嘆息しながらリリィに話しかける。
「リリィ、もうその辺にしておけ。まだ全て終わったわけではないのだぞ」
「は、はい、わかりました。お兄様がそう仰るのなら」
ライルからの要請であればと、リリィはあっさりと矛を収める。
「でもお兄様、まだ終わりではないとは?」
「決まっておる。魔物の頭を倒したかもしれぬが、まだ城は魔物に占拠されたままなのだぞ。奴等を追い出さなければ、真の解放とは呼べぬであろう」
「あ、そうですね」
「といっても、もう時間の問題だと思うがな……」
城にいる魔物たちも頭を失ったとわかれば、後は蜘蛛の子を散らすように逃げるだろうから、このまま放っておいても問題ないかもしれない。
だが、万が一のことを想定して、先ずはアイリスたちの両親である王たちの解放を急ぐべきだろう。
ライルがそう思ってリリィたちへ指示を出そうとすると、
「アイリス…………アイリスなのか?」
部屋の奥から男性の声が聞こえ、ライルたちは反射的にそちらへと目を向ける。
すると、玉座の後ろにある扉が開き、身なりのいいカイゼル髭を蓄えた壮年の男性が現れ、こちらを驚いた顔で見ていた。
「そ、そんなまさか……お父様ですの?」
カイゼル髭の男性の顔を見たアイリスの顔が嬉しさからみるみる朱に染まり、目に涙が浮かぶ。
アイリスからお父様と呼ばれたカイゼル髭の男性は、フラフラとした足取りでこちらへとやって来る。
「おお、やっぱりアイリスか!? よくぞ生きていてくれた……それに、あの魔物を倒したのか」
「ええ、でもわたくし一人の力ではありませんわ……」
感極まったアイリスは、溢れ出す涙を何度もハンカチで押さえながら、嬉しそうにライルたちに話しかける。
「ライル、リリィ……あの方がわたくしのお父様ですわ」
「わわっ、ということは王様……ですよね?」
リリィが思わず背筋を伸ばして気を付けの姿勢を取るのを見て、アイリスは小さく笑みを零しながら静かに頷くと、父親に兄妹を紹介する。
「ええ、そうですわ。お父様、こちらが今回、神様に勇者に選ばれたリリィ、隣にいるのがリリィのお兄様のライルですわ」
「おおっ、そうか……やはり勇者の力か。どれ、勇者リリィよ。もっと近くで顔を見せてくれ」
「は、はひっ!?」
王から名指しで呼ばれたリリィは、まるでパペットのようにギクシャクした動きで歩き出す。
「さあ、ライルも……」
アイリスはリリィに続いて、ライルも王に謁見するように勧めるが、
「……いや」
ライルは小さくかぶりを振ると、手を伸ばしてリリィの手を掴む。
「リリィ、待て」
「お、お兄様!?」
まさか止められるとは思っていなかったリリィが素っ頓狂な声を上げるが、それでもライルの命令に従って足を止める。
「ライル……どうしましたの?」
「まあ、待て」
怪訝そうな表情を浮かべるアイリスも手で制しながら、ライルは王へと問いかける。
「一つ尋ねるが、お前は本当にこの国の王か?」




