不死身の正体
「さあ、ショータイムの時間っしょ!」
威勢のいい掛け声を上げながら、ベリアルセブンが翼を羽ばたかせて飛び出す。
「気を付けろ! わかっていると思うが、奴は普通じゃない!」
「ええ、タイムと時間、同じ言葉が重なっているのに、全く気付いていませんわ」
「……アイリス、茶化すな!」
思わずツッコミを入れるアイリスに、ライルは手で振り払う仕草をしながら、叫ぶように注意喚起をする。
「首を斬り落とされて復活するなと、普通ではありえんはずだ」
「も、もしかしてあの方も不死なのでしょうか?」
「いや、違うな。おそらくあいつは……」
焦ったようなリリィの声に、ある程度の予測を立てたライルが口を開こうとすると、
「おいおい、随分と余裕じゃんかよ」
いつの間に距離を詰められたのか、すぐ眼前にベリアルセブンの不気味なほどに整った顔があった。
「なっ!?」
ここまでの接近を許すまで気付かなかったことに、ライルは驚愕の表情を浮かべながらも、咄嗟に両腕をクロスさせて防御姿勢を取る。
次の瞬間、ベリアルセブンが繰り出した薙ぎ払うような蹴りがライルの胴を捉え、彼の体がまるで馬車にでも轢かれたかのように大きく吹き飛んで、そのまま壁に叩きつけられる。
「ヒャハッ! 先ずはワンキルゲットっしょ!」
「お兄様!」
ガラガラと音を立てて崩れる壁の瓦礫に埋もれるライルを見て、リリィが悲痛な叫び声を上げながら兄を助けようと動き出す。
だが、
「おいおい、勇者ちゃんよ。俺っちのこと無視しないでおくれよ」
駆け出そうとするリリィの進路上に、ベリアルセブンが現れて長い爪の生えた腕を振り下ろしてくる。
迫る脅威に、リリィは咄嗟の反応で剣を突き出してベリアルセブンの攻撃を受け止める。
「クッ……」
体重の乗った重い攻撃にリリィの体が若干沈むが、どうにか耐えた彼女は、目の前の邪魔者を排除するためにベリアルセブンの腕を押し返す。
「このっ! そこをどけぇ!」
「おおっ、怖い怖い。大事なお兄様が死んじゃったのが、そんなにショックかな?」
「……えっ?」
ライルが死んだと聞かされ、リリィの体から思わず力が抜けそうになるが、
「リリィ、ライルはそう簡単に死ぬ男ではありませんわ!」
「――っ!?」
アイリスから檄が飛んできて、すんでのところで踏み止まる。
再び鍔迫り合いを演じるリリィを見て、アイリスはひっそりと安堵の溜息を吐きながら、励ますように小さな背中に話しかける。
「ライルのことならわたくしにお任せくださいまし。ですからリリィ、あなたはその魔物を何としても抑えなさい!」
「わかった。アイリス、お兄様をお願い!」
「言われなくとも!」
二人の少女は互いに目を合わせて頷き合うと、それぞれ行動を開始する。
「よくも……」
断腸の思いでライルをアイリスに託したリリィは、この旅で初めてといってもいい怒りの表情を浮かべてベリアルセブンを睨む。
「よくもただの傍観者であるお兄様を攻撃するなんて……許せない!」
「おいおい、あんだけがっつり戦闘に参加しておいて、傍観者とかなくない?」
「黙れ!」
リリィは怒りに任せてベリアルセブンを押し返すと、そのまま追撃に打って出る。
「お兄様を狙ったその罪、万死に値します」
「ハハハ、いいねぇ。その怒った顔……そそるわ」
リリィの猛追を爪で弾きながら、ベリアルセブンは真っ赤な舌でチロリと舌なめずりをする。
「いいぜ! 勇者ちゃん、とりま俺っちとワッショイしようぜ!」
「また訳の分からないことを……」
独特の言い回しに辟易しながらも、リリィはこの敵がアイリスたちの方へ向かえないような位置取りをすると、
「先ずはその減らず口を黙らせます!」
今度こそ目の前の魔物を倒すため、剣を強く握って再びベリアルセブンへと襲いかかった。
リリィとベリアルセブンが激しく切り結ぶ音を耳にしながら、アイリスは瓦礫の下敷きになったライルを救出するために、彼に覆いかぶさった瓦礫へと手を伸ばす。
「ライル、しっかり……今助けますわ!」
「……アイリスか?」
すると、瓦礫の下からライルの声が聞こえ、アイリスはホッと一息吐く。
「ええ、今すぐ助けますから、少しお待ちになって下さい」
「いや、その必要はない」
ライルはアイリスに下がるように命じると、自分の上に覆いかぶさった瓦礫をものともせずにあっさりと立ち上がる。
「ラ、ライル、あなた……」
「御託はいい。それより話しておくことがある」
とても人間業とは思えない所業に驚くアイリスに、ライルは手で制しながらリリィと切り結んでいるベリアルセブンを睨む。
「あの魔物……どうやら他所から力の恩恵を受けているようだ」
「力の恩恵? 他所から…………なるほど」
「気付いたか?」
「ええ、魔法使いが拠点を造る時によく使う手ですもの」
アイリスは大きく頷きながら、ベリアルセブンが取っている戦略について話す。
「あらかじめ魔法を込めた触媒を用意して、そこから恒久的に力の補助と、強力な回復の恩恵を受けているということですわね?」
「そういうことだ。流石に魔法の事なら説明する必要はなさそうだな」
ライルは満足そうに頷くと、アイリスに次の指示を出す。
「その触媒は、間違いなくこの部屋の何処かにあるはずだ。リリィを援護するためにも、一刻も早くそれを見つけるぞ」
「ええ、わかりましたわ」
ライルの提案にアイリスもすぐさま頷くと、ベリアルセブンが用意したと思われる触媒捜しに乗り出した。




