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触媒を探せ!

 ベリアルセブンは、謁見の間の何処かにある魔法が籠った触媒から力を得ている。


 その触媒を一刻も早く見つけることは、善戦しているリリィを助けるためにも、何としても完遂しなければならない至上命題だった。


「何処なの……一体何処にありますの?」


 ライルから触媒の存在を聞いた時からアイリスは、一刻も早くリリィを助けるために必死に、それこそ血眼になってベリアルセブンが用意したと思われる触媒を探していた。


 謁見の間に初めて足を踏み入れたライルよりも、幼い頃からこの部屋に何度も足を踏み入れたことがある自分の方が、触媒を見つける公算が高いとアイリスは考えていた。

 だが、王都の歴史と威光を権限させた由緒ある謁見の間は、魔王に攻め込まれたわずか数日で、随分と様変わりしてしまった。


 派手で目が痛い赤い壁に、常軌を逸しているステンドグラス、趣味が悪いとしかいいようがない玉座、そして部屋の中央と天井から吊るされた訳の分からない光る球体にそれに伴う雑多なあれこれ……


 他にも上げたらキリがないが、あの中の一つなのか、それとも複数なのか、一体どれを壊せばいいのだろうか?

 どれ一つとっても怪しいと思うし、自分たち王家縁のあれこれが失われてしまったかと思うと、見ているだけでむしゃくしゃしてくる。


 アイリスは爪をガシガシ噛みながら、苛立ちを露わにするようにブツブツと呟く。


「……もう、こうなったら片っ端から壊していっていいかしら?」

「いいわけないだろう。そんなことすれば、あいつが真っ先にこっちに飛んでくるぞ」


 リリィと激しく切り結んでいるベリアルセブンを親指で指しながら、ライルが静かに話す。


「というわけだ。我々に与えられたチャンスは一度きりだ。だからアイリス、必ず一発で触媒を破壊しろ」

「わかりましたわ……」


 重大な任務を与えられたアイリスは、大きく深呼吸をして集中力を高めると、再び触媒を探すために目を皿のようにして探る。


「…………」


 だが、どれだけ目を凝らしてみても、全てが怪しく見えてどれか一つに絞ることは不可能に近かった。


「…………一体、どれが触媒ですの?」


 それでもリリィの為に、必死になって触媒を探っていると、


「少しは落ち着け」

「ひゃあああああああぁぁぁん!!」


 背後に忍び寄ったライルに、背中から手を回される形で腹部を押さえつけられ、アイリスは可愛らしい悲鳴を上げる。


「な、な、ななっ……何をなさいますの!? い、今がどのような状況かわかっていますの!?」

「……何を勘違いしているか知らないが、別に疚しい気持ちは一切ないぞ」

「そ、そうなのですの?」

「そうだ」


 真顔で頷いたライルは、尚もアイリスのへその下辺りに手を置いたまま静かに話す。


「いいか? 先ずは我が置いた手の周辺に魔力を集中させろ」

「い、いきなりなんですの?」

「このままでは埒が明かないからな。触媒を探す方法を教えてやる」

「えっ!?」


 その言葉を聞いたアイリスは驚いて背後を振り向くが、


「――っ!?」


 思ったよりライルの顔が近くにあり、堪らず赤面しながらもどうにか話を続ける。


「そ、その……わたくしにコツを教えるということは、ライルは既に触媒を見つけましたの?」

「当然だ」

「ばっ……!?」


 思わず汚い言葉を口にしそうになったが、どうにか堪えたアイリスは怒り顔でライルに尋ねる。


「で、でしたらそれを、わたくしにとっとと教えればいいのではないですの?」

「何を言っている。それでは意味がないだろう」

「まさか、ここでまた、自分は傍観者とか言うつもりですの?」

「違う、そうじゃない」


 アイリスの言葉を否定しながら、ライルはここで手を貸さない理由を話す。


「これから先、同じような境遇に陥った時に、常に我がいるとは限らないのだぞ? それこそ、我が死んだら誰がリリィを助けるのだ?」

「えっ?」


 思わずアイリスが流し目でライルの顔を見ると、彼の顔はどこまでも真剣だった。


「ない、とは言い切れないだろう。そもそも我は戦う力を持たないのだ。故にアイリス、我がいなくなった後は、お前がリリィを支えるんだ…………頼む」

「ライル…………」


 これまでの傲慢な態度は鳴りを潜め、静かに佇むライルを見て、アイリスは毒気を抜かれたように唖然となって彼を見る。


 そこにいたのは、ただ純粋に妹を思いやる一人の兄だった。


 距離が近過ぎてまじまじと顔を見るのは恥ずかしくて無理だが、腹部に添えられたライルの手が小さく震えているのに気付き、アイリスは何となく彼の秘められた想いを理解する。


 きっとライルは、誰よりもリリィの隣に立って戦いたかったに違いない。


 だが、魔法使いとしての才能を見出されたにも拘わらず、一切の攻撃魔法が使えないというハンデを背負ってしまった為、誰よりも妹を守りたいはずなのに、その夢を諦めるしかなかった。

 だから同じ魔法使いであるアイリスと出会った時、彼女に自分の想いを託すことにした。


「そういうことでしたのね……」


 実際には微妙に違うのだが、都合よくそう解釈したアイリスは、自分の腹部の上に添えられたライルの手に自分の手を重ねると、静かに話を切り出す。


「わかりましたわ。ライル、あなたの期待に応えるためにも、わたくしに触媒を探す方法を伝授して下さいまし」

「ああ、任せろ……」


 アイリスの体から力が抜けるのを確認したライルは、アイリスに触媒を探す方法を話していく。

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