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七男の最期

「では、先ずは我の手の辺りへ魔力を集中させろ」

「わ、わかりましたわ」


 まるで恋人のような距離間で話してくるライルに、まだ緊張が抜けきらない様子のアイリスは、それでもリリィを救うためと強くかぶりを振って気持ちを落ち着けると、自分のへその下に置かれた手に視線を落としながら集中する。


「うむむ……」

「おい、肩に無駄な力が入っているぞ」

「うひいぃぃぃ!? わ、わかりましたから、そう気安く触れないでくれまし!」

「う、うむ、すまない」


 過剰な反応をみせるアイリスに、ライルは慌てて手を離すと、仕方がないと口頭で説明していく。


「何も慌てて魔力操作をする必要はない。体中を巡る魔力を追いかけて、へその下を通った魔力を止める感覚で、我の手を魔法の杖と思ってやってみろ」

「なるほど……」


 アイリスは静かに頷くと、再び下腹部のライルの手へと視線を向けて集中する。


 魔法使いが魔法を行使する時、最初に行うのは体中の魔力を練って集中させるという行為だが、殆どの者は魔法の杖などの道具を使用する。

 何故なら、この魔力を集中させるというのはイメージで行う作業であり、何かしらの目標があった方がやりやすいからだ。


 ライルのように熟練の域にまで達すれば道具に頼る必要はないが、優秀とはいえアイリスにとって愛用の樫の木の杖以外の場所に力を集中させるのは、中々の難易度であった。


「へその下を通った魔力だけ…………ライルの手を杖と思って…………」


 ライルの教えを反芻しながら、アイリスは自分の中の魔力を練っていく。



 すると程なくして、アイリスのお腹の周りにうっすらと光り出す。


 最初こそ緊張して上手くいかなかった魔力の集中だが、ライルの教え方がよかったのか、アイリスは確実にお腹へと魔力を集中させていく。


「あっ……」


 そうして魔力が一定まで溜められたところで、何かに気付いたアイリスが声を上げる。


「何でしょう……お腹に魔力が溜まって来たら、どうしてか周囲の魔力が感じられるようになりましたわ」

「できたか?」

「え、ええ……でもどうして?」

「そこは丹田と呼ばれる五臓の中心、生命活動の肝だからな。そこを活性化させることで、命の源ともいえる魔力を感知する能力が上がるのだ」

「……そうだったのですね」

「後はそのまま目を閉じて魔力だけを感知しろ。さすれば触媒も見つけられるはずだ」

「……わかりましたわ」


 アイリスはしかと頷くと、ベリアルセブンが用意した触媒を探すために、目を閉じてさらに意識を集中する。すると、目を閉じているにも拘わらず、それぞれの立っている位置が丸くて白い、光の玉となって見えていた。


 赤子の頭程度の大きさが自分だとすれば、すぐ背後にいるライルは、優にその三倍もの光の大きさをしており、彼の力がいかに優れているかを思い知る。


 そして、部屋の奥では二つの光の玉が激しく動き回っており、ライルに負けないほど大きく、直線的な動きをしているのがベリアルセブンで、その周りを素早く動きながら立ち回っている小さな光がリリィであると理解する。


 その小さな光は弱っているのか、ベリアルセブンの光に比べると暗く、僅かに明滅しているようにも見える。

 きっとあの光が消える時、リリィは死を迎える直感で理解したアイリスは、それ以外の光へと集中する。


 だが、動いている光以外にも、室内にはいくつかの大きな光が見て取れた。


「何やらいくつも光が見えますわ。どれが触媒の光ですの?」

「最も大きいのを狙え。それ以外は奴が用意したダミーだ」

「全く……面倒ですわね」


 ライルの返答に小言で返しながら、アイリスは目に見える光の大きさを比べていき……、


「見えた。いきますわよ。サンダーボルト!」


 丹田に溜めていた魔力を素早く樫の木の杖へと移し、雷の魔法として放つ。


 そうして狙う先は部屋の中央、天井から吊るされた謎の光る球体だった。

 アイリスの杖から発射されたサンダーボルトは、狙い違わず光る球体へと吸い込まれ、派手な閃光と共に大爆発する。


 次の瞬間、ベリアルセブンの体が煙に包まれたかと思うと、中からブタ鼻をした醜い悪魔が現れる。


「んごぉ! や、やべえ……」

「リリィ、今ですわ!」


 触媒が破壊されて狼狽えるベリアルセブンに、アイリスからの檄が飛ぶ。


「もう、その魔物に回復する術はございませんわ! 今ならあなたの剣で、倒せるはずですわ!」

「アイリス……ありがとう!」


 全身にベリアルセブンの爪による傷を負いながらも、命からがらの綱渡りを成功させたリリィは、剣を握り直して攻勢に出る。


「チョッ、チョマテヨ!」

「いいえ、待ちません!」


 両手を突き出して止めようとするベリアルセブンの言葉を無視して、距離を詰めたリリィは、


疾風(はやて)!!」


 必殺の剣技の名前を叫びながら、緑色の風となってベリアルセブンの体を突き抜ける。




 一陣の風となって駆け抜けたリリィは、剣をクルクルと回しながら後ろを一瞥すると、


「終わりです」


 決定的な一言を告げて、チン、と音を鳴らして剣を鞘へと納めた。



「あが……ががっ…………」


 リリィに斬られたベリアルセブンは、自分の体がバラバラにならないように慌てて左右から必死に押さえる。

 だが、頭の頂点から走りはじめた傷は、容赦なく真っ二つにするように下腹部へと突き抜け、


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁ……」


 最後に醜い断末魔を上げたベリアルセブンは、真っ二つに割れて血と脳症を撒き散らしながら倒れ、そのまま二度と起き上がることはなかった。

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